Mission-11 『日付と注意と飲むヨーグルト』
「さぁー、見てろよ伏見緋音」
最初とは違い意気揚々と家を出て、通学路を歩きながらそう再び決意を口にする。
まぁここで会わんでもどっちにしろ行った学校で会う訳だが、それとこれとは話が別だ。やられたらやり返す…とはまた違うけど、ここで最初と違う行動をするのはなんか負けた気がする。
それになにより女子に会いたくないから、回れ右をすると言うのは俺の矜持に反するのだ。
今の俺は男の娘だが、男としての心意気までは捨てる気はない。
てなわけで、意気込んで例のコンビニに来たのだが…、
「早く着きすぎたな…」
初回は色々と考えつつ、外から見た自宅の様子とか周囲の地形とかを見ながら来たからそこそこ時間がかかった。そして、今回は真っ直ぐ来た。ならば当然ながらここに辿り着く時間は短くなるわけだ。
うん、俺はもしかしてアホなのだろうか? そりゃそうだろ。このスピードで来るなら十分くらい家出んの遅くてよかったな。
そして、早く着きすぎて何が困るかと言うと伏見の姿が無いのだ。
確かあんときは俺が来たときに伏見がコンビニから出てきたところだったから、そんなに待たずとも来るとは思うんだけど…さて、どうするかな?
このままここで待つか?
それともコンビニの中に入るか?
「あっ」
そんなことを考えていたところであることに気付いた。
最初にこのコンビニに入ろうとした目的だ。そう俺は今の日付と今いる場所を知ろうとしたんだ。
…つーか結局今回も家のテレビで確認するの忘れてたな。今度は自分の見た目を男の娘にすることに集中してて忘れてしまった。…やっぱアホだな俺。
そんなわけで伏見が来るまでの時間つぶしと今の状況の情報収集を兼ねてコンビニに行くことに決める。
ちなみにコンビニの種類は全国にチェーン展開している有名店だ。
「いらっしゃいませ~」
まだ若い女性店員の元気な声にペコリと頭を下げて、俺は目的の場所へと向かう。
それはコンビニ内の新聞コーナー。まずはこれで日付の確認だな。
適当な新聞を手に取り、その日付欄を見る。
「ん? これって…」
そこに書いてあった月と日は、4月8日。これは神様の言葉通りなら今日は一学期の始業式なのだから問題はない。問題はその年の欄だった。
そこに書いてあったのは俺が生きていた日の一年前。いや、正確には詳細な記憶はないが俺が死んだのは三月。だから今は一年も前じゃない、正確には11か月前。
「つまり伏見もいや、それどころかこれから同級生になるやつも俺と本当の意味で同学年ってことか」
ボソッとそう漏らす。
まあ確かに周囲の景色とか建物から、そんなに昔でも未来でもないとは思ってていたけど…まさかそんな誓い時間軸だとは。
つーか、ここで卒業まで生活したら現実よりも未来を体験することになるんじゃねぇのか? その辺大丈夫なのかよ、案外テキトーなのかあの神様?
と、そんな風に生き返りミッションの舞台の時間設定に若干の疑問を感じていたところで、
「お客様~、新聞の立ち読みはご遠慮くださ~い」
「あっ、すんません!」
横合いからそんな声がかかった。
考え事中のいきなりの声に反射的に謝罪が口から出る。…うん、つーか雑誌ならまだしも新聞立ち読みって聞かねぇしな。買って読むべきだったな、焦り過ぎた。
と、反省しながらその声の方へと振り返る。そして、振り返る瞬間に「ん?」と頭の中で何かに引っかかった。
「あー…」
が、その引っかかりの意味を自分で考える前に答えが目の前に現れた。
何のことはない、引っかかりとはその声が聞き覚えがあっただけのことだった。
「あー…、ってまた変わったリアクションね。…ん? あれ、あなたもしかして転校生?」
振り返った先に立っていたのは店の商品の飲むヨーグルトを二つ手に持った伏見だったのだ。
新聞に意識持ってかれて、入店して来たのに気付かなかった。
…つーかこいつ、登場のバリエーションが豊富だな。