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Mission-20 『生徒と教師とドア越し面談』


「てなわけで、今日の日程は午前中の時間はクラスごとに委員会やら係やらを決めて、午後には新入生に対する部活動説明会があるってわけだ」


「それ帰宅部はどうするんですか?」


「午前帰りで問題ない。つっても、うちの学校は入部率がえらい高いから高校にしては珍しくあんまり帰宅部っていないんだけどな」


「マジか…。じゃあ俺も何か入ろっかな、いやでもこの時期に三年の新入部員とかややこしいか」


「いーんじゃねぇの。逆にレアすぎて歓迎されんじゃね」


 そんなわけで結局俺は椅子を並べ、この浅見先生とダベっていた。

 意外と言うかなんと言うか、凄まじく話しやすい。いい意味で気安く生徒との距離が近いので対等に話しているような感覚。

 何となくだがこの先生が人間としてはメチャクチャだが生徒たちにはキチンと慕われられているっぽい気がした。若いのに最高学年の担任ってことも優秀であることの証明なのかもしれない。


「先生、おいくつですか?」


「あ、25だがそれがどうかしたか?」


 何となくそんなことを聞いてみると「女性に年齢を聞くな」的な常套句が返ってくることはなく、そうあっけらかんと先生は答えた。

 やっぱり若けぇ。


「いや~。若いのに凄いなぁ、と思いまして」


「なんだそりゃ。おだててもこれくらいしかでねぇぞ」


「あっ、どうも」


 そう言って、机の引き出しから棒付き飴を一個だけ取り出して手渡してくる。

 ありがたく頂くことにした。

 と言ってもここで舐めはじめるのもあれなのでポケットにしまうのだが。


「さてと。じゃあそろそろ行くか」


 そこで先生が「よっこいしょ」と立ち上がり、パソコンの電源を落とす。

 どれくらい話しただろうか。でもそんなに長くはなかった気がする。

 もうSHR始まるの? と疑問に思うが、当然ながら俺よりも先生の方がこの学校に詳しいので特に引っかかることもなく続いて椅子から立ち上がる。


 そうして、俺は先生に着き従う様に職員室を出ていよいよ教室へと向かったのだった。



 ――――と思っていたのだが、


「これ、どういうことですか?」


 向かった先、そこは何故か屋上だった。正確には今俺たちがいるのは屋上へと続く扉の前。

 そこにはでかでかと『生徒進入禁止』の注意書きが貼ってあった。

 そして、そんな注意書きをガン無視して先生がドアノブに手をかける。


「いやっ、進入禁止って…」


「生徒って書いてあるだろ?」


「それは教師なら言わずともわかるし、そもそも屋上になんて行こうとしないからわざわざ書かないだけでは…」


「フッ、詭弁だな」


 どっちがだよ!?

 そうして先生はそのままドアを開け、屋上へと足を踏み入れた。仕方なく俺もその後に続こうとするが、そこで「おいおい」と手で制される。


「なんですか?」

 

「『生徒進入禁止』、読めんのか?」


「――――」


 うん。イラッ、ときたね。


「じゃあ、なんで連れてきたんすか?」

 

 少しムスッとしながらそう問いかけると、先生はニヤッと悪そうな笑みを浮かべた。

 その笑顔に俺はなんとなく嫌な予感を感じとる。そして、その予感は的中した。

 ゴソゴソと自分のスーツのポケットをいじると、先生はまさかのライターとタバコを取り出したのだ。


「つーわけで、ヤニ摂取するから入り口で見張り頼むな」


 そして、屋上と階段を繋ぐ扉は閉じられた。


「…………」


 想像を絶する事態に呆気にとられる。

 ―――とっ、とんでもない不良教師だ…。


 一周回って怒ったりツッコんだりする気力も起きない。

 職員室のときの想像より更に数倍ヤバいな、この人。立ち入り禁止の屋上で喫煙とかするか、それも教師が!

 

 しかし、こうなってしまっては指示に従う以外はないため「はぁー」と大きくため息を一つ吐くとそのまま扉に背中を寄りかからせるようにして座る。

 すぐに背後でカチッというライターの音が鳴ったかと思うと、「ふぅー」と煙を吐き出す音が聞こえて来た。

 マジで吸い始めおった…!


「…タバコは健康に良くないっすよ」


「ハハッ、わかってないな葦山。喫煙者ってのはそんなことを百も承知で健康と煙を天秤にかけた上で吸ってんだ」


「うわっ、うちの爺ちゃんと同じ様なこと言ってます」


「おー、そりゃイカしたじいさんだな。ま、一応私はこれでも朝夕夜の三本に制限してるけどな。長生きしてぇし」


 何気ない会話の中、ふと思ったが声が近い。

 先生もおそらくこの扉を背に話しているのだろう。

 

「さてと、さっきまでは散々お前の質問に答えたんだ。今度はこっちから聞きたいことがある」


「散々って言うほど質問しましたっけ?」


「細かいことはいいんだよ。ちなみに私は人の嘘がわかるから正直に答えろよ」


「なんすか、それ? アニメみたいなこと急に言わないでくださいよ。――まぁ別に嘘を吐く理由はありませんけど」


 ホントに女子かとか聞かれない限りはね。

 というか、聞きたいことって何だろうな。まぁどうせそんな大したことじゃないんだろうけど…、と思っていたのだが、


「ここで上手くやっていけそうか?」


 飛んできたのはそんな質問だった。

 少し驚きつつ、


「それは学校生活についてですか?」


 そう質問を返す。


「モロモロだ。高三になって見知らぬ地に転校ってだけでそこそこなのに、それに加えてお前一人暮らしなんだろ」


「…あー」


「私はずっと学生時代は自宅通いで社会人になって初めて一人暮らしをしたが、それでも最初の頃はやること多くてしんどかった。それに加えお前はそんときの私よりもずっと年下で多感な年ごろ、見知らぬ地での慣れない生活その不安とかストレスは当然あるだろ。まぁ、なんだ…その辺が心配なんだ」


「…………」


「どした? なんかあったら言ってみろ」


 黙る俺に少し心配した様な先生の声がかかる。

 しかし、俺の沈黙の意味は先生の意図するところではなかった。何故なら、


「先生がちゃんと先生っぽいこと言ってるのに驚いています」


「…お前アレな、雰囲気とかガン無視な。そこは内心でだけ、先生いいこと言うなぁ~って感心してろ。つーか、会って一時間くらいなのにそんなに私の評価が低いことがまず驚きだ」


「ハハッ、そりゃすいません」


 まぁ、別に評価が低くはないですけどね。

 タバコを吸う見張りのために連れてきたと見せかけて、ホントはそれ聞くためでしょ。だってもし前者なら今まで見張りはどうしてたんだって話ですもんね。

 言ったら怒られそうだから言いませんけど…、でもその代わり、


「心配いりませんよ。普段の生活の方は別に不便ありませんし、学校生活の方も驚くことにもうすでに友人も出来ましたしね。それに性格的にも俺は繊細の対極にいる様な感じなんで上手いことやってみせますよ」


 とそう安心させる言葉だけを送った。


 返ってきたのは「ふぅー」という煙を吐く音と「そっか」という簡素なだが、どこか安心した様な納得の言葉。

 そして、


「うおっ」


 いきなり背中の扉が開き、体重を預けていたためそのまま後ろへと俺の体が倒れる。

 そして空を見上げた視線がこちらを見下ろす先生の視線とぶつかった。

 

 すでに口にタバコは無く、手には携帯灰皿が握られている。

 そして空いたその口元にはニヤリと楽しげな笑みが浮かんでいた。


「さて、そろそろ時間だ。今度こそ教室へと行くとするか、私の新たな生徒よ」


「りょーかいです」


 その言葉に俺もニヤリと笑い、頷いた。


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