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Mission-06 『可憐と綺麗と生徒会長』


 話しかけてきた女子の第一印象は、明るくクラスの人気者っぽい感じだ。それにかなり時間に余裕を持って登校している俺と同じタイミングで通学路にいるということは中々の真面目タイプであるとも見て取れる。

 身長は俺よりは低いが、女子にしては高め。

 セーラー服を可憐に着こなしており、言わずもがな俺よりも女子らしい。その上、学生らしい可愛らしさと少し大人びた綺麗さを併せ持った様な容姿をしていることから、たぶん学校でもかなりモテるのだろう。


 そう冷静に分析しつつも、そんなイケイケ女子を最初の会話相手として引いてしまった自分の運の悪さを憎んでいると、


「おーい、聞こえてる? もしもーし!」


 といつの間にやらもう目の前のその女子が来ていた。

 …さて、どうするか? 当たり前だがもう無視するという選択肢は取れない。この子が俺の存在に気付いた瞬間であれば、こっちは気付かなかった振りをしてそそくさと学校に向かうこともできたが時すでに遅し。もうお互いの存在を完全に認識した今となっては無視はさすがに印象が悪すぎる。

 もはや俺は会話という選択肢を選ぶしかなかった。


「あー…っと、聞こえてる、いや聞こえてますよ」


 と慣れない女子っぽい口調でその呼びかけに答える。

 若干声が上ずってしまった…、かっこわりぃな…。

 が、そんな俺の変化には気づかずにその女子は、


「あっ、よかったー。一瞬私の幻覚と思ったよ」


 そう頬をかいて笑みを浮かべる。

 その愛嬌のある仕草に「やっぱこの子モテるな」とさっきの自分の予想がより確信に近いものへと変わる。


「それで、あなたやっぱり転校生?」


 そして、続けざまに先程された質問が再度投げかけられた。

 神様の話でも確かに俺の立場は転校生って言われてたっけかな。つまり、この子が知ってるってことは俺の存在はそこそこ知られているってことかな?

 そんな疑問を持ちつつも、


「えっと、そんな感じですね」


 とりあえずそう肯定しておく。

 するとその女子生徒は「あー、やっぱり」と嬉しそうに手を叩き、ニコッと人のよさそうな笑みを浮かべた。


「私ね、あなたが今日から通う風寺かぜでら学院高校の生徒会長をしてるの。だから転校生が来るってことも知ってたんだ」


 そして、軽い自己紹介ついでにそんなことを教えてくれた。

 なるほど、どうやらこの子が俺を知っていたのは特別だったってことね。

 ――というか、生徒会長ってことはこの子同学年だな。同じクラスの可能性もあるし尚更ここで変にしくじれなくなったな。


「あー、なるほど」


 というわけでそんな当たり障りのない答えを返す。

 そして、できるならここのところはこれにてサヨナラ~ってのが理想だったが、どうやらそもいかないらしい。何故かというとそのまま生徒会長は自身の鞄に手を入れて何かをし始めたのだ。どうやら何かを探しているらしい。

 そして、数秒して財布を取り出したかと思うと、


「はい、私こういうものです」


 とその中から学生証のようなものを取り出して、こちらに差し向けてきた。

 

 …いや何故に名刺交換の様に学生証を渡そうとして来るのか? ご当地ルールというやつだろうか?


「あー、ちょっと待ってください」


「え?」

 

 若干困惑しつつも、相手にだけそうさせるのも失礼なので俺も自分の鞄から財布を取り出す。一瞬、俺って学生証持ってるのかという疑問が頭をよぎるがそこはさすが神様、まるで最初からあったかのように俺の財布の中には学生証がしまわれていた。

 ちなみにチラッとは見ると性別は女。うん、そりゃそうなんだろうが…少し悲しい。

 

「えっと、おれ…じゃなかった私の学生証です」


 そんな思いを押し殺して、生徒会長と同様に俺も学生証を差し出す。

 すると、生徒会長は一瞬意外そうな表情を浮かべたのちに「ふふっ」と笑うと俺の手から学生証を手に取り、自分の学生証を空いた俺の手に握らせた。


「いやぁ~、ノリがいいねぇ~。私そういうの好きよ」


「はい?」


「いや、だから冗談半分で学生証差し出したらそっちもしてくれたんだもん。「なにしてんの?」って冷静にツッコまれることも覚悟してたからね。うん、良きかな、良きかな」


「はぁ…」


 と、独特な喋り方でそんなことを言いながら生徒会長が俺の学生証へと視線を落とす。

 …なるほど、さてはこの女子イケてる系だけどちょっと変わってるタイプだな。

 そして、若干最初とは変わった生徒会長の印象を覚えつつ、俺もせっかく手渡されたからには一応その学生証を見てみる。


伏見緋音ふしみあかね


「そぉーそぉー、変な漢字でしょ…ん?」


 そこに記された名前を何となく声に出して呟くように読むと、可笑しそうにしながらのそんな声が返ってくる。が、途中でその声が不自然に止まったかと思うと、


「えっーっと、あしやま…あお……。んー、ごめん、これなんて読むの?」

 

 不思議そうな声でそう質問してくる。

 これは生前からお決まりの質問だ。


「あー、読みにくいよ…ですよね。あおあしって書いてあおいって読むんです」


「なるほどー、音読みでいって読むんだね。それであおいさんかぁ、勉強になった」


「まぁ、みんな初見だと大体読めませんよ」


「うーん、たしかにそうっぽいね。というか悪い意味じゃないけど凄い名前だね、葦山蒼葦さん。ご両親がパスカルが好きなのかな?」


「かもしれませんね」


「あら? 名前の由来とか聞いたことないの?」


「そうですね…。確かに考えてみれば聞いたことないかもしれません」


 そして、やりとりは続きそんなとりとめのない会話が交わされる。

 そんな中で俺は一つの成果を得ていた。それは小さいが俺が男の娘とバレない可能性がグッと上がる成果だ。

 

 ――よし、段々と女子っぽい口調も板についてきたかもしれない。途中で引っかからなくなってきたぞ。


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