Mission-14 『蒼と伏見とリベンジマッチ』
「私転校したこととかないからわかんないんだけど、とりあえずこれから職員室とか行く感じ?」
二人並んで校門をくぐりながら、伏見がそんなことを聞いてくる。
「ん? ああ、同じくわからん。確かにとりあえずはそれがいいか」
その辺は神様から何も言われてねぇんだよなー…。
そう考えるとやっぱ適当だよな、あの神様。
そんな風に一応の俺の今の保護者(仮)の杜撰というか手抜きな説明不足っぷりに呆れていると、
「…えっ!?」
と伏見が心底驚いた様な声を上げる。
「学校からなんか指示的なものがあってこの時間に来たと思ってたよ。ん? じゃなんでこんな早く登校してるの?」
「あー、それはあれだ…学校を早く一目見ておきたかった的な? まー、要は興味本位だよ」
「へぇー、意外とお転婆だね。またもや蒼の新たな一面を発見」
「そうかぁ。つーか、蒼って何?」
突然のその聞き慣れない呼び名にそう聞き返すが、
「あだ名よ、あだ名。いーじゃん、蒼。なんか格好よ美しい♪ あっそうだ、代わりに私のことも緋って呼んでいいよ」
「…考えとくよ、伏見」
さすがに初対面の女子を下の名前の短縮形で呼ぶのはキツイ。
だから、とりあえず「伏見」とそのまま呼び続けることにする。しかし、伏見は別に気を悪くするわけでもなく「ぶー、つっれないな~」と楽しそうに笑うだけだった。
ま、とりあえずこの短い間だけでもこいつが良いやつってのはわかったかな。よく考えたら前回もいきなり胸を揉んできたところを除けば普通に気のいいやつだったし。
「じゃあ、私は生徒会室行かなきゃだから」
「ん? この校舎じゃないのか」
「ねぇ、変な話でしょ。この学校の生徒会室はなんと本校舎じゃなくてその横の別館にあるのよ。だっから、一々移動がめんどっちいのよねー」
「ははっ、そりゃご苦労様だ」
「笑いごとじゃないんだけどなー。まっ、いいや。じゃあね、蒼。また今日中にね」
そう言って伏見がクルリと後者の昇降口へは向かわずに、横へと足を向ける。
その伏見に「ああ、またな」とだけ言って俺もまた目の前の校舎へと歩き出した。
伏見から視線を切り、気を抜いたことによる完全な油断。
「―――でもここで最後に~、女の子同士のスキンシィ~プ」
「フッ」
「………え?」
そうそれは、『俺が完全に気を抜き油断した』と伏見に思わせるためのブラフ。
悪いな伏見。そのパターンが来るってわかっていればこんなこともできるんだ。何故なら俺はループしているんだから。
前回のコンビニ前と同様の背後からの胸揉み攻撃。
伏見に背を向けた俺は、前回とは違い全神経を後ろの伏見に集中していた。それ故に瞬時に反応し、防御ができたのだ。
伏見の手が俺の胸(偽)にふれる前にクルリと回転。そして、揉みに来た伏見の両手首をそのまま両手でつかむ。
まさか不意打ちの胸揉みが不発に終わり、それどころか真正面から受け止められるとは伏見も思っていなかったのだろう。まさしくハトが豆鉄砲を食らったような表情をしている。
ハハッ、愉快痛快。やっぱり俺はやられっぱなしは柄じゃねぇわ。
「わりぃな、伏見。今回は俺の勝ちだ」
「へ? 今回?」
「おお、こっちの話だけどな。じゃあ改めて――またな、伏見。それと友達としてこれから一年間よろしく頼むよ」
そう言ってポカーンとした伏見をその場に残して、俺は意気揚々と肩で風を切りながら校舎へと向かったのだった。
よっし、とりあえずはループせずに伏見と友達になるってのは成功だな。
ミッションコンプリートだぜ!