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Mission-35 『猫と猫と男の娘』


 タッタッター、とリズミカルに階段を駆け下りる。

 さっきも言った様に校舎内にはほぼほぼ人がいないのでこんなことも周囲を気にせずにできるのだ。

 そして、一階につくとそのまま先程自分がいた場所の一階部分へと向かった。

 

「ういっす~」


「ども~」


 階段を下りて一度曲がれば、そこはすぐ横の中庭と隣接する渡り廊下。

 その渡り廊下の端に腰かけて中庭の方に足をプラプラさせながら未だに猫を撫でている猫寺へと手を振り近づくと、彼女のほうも軽く手を上げてそれに応じてくれる。


「また会ったな」


「ですね。一日に学外と学内で会うとは縁があるかもです」


 そんな何気ない会話をしながら猫寺の横に腰を下ろす。

 ちなみに猫の方は俺が慌ただしく近づいて来ても、近くに座ろうとしても特に気にした素振りもなく気持ちよさそうに猫寺に撫でられたままだ。

 …猫と猫寺でややこしいな。


「お前は部活動説明会でないのか?」


 そんな猫被りがちょい気になりながらそんなことを聞いてみる。

 あっ、猫被りってのは猫を被ってるとかじゃなくて猫と猫寺の字面が被ってるって意味ね。


「出ないですよ、そもそも私は帰宅部ですから」


「ん? そうなのか? じゃあ放課後は何してんだ?」


「バイトっすよ。夕方の六時までやってるっす」


「えっ、マジで…」


 その猫寺の答えに思わずそんな声が漏れる。

 朝もバイト夕方もバイト。学生にしては中々にハードスケジュールだ。

 もしかしてこいつの家って―――。


「はい、マジっすよ。うちって結構ビンボーなんすよ」


 が、俺が思っても口に出すのを憚るようなことをサラリとまさかの猫寺の方から暴露してきた。

 その発言に思わず「かるっ!?」と俺の口から声に出してしまう。


「お前…なんつーか、あっさりと凄いこと言うなぁー」


「どうせ付き合ってればそのうち先輩の耳にも入りますしね。なら、私の口から先に言っといた方がいいかなぁーって。葦山先輩、家の貧富とかで態度変える人には見えませんしね」


「そりゃ…変えねぇけどよ」


「でしょ」


 猫を撫でながら猫寺がカラリと笑う。

 その様子は話している重い内容とは正反対の様にあっけらかんとしている。


「あっ、ちなみに同情とかはいりませんよ。貧乏とは言ってもうちは笑える貧乏ですから」


「なんだそりゃ、どう言う基準だよ…」


「簡単な話っすよ。私はこうして学校に通えてるそれだけで十分笑えるっす。世の中には学びたくても学べない人なんてごまんといるんすからね。その点、私はキッチリ義務教育後もこうして高校に通わしてもらってる。それだけで幸せもんっすよ、親に感謝っす」


「――そっか」


 ――すげぇな、こいつ。

 またもや世間話でもするかのようにアッサリとそう言った猫寺を見て、純粋にそう思う。

 なんつーか、人間ができてるというか心が綺麗というか。とりあえず、手放しで尊敬できる部類の人間だということはわかった。

 そりゃ、猫も懐くわけだよ。


「猫寺に懐くなんてお前は人を見る目があるな」


 そんなことを呟きながら猫寺の膝の上の猫の頭を撫でてみる。

 が、


「うおっ!?」


 頭に触れようかという瞬間に「シャー!!」と威嚇されてしまった…。

 …ふっ、やるな猫よ。俺がセーラー服を着た男という怪しさ満開の存在であることを野生の勘で見抜いたか。

 だが、残念でしたー! お前にばれても俺はループしないんだなこれが!!


 とまぁ、そんな風に心の中でさっきの猫寺とは対極の人間ができてない謎のマウントを猫に対して取っていた俺の耳に、


「ふふっ、おっかしーい」


 と猫寺の笑い声が届く。

 どうやら俺がしたり顔で猫の頭を撫でようとしたところ威嚇されたのがかなり笑いのツボに入ったらしい。

 見ればお腹を抑えながら笑っている。


「そんな面白かったか?」


「ええ、かなり。ちょっと前からこの子とはたまに遊んでるんすけど、人にあんなに牙を剥きだして威嚇したのを見たのは二人目っす」


「なんだ、もう一人いるじゃねーか」


「その一人が結構ヤバいやつっすよ。あれ・・と一緒の扱いとか…、ううっ、ご愁傷様っす」


「そんなに変なやつと俺だけなの!?」


 なんか不安になってきたんだですけど…。

 でも、あれだ! 俺に威嚇したのは俺が女装してるからだよな!? そうだよ…な? 素の人間性を警戒したとかじゃない…よな?

 ちなみに最後の方が疑問口調なのは、今現在もその猫が俺を心底怪しむような警戒心丸出しの眼で見てきているからだ。


 ええっ…、俺別に動物に嫌われやすいとか無いんだけどなぁ…。

 

「うーん、朝も思ったんすけどやっぱ葦山先輩って面白い人っすね。末永く仲良くしていきたいっす」


 そんな猫と睨めっこの様な状態になっている俺の隣で猫寺がゆっくりと膝の上に置いた猫を抱き上げて横に移動させると、そのまま立ち上がった。


「すみません、先輩。そろそろバイトの時間なんで失礼するっす」


「ん、あーそうか。わかった、頑張れよ。…ちなみにこいつは?」


「帰りたくなったら帰ると思うっす。それまでに懐かれる様に頑張ってみればどうっすか?」


 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべると、クルリと猫寺が背を向ける。

 そんな猫寺を、


「あっ、そうだ猫寺」


 俺がそう呼び止めると、猫寺は「はい?」と不思議そうに顔だけ振り返る。


「朝、俺お前に朝からバイトとは偉いなって言っただろ。そんで今はその時の十倍くらい偉いなって思ってる。つーわけで頑張れよ」


「ふふっ、ええ頑張りますとも。私は偉いっすから♪」


 そして俺の言葉にそう冗談交じりに言って笑うと、猫寺は昇降口へと向かい消えていった。

 

「まったく…、可愛い後輩がいたもんだ」


 そんな後姿を見届けて俺は一人渡り廊下で呟いた。

 

 ――いや、正確には一人と一匹だな。

 …まぁ、猫寺にはああ言われたし、いっちょ懐かせてやるか。


 そう決めると、


「よ~し、猫ちゃん。今度は俺と遊ぶか――」


 そう渾身の猫撫で声でそう猫に話しかけたのだが、


「………………」


 先程まで猫がいた位置にはすでにその姿は影も形もない。

 そして、キョロキョロと中庭を見渡したところでようやくまるで自分の住処に帰るかのように一切の振り返りもなく俺に尻を向けて歩くその姿を発見したのだった。


「まったく…、可愛くない猫がいたもんだ」


 そんな訳で、みんなが部活動説明会やらアルバイトやら他の素晴らしい事柄に精を出す中で俺は一人学校の中庭で猫にフラれていた。


新規メモ:猫寺柔について


この物語の主要人物その③。年齢は16歳、身長は156センチ程。

風寺学院高校二年。気軽で軽快で親しみやすくクラスの人気者的存在の女子生徒。尚且つ心も綺麗で邪なものを持っていないため動物にも好かれる。

十年ほど前に父の会社が倒産し、尚且つ父一人母一人子六人の大家族だったためそこそこの貧乏に。しかし、その結果猫寺家の家族の絆が強くなったと本人は感じている。

ちなみにアルバイト代の使い道は、下の弟妹に対するお小遣い等が三割、有事の際のための貯蓄が五割、自分に使うためのものが二割となっている。

私立高校である風寺学院高校を選んだのは、学業特待で学費が五分の一になったため。そのため学力は非常に優秀。

前述のとおり人柄がよく優秀、顔立ちも整っており愛嬌もあるため非常にモテるが本人は家族第一のため浮いた話は皆無である。

現状、葦山蒼葦ループさせ回数同率最下位(0回)

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