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Mission-42 『布とパッドと最初に会った顔』


「――で?」


 ハイテンションで答え合わせを行った俺と彰を見ながら聖也がそう端的に今の気持ちを表明する。

 ちなみに完全なしかめっ面をしていらっしゃる。

 …うん、傍から見てわかるほどにご機嫌斜めだな。

 

「まぁ、そう結論を焦るなよ聖也」


「結論を焦っているんじゃなくて、さっさと練習に戻りたいだけだ。ぶっちゃけ、これ以上お前の悪ふざけに付き合うのは時間の無駄としか思えない」


「…いや、まぁそう思う気持ちもわかるんだけど」


 が、まだ本題には入ってないため俺としてもここで聖也にいなくなられるわけにはいかない。

 だってここで帰ったら俺がマジで頭がおかしい転校生で終わっちゃうからね。

 どうにかして引き止めなきゃ――、


「もぉー、聖ちゃん察し悪いなぁ。何となくこの時点で葦山ちゃんの身を張った意図に俺は気付いてるのにさ」


「あ?」


 が、俺が何かをする前に正解を当てた彰から更に援護射撃が入る。

 聖也にそう言うと、俺に向けて軽く親指を立ててニヤッと笑う彰。

 おー…! 意外と頼りになるじゃないか、この野郎っ…!


「その通り。というわけであと一分ぐらいで済むから、辛抱してくれ」


 このチャンスを逃す手はない。

 そうさらに追い打ちをかけると聖也はしぶしぶといった様子で「わーったよ」と背を向け歩き出しかけた体を再び元に戻してくれた。

 よし、じゃあようやく本題に入るとしますか。


「まぁ、彰の言うように今現在俺の片胸が消失しているわけだ。そして、そのトリックは至極簡単だ」


「…いや、トリックというか、普通にあれでしょ?」

「まぁ、あれだろうな」

「あれ? …ん、あれなのかな?」


 当然ながら三人はこれが何故消えたのかは大体の想像ができている様だ。

 ならば、勿体ぶることはない。

 制服の上着ポケットにガバッと手を突っ込み、先程しまったあれ・・を取り出し、


「トリックの正体はこれだぁ!!」


 そう三人に見せ付ける様に掲げた。

 言うまでもそれは『made in 神様』の胸パッドだった。それも片胸分の全部を抜いたから俺の手の中にはそれが数枚握られていた。


「つまり先程までの俺の胸部には胸パッドが詰まってたという訳さ!」


「…お前はあれか? 羞恥心をどっかに捨ててきたのか?」


 そんなメチャクチャ堂々とした胸を盛っていた事実の告白に聖也が呆れ半分困惑半分と言った様子で口を開く。

 そんな聖也に俺は「ちっちっちっ」と指を振って応える。

 まったくわかってないなぁ~。


「ぶっちゃけメッチャ恥ずいよ。それをあえて我慢してやってるんだっての」


「いや、なんでだよ?」


「それな。――よし、一年生も待ってるだろうしお前ら三人をここにこれ以上ここに拘束するのはよくないだろうから、簡潔に言うぞ」


 そう言って、俺は視線を一人に合わせる。

 明らかにここに来てから口数が少ないやつにだ。


「隼平」


「はい!?」


 そう名前を呼んで、目が合う。が、今だに結構気まずそうだ。

 だからこそ、その気まずさの原因を解消させるために俺は隼平との距離をグッと詰めて、


「俺は普通に下着の中に胸パッドを複数枚いれている。当然ながらさっきお前と一緒にコケたときもそうだ。――つまり、あの時お前が触ったのは上着越しでシャツ越しで下着越しの複数枚重なった胸パッドというわけだ」


 そう言った。


「あ~」

「………」


 その俺の言葉を彰は納得した様に聖也は黙って聞いていた。

 対して、肝心の隼平はというとゆっくりと咀嚼している様な顔で聞いている。

 

「ここまで話を持ってくるのに少々時間がかかったが何が言いたいかというと、そんな気にして気まずくなる必要はないってだけの話だ。何故ならお前が触れたのは布三枚越しの少し柔らかい人工物なわけなんだから!」


 そして、まるで決め台詞を吐く様に最後に俺は指をビシッと立ててそう締めくくった。

 …まぁ、正確には人工物じゃなくて神工物だけどな。


「――ありがとね、葦山さん。気を使ってくれて」


 そして、その俺の言葉に最初は呆気にとられていた隼平だったが、ワンテンポ遅れてそう憑き物が落ちた様にニコリと笑った。

 それは俺が朝初めて会った時の隼平の顔だった。

 「うん、戻ったな」、その顔を見て俺もホッと胸を撫で下ろした。


 何はともあれ、これで一件落着かな。

 そして、


「あっ、ホントにいた! なにやってるんですか、皆さん!」


 そこで狙い澄ましたかのようにその場に俺ら四人以外の誰かの声が響く。女子の声だ。

 見れば、そこに新たに現れたのは制服姿の一人の女子生徒の姿だった。ショートカットで如何にも運動部っぽい感じの。

 誰だ? 当然ながら俺に見覚えはない。が、


「涼宮か」


 その女子生徒を見ての聖也の声で彼女の正体は判明した。

 確かサッカー部のマネージャーだな。俺と彰が入らなきゃ本来レクレーション試合に参加してたらしい子だ。

 そんな涼宮はサッカー部三人の他に見慣れない俺がいることに対し若干不思議そうに首を傾げていた。


 うーん、説明するのも面倒だな。

 それにもうやることやったしな。


「よし、じゃあ俺はそろそろお暇するな」


「ん、そうなの?」


「ああ、やりたいこともやることも終わったし。サッカー楽しかったよ、混ぜてくれてあんがとな」


 という訳で、俺はここいらで帰ることにするか。

 ふぅー、念のためバック持ってきてよかったぜ。

 地面に置いたバックを肩にかけて、三人…いや四人に背を向ける。


「じゃあな、明日からまた一年よろしく頼むよ。三人とも」


 そして三人にそう声をかけると、


「――ああ、気を付けて帰れよ」

「じゃあねぇ、葦山ちゃん♪」

「うん、こちらこそ改めて一年間よろしく」 


 三人の別れの言葉を背中に受けながらそそくさと校舎裏を後にした。


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