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Mission-64 『経過とハマりと新たな問題』


 俺に弟子ができてから二日が経った――つまり今は学生生活四日目だ。

 そして、あの初日を除いた三日間は一度も男の娘だとバレていない。すなわち一度もループしていないという訳だ。


 初日で二回も浪費してしまい荒れた出だしと思っていたが、意外と順調かもしれないと思い直し始めた今日この頃である。

 そして、今そんな四日目の学校生活も終わろうとしていた。

 春ということもありまだ明るいが、冬ならな空が夕暮れに染まっているだろう放課後の時間帯。今日も少し生徒会に顔を出したが仕事は無かったようで、少し雑談だけして今から一人で帰るところだ。


 ちなみに脅迫状については、今日で三日連続律儀に毎朝下駄箱に入れられている。

 文言は多少異なるが、大体同じ内容の紙が一枚だけ。表現が間違っているかもしてないが、正直拍子抜けだ。

 もっとゴミとか泥とか入っていたり、上履きが隠されていたりとかを想像してたんだけどな。

 

 なんというか、日下部は良いやつでは勿論ないが悪人でもないように感じる。なんというかたぶんある一線を越えない躊躇みたいなものがあるんだろうな。

 明確なイジメみたいなことはしたくない的な? いや、でも渡辺のことはハブってたんだよな? それは一応軽いイジメではないのか?

 うーむ、女子の判断基準は解らん。


 そんなことを考えながら、靴を取り出す為に下駄箱に向かった俺だったが、


「………」


 そこであるものが視界に入った。

 先日、読と二人で飲み物を買った自販機である。

 

 それを見て、数秒逡巡。

 そして、「よし」と決めると俺は下駄箱から踵を返した。


 実は昨日から、いや正確には三日前から少々困ったことが起こっている。

 …非常に不愉快だが、俺はあの一件以降『糖度最高潮――いちごミルク』にハマってしまったかもしれないのだ。


 いやまぁ、三日連続だしハマったというのは言い過ぎかもしれないがなんか放課後あたりになるとこれが無性に飲みたくなる。

 恐らく無意識のうちに女装がばれない様に気を配っていて脳が糖分を欲しがっているのだろう、と俺は予想している。


「でもメチャクチャ甘いから絶対飲み過ぎはよくないんだよなぁ~。今日で最後にしよ」


 そう言いながら、自販機に小銭を投入する。

 そして、ボタンを押す前に周囲を見渡し人影が無いことを確認するのも忘れない。

 何故かって? もしこれが読にバレたら「なんですか~、やっぱり僕が本で読んだ通り女性は甘いものが一番好きなんじゃないですか~」とムカつくことを言われるのは必定だからだ。

 まったく、もし俺が男の娘じゃなかったら「残念、俺は男なんですよ~!」と言い返せるんだがここでそんなことをしては即ループ。故にそうなったら「ぐぬぬ…」と押し黙ることしかできない。

 それならば、せめてそうならないようにする努力は惜しまないさ。


 ――ポチ。


 という訳で周囲には誰もいなかったので堂々とそれを購入した。

 が、ここで俺の爪の甘さが再び現れてしまった。


「おい、葦山」


「ひゃわっ!?」


 取り出し口から『糖度最高潮――いちごミルク』を取り出している最中に名前を呼ばれて思わず肩が跳ねる。そして、女子っぽい声が出てしまった。

 何故!? 周囲には誰もいなかったはず!?

 と、思いガバッと顔を上げるとそいつは昇降口の外から声をかけてきていた。


 …いやまぁ、下駄箱前だしそりゃそう言うパターンもあるわな。アホだな、俺。


 そう自戒しつつ、声の主の方へと顔を向ける。

 そこにいたのはクラスは違うが見覚えのある男子生徒。そして、彼の表情は少々困ったような色を浮かべていた。


「なんだ、聖也か…。びっくりさせるなっての」


「わりぃ、そこまでビックリするとは思わなくてな」


「…いや、まぁそりゃそうだな」


「……あー、なんというかいいところで会ったかもしれん。葦山、お前今からちょっと時間あるか? 力を借りたいんだが」


 何となくだがまた面倒事の気配を感じるな、こりゃ。

 どうやら四日目はすんなりとは終わらないらしい。


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