Mission-13 『蒼と緋と初登校』
「なんというか、人は見かけによらないわね」
「ん? 俺のことか?」
「そ、見た感じは正にモデル系のクール美女って感じなのに、性格はなんというか男らしい? いやっ、この言い方は失礼か、男勝りでサバサバしてるみたいな感じ」
「ははっ、この短時間じゃそこまでわからんでしょ」
「短時間でそうだとわかるから口に出していってるの、私一人称が俺の女の子なんて初めて会ったよ。それも何かキャラつくってるとかの痛々しい感じじゃなくて結構板についてるし。それ昔から?」
「ああ、昔からだな」
「ほえ~、そりゃまた変わってる」
コンビニを出た俺と伏見は伏見がちょい前を歩く感じで二人で学校に向かっていた。
うん、やっぱ一人称俺はそこそこ衝撃的だったらしく実際にこうツッコまれはしているが、そこまで怪しまれてはいないようで何よりだ。そして少し予想外なことだが意外と会話も弾んでいる。
…だが、ここで油断しては思う壺だ。誰の思う壺なのかは不明だが、とりあえず思う壺だ。何故ならこいつはいきなり後ろから胸を触ってくるような一面を持っていることを俺は知っているから。
伏見に前を歩いてもらっているのは学校の位置がイマイチわかっていないというのも勿論あるが、それ以上に後ろから胸を揉まれないようにしないため。今の俺は俗に言う、俺の後ろに立つな状態だ。
「う~ん、でもなんか私達仲良くなれそうじゃない。そうだ、あおいってどう書くの?」
「あおはそうって読む方の蒼、いは植物のあしで葦だよ」
「なるほどぉ~、変わってるね。あっ、悪い意味じゃなくてね、レア的な意味。それにそこも一緒だ、私のあかもひって読む方の緋なんだ。珍し色名前仲間だね」
「これ以上増えることは無さそうな仲間だな…」
「そう? 碧とか名前に入ってる人ならいそうじゃない? あっ、というか蒼葦ちゃんって苗字にも名前にも葦がついてるじゃん! もしかしてご両親がパスカルが好きとか?」
「ははっ、またそれかよ」
「おや、誰かから言われたことあった?」
「あっ、あー…まぁそんなところだ」
ヤバい、つい自然な会話の中でボロ出しちまった。
パスカルがどーだこうだ言ってたのはループ前の伏見だったな。ふむっ、こういうパターンはこれからもループする上で気をつけなくちゃだな。
あっ、ちなみに伏見の言うパスカルってのは『人間は考える葦である』って言った昔の人だ。確かフランスかどっかの哲学者だったかな。
そんな俺の言葉を濁した返答にも特に伏見は引っかからなかったようで「ほー、やっぱ葦と言えばみんなおんなじこと思うもんだよね」と納得していた。
ちなみにそんなこと言われたのはお前が初めてだけどな。
「おっと、話しているうちに着いたよ」
そして、そんな他愛のない話をしているうちに目的地に到着したらしい。
「おー」
その目の前に広がる建物を見て思わず驚きの声が口から漏れる。
でかいな…! こりゃ多分私立だな、まぁ転校っていう設定の時点で十中八九そうじゃないかと思ってたけど。凄いな、俺が生前に通ってた公立の何倍の敷地だよ。
そう感心していると、伏見が軽いスキップのような足取りで校門まで近づくとそのまま俺に向かい振り返りニッコリと満面の笑みを浮かべる。
「というわけで、改めましてここ風寺学院高校で生徒会長をさせて頂いています――伏見緋音です。葦山蒼葦さん、あなたを歓迎します。ようこそ、我が学校へ」
「…いや、あんたの学校じゃないでしょ」
「もー、ノリ悪いなぁ~。そこはさらっと流しなさいよ!」
「ははっ、悪い悪い」
そして、俺はこれから一年間のミッションの舞台となる校舎と初めて対面したのだった。