Mission-16 『出会いと連鎖とビン底メガネ』
「そんでな、隼平。一個聞きたいことあるんんだけど、今大丈夫か?」
これ幸いとさっそく職員室の場所を尋ねようとしたのだが、隼平は一瞬キョトンとした後に「…ん、ああ大丈夫だよ」とそう答える。
なんだいまの間?
そう一瞬そこが気にかかるが、すぐに「あ~」と自分の言動を思い返して納得する。
「わりぃ、癖っつうか昔から結構最初から下の名前で呼んじまうんだ。嫌だったか?」
「いやっ、別に嫌というほどではないよ。ちょっと驚いただけ」
「そっか、ならよかった」
「うん。それで聞きたいことっていうのは?」
やはり引っかかったのはいきなりの名前呼びと予想通りだったが、隼平は軽く笑って流すと話を元に戻してくれた。
やっぱこいつ良いやつだな。ぜひ、仲良くなりたいもんだ。
「あー、それな。実は職員室に行きたいんだけど、意気揚々と登校したはいいんだが恥ずかしながら場所がわかんなくてな」
「なるほど、この学校広いしね迷うのも無理ないよ。えっと、職員室はここを――」
俺の疑問に隼平は、ボールを地面に置くと窓から手をこちらへと出して指で示しながら職員室までの道順を教えてくれる。
親切だな~、親切なんだけど…、
「うーん、なるほど…な」
それを全て聞き終えた俺の口から出たのはそんな歯切れの悪い言葉だった。
うーん、難解すぎね? これがマンモス校の校舎の規模というやつなのだろうか。
俺が通ってたところなんて昇降口入って右手の階段渡って少し歩いたら職員室だったぞ。
「はは、やっぱり口での説明じゃ難しいよね」
そんな俺の内心での困惑を見透かしてか、隼平が苦笑する。
よほど俺が困った表情をしていたと見える。
「でも、何となくわかったし行ってみるよ。さっきのなんもわかんない状況よか全然前進だ」
「ごめんね、いまいち役に立てなくて。ホントは俺が一緒に行けば解決なんだけど…この後少し用事が」
「いや、いいって。教えてくれただけで十分だ。あんがとな」
そう言って少し申し訳なさそうな表情を浮かべる隼平に、こっちが申し訳なくなりながらそうお礼を告げる。そして「じゃあまたな」とだけ言って別れようとした時だった。
「あっ!」
と何かを見つけた様に隼平が声を上げる。そして、そのまま踵を返そうとしていた俺に向かって「ちょっと、葦山さん」と手招きする。
その隼平の視線は俺ではなく俺の上。つまり二階へと向いていた。
「椎葉さん! ちょっといま大丈夫?」
「あっ、渚くん」
手を上げ、伏見が二回にいるらしい椎葉?に声をかける。
らしいだったり、?だったり謎だらけだな椎葉。
興味をそそられ、先程隼平と話していた窓から上半身を仰向けに出して、俺も二階を見上げる。
「よっと」
「きゃっ!? 誰!?」
隼平と話しているときにいきなりの真下からの俺の姿を見て椎葉?が驚きの声を上げる。
その声からもわかる通り椎葉は女子だった。見た目は今時あんまり見ない様なビン底みたいなメガネをかけた黒髪ロングの『ザ・委員長』とか『ザ・図書委員』みたいな感じだ。
「葦山さん、危ないよ」
「大丈夫大丈夫。これでも運動神経には自信あるんだ」
頭の後ろからかかる隼平の言葉に笑いながら答えていると、衝撃から立ち直った椎葉と再び目が合う。
「よろしくな、椎葉さん。今日から転校します、葦山蒼葦です」
「――あー、あなたが。初めまして、椎葉牡丹です。ん? それでなんで転校生さんが渚くんと?」
「あっ、それなんだけど椎葉さんいま時間大丈夫かな? 大丈夫なら、彼女を職員室まで案内してあげて欲しいんだけど」
そして互いに自己紹介を終えたところで、隼平が俺に代わって椎葉に向かってそうお願いをしてくれた。