Mission-04 『道具と着替えとミッションスタート』
「ふっ、自信満々大いに結構。願わくばその自信が最後まで折れないことを祈っている」
「ああ、悪いが終わったときにこのメーターの数字が100から減ってないこともあり得るぜ」
「それは楽しみだ、期待しておこう。言い忘れたがタンスの他にも押し入れに色々と道具があるから活用するといい」
「道具?」
「ああ、見ればわかる。ではな、――まぁ、恐らくはまたすぐに会うことになろうが」
その言葉を最後にまたもやリモコンなどを使っていないのにテレビがプツリと独りでに消えた。
というか、意味深だな。
またすぐ会う? どういう意味だ? まさかこのテレビ以外でもこっちに干渉してくることもあり得るのか?
「…まー、いいか。そうなったときにでも考えればいいことだな」
とりあえずはお面野郎のことは置いといていいだろう。
俺には俺のやるべきことがあるわけだしな。
チラリと時計に視線を向ける。時刻はすでに六時をまわっていた。そんで学校八時から八時半までに着くようにってことだったよな。
「歩きで十五分くらいって言ってたけど、初日だしもうちょい早めに行っといたほうがいいよな。七時ちょいくらいには家を出とくかな」
そんな風に何となくでこの後の予定を決めた俺は、一先ず先程言われた押入れを見てみることにした。
道具って説明はアバウト過ぎるし、実際に自分の眼で見てみないこと始まらない。
テクテクとテレビとは反対方向にある押入れへと歩いていき、その扉へと手をかける。そこそこ大きめの押入れだ、だからこそ、そこにいれる道具はあまり想像できなかったのだが、
「――っ、なるほどね」
その扉を開けて一番最初に目に飛び込んできたあるものを見て、何のための道具がここに仕舞われているのかを俺は察した。
服屋などによく置いてある人体を模した白いマネキンの頭部だけがいくつか並んでいた。そして服屋ならばそこには帽子などが被らされているところだが、このマネキンの頭の上には髪の毛が乗せられている。
要はかつらとかウィッグと呼ばれるやつだろう。当然ながら全て女物で髪の長いタイプのやつだ。
「俺の髪は男に見えないって言うには確かに長さが足りんしな。有効なアイテムではあるか」
前髪をチラッと触りながら、そんな感想を漏らす。
そして、このかつら各種からもわかる様にここには女装アイテム。もとい、あいつ風に言うと男の娘になるためのアイテムが揃っているということなのだろう。
つまり、道具というのは俺が男の娘であることをバレないようにするための道具というわけだ。
う~ん、嬉しいような嬉しくないような…。
「んで、他にはなにが…」
まぁ、まずは他の道具を把握してみないことにはな。
というわけでゴソゴソと押入れの中を捜索してみた結果、
・ムダ毛処理用のグッズ各種。
・美容グッズ各種(ホントに色々)
・化粧グッズ各種(ホントにホントに色々)
・シュシュやヘアピン、イアリングといった学生っぽいオシャレグッズ各種(ホントにホントにホントに色々)
・胸パッド
などが押入れの中から発見された。
「――――」
余りの数の多さと謎の気合の入り様に思わず呆気にとられる。
そしてその全てを見て俺が出した結論は、
「――うん、全部いらないな」
という一言で済むものだった。
まずムダ毛処理グッズ。
これはいらないというより必要ない。
何故ならば、足や腕そして胸やわきに至っても俺には一切のムダ毛がないから。処理済とかそういうわけではなく、昔から俺の体質で存在していないのだ。
言ってて少々虚しいが本当なので仕方がない。
…ちっ、ムカつくぜ。こういうところもあいつの言う男の娘に向いてるってことなんだろうな。
次に美容グッズ・化粧グッズ、オシャレグッズ。
これは確かに有用かもしれない。しかし、たぶんだがこれを一つ使うたびに俺の中にある大切な何かが無くなっていく様な予感がするのだ。見た目に釣られて心までも軟弱になりそうな予感がする。だから、いらない。
それに素で女子に間違えられる俺のことだ。こんなもの無くたって大丈夫だろ。
そして、最後に胸パッド。
論外。単純に絶対につけたくない。
まぁ超ド貧乳ってことで何とかなるだろ。それに俺は身長は男子の一般平均ぐらいだけど女子にしてはかなりでかい部類だろう。だから俗に言うモデル体型ってことで大丈夫なはずだ。
というわけで、この中で俺が使うのは一つだけ。
一番手前にあった黒のロングヘアーのかつらだけを取って、押入れの扉を閉める。
「おっし、これでもうここに用はないな」
なんやかんやでここまでの押入れの物色でそこそこ時間を使ってしまった。予定通りに進めるにはちょいと急がないとな。
といっても、そこまでお腹は減ってないし朝飯は今日はいいだろう。そうなると俺に残されたすべきことはあと一つだけ。
多くの学生にとって必要不可欠なものを身につけなければならないのだ。
それはまるで特別な物の様に押入れの中ではなく、今俺のいるワンルームと玄関までの中間地点の辺りにあるハンガーラックにラックの全てを独り占めするように一つだけ吊るされていた。
「――セーラー服」
声に出して、改めてその存在を実感する。
生前通っていた学校の女子はセーラー服ではなかったが、テレビなどで見たことは何度もある。しかし、それを自分が着ることになるなんて夢にも思わなかった。
…つーか、ホントに着るの? これを? 俺が?
やはり実物を前にすると少し尻込みしてしまう。
が、ここまで来て躊躇しても仕方ない。そう、これは生き返るために仕方なく着るんだ。それで俺の内面の男らしさが減るなどということはない。むしろここに来て臆病風に吹かれるほうが男らしくない。
「よし!」
と決心を固める意味も込めてそう言うと勢いよく来ている服を脱ぎ、セーラー服を手にとる。
俺はさっき神様に自分の言葉で覚悟を示した。なら今度は行動で改めてその覚悟を示す。
そして、俺は生まれて初めて自分の意思で女子がするような恰好をした。更にセーラー服を着終えた後にかつらも被ったため、ぶっちゃけもう見た目は女子にしか見えないと思う。
「ふぅー、ふぅー…。大丈夫、大丈夫だ」
大きく大きく息を吐いて吸う。覚悟は決まった。もう後ろに下がる足はついていない。
「見てろ、絶対に生き返ってやるからな」
そして、誰に向けてかもう一度そう宣言し、
「さあ、ミッションスタートだ!!」
俺はあらかじめ用意されていた通学かばんを手に取ると、生まれて初めてのセーラー服姿になった勢いそのままに学校へと向かい歩き出した。