Mission-76 『部室と作業と状況説明』
「えーっと…。あっ、ここか。PC教室」
達也に例のお願いをした俺だったが、とりあえずあの場では詳しく話をする時間が無かったためすぐに解散。
そしてどうしても必要な重要な話ならば放課後に詳しく聞いてやると譲歩をもぎ取り、今こうして部活動中のPC教室の前まで来ているという訳だ。
ドアや窓は開いていないが、室内からはそこそこの数の人の気配を感じる。
どうやらパソコン部は中々繁盛しているらしい。そこの部長なんだから、あいつも大したもんだよな。やっぱり頼って正解だった。
――コンコン。
そんなことを何となく思いながら、ドアをノックする。
「はい、開いてますよ」、程なくして室内からそんな声が聞こえてきた。意外、と言っちゃ失礼かもしれないが女子生徒の声だ。
まぁ、何はともあれ入室の了承はとれた。
「おじゃましまーす」
我ながら呑気な声でそう言いながら、ドアを開ける。
すると室内が微かにざわついた。ま、いきなり知らん人が入ってくればそらちょっとはみんな気になるよな。
が、俺はその反応を意に介さずに目的の人物を探すため室内をキョロキョロと見渡す。
「おっ」
すると、すぐにその姿は見つかった。
流石は部長と言うべきか、本来教師が座る様な一番前の席に座っている。そして、その前には備え付けのパソコンの他にもう一台恐らく自前のノートパソコンを開き、カタカタと何かを打ち込んでいた。
おおっ、パソコン部っぽい。
「………」
そんな達也の姿を見て、「でも、今なんかの作業中なんかな? ちょい待った方がいいかな?」と少し悩んでいると、
「――ん? 来たか」
向こうが先に俺の存在に気付いてくれたらしい。というか、ドア開けた時点では気づいてなかったのがまずすげぇ集中力だわ。性格的に周りをあまり気にしていないって可能性もあるけど。
まぁそれはさておき。高速で動いていた手を止めて、「ん、さっさとこっちこい。椅子は適当にその辺からとれ」と手招きで達也は俺を迎えてくれた。
その指示に従う様にして近場の誰も座っていない椅子を一つ拝借し、達也の座る場所の横まで歩いていくとそこに腰を下ろす。
「よくきたな、犯罪者予備軍」
「だれが犯罪者予備軍だ。むしろ模範的な善良市民だっての」
「善良市民は、小型カメラと盗聴器など欲しがらん」
呆れたようにそう言う達也。
…いや、まぁそこだけ切り取ったらそりゃ変な感じになるでしょうが!
「まぁその件に関しては説明がいるな。実はな――」
と、俺がこれまでの日下部との水面下での争いのことを達也に一から説明しようとしたのだが、
――ざわざわっ、ごそごそっ、ぼそぼそっ。
そこで少し室内が騒がしいのが気になった。チラリと他の部員たちに目を向けると同じくこちらをチラチラ見たり近場の部員仲間と何やら小声で話したりをしていた。
ん~? ざわつきタイムがずいぶん長いな。
「ここってそんな外部の人が来るの珍しいのか? 凄い視線を感じるんだが」
「珍しいのは勿論あるが、あんたの場合それ以前の問題だろ。どう考えても放課後のパソコン室にいる人間の見た目でもパソコン部に馴染む人間の見た目でもないだろ」
「そうかぁ~? あんまりそこに見た目かんけぇねぇと思うけど」
「…あんたに自覚が無く本気でそう思ってるのは何となくわかるけどな。つーか俺からすればそんなことどっちでもいい、それよか早く要件を言え。俺だって暇ではない中、こうして時間割いてんだから」
「ま、それもそだな」
こいつのこういうオブラートに包まずに話が早いところは俺は結構好きだったりする。
発する言葉が全て本音みたいで、余計なこと考えずに済むしな。
「話は遡るからちょい長くなるぞ」
「手短に頼む」
「…へいへい、できるだけ簡潔に話すように努力するよ。実はな――」
そして俺は改めて、今日にいたるまでの経緯を達也に話し始めたのだった。