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Mission-12 『生徒とバイトと先輩後輩』


「どっ、どうも~」


 いきなりの伏見の登場には驚いたが、別に俺がコンビニにいる間に伏見が入ってくることを全く想定していなかったというわけではない。

 それ故に手に新聞を持ったまま、まずは冷静にそう当たり障りのない挨拶を返す。


「今日からそちらの学校に転校する葦山蒼葦と申します」


「あっ、やっぱり! ご丁寧にどうも、風寺学院高校生徒会長の伏見緋音です。よろしくね♪」


 知ってるよ。あかねのあかは難しい漢字の緋だってのもな。

 しかし、こちらは認識しているのに伏見の方は初対面に感じているというのは当たり前のことだが、少々変な感覚だな。

 

「こちらこそよろしく」


 そんなことを漠然と思いながら笑顔の伏見にぺこりと頭を下げる。

 

「ふっふ~ん、朝からいきなり例の転校生に会えるなんてついてるなぁ。蒼葦さんって言うんだね、私は緋音だし、なんだか名前に共通点が――」


 そして、再び最初に会った時の様に伏見が俺たちの名前の蒼と緋の所に注目しようとしたところで、


「せんぱ~い、申し訳ないっすけど人の多い朝のコンビニで立ち話は勘弁っす」


 突然そんな声がレジの方から聞こえてきた。

 見れば俺が入店した時の元気な「いらっしゃいませ~」店員だ。

 

 その店員の言葉に伏見が「あー、ごめんごめん」と苦笑しながら頭をかく。

 「せんぱ~い」っつーことは伏見の後輩か? つーことは、高校生? 確かによくよく見りゃあ思った以上に若い。

 つーか、高校生で朝からコンビニでアルバイトか…見上げた子だな。


「というわけで、まずは私これ買ってきちゃうね」


「ん? ああ、そういうことなら俺も」


 そう言って手に持ったスポーツ新聞を持って飲み物のコーナーへと小走りで近づく。

 その後ろで伏見が「俺?」と俺の一人称に疑問を抱いた様な声を上げる。

 …まぁ、当然の疑問だろうが今回は『いつもの俺口調の自然感>繕った女口調の違和感』っていう神様のアドバイス重視でいくことに決めてるからな。これが原因でばれたら神様を責めりゃいいだけだ。


 そのまま気にせず飲み物の棚でお茶を掴み、ついでにヨーグルトとかが置いてある棚でカフェオレを手に取る。

 そして、両方会計中のレジから伏見がさっきの後輩相手に支払いをしている方へと並ぶ。


「せんぱ~い、今さらながら毎日毎日飲むヨーグルト二本も飲んでよく飽きないっすね」


「何度も言うけど、これは私にとってもはや生活必需品なの。朝と放課後にこれを飲まないと体が動かないのよ」


 と前では伏見と後輩女子の世間話が展開されていた。

 ふむっ、会話内容を見る限りけっこー仲良さげだな。

 そんなことを思っていると伏見の会計が終わり、俺の順番がやってくる。が、何故か伏見は横にずれるだけでコンビニから出ようとはしない。


「出ないの?」


「ここで待ってるよ。だめ?」


「いや、だめっつーことはないけど」


 まぁ、別に害はないためそう素っ気なく答えて品物をレジへと出す。

 すると、


「…あの~、これスポーツ新聞っすよ?」


 そんな軽く困惑気味の声が返ってきた。

 …うん、まぁ朝のコンビニでスポーツ新聞買う女子高生なんて普通いねぇわな。普段の俺でも買ったりしねぇもん。今回はあのまま棚に戻すのを躊躇った結果だしな。

 だが、ここまで来たら退くわけにもいかない。


「うん、わかってるよ」


「そっすか…、なんかまたキャラの濃いせんぱいが増えそうっすね。あっ、私は先輩と同じ学校の二年で猫寺ねこでらやわらっす」


「新しく三年として転入することになった葦山蒼葦だ」


「緋音先輩から聞いたっす。どもっす、葦山先輩」


 そんな軽い挨拶を交わし、会計を終える。

 財布から小銭をちょうど渡すと、手慣れた動作でレシートと袋に入ったが猫寺から渡される。


「んじゃ、いこっか。猫、じゃあ学校でね」


「ん? ああ、ちょっと待ってくれ」


 俺が会計を終えたことを確認した伏見がそう猫寺に言ってコンビニの出口へと向かおうとするが、それを俺が一度言葉で制する。

 そして不思議そうにする伏見と猫寺を余所に袋から新聞とペットボトルのお茶を取り出すと、俺は残ったカフェオレの入った袋を猫寺に向かって差し出した。


「…へ?」


「これ、よかったら飲め。朝からコンビニバイトとは偉いな、頑張れよ。それと一年と短い間だけどよろしくな、猫寺」


「おー…!」


 差し出した袋を前に猫寺が意図の読めない小さな歓声を上げる。

 そして軽く身を乗り出し、その視線を伏見の方へと向けると、


「なんっすか、この男前な転校生先輩は…!? おまけにすっごい美人ですし! 緋音先輩、これ先輩の同性人気票が横からぶんどられる可能性大っすよ?」


「いや、別にそんなものぶんどられても私はいいわよ。…でも確かにナチュラルに凄いことするわね、葦山さん」


「でしょ! はぁー、私もこんな行動が自然ととれる人間になりたいもんすよ。葦山先輩、ありがたく頂くっす。カフェオレ大好きっす」


「そりゃよかった、また学校でな」


「じゃあ、いこっか」


「ああ」


 そして、俺たちは猫寺の元気な「ありがとうございました~」という声に送られながら俺たち二人はコンビニを後にした。

 うん、何かやっぱり素の感じでいったほうが会話がスムーズに進んでる気がするな!


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