Mission-77 『カメラとボイスとハイテク化』
「くだらなっ…」
俺の話を聞き終えての達也の第一声がそれだった。
メチャクチャらしさが出てるな。
「そそっ、くだらないんよ。だから俺としてはもうさっさと終わらせたいわけ」
「そのための直接的な証拠集めか。ぐだぐだとすっとぼけられても面倒だし有効かもな」
「だろ、ほんで後はそれを盾に問い詰めてこの一連の嫌がらせを止めさせれば一件落着だ」
「ふーん」
あんまり興味なさそうに達也が頬杖をつきながら答える。
まぁ別に興味は全然持ってもらわなくても構わない。重要なのは、
「で、引き受けてくれるか?」
「構わねぇよ。あんたには一応借りがあるしな」
「本当かっ!?」
こっからの交渉――と思っていたのだがいきなり返ってきた快諾に思わずそんな大きめの声が出てしまった。
…ん? いや、でも待てよ。
「借りなんてあったか? 作った憶えないけど?」
「あんときのとんかつクーポンだ」
「いや、あれは世間話と引き換えだろ」
「あれじゃ何となく俺の方が腑に落ちなかったんだよ、釣り合ってねぇってな。だからその差引分の借りを今回返してやる」
そう言うと俺の返事を待たずに達也が椅子から立ち上がった。
そして、
「夕湖」
と部員と思しき誰かの名前を呼んだ。
「はい」、すぐに凛とした声の返事が返ってきた。同時にテクテクと小走りのような足取りで一人の女子生徒がこちらへと近づいてくる。
よく聞けばそれは俺が教室に入ってくるときに応対してくれた子の声だった。セミロングの黒髪に黒縁眼鏡とかなり真面目そうな見た目の女子生徒、心なしか制服もピシッとしているように見える。
そんな夕湖さんに、
「部の備品に小さめのボイスレコーダーあっただろ。悪いが、あれ持ってきてくれ」
そう達也が手早く指示を飛ばす。
指示を受けた彼女の方も「はい」と二つ返事で了承し、再びテクテクと背を向けて歩き出した。
なんか会社の上司と部下みてぇだな。中々興味深いぞ、パソコン部。
それとさっきの会話の中でもう一つ興味深い点があったのにお気づきだろうか。
「あれだな。変な意味じゃないが、あんまり誰かと仲良くするイメージないから驚いたぞ。部活の後輩とはいえ、親しそうに名前で呼んでるとはな。それも女子を」
意外と部員にはフレンドリーなんかな、と思いながら達也を少しからかう様に話しかける。
しかし、すでに達也はパソコンの画面に向き合いカタカタとキーボードを叩いていた。更にその体勢のまま視線も動かさず「はぁ?」と俺の言葉に呆れた様に首をほんの少し傾げながら、
「夕湖は名字だ。あいつは夕湖夏希って名前なんだよ」
「あ、そゆこと」
と簡潔に俺の勘違いを訂正してきた。
…そういやそうだった。こいつはこんな感じでブレないやつなんだった。
「おしっ」
そこで何かの作業が完了したかのようにキーボードを叩いていた達也の手が止まる。
そして、
「協力はするが、お前の作戦だと無駄が多いから代用させてもらう。小型カメラ案は廃止、代わりにこれを使う」
そんなことを言いながら俺にパソコンのディスプレイを見せてきた。
「?」
一瞬それがなんなのか理解できなかった。
が、段々とそこに映っているのが最近見慣れ始めた場所――を上から映した映像であることに俺は気付き始めた。
なるほど、我が学び舎の昇降口だな。おおー、普通に今から下校しようとする生徒も映ってるなー。
「――……って、待て待て! お前これ!」
「昇降口の監視カメラ映像だ。この学校、かなり金持ってるから結構こういう警備防犯環境もしっかりしてんだよ」
「いやいやいやいや、えっ!? なにこれ!? 普通に全生徒こうして見れるものなのか?」
「お前は阿呆か? こんなもん全生徒が見れるわけがないだろう。ちょっとだけ映像を拝借したんだよ」
サラリと凄いことやって凄いことを言いながらあっけらかんといつも通りの口調で達也がそう告げる。
ていうか、これもしかしてハッキン――、いや皆まで言うのは止めよう。うん、拝借。ここは偶然拝借できちゃったということにしておきましょう。
「改めてだけど…すげーな、お前」
とりあえず色々と言いたいことはあるが、それを要約してそう告げる。
「そりゃどうも」、そして俺の言葉に照れるでもなく喜ぶでもなく淡々と達也はそう答えた。
「部長、これでよろしかったですか?」
「ん、ありがとな」
そして、そのタイミングで夕湖さんが戻ってきて達也に手のひらサイズのボイスレコーダーを手渡した。
それを一瞥し少し考える様に顎に手を当てると、
「作戦決行は明後日の朝で大丈夫か?」
と聞いてくる。
「おっ、おう」
いきなりの問いに少し驚きながらそう答えると「了解、明日の放課後もう一回ここに来い」と指示が返ってくる。
そして、
「ほんじゃあそういうことで。用は済んだんだから部外者はさっさと帰れ」
「え?」
そう驚くほどアッサリと俺はPC教室から追い出されてしまった。
「………まっじでブレないなあいつ」
そして俺はそんなことを呟きながら廊下を歩き帰路についたのだった。
というわけで、俺の逆襲作戦はPC部部長であり友人――及川達也の参戦により一気に飛躍しそして同時に一気にハイテク化が進んだのだった。