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Mission-47 『会話と軟化と完全食』


「ほい」


「ん」


 ついできたお冷の一つを達也の前に置いて、俺も椅子に座り直す。

 ちなみにまだ注文したとんかつ定食はきていない。

 まぁ、俺のはさっき頼んだばっかだから当然としても達也のも来てないんだな。


「ん? ていうか、お前ははいつからこの店に来てんだ? お冷とりに行く前ってことはもしかして来たばっかりか?」


「ご名答だ。あんたとさほど変わらないよ」


「そっか、そりゃよかった。なら料理くるのも一緒ぐらいかもな。あれだよなー、二人でいて片方だけ先に料理届いたときって、ちょい微妙な感じになるよな。『えーっと…』『あっ、こっちは気にしないで先食べていいよ』『じゃあ、お言葉に甘えてお先に…』『どうぞどうぞ、遠慮せずに!』的な」


「? いや、別にならんだろ。俺は普通に食うぞ」


「さいですか~」


 と、まぁ会話はしてくれるがつれない達也くん。

 と言っても俺としては少々意外だった。俺は達也のことを教室での第一印象から心の中で『コミュニケーション苦手系』と称したが、思いのほか普通に会話が成立している。

 しかも、相手は転校して来たばかりの美人(俺は全く思ってないけど)女子高生(本当は違うけど)。

 これは考えを改める必要があるな。


「ってか、すんごい失礼なことを聞くんだけどさ」


「失礼ってわかってるなら聞くなよ…」


「まぁまぁ。あのさ、お前ってぶっちゃけあんまり人と話すの得意じゃないのか、もしくは人見知りかと思ってたけど、別にそうでもないのな」


「ホントに失礼な話だな。俺はただ極力無駄を省きたいだけだ。無駄なやつとは自ら関わらんし、無駄な会話はしない。そういう主義なんだ。…ってか、何であんたにこんなことを教えてるんだよ」


 「はぁー」と自分自身に呆れたように息を吐いて、達也がお冷を口へと運ぶ。

 なるほどなるほど、要はこいつもかなりの変人ってことだな。でも、それが結構話していて面白い理由だろう。

 そんな達也を見ながら、俺は頭の中でそう達也の人物像を再構築していた。


「あっ。そーいや、最初の質問にまだ答えてもらってなかったよな、結局そっちは部活帰りなの?」


「ああ。ちょうど終わってすぐにここに向かっきたわけだ。…そっちは違うのか?」


「おっ、初めて質問してくれたな」


「うるせーよ。あんたは部活入ってないし、普通なら午前終わったら直帰だろ。なんでまだ制服着て駅前なんかにいるんだよ?」


「それな。実はこっちも学校帰りなんだ。午後も色々あってな、説明するとそこそこ長くなるんだが――」


「ならいい。特に興味があって聞いた訳ではないしな。余計な補足はいらん」


「ははっ、つれねぇな~…」


 その徹頭徹尾変わらない達也の態度に苦笑しつつ、俺もお冷に口をつける。

 そんでもう一個聞きたいことがあったのを思い出した。


「というか、飯は外食なのか? この時間ってことはこれが夕飯だろ。…――あっ、踏み込んだこと聞いてるのはわかってるから嫌なら適当に流してくれ」


「一応そういう線引きはできてんだな。だが、別にあんたが考えている様な入り組んだ事情があるわけじゃねぇ。単純に俺は週一回程度のペースで自腹で自発的に外食してんだ」


「? なんでだ?」


「――俺は晩飯は週一でとんかつ定食食わないと禁断症状が出るんだ」


「………」


 おや? なんか面白そうなことを言い出したぞ。

 そして、俺は見逃さなかった。その瞬間に先程までは心の底からつまらなそうだった達也の表情にキランと光が差したのを。


「転校生、完全食という言葉を知っているか?」


 俺の感じたことはどうやら間違っていなかったようで、そう達也の方から話を新たに展開してくる。


「…あれだろ。なんか必要な栄養素が全部入ってるってやつじゃねぇのか」


「そうだ。いいか――とんかつ定食はな、完全食なんだよ」


「……いや、何言ってんのお前?」


「キャベツで野菜が取れる。とんかつで肉がとれる。大体ついてくるレモンで果物がとれる。味噌汁で汁ものがとれる。ご飯で炭水化物がとれる。――ほらな、完璧だろ」


「……いや、何言ってんのお前? 完全食ってそんなアバウトな定義じゃねぇだろ。それにその理論なら唐揚げ定食だって完全食じゃね」


 その俺の多分もっともであろう指摘に達也は「フッ」と小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 そして、


「アホか。どう考えても唐揚げよりもとんかつの方が美味いだろ」


 と勝ち誇ったように言い放った。


「――うん、それってただ単にお前がとんかつ好きなだけだろ」


「まぁ、そうとも言えるな」


「そうとしか言えんだろ…。ったく、面白いやつだな。あ、そだ。そういや学食にもとんかつ定食あったけどあれも食うのか?」


「どこが面白いのかはわからんが…、さすがにあれは一、二年で相当食って飽きたな。だから今はとんかつ定食食うのは週一回の晩飯のとき限定だ」


「ほ~ん。まぁ揚げもんだし、そんくらいが健康にいいかもな。っつっても、俺は今日は昼も夜も揚げもんだけどな」


「サラリと凄いこと言ったな。それにツッコむべきか迷ったけど、一人称が俺って…。とても現役女子高生とは思えんな、あんたは」


「ハハッ、ほっとけ」


 そして、最初に比べたらそこそこ打ち解けた俺たちの元へと、


「お待たせしました、とんかつ定食二人前。ごはん、お味噌汁大盛りで~す」


 俺をこの席まで案内した店員さんが、俺たちの晩飯を運んできてくれたのだった。


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