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Mission-10 『パッドと下着と女子っぽさ』


「っと、これか」


 勢いよく押入れの扉を開き、一番前に置いてある胸パッドに視線を移す。

 といっても、胸パッドなんて男は当然ながら女の人でもその用法用量を完全に把握している人は少ないんじゃないかと思う。

 だから最初に使う量については、


「神様、これってどれくらい入れた方がいいんだ?」


 そう素直に神の知識をお借りすることにした。アドバイスをしてやると言っていたのだから、これくらいの問いには答えてくれるだろう。

 そう思っての質問だったのだが、


「一度そのサイズにしてしまえば周りから認識され変化は叶わんのだから、鏡で見ながら調整でもすればいいのではないか?」


 明確な答えではなく、そんな提案が返ってきた。

 うむっ、一理ある。

 最初の地点にループした今回だからこそ、見た目の再調整が叶うだけであって実際にはこれからループしてもその時間はどんどん先に進んでいく。

 言うなれば、今のこれは今後変更不可という条件付きのゲームの初期アバター設定に近いかもしれない。まぁ、ゲームとかあんまやらねぇからよくわからんけど。


「おっしゃる通りで」


 とりあえずその提案をそのまま受け止めて、適当な数の胸パッドを取ると、そのままタンスの前まで移動する。

 ふぅー…、さてと正念場だな。

 一瞬躊躇するが、流石にそう何度も二の足を踏むわけにもいかない。覚悟はさっき決めただろ。


「よっし」


 そして、そんな自分自身を鼓舞するような声をあげてタンスの一番上の段を開ける。

 衣類がタンスに入っていることはループ前に聞いていた。そして、胸パッドを詰めるためにあれ・・が必要なのは当然だろう。

 

「………」


 開けたタンスの中を見て思わず声が止まる。どうやら最初に当たりを引いたらしい。

 覗き込んだタンスの中には様々な種類の大量の上下の下着が恐ろしい程に几帳面に並べてしまってあった。

 うん、わかってはいたけどインパクトが凄いな。今さらながらここの家主の俺って傍から見たらドヘンタイじゃねぇか…。というか、この中から今から着るもんを選ぶんだよな。

 ううっ…、ヤバい実際に目の前にするとやはりちょっと足踏みしちまうな。


「どうした? もう覚悟が緩んだか? 先程の宣言も気合も嘘偽りだったのか?」


「うっるさい! んなわけねぇだろ!」


 が、テレビから聞こえて来る嘲笑うかの様な神様の言葉が俺の背中を押した。

 あー、もう! 上手く乗せられてる気がするけど、しゃーねぇ! それにあんだけ堂々と啖呵きっといて今さら後ろに下がれる足はついてねぇんだよ!


 今日何回目かわからない覚悟を決めて、タンスの中に視線を集中させる。

 さて、どれを選ぶべきか? さすがにあんまりヒラヒラしたのとか女子っぽいのは無理だ、それは覚悟とかとは別問題。

 ここにあるのは全て女子用の下着、つまりこのタンスの中の物なら一応全部OKなはずだ。ならばその中からできる限り着やすいものを着ければいい。それなら――、


「――よし、これでいいか」


 おっかなびっくりと言った様子で、その大量の下着の中から俗に言うスポーツブラっぽいやつの上下セットを取り出した。

 うん、これが一番いいだろう。違和感も最小限に済みそうだし。なんか胸パッドも詰め込みやすそう。


「んー、まあそれを選ぶとは思っていたが…少々不安材料が残るな」


 が、そこで不意に後ろのテレビから神様がそうあまり乗り気ではなさそうな声を上げる。


「えっ、マジで? これだめなの?」


「だめという訳ではないが、それだとパットが普通の物よりもずれ易いのではないかと思ってな。先程の様に後ろから揉まれるようなことがあればズレてしまって偽物だとバレてしまうぞ」


「そうか? …つーか、あそこまでギュって揉まれたらそもそもその時点でパレるんじゃねぇか? パッドと実際の胸ってそこまで感触一緒なもんなのか?」


「それは心配ご無用だ。なにせその胸パッドがアメリカ製でも日本製でもなく、神製だ。触った感触は実際の女性胸部と変わらん」


 その心なしか自慢げな神様の言葉に「ほーん」と納得する。

 なるほど、『made in god』な訳ね。そりゃ安心だ。

 

「まぁ、とりあえず今日はこれを試してみてあれだったらあとで試行錯誤していくわ」


「ふむっ、それでいいかもしれんな。それに今回は余裕や慢心からの発言ではない様だしな」


「ああ」


 そして、その神様の言葉に頷くと俺は人生初の女性用下着に着替えはじめたのだった。


***―――――


「――よし」


 全身を映す鏡の前で自身の現在の姿を確認し、頷く。

 そこにはセーラー服の黒髪をポニーテールにした女子高生にしか見えない姿が映っていた。当然それは俺だ。

 

 かつらは初日と同じものを使い、女子っぽさを出すため後ろをシュシュで括った。ヘアピンも何個か見よう見まねでつけてみた。

 胸部に入れた胸パッドは何となくBカップぐらいに見えるように調節した。

 化粧は何の知識もない俺がやれば逆に変になってしまうと思い特にしていないが、先程人生初のパックをしてみた。

 

 ――つまり最初の時と比べてかなり準備万端というわけだ。これなら…、これならいけるはず。


 そして、時刻は最初に家を出た時間とほとんど同じ。

 その理由は単純。あいつ・・・に会うためだ。

 やられっぱなしは性に合わないからな。今度は絶対にループしないで友達になってやるぜ、伏見緋音。


「あっ、そうだ。喋り方も変えなきゃか。一人称は、私? あたし? うち?」


「そのままでもいいんじゃないか?」


 そこで再び神様から声がかかる。

 その意外な言葉に「? 何でですか?」と振り返ると、


「化粧と同じだ、不慣れなのにやろうとすればボロが出る。それに不慣れなことをするのは格好だけで十分だろう?」


 その気遣いなのかそれとも本気の忠告なのかいまいち分からない言葉に思わず「ハハッ、違いねぇ」と笑みがこぼれる。

 まぁ、確かにこのご時世だ。いろんな奴がいるし、男口調で話す女子高生もいるっちゃいるか。

 そんな風に納得する。そして、


「じゃあ、行ってくら」


「ああ、次は自分の足でこの家に戻って来れる様に精進しろよ」


「やかましい」


 そんなやり取りを経て、俺の二回目の初登校が始まった。


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