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Mission-55 『恋とゲームとプラス3』


「で、かいつまんで今の状況を説明するとだ」


「うんうん」


「日下部は隼平が好き。その隼平に転校生で尚且つ女子である俺が馴れ馴れしく接するのが日下部は気にくわない。そんで実際俺を隼平から引きはがすために、日下部はこんな脅しまがいの警告をしてきたと」


「そそっ。多分そんな感じだと俺も思うよ」


 時刻は未だ昼休み。

 先程発覚したこの手紙の真相を何となく予想し終えた俺たちは、今も屋上へと続く扉の前の踊り場でその話題について話していた。


「ハハッ、でもあれだね。まごうことなき中心人物なのに隼ちゃんは完全に蚊帳の外なのがなんか面白いね」


「あー、確かにな。…ん? つーか、そもそも隼平は日下部のことをどう思ってんだ」


「――ああ、それね。隼ちゃんはね、日下部さんのことを家が近い幼馴染だと思ってるよ」


「…いや、そのまんまかよ!」


「そんなビシッとツッコまれても実際そうなんだよこれが。いやぁ、ぶっちゃけこれに関しちゃちょいと日下部さんに同情する気持ちもあるっちゃあるんだよね、俺」


「あー…」


 そう頬をかきながら苦笑いをする彰に、俺は何となく日下部と隼平の関係性を察した。

 

「日下部さんって、昔からそこそこ隼ちゃんに好き好きアピールしてるんよ、はたから見てもわかるくらいね。でもまぁ、相手はあのサッカー一筋の恋愛朴念仁。直接「好きです」とでも伝えない限り、気づかないんですよなぁ」


「なるほどなぁ。あれ、でもそれなら日下部が直接告白しちゃえばいいじゃん」


「うーん、男らしいね葦山ちゃん。でもね、それはこと隼ちゃん攻略戦に置いては負けルートなのよ」


「ほぉ」


 唐突に出てきたその謎のゲームっぽい言葉に少し興味を引かれる。

 ていうか、何? ここでは隼平の攻略戦なんて行われてんの? そんで攻略法があんの?


「葦山ちゃん、この手紙使ってもいい」


「いいぞ」


 俺の了解の言葉を聞き終えると、彰が日下部からの手紙を裏返しそこにブレザーの胸ポケットから取り出したペンを走らせる。

 そしてその紙の上の方に大きく『隼ちゃん』下に大きく『隼ちゃんファン』と書くとそれを俺に見せ付ける様に掲げる。


「前も言ったけど、隼ちゃんはすっごいモテるのね。そりゃもう本校他校年下年上同級生のり取り見取りよ。――あー、羨ましい」


「おい、最後に願望出てるぞ」


「おっと、こりゃ失敬。ごほん、それでここではその隼ちゃんに好意を抱く人たちを『隼ちゃんファン』と一応しておくよ。この『隼ちゃんファン』が最初に犯すあやまちが告白ってわけよ」


 『隼ちゃん』と『隼ちゃんファン』に矢印を引く彰。

 その矢印の横に告白と書くと、すぐさまその告白の二文字はバツ印で上書きされた。


「告白が過ちなのか?」


「そそっ、なんたって隼ちゃんの告白拒否率は100%だからね。多分この地球上で会ってすぐに今の隼ちゃんに告白して『OK』の返事を貰える人類は存在しないんじゃないかな」


「…そりゃまた凄まじいな」


「でしょ。――あー、勿体ない」


「また願望出てるっての…」


 そんな呆れたツッコミを入れながらも、渚隼平という男を再認識していた。

 今さらながら超鉄壁人間じゃねぇか、あいつ! カッチカチだよ、カッチカチ!

 マジでサッカー一筋なんだな。


「で、まず告白をすぐにするかしないかで振るいにかけられるわけさ。告白した方が振るい落とされるってのも変な話だけどね」


「たしかにな」


「うん、それで今の攻略戦はこの振るいを乗り越えた者による好意を直接には伝えずに水面下で隼ちゃんにどれだけ好意を蓄積させられるかの勝負になってるんだよ」


「…何かマジでゲームみたいだな」


「でっしょ~。――それでその攻略戦に彗星のごとく現れたのが葦山ちゃんって訳よ」


「いやいやいやいや、待て待て待て待て! 俺参加した覚えなんてないぞ!?」


 彰の言葉を手をブンブンと振りながら否定する。

 そしてそんな俺を可笑しそうに見ながら彰は、


「勿論、俺とか聖ちゃんはわかってるって。でも日下部さんはそうは思ってないからこの手紙が来たんでしょ」


「…まぁ、そりゃそうだな」


 手紙をヒラヒラと振りながら言う。

 ぐぅの音も出ないな、確かにその通りだ。


「まぁ、実際葦山ちゃんは今までにないタイプだしね。隼ちゃんの一部とも言えるサッカー方面から責める人は今までいたけど、昨日みたいに一緒になって男同士みたいに話したり遊んだりする人は今までいなかったからね」


「…」


 …そりゃ、男同士だからな。

 でもなぁ、もし仮に俺が女子生徒の一人だったとして昨日の俺を客観視したらメチャクチャ変な女子生徒としか思わないと思うんだけど。

 「そんな変な女子生徒だから正攻法では落ちない隼平がもしかしたらコロッと落ちてしまうかもしれない」、そんな風に日下部は思ったのだろうか? 

 いやぁ~、わからん。恋する乙女の考えはわからん。


「うーん。でも、いいんじゃない」


「いや、何が?」


「なにって、葦山ちゃんが隼ちゃんとくっついちゃうパターンだよ。少女マンガ的に言えば、完全に主人公隼ちゃん、ヒロイン葦山ちゃん、ヒロインを邪魔する人日下部さんじゃん」


「アホか、俺はそんなつもりねぇよ。つーか、お前少女マンガとか読むのか?」


「妹が大好きなんだよ、それで薦めてくるんだ」


 唐突な彰の提案は当然すぐにかつ明確に却下。

 彰自身も俺が隼平に好意を抱いていないのは承知の上なのか、特段それ以上何かを言うつもりはないらしい。適当に思いついて、適当に言ってみただけなのだろう。


「――で、どうするの? このまま無視し続ければ二の矢三の矢ときてもおかしくないと思うけど」


 そして、彰のその言葉で話題は一番大事な事柄へと移った。

 そう『渚隼平に近づくな』というこの警告を俺は即行無視した。それを日下部は見ていた。というか彰が言うには睨んでいた。

 ならば、このまま何もしないで放置すれば次のアクションがあるであろうことは十分考えられる。


 しかし、この時点で俺の中ではすでにそれに対する答えは出ていた。


「それは――」


「話は全て聞かせてもらったわ!!」


「「!?」」


 が、それを彰に伝えようとしたところで不意に階段の下から声がかかった。

 その不意打ちの声に俺と彰の肩が跳ね、そして二人揃って声のした方へと振り返ると、


「ちょっと、緋音ちゃん!?」

「なっ、なんで飛び出しちゃうんですか…!?」


 そこにいたのは、明らかに焦った様子の委員長と渡辺。

 そして、


「水くさいじゃない、蒼! その話、私も一枚かませて貰うわよ! 私も参加させなさい!」


 その二人を背にして堂々と仁王立ちを決める伏見の姿があった。


 いや、色々と言いたいことはあるが…。

 とりあえず伏見…、格好つけて登場したとこ悪いがもう昼休みほぼ終了間際だぞ…。


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