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Mission-17 『朝と廊下と赤面コンビ』


 「職員室まで案内してあげて欲しいんだけど」、そんな隼平の突然の申し出に対して椎葉は「おっけー」と軽く二つ返事で了承を返してくれた。


 そんなわけで中庭の隼平と別れた俺は椎葉先導のもと職員室に向かうこととなったわけだ。


「悪いね、椎葉さん。こんな朝早くから面倒事押しつけちゃって」


「いえいえ、そんな。いつも早めに来て教室をお掃除してるだけなので、それが人助けに代わっただけですよ」


「あんがとね。やっぱり見た目通りいい人だね」


「ふふっ、どんな見た目ですか」


 椎葉がクスリと笑う。

 斜め後ろからのぞくその表情はどこか品があり、育ちの良さだとか品の良さを感じさせた。


「あんま人の見た目をあーだこーだ言うのは好きじゃねぇんだが、なんかこう…委員長っぽい感じ?」


「おおっ、鋭いですね。何故か毎年学級委員長をさせて頂いてます。そして、今年もきっとそうなるんじゃないかと思います」


「へぇ~、信頼されてんだね」


「信頼されてるのかどうかはわかりませんが、完全に委員長キャラが定着してしまっているのは事実ですね」


 そう言いながら「やれやれです」と椎葉が首を振る。

 そのコミカルな仕草は見た目とは異なり親しみやすく、この少しの間でこの少女が皆の人気者であることを自然と表している。

 確かにこりゃあ親近感湧くだろうし、同級生には好かれるだろうなぁ~。

 

 と、そんな風に感心していたのだが、


「――今は多くの生徒から『委員長』と呼ばれ、また一部の男子生徒からは裏で『歩くエロ本』と呼ばれています」


「ぶぅっ!? ゲホッ、ゴホッ…!?」


 サラリと椎葉が言った言葉に思わず、吹き出しそしてむせてしまった。


「いっ、いきなり何言ってんの!?」


 マジで何言ってんだこの子!? 正気の沙汰か!?

 いきなりギャップが凄い! 悪い意味で!!

 唐突過ぎる話題転化に息が半分整ってない状態で問いかける。すると、椎葉は「そのままの意味ですよ」と軽く言うと二歩ほど前に進むとその場で俺に見せ付ける様にクルリと回った。


「…あー」


 そして恥ずかしながら、それだけで椎葉の言わんとすることがわかってしまった。

 というか、ぶっちゃけると椎葉に案内される形で歩っていた最中も気づいてはいたのだ。意識しない様に最大限の努力をして視界から外していたのに過ぎない。


 椎葉は黒髪ロングのビン底メガネの地味系女子だが、普通に顔は美人とか可愛い言って差し支えないレベルだと思う。

 が、それ以上に目を引くのがその体型だった。

 何というか………、こうムチムチしている。この表現が正しいのかわからないが、太っているとい訳ではなく肉付きいいのだ。特に胸とか尻とかがだ。

 同年代の男子からしたら目を引くのも仕方ないかもしれない。まぁ、『歩くエロ本』はどうかと思うが。


「ああ、まぁ…なんとなくわかった」


「でしょう」


「うん…、でもまぁあれだ。女の子があんまり大っぴらにそういうことを言うもんじゃないと思うよ」


「――――!?」


 多分顔紅くなってる気がするが、とりあえずここの話をこれ以上掘り下げてもいいことはなさそうなのでそう言って切上げようとした…のだが、


「ん?」


 そこで俺はある変化に気付いた。

 その俺の言葉に椎葉の顔が段々赤くなり始めていることに。そして同時に目が泳ぎまくっていることに。

 え? 自分で言って自分で恥ずかしくなってる?


「えっと…でも、あの、勘違いしないでくださいね。誰にでも何の抵抗もなくこんなことを言うほど恥知らずではありませんよ。遊んでる軽い女とかでもありませんよ。葦山さんとは同じクラスなんでこれから仲良くしていきたいなぁ~と思ってまして。それで先制パンチを繰り出そうとしたわけで…」


「いや別にそんな勘違いはしてな――」


「これもこの前呼んだ本に書いてあった、初対面の人とすぐに打ち解けるには相手が興味を持ちそうなちょっと恥ずかしい自分の秘密を打ち明けるのも時には有効ってテクニックを実践してみただけで。ほら、葦山さんっていきなり渚くんと仲良さそうに話してたし、見た目も凄い美人だし、だから男の子関係のちょっとエッチな話とか興味持ってくれるかな~とか思いましてね。でも、葦山さん普通に顔真っ赤にするから私もミスったーってなったわけで。あの勘違いしないでくださいね、私素であんなこと話すタイプではありませんからね。これはあれ…あれです、あれ」


 メッチャ早口で聞いてもいない弁解を述べる椎葉。そしてそれに比例するかのように顔が赤を通り越して紅蓮になっていく。

 まぁ、要は俺と仲良くなるきっかけ作りのためにわざわざ恥ずかしい話を言ってみたら、予想と違い俺が乗って来ずにそれどころか赤面したため、椎葉も恥ずかしくなってきたと。

 その結果、朝の学校廊下で女の子と男の娘が二人して顔真っ赤にしている珍妙な光景が生まれたという訳だ。

 

 ――清々しいまでの自爆だな。そして、これは俺が悪いのか?


「えーっと、まぁなんだ…。うん、大丈夫だよ」


 そして、なんとフォローするべきかわからずにそんな当たり障りのない言葉を駆けながら椎葉の肩をポンと叩くと、そこで椎葉の顔の赤さが最高潮に達した。


 そして椎葉はババババババーッとそのまま窓へと駆け寄り、


「あ――――、初対面でやらかしちゃったよ――――――!!」


 と空へと向かい絶叫したのだった。


 うん、俺の同級生変なやつ多いな。

 

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