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Mission-02 『名前と声と彼の容姿』


「待て待て待て待てちょっと待て! 言ってる意味がぜんっぜんわからないんだが…!?」


「おい、せっかく私がビシッとキメたのに邪魔するな。いったい今の説明のどこにわからない点がある」


「どこもかしこもわかんないっての!? そもそも言ってることの論理が破たんしてるだろうが! セーラー服を着て誰にもバレることなく男の子として生活ってどういう意味だよ!?」


「男の子ではない、男の娘だ」


「はぁ…!?」


 うん、マジで何を言ってるんだこの神様は? そもそも言葉が通じているのかすら怪しいぞ。

 そんな俺の全く話を理解できていない様子を悟ったのか神様がハァーっと大きなため息を吐く。

 いや、俺がため息つきたいんだけど…。


「もう一度言うぞ。男の子ではなく、男の娘だ」


 そして今度は指で宙をなぞるようにしてもう一度そう言った。

 どういう理屈かその指先はマジックの様な役割を果たしたようで空中に文字が浮かび上がる。

 

 『男の子ではなく男の娘』と。


「いや、なんだよそれ…? 男の娘って」


「なに…、知らないだと。チッ、これだから学のないやつは…」


「いや、学のありなしのカテゴリじゃねぇだろそれ! 絶対キーボードとかで打っても『おとこのこ』じゃ『男の娘』に変換できないだろが! 『おとこのむすめ』って打たなきゃそんな文字は出てこねぇよ!」


「あー、もう鬱陶しい。そもそも貴様の考えなどどうでもいい、貴様が知らずとも多くの者が知っている。だからこそ、私という存在が生まれたのだ」


「は? あんたが…生まれた?」


 生まれた? どういう意味だ?

 またもその神様の発した言葉の意味がわからずに首を傾げる俺だったが、そこでふと先程聞いた言葉が頭の隅で再生された。

 「神というものは世にある概念の数だけ存在する。私はその中の一柱にすぎん」、先程神様はそう言った。

 つまり目の前の神様も何らかの概念を司る神ということなのではないか? そして、さっきの言葉から推察するにこの神様の正体は―――、


「あんた…もしかして、その男の娘ってのを司る神様か?」


「いかにも」


 半信半疑での問いかけに、ノータイムで肯定の返事が返ってきた。

 …うん、さっきまでは格好の胡散臭い神様だと思っていたけど何だか中身も胡散臭くなってきたぞ。なんだよ、男の娘を司る神って。


「マジかよ…、そりゃあ…なんつーか随分と徳の低そうな神様だな。今さらながらほんとに俺を生き返らせるようなことできんのか?」


「無礼なやつめ、…と言いたいところだが貴様の気持ちが全くわからんわけでもない。神の中では私はかなりの新参者であることは事実だしな」


「…」


「が、貴様の心配は杞憂だ。神同士の力関係に大小はあれど、仮に最弱の神であろうと人間などという不完全な個体との能力差は天地以上にひらいている。貴様の陳腐な想像の遥かに及ばない力を神々は有しているのだ。まっ、こんな話を貴様にしても意味はないのだがな」


 そこまで言うと「話を戻すか」といって神様はすぐに話題を変えてしまう。

 まだ俺の中じゃ納得がイマイチいってないんだが、生き返らせてもらう立場もあるためここは「りょーかい」と納得しておくことにする。


「でだ、男の娘とはなにかだったな。貴様も大方察しはついているとは思うが、女の子にしか見えない男の子――それが男の娘だ。まぁ、色々と細かい定義はあるが大まかな認識はそれでいい」


「はぁ…、であんたは俺にそれをやれと」


「やるなどという半端な認識ではこのミッションはクリアできんぞ。葦山蒼葦――貴様は男の娘をやるではなく男の娘になるのだ!」


「…熱い思いがあるのは伝わってくるが、残念ながら俺はそれに応えるくらいに熱くなれそうにねぇぞ」


「人間の生存本能というものは強いものだ。意識がそう思っても、魂の底の生に対する欲求が勝るはず。なぜなら、それに対する好悪など関係なく貴様は男の娘にならねば生き返れないのだからな」


「――違いねぇ」


 そう、口で色んなことをグチグチと並べても結局のところ俺に選択権はない。そのミッションをしなけりゃ生き返れねぇんだから。

 でも、まあなんとかなるだろ。ったく、昔っからのコンプレックス・・・・・・・がこんな形で役に立つ日がくるとはな。


「いいぜ、気乗りは当然しねぇがあんたの言うとおり一年間限定でその男の娘とやらになってやろうじゃねぇか」


「いい返事だ」


 俺の言葉に神様は心なしか嬉しそうに頷く。

 しかし、次の瞬間にグッとちゃぶ台に身を乗り出すと右手を俺に向かって伸ばしてきた。その唐突な素早い行動に反射的に避けることもできない。

 

「なっ!?」


 その指先が俺の額に触れる。そして、それから数秒遅れて、俺の身体が内側から光り点滅し始めたのだ。


「ここでの無駄話はこれくらいでいいだろう。貴様とはまた何度も話す機会があるだろうしな」


「おいっ、これ!?」


「喚くな、今貴様の魂を現世へと送る準備中だ。数秒後に意識が飛び、そして覚醒したら貴様のミッション期間がスタートする。まあ、中々に難易度は高いと思うが貴様は生まれながらにこのミッションにおいては最上の装備を身に着けている」


「――」


「――その恐ろしい程に中性的な容姿・・・・・・と少し低めだが女子のような声音・・・・・・・・。その二つがあれば、貴様は十分に男の娘として生活できるはずだ。おまけに名前までおあつらえ向きだ。そうだろう、あおいちゃん・・・・・・


「てめぇ――」


「では健闘を祈る。生き返るために精進しろよ」


 その言葉を聞いたのを最後に俺の意識はパタリと消えた。


 そして、俺の生き返りミッションが始まったのだった。

新規メモ:葦山蒼葦について


この物語の主人公。年齢は18歳、身長は172センチ程。

生まれながらに中性的な容姿と声と名前を持つ。それ故に昔から女っぽいとからかわれてきたため、その反動で性格や言動はかなり男らしくさばさばしている。

サブカル関係には疎く男の娘という概念すら知らなかったにもかかわらず、生き返りのために男の娘として生活することになってしまった。

死因は現在のところ不明。

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