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Mission-19 『飴と娯楽と不良教師』


 はじめて足を踏み入れた職員室。

 学校全体の大きさとは裏腹にそこは俺が生前通っていた学校の職員室と大して変わりなかった。

 室内には規則的に先生たちの事務机が並んでおり、何人かはすでに自分の仕事に取り組んでいる様だ。


「すんませーん、浅見先生っていらっしゃいますかー」


 少し大きめの声で入口付近でそう問いかける。

 すると、


「んー」


 と少し離れた場所から白く細い女性の手が一本上げる。その手が上がった机の付近にはフェイルや本が積まれていてその顔まで見ることはできなかった。

 …あれだろうか? 

 少し迷いつつも、俺の声に応えたってことはそうなんだろう。


 そのまま職員室内をその机の前まで歩いていく。

 歩く途中に何度か視線を感じるが、やはり転校生ってのは珍しいんだろうか?

 そんなことを漠然と考えながら手の上がった机まで辿り着くと、


「おー、何の用だー?」


 パソコンの画面に目を向けながら、口に小さめの棒付きキャンディを加えたスーツ姿の女性の姿がそこにはあった。おまけに三白眼で美人。なるほど、確かに椎葉の言った通りだ。


「聞いてるかー? 何の用だって言ったんだが?」


「っと、すんません。ちょっと転校生って今日どうすりゃいいのかってのを聞きに来たんですけど」


 若干苛立ったような口調で再度そう問いかけられたところでハッとして、そう用件を伝える。

 まぁ、朝の時間にパソコンに睨めっこってことは仕事の準備だろうし、ちょい迷惑だったかな…。


「ん? 転校生…あー、今日から入るやつな」


「はい、そうです」


「あいあい、りょーかい。っと、ツモった『3900』」


 と少し悪いなぁ…と思っていた俺だったのだが、その浅見先生が放った言葉で「ん?」と気づく。

 

 …この人今ツモったって言わなかったか?

 もしかしてこの人―――、


 その言葉により俺の頭に浮かんだのは疑問というかほぼ確信なのだが、チラリとそのパソコンの画面を見てみると、


「……………」


 ガッツリとネット麻雀の画面が映っていた。


 それだけで俺は察した。

 ――ヤバいな、この教師。

 いや、別にダメなことではないんだろうけど…普通朝の職員室で堂々とネット麻雀やるか? しかも生徒と話しながらも止める気配ないし! 


「ん? これか?」


 そんな俺の視線に気づいてか浅見先生がパソコン画面を指差す。隠す気もまったくないようだ。

 そして、


「これから元気百倍みたいな十代の馬鹿ガキ共の相手を夕方まですんだ。始まる前くらい好きなことやってリラックスしたいって思うのは普通だろ。教員はただでさえ重労働なんだよ」


 と常識を語る様にサラリと暴言を口にした。

 その言葉に呆気にとられながらも俺は、


「…このただでさえ細かいことで問題になるうるさいご時世によくそんなこと平気で言いますね。それも生徒に直接」


「自分を偽るとストレス溜まるし、老けるし、疲れるしで良いことねーぇぞ。だから職の中にあろうとも自分らしくが一番だ。よかったな、社会に出る前にいいこと知れて」


 そして浅見先生はカカッと愉快そうに笑いながら、再びパソコンに視線を戻してしまう。

 

「あー、そんでお前のことなんだが。幸か不幸か私が担任の三年一組だ。SHRの時に私が紹介すっから、それまで待機な」


「待機ですか。なら、時間ありますし今から教室言って掃除でもしてきましょうか?」


 椎葉を見習いそんなことを言ってみるが、返ってきたのは「はぁー?」という心底不思議そうな声だった。


「アホかお前は、それだと生徒と紹介前に遭遇しちまうじゃねぇか」


「…何か問題あります?」


「大ありだ。いいか、進級と同時に転校生登場なんてそこそこ大事なイベントだ。その転校生があんたみたいな別嬪なら尚更な。つまりそれを引き立たせる訳にはサプライズ感が大事な訳よ。紹介前にクラスメイトと会っちまうなんて興ざめもいいとこだ」


「…まぁ、言いたいことはなんとなくわかりますけど」


 でも、正確に言うならもう伏見と隼平と椎葉と3人に会っちまってるんだよなぁ~。同じクラスかは不明だけど。

 それを言おうか迷っていたところで、


「あ」


 そこで俺はあることに気付いた。


「先生、それ多分当たってます」

 

 生徒と話しながらも思いっきり麻雀をプレイしているこの不良教師が切ろうとしている牌が危険牌だということに! 

 …やべっ、反射的に余計な事言っちまった。

 しかし、俺の不意の言葉に「ほぉ」と興味深そうに浅見先生が口から飴のついた棒を取り出す。

 

「その根拠は?」


「…生牌じゃないですけど、打ち方から見て対面が多分張ってますね。捨て牌からもそこそこ高い可能性もあります。勝負手じゃないから俺だったらここはベタオリですね」


「要はほぼカンか。――いいだろう、生徒の意見を聞くのも教師の寛容さの見せ所だ」


 面白そうにしながら先生が切ろうとしていた牌を戻して、安全牌を切る。

 すると、


「「おっ」」


『ロン・2700』


 次のユーザーがちょうど先生の対面に振り込んだ。

 しかも、


「やった、当たり。しかも先生あのまま振り込んでたらチャンタ乗って『9900』でしたよ」


「やるなぁ、葦山。褒めて遣わす。――よし、決めた」


 うんうん、と感心した様に頷いた後に先生が近くにあった椅子を手で引いて俺に寄越す。


「どーせ、SHRまでお前もやろことないだろ。お前面白そうだから退屈しなさそうだし、私がテキトーに話し相手になってやるよ」


「はい?」


 これは…気に入られたのだろうか?


 という訳で教室に行くまでの間、俺はこの不良教師と話すことになった。


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