Mission-39 『油断と助けとラブコメのお約束』
「いえーい」
「ナッ、ナイッシュです」
「だろ~」
開始数分、カウンターで抜け出した隼平のパスからの俺のミドルシュートで先制ゴール。
ってなわけで、華麗に先制点を決めた俺は近場にいる逆サイドのフォワード担当新入生とハイタッチをしていた。
更にそこに今日初めての驚き顔を浮かべた隼平もテクテクと小走りで近づいてきて、
「おいっす、隼平。ナイスパス」
「そっちこそナイスシュート。というか、驚いたよ。彰抜いてそのままダイレクトに打つとはね。しかもすっごくいいコースだったし」
「ありゃ運がよかったよ。もう一回あれやれって言われても難しい」
「まあね。狙ってあれができたら普通に女子の代表を狙えるんじゃないかな?」
「それは褒めすぎだ」
「それくらい凄いって話。正直言って予想してたよりずっと上手だよ」
そう手放しでお褒めの言葉を頂いてしまった。
そして隼平は俺の肩をポンポンと叩くと「じゃあ、二点目いってみようか」といって元のポジションまで戻っていった。
そして俺もまた、
「あきらぁ!! なにノータイムで抜かれてんだお前は!!」
「いやだって、あんなことしてくるとは思わないじゃん!? つーか聖ちゃんこそ、なにあっさり決められてんのさ!?」
「あんないいシュート打ってくるとは思わないだろ!!」
「俺と一緒じゃん!!」
「おーい、二人ともボール戻せボール。リスタートだ」
ゴール前で揉めまくっているいる彰と聖也にそう要求すると、元のポジションへと小走りで戻ったのだった。
というわけで再び聖也チームボールでスタート。
今度は俺も守備に参加しよっかな、と思っていたのだが、
「甘いよ」
「うわっ!?」
と開始直後自陣でボールを回そうとしていた一年生から隼平が華麗にボールをカットする。
容赦ねぇ…とも思うが、まぁそのやるからには手加減無しの全力の姿勢は俺も大好きだ。
さーて、上がりますかね。そんで二点目貰いましょう。
近くの一年生と巧みにパスを回しながら前進する隼平に後れを取らない様に再び俺も前へと進む。
といっても完全に攻撃は逆サイドから行われており、俺の出る幕は無さそう――、
「でもないな」
見ればそっちではパスを受け取った一年生がサイドライン辺りで追い詰められている。そして、聖也チームの一年生二人が隼平にしっかりとマークしてくっついている。
あれじゃ隼平にはパスはさすがに出せんな。
というわけで、
「ヘイ、一年生!」
そう片手を上げる。
すると、その声に気付いた一年生がハッとして俺の姿を確認すると、一瞬迷う素振りを見せるが直ぐに左から右に真っ二つにするようなパスを送ってくれる。
ちなみに今回は地を進むゴロの様なパスではなく、空中に浮かしてのパス。
位置は大丈夫。
そんで高さはちょい高いけど…、
「よっと。…あっ、やべっ」
許容範囲内。
脇をギュッと締めて、ライン際に立ち軽くその場でジャンプ。
そして飛んでくるボールを胸で打け止め、そのまま地面に落とす。まさかの胸パッドを入れていたことを完全に失念していたから、ちょっとだけミスったけど大丈夫。
きっちりと足元に落とすことには成功した。
そして、当然ながらさっきまでとポジションの変更はない。
すなわち俺の前には再びあの男が立ちはだかった。
「さっきはやられちゃったけど。今度は油断しないよ、葦山ちゃん」
彰の表情にはさっきまでと打って変わって真剣な色が浮かんでいる。いくらレクレーションとはいえ女子に二度抜かれるのはさすがに嫌なのだろう。
俺と一定距離を置いた隙のないディフェンス体勢。
運動に自信があるとはいえど、俺でも全力ディフェンスのサッカー部を真正面からぶち抜くのは中々に難しい。それに何となくだけどこいつ結構上級者な気がするしな。
――ま、それは体力全快状態ならばの話だけどな。足にはまだ疲労たんまりだろ?
そんな彰に俺は真正面から一対一でドリブル突破を仕掛けた。
右足で左へと切り返す。
「っ!」
と見せかけてボールには触れずにスルー。
今度は左足で右へと切り返す。
「っ!?」
と見せかけてもっかいスルー。更に右足でスルー、左足でスルー。
そんで五度目で右足で触れて左側を抜きにかかった…のだが、
「くうっ!」
「おっ」
四回フェイクをかけても彰は付いてきた。
さすがっ! でももう足がギリギリに見えるぜ!
その見えた隙を見逃す手はない。彰が反応した瞬間に、右足を軽くボールの上に乗せ後ろに戻すと同時に身体をスピン。そのまま空いた左足でボールを左側へと蹴り出し、俺は左側をドリブルで抜き去る。
「ちょっ!? シザースの次はマルセイユルーレットかよ!?」
「ハハッ」
流石にドリブル技二連発には驚いたのだろう、抜かれた彰がそう声を上げる。
それにしてもやるなぁ、今日の俺。またもや決まっちまったぜ♪
さて、今度のゴールは新入生にアシストでも――。
華麗に彰を抜き去った瞬間に俺は意識を別のことに割いた。言い方を変えれば油断してしまった。
そして、俺は知っていた筈だ。
今日は油断してしまえばロクな目にあってはいないことを。
「うげっ!?」
ドリブルで彰を抜いたまではよかった。
しかし、後はゴールまでと言ったところで俺は思いっきり土に足をとられて体勢を派手に崩した。
まぁ、当然と言えば当然だ。今までが上手くいき過ぎていたのだろう。サッカー部と違って俺はほぼ毎日ボールと一緒なわけでもないし、慣れない格好だし、靴もスパイクじゃなくてスニーカーだし。
――うん、しょうがないここは派手にすっ転ぼう。メチャクチャダサいし、多分スカートとかめくれて短パン丸出しになるだろうけど…まぁそれだけじゃ男とはバレないだろうし。
一瞬のうちに気持ちは固まった。
しかし、身体はそうはいかない。派手に体勢を崩し、コケるの確定ってとこまで来てるのにほぼ反射的に一歩二歩とよろけながらも何とか身体を立て直そうとする。
が、五歩目あたりで限界は来た。グラリと上体が完全に傾き、もう1秒後に転ぶ自分の姿が想像できた。
――のだが、
「葦山さん、危ない!!」
この数歩数秒の謎の粘りが隼平がこっちに近づく時間を与えてしまった。
おそらく一年生のパスでサイドチェンジした辺りですぐさまこっちサイドにフォローに来てくれたのだろう。
そして、その途中で俺が滑ってコケそうになったから助ける為に近づいたというわけだ。
「うわっ!?」
「ぎゃっ!?」
が、普通の女子ならいざ知らず俺は普通に男子。
身長も170ちょいあるし、体重も平均ぐらいはある。そんな俺の倒れ込んだ身体を受け止めるのは、中々に難しい訳で、
受け止めてくれようとした隼平の善意虚しく、二人して派手に地面に落ちてしまった。
自然と受け止めようとした隼平が下になり、俺は最後の抵抗で何とか両手を地面につき出して勢いそのままに隼平を下敷きにすることだけは避けることができたのだが、
「…あ」
「…え?」
俺の両手は隼平の顔の横の地面。
そして隼平の右手は俺の左肩を支える様に上へと突き出され、左手は何故か俺の胸部を思いっきり支えていた。
そんで言うまでもないが俺の胸部には思いっきり胸パッドの詰まった下着があるわけで…、
俺と隼平は、まるでセクシーなラブコメ漫画のワンシーンの様な状況に陥っていた。
まぁ、男と男だけどな。
――!
が、今日俺は様々な窮地に遭遇してきた。
だからかもしれない、その瞬間に頭に閃光が走った。脳裏にとある名案が浮かんだのだ。
――この状況、俺の今後の男の娘バレの可能性を下げる為に使えるかもしれない!!




