Mission-40 『初心とプランと校舎裏クイズ』
「ごっ、ごめん!!」
二人仲良くスッ転んでから遅れること数秒。
今の状況を少し遅れて脳が理解した隼平がそんな焦り声と共に俺の胸部に当てられた手を引く。顔に若干の朱が差し、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべている。
そんな隼平に、
「――いやいや、事故だろ。気にすんなよ。むしろ派手に転びかけたとこを支えてくれてありがとな」
そう俺は笑いかけると、「よっと」と足を踏ん張り立ち上がり、手でポンポンと服についた汚れを落とす。
そして、
「ほら」
「…あっ、ありがと」
未だ地面に尻餅をついたままの隼平を手を伸ばして引き上げる。
が、隼平は俺とは視線をあえて合わせないようにして一言お礼だけを言うと「あの…ほんとごめんね!」とそうもう一度謝罪の言葉を口にして再び急ぎ足でサッカーの輪の中に戻って行った。
ちなみに俺が勝手に地面に足をとられて転んだだけで、ファールでも大怪我でも無いので試合はストップしておらず、今はこぼれ球を拾った聖也チームが攻めている。
「――いやぁ~、あんな漫画みたいなことあるんだね。隼ちゃんもドギマギだったし、ボーイミーツガールのラブコメ始まっちゃう?」
そして、そんな隼平を見送った俺に後方から声がかかる。
まったく攻め上げる気がなさそうな彰くんである。それに若干楽しそうな声をしてやがる。
…よし、せっかくだからこいつも有効活用させてもらおう。ついでに聖也もいた方がいいか。
「始まらんよ。単なる事故だろ。むしろこっちが申し訳ないっての」
「おー、クールだね。ていうか、葦山ちゃんってなんか隼ちゃんとお似合いな気がする。あっ、ちなみに隼ちゃんはガチで漫画の主人公ってくらいモテるからライバルいっぱいよ」
「…人の話聞いてたのかお前? こっちはそんなつもりないっての」
アホのアホなアドバイスを一蹴すると、俺はそこで視線を守備に回っている隼平に向ける。
「………」
そして、その動きは最初の頃とは打って変わってここから見てもわかるぐらいに鈍い。心ここに在らずと言った感じだ。
――まぁ、ぶっちゃけそれは予想通りだ。
今日の朝会ったばかりだけど、確信を持って言えることがある。それは渚隼平という男がすこぶるいいやつだということだ。顔も性格も運動神経もいいが、この場で大事なのは性格。気が回るし優しいし誠実。
そんなやつが事故で誤ってとはいえ、今日会ったばかりの女子の胸をガッツリ触ってしまってすぐにそれを「仕方ないか」で割り切って片付けるわけがない。
きっと今頃俺に対する罪悪感と動揺をすごい感じてしまっていてサッカーどころではないはずだ。
そして、そんな隼平の気持ちの揺れを解消しつつ女子生徒としての俺の存在を明確にしてこれから先の一年間を優位に進めるための案がさっき浮かんだのだ。
正直、メッチャ申し訳なく思う。転んだ俺を反射的に助けてくれただけなのに、そこで制服と下着越しの胸パットを触ってしまいそれで罪悪感を感じるなんて不幸この上ない。言い方によってはその善意でもたらされた不幸を俺は自分の生存のために利用するようなものなのだ。
――でも、やる。俺は決めたんだから、男の娘としてこの一年間を行き抜きそして絶対に生き返ると。
いつか学食とか缶ジュースとか適当な理由つけて奢ったるから勘弁してね! ていうかほぼほぼ全て俺のせいなんだけど、許してね! 俺のせい80パーセント、男の娘神のせい20パーセントくらいだと思う!!
「あー、やっぱ隼ちゃんの方は気にしてるっぽいね」
そんな心の中でメッチャ喋って決断を下すと、そこで彰が呟く様に言う。
よし、これは渡りに船だ。
「あー、お前もそう思う?」
「うん、隼ちゃんモテるのに今までサッカー一筋だからね。結構、というかかなり初心なんよ」
「――そっか。うん、まぁしょうがない、ああなったのは俺の責任だしな、ここは一肌脱ぐとしますかね。つーわけで協力してくれ、彰」
「?」
そうして、俺はとある頼みを彰に耳打ちした。
***―――――
「で、こんなとこまで連れてきて何のつもりだ」
そして数分後。
俺と隼平、彰、聖也の三人は、誰もいない夕暮れ時の校舎裏に来ていた。
ここまでの手筈は超単純。
彰に聖也と隼平をテキトーな理由をつけて集めてもらい、四人で校舎裏に連れてきただけだ。ちなみに未だに試合は継続している。
ちなみに俺ら四人の代わりにはちょうど外周を終えてグラウンドに来た息も絶え絶えのサッカー部員たちに入ってもらった。ご愁傷様だ。
そんなわけで、俺ら四人は今、グラウンドを抜け出して校舎裏にいるというわけだ。
まぁ、当然ながら理由を知らない聖也は少し不満顔。
そんな誠也に、
「彰、お前が呼んだんだろ」
「いやいや、俺は葦山ちゃんから頼まれただけ。ここから先の展開は聞かされてないの。というわけで、説明よろしく」
「よし、わかった。まぁ、三人にここに集まってもらった理由は単純だ。――今から俺がお前らに一個だけクイズを出してやる」
俺はそうニヤリと笑みを浮かべた。
さあ、正念場だ。
上手く進めば、これからの男の娘生活が有利になり更に隼平の罪悪感が消える。失敗すれば、最悪ループするかもしれない。
第一回、男の娘クイズを始めよう。




