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Mission-46 『無言とワイロととんかつ定食』


「おいっす、すっげぇ偶然だな。部活帰りか?」


 思わぬところでの思わぬ相手との遭遇。

 そういや教室じゃ席が隣なのにほぼほぼ喋れてなかったし、これは良い偶然だな。

 そんな風に若干テンションが上がりながら、達也の対面の席へと腰を下ろす。

 しかし、


「――? おーい、達也くーん」


 その俺の問いに対する答えが返ってこない。

 そんで達也を見ると、これぞ仏頂面てな感じの顔でテーブルに肘をついていた。しかも俺を見ていない。

 え? イヤホンとかつけてないし聞こえてるよな?


「何故に無視?」


 取りあえず、そう聞いてみる。

 すると達也は仏頂面に更にイライラを乗せる様な表情を浮かべると、人差し指を一本だけピンと立てて、


「相席の条件」


 とだけ短く言って、先程の体勢に戻った。


「………」


 …マジか。

 知り合い同士でもさっきの条件適応させるつもりか、お前。

 くっ、そういや忘れてたぜ。こいつがコミュニケーション苦手系だって教室で知ったんだった。

 

 正直このまま話しかけ続けたい。こいつとも一年間同じクラス、それに席も隣同士。できるなら仲良くなりたい。

 だが、達也の出した条件を飲んでこちらは相席を許容されている。それを破るのは人間的にアウトだ。約束を破ることは絶対にしたくないしな。


「はぁー…、――ん?」


 仕方ないここは諦めよう。そんでとんかつを食べよう。

 気乗りしないがそう決めて、何気なく制服のポッケに手を入れたそのときだった。そこで俺はあれの存在を思い出した。

 

 ――これは、いけるかもしれない。


 そして、すぐにさっきまでの考えを改める。

 会話に繋がる糸口になるものを見つけたのだから。

 ありがとう、名前も知らないお姉さん。心の中でお礼を言いつつ、ポッケからそれを取り出した。


「今から言うのは独り言だから答えなくていいぞ」


「?」


「――こっちにはワイロの用意がある、受け渡しの条件は会話禁止の撤廃だ」


 そう芝居がかった笑顔と口調で右手で隠したそれ・・をテーブルの上に置いて、そのまま右手を達也の前まで滑らせる。

 そして、俺の意図がわからない様な表情の達也の前で右手をどける。


 そこには裏返しになった一枚の小さな紙が置かれていた。

 そう――それはここに来る前にビラ配りのお姉さんからもらった半額クーポン。まさか二枚もらったのがここで役に立つとはな。

 達也が頼んだメニューはわからないが、恐らく五百円弱は割引になるんじゃないだろうか。五百円は結構でかいぞ~。お得感が違う。


 だが、この作戦には一つ致命的な弱点があった。

 それは達也もクーポンを持っていた場合は意味をなさないという点だ。そうなれば、使用が今日限定のそれはただの紙切れ。その上、あれだけ大々的に配っていたのだから持っていても何らおかしくない。

 つまりこれは賭けだ。ふっ、隼平たち相手と達也相手で短時間で二回も賭けをしちまったぜ。 

 

 そんな俺の前で達也が訝しがりながらも、ゆっくりとそのクーポンを手に取った。

 裏返し、そこに書かれた文字を読む達也。一瞬だが、その瞳が驚いた様な色彩を描いた気がした。

 そして、


「はぁー」


 と大きく息を吐いたかと思うと、


「…なんで、そんな話したいのかね」


 そうゆっくりと口を開く。

 それは取引の成立を示していた。


「――ふっ。よっし、それは了承ってことでいいよな。っと、そうだ忘れてた、注文しとかねぇと。達也、お前何頼んだの?」


「聞けよ…。…はぁー、とんかつ定食だ」


「ん、じゃあ俺もそれにしよ」


 メニュー見てゆっくり悩むのもあれだしな。

 それにとんかつ屋なんだから、とんかつ定食がやっぱ一番の売りだろ。


「すいませ~ん、注文お願いします」


「はーい。――っと、ご注文をお伺いします」


「とんかつ定食一つで」


「ご飯とお味噌汁を無料で大盛りにできますが、どうされますか?」


「あっ、じゃあどっちも大盛りにしちゃってください」


「かしこまりました。とんかつ定食、ご飯お味噌汁大盛りですね」


「はい、お願いします」


 そして、近くを通った店員さんに注文を終えた俺は「これでよし」と息を吐き達也に向き直った。

 さーて何を話そうか、と思ったがそこでとあることに気付いた。


「あれ? お前もお冷ないの?」


「ここはセルフサービスらしい。あっちにウォーターサーバーがあった。んで、ちょうど取りに行こうってとこでどっかの誰かさんとの相席を店員に提案されたってわけだ」


「ハハッ、それは災難だったな。よし、お詫びに俺がとってきてやるよ」


 そう言って俺は立ち上がると、レジの近場に合ったウォーターサーバの方へと向かった。

 「…ったく、何でピンポイントでかち合うのかね」、と呆れた様な諦めた様な達也の声が後ろから聞こえてきた。


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