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Mission-44 『夕日とご飯と謎のモザイク』


「さーってと、どうすっかね」


 学校を出た俺はまっすぐ家には帰らずに学校周辺をプラプラと歩いていた。

 が、別に目的無く時間を浪費していたわけではなく。周囲の建物やらお店やらを実際に足で歩き調べていたという訳だ。

 朝の通学で家から最寄りのコンビニの位置はわかったが、それ以外の情報が圧倒的に不足していた。しかしその結果、公園やスポーツ店、本屋やスーパー、更には小規模な商店街を発見することができた。


 ふふっ、中々の収穫だ。

 学校の中もそうだけど、やっぱこういうのは自分の足で歩いて自分の目で見た方がしっかりと場所を覚えられるってもんだよな。


 しかしながら、結構な時間をくってしまった。もうすでに、空は夕焼け色と黒の中間くらいまで来ている。

 ――だが、まぁそれに見合う成果は得られたから結果オーライだな。

 そんなわけで得られたそこそこの情報に満足しながら、俺は帰路につこうとした。…つこうとしたのだが、


「――あ」


 そこで俺はとある重大なことに気付いてしまった。

 

 ――今日の夕飯どうしよう?

 

 えーっと、確か朝に神様は家の冷蔵庫に食品が入ってる的なことは言ってたはず。だが、俺はどんな食材が入っているかは確認していない。

 一応これでもそこそこ料理はできる。…のだが、そもそも料理とは食材があって初めて成立するものだ。それ故にもしその冷蔵庫の中に入っている食材とやらが、ごく少数だったらどうしようもない。

 例えば、卵一個だけとか。普通なら冷蔵庫に食材が入っていると言えば、数日分くらいは入っていそうなものだが、相手はあのお面を被ったふざけた男の娘を司る神様だ。絶対にないとは言い切れない。


 というわけで、ここで冒頭の「さーってと、どうすっかね」に繋がるわけだ。


 念のため食材を買っていく? そうなると、ご飯は厳しいからパスタとかか?

 いや、そもそも鍋やフライパンとかの調理用器具や電子レンジや炊飯器とかの台所家電はあの部屋にあるのか?

 よく考えれば俺はそれすらも確認できてはいない。


 …なんーっとなくだが、ある気はする。

 あれだけ男の娘化グッズを取り揃えてた神様のことだ、その男の娘状態で生活する上での必要なものは取り揃えている可能性が高い。

 だが、それが100%であるかといえばそれは否だ。ならここで意味のないリスクをとることはない。

 

「しゃーねぇ、今日の夜は外で食うか」


 てなわけで、俺の夕食は外食に決定した。

 さて、あとは何を食べるかだが…、


「適当に歩いていい感じの店を見つけるとするかな」


 当然ながらどこにどんな店があるかも知らないのだから、また足で探すしかない。

 あー、こんなことならさっき歩いた時に良い感じの飲食店もチェックしとくんだったな。二度手間になっちまった。


 そして、俺はとりあえず家がある方向に向けて歩きながら夕食処を探し始めたのだった。



「あっ、そこのお姉さん。お姉さん、あなたですよあなた! こちら本日オープンなんです、よろしければどうぞ~」


「? ども」


 そんな風に目的を決め、プラプラと店の多そうな大通りを歩くこと数分。

 唐突に制服にエプロン姿の女性から声をかけられた。制服姿といっても学校の制服とは違い、恐らくお店のものだろう。

 ちなみに最初はお姉さんと呼ばれた時点では俺を呼んでいるとは全くわからなかったのだが、肩をポンンと叩かれたところで、ようやく自分がまだセーラー服姿であることを思い出した。そして、ちょっとだけ切なくなった…。


「――えっと」


 そんな切なさから逃れる様にその女性から手渡されたビラの様な紙に目を落とす。

 一番に目に付いたのはでかでかと書かれた『とんかつ処』の文字。その下に同じく大きな文字と派手なフォントで店名とオススメっぽいメニューが書かれている。

 中々に主張が強そうな店だな。それに俺、昼飯はミックスフライ定食だったんだよな。ここで更にとんかつってのは…。


「あら、もしかして揚げ物は嫌い? それか体重の心配? お年頃の女の子だもんね~」


 そんな俺の悩みが顔にも出ていたのか、女性がそんな見当違いなことを言ってカラリと笑う。

 なんというかハキハキとした美人って感じだ。歳は俺よかちょっと上くらいかな。

 

「…えっと、そういうわけでは――」


「あら、その制服は風寺だね。実はねぇ、私の世界一格好良くて可愛い弟もそこに通ってるんだ~」


「そっ、そうですか」


 いや知らないよ。つーかグイグイくるな、この人…!

 そんな俺の困惑を余所に女性が「あっ、そうだ!」と何かを思いついた様に、先程俺に渡したものと同じビラをもう一枚手渡してくる。

 その意図がわからずに「何故もう一枚?」と問いかけると、


「いやぁ~、重要なのはビラじゃなくてこっちこっち」


 と、ビラの端を指差してくる。

 見ればそこには簡易なクリップで止められた一枚の小さな紙がくっつけられていた。よく見れば最初に貰ったビラにも同じくその紙がついている。

 そしてそこには、


「オープン初日記念、一品限定半額クーポン」


 と中々に気前のいい文句が書いてあった。


「そそっ、メッチャ太っ腹でしょ。これで二枚だから、彼氏でも誘って行ってらっしゃいな」


「…いや、お気持ちはありがたいですけど、そもそも彼氏なんていな――」


「おっと、あたしはそろそろ配りに戻らなきゃ。アディオス、美少女ちゃん♪」 


 そして、再び俺の言葉に覆いかぶさる様に早口で言いたいことを言うと、その美女はビラを片手に嵐の様にその場を過ぎ去っていってしまった。

 …なんか、すっごい人だな。てかなんでスペイン語?


「――でもまぁ、ここまでしてくれたら行かないわけにはいかねぇか。クーポンも今日限定みたいだし。二枚いらねぇけど」


 そんな彼女を見送り苦笑すると、なんやかんやで俺の夕飯はすでに決まっていた。

 あんがい二食連続揚げ物でも大丈夫だろ。それに不幸中の幸いだけど、ミックスフライ定食にはとんかつなかったしな。


 そして、俺は店の場所が書いてあるであろうビラへと再び目を落とした。

 …のだが、


「………は?」


 そこには確かにここら周辺の地図と店の位置がわかりやすく書いてあった。

 俺が引っ掛かったのはそこではない。

 その地図の横――そこに書いてあった店の住所だ。


 その住所が俺の予想外だったわけではない。いや、予想外だったかすらわからないのだ。


「なんだこりゃ?」


 ――その住所の部分には、まるでその存在を俺から隠す様にモザイクがかかっていたのだから。


 ………放送禁止用語でも書いてあるのかな?

 

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