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第92話 ダンジョンの存在

「…あの、続きを話してもよろしいですか?」

「…はい」


 宝石を無視する冒険者のくだりでつい感情的になって、なんの非もないクレアさんを怒鳴ってしまった私は小さくなりながら再び椅子に座って説明の続きを聞くことにした。

 私が大人しく座ったことで静まり返っていたギルドのホールもざわざわと声が立ち始めてきた。

 中には「あのクレア女史にあそこまで言えるあの子は何者だ?」「可哀相に…まだ小さな女の子じゃないか」「あの歳でBランク?嘘だろ?」とか聞こえてくるけど、ひとまず無視しておこう。


「上層や中層でそういった宝石を落とす魔物は確認されたことがありませんし、Bランクのセシルさんならパーティーを組めば下層へ向かうこともできますから挑戦してみてはどうでしょうか」

「…はい。…というかランクによって入れる階層が違うの?」

「えぇ、Cランクは中層まで、Eランクは上層まででダンジョンに入れるのはFランクからとなりますね。もちろん勝手に入る人も後を絶ちませんが…あとは想像にお任せします」


 結局実力に見合わない階層に行くなら自己責任でということなのだろう。

 私の場合はブルーノさんから戦闘能力はAランク以上と言われてるし、目下問題なのはトラップへの対処ということか。


「王都管理ダンジョンは現在のところ八十二層まで確認されていますが、最下層へ辿り着いたのはもう四十年も前の話です。最近ではAランクパーティーが六十七層まで辿り着いたのが最高記録でしょう。この依頼はその最高記録を塗り替えるための依頼ですのでギルドから常に出されています」

「へぇ…。ちなみに下層は何層からで時間はどのくらいかかるの?」

「五十一層からが下層と言われています。一般的なBランクパーティーがそこまで辿り着くのが三日程度だと聞いています」


 つまりそこまで行けば宝石がいっぱい手に入るってことだね?!

 …何とかトラップ解除の名人を探したい…。以前カイトのパーティーにいた女性(ひと)がそんなスキルを持っていたけど、確かレベルが低かったはずなのでそれは除外かな。

 でも一番の問題は時間か…。貴族院にいる間はそんなに長く外出なんてできないもんね。


「ダンジョンに入る際はギルドから魔道具を貸し出します。それがあれば今自分が何層まで来ているかわかりますし、記録もされるのでこの調査依頼を受ける際は必ずその魔道具を持ち帰っていただく必要があります。

というのが、この依頼の説明でしたが…おわかりいただけましたか?」


 若干面倒くさそうな表情をしているクレアさんは私に対して暗に「受けるなよ?」と圧力を掛けてきているような感じを受ける。

 私も威圧し返してもいいんだけど、そんな大人気ないことできません。もういい大人ですから!…身体は子どもだけど。


「うん、とりあえず仲間を探して下層に行かないと宝石を拾えないってことはよくわかったよ」

「…今の説明でどうしてそうなるのですか…」

「もしくはトラップ解除の能力を身につけてから下層に行かないと宝石が拾えないってことだよね」

「…もう何も言いません。それで、受けられるのですか?」

「うぅん。今日はあまり時間ないから受けないし、ダンジョンに入るほど何日も時間は取れないからそっちはしばらくおあずけだね。もし依頼を受けるなら次の光の日にまた来るね」

「そうなのですか?…かしこまりました」


 私は満足するだけの説明を聞けたのでギルドから去ろうと椅子から降りた。

 しかし、思い立ってもう一度クレアさんのいるカウンターへと身体を向けた。


「そういえばこの『ディーゼムの花の採集』はこれで達成扱いになる?」


 私は腰ベルトからずっと以前に採集したまま鞄の肥やしになっていた植物を取り出した。

 野草知識スキルがMAXになったことの恩恵か、見たことのない植物でも触ることで名前がわかるようになっていた。それだけでなく薬や毒の効果までわかるので、私の錬金術でも効果の高いポーションを作ることができるようになっている。

 どういう仕組みなのかわからないけど便利なので助かっている。でも、「伝説の薬草」的なあまり知られていないものでもわかるのかは不明だけどね。

 あまり生産系のスキルには恵まれていないはずなので、こういうのは地味に嬉しいよね。


「…確かに依頼書に書いてある特徴と一致しますね。鑑定部署に回してきますのでお待ちください」


 クレアさんは私の出した植物をトレイに乗せてカウンターの奥へと走っていってしまった。

 「待ってろ」と言われたのだし、帰ろうと思ったけど大人しく待つことにしてもう一度椅子に座り直すのだった。

 ぼーっと待つことしばらく。

 クレアさんはなかなか戻ってこない。

 Bランクカウンターにはなかなかお客さんが来ないようだけど、Cランクカウンターまではちょくちょく誰かしらやってきている。もちろんAランクカウンターもかなり暇そうだ。

 低ランクの冒険者は高ランクカウンターの受付に話し掛けることもできないのでAランクカウンターで暇そうにしているお姉さんとお喋りもできず、ただただホールの中を見渡している。

 時間はまだ四の鐘すらならないような時間。

 戻ってくる冒険者もまだほとんどいないため、打ち合わせをしているいくつかのパーティーくらいしかいない。

 中には私の噂話に花を咲かせているパーティーもいるけど、関わることすら面倒なのでスルー。

 いつかどこかの赤錆団?だっけ?みたいに絡まれるのも嫌だしね。

 そうして待っているとカウンターの奥からようやくクレアさんが戻ってきた。


「お待たせしました。鑑定結果が出ました」

「どうでした?」

「はい、こちら間違いなくディーゼムの花であると確認されました。希少な花ですのでなかなか見つからなかったみたいで助かります」


 あれは確かベオファウムの近くの森でかなり奥まで採集に行って偶然見つけたものだったはず。

 私の錬金術スキルでは使いようがなかったし、ベオファウムのギルドでは依頼が出ていなかったからずっと死蔵されていたけど役に立ってよかった。


「それではこちら報酬の小金五枚です。ギルドカードを出してください」


 私はクレアさんに渡された報酬を無造作に腰ベルトに放り込むと代わりにギルドカードを渡す。

 彼女は私から受け取ったギルドカードをどこのカウンターにもある何かの箱に入れて手を当てる。しばらくして処理が終わると私にカードを返してくれるのだが…あの箱って本当に何なんだろう?前にリコリスさんにも聞いたけど知らないって言ってたんだよね。


「クレアさん。前から気になってたんだけど、その箱ってなんなの?」

「これはギルドカードに依頼の達成状況や履歴、素材の納入履歴、ギルド発行の証明書を記録させる装置です。詳細は不明ですが、初代ギルド統括マスターが開発されてからずっと使用されています」


 …結局詳細は不明なんだね。

 何かしらの魔道具であることは間違いないのだけど、見てるだけじゃなわからない。せめて分解でもできればなぁ。

 依頼達成の処理も終わったので私はクレアさんに「じゃあ」とだけ告げてギルドの入り口へと向かう。もう少し時間はあるので王都内で買い物をしていこうと思う。

 ミルルのとこの御用商人のお店にも行ってみたいけどまずは街中を見て回るだけかな?中でも私としてはやはり露店を見てみたい。ベオファウムでもあったように良い原石を取り扱ってる商人がいるかもしれないからね。


 ギルドから出て南大通りに一度戻ると、そこから少し北上して露店の立ち並ぶ路地の前まで来る。

 あちこちから商人たちの威勢の良い声が飛び交っていて、なかなかに繁盛しているようだ。

 路地の入り口付近はベオファウム同様食べ物を取り扱うお店が集中しており、私が求めるようなお店はだいたい奥の方へと押しやられている。

 普通の人はあんまり買わないようなものだし、仕方ない。

 それと薬関係も奥の方に置かれている。食べ物に匂いが移るのを嫌ったためだと、ベオファウムにいたときヴァリーさんから聞いた。

 入り口近くのお店で肉串を十本ほどと美味しそうな果物…見た目と食感はリンゴのような形だけど食べると桃のような味で私の脳内でうまく処理しきれていない。おいしいのはおいしいのだけど、なんともいえない気持ち悪さのようなものがある。でも甘くてとってもおいしい。

 帰ったらリードにも食べさせようと思い、十個ほど買って腰ベルトに入れておく。他にも自炊用に小麦粉、野菜、薫製肉、少量だけど香辛料も買っておいた。

 ベオファウムには見かけなかった香辛料だけに金額が恐ろしく高かった…。小袋一つで金貨三枚はやりすぎでしょう?

 露店を眺めながら更に奥へと進むと武器防具を取り扱う店が立ち並ぶが、ここはスルー。

 売られているのは見習いの職人が作ったような粗悪品や使い込まれて整備し直さないといけないような中古品、または盗品なんかもある。

 粗悪品や中古品では全く以て役に立たないし、盗品の場合は元の持ち主以外使えないような制限がかかっていたり、呪いのようなデハフがかかっているものまである。

 そんな使いにくいものを買うわけもないのでスタスタと早足でその一帯を抜けていく。

 そうするとやっとお目当てのアクセサリー関係のお店が並んでいる。

 ほとんどが装飾品の販売をしており、原石を取り扱う店はすぐには見当たらない。一つ一つが高価なこともあり、この露店も武器防具と同じくらいの店数があるので全部見るのは時間がかかる。

 それでも装飾品もちゃんと見ながら進んでいく。どれも金貨以上の値がついているけど中には金と偽って黄鉄鋼を使ったものがある。…ひょっとしたら本当に作った人も勘違いしてるのかもしれないけど。

 それにしても相変わらず宝石に関しては母岩から離されただけの加工や大きさを揃えるために荒く削ったようなものしかない。

 それを見ただけで悲しい気持ちになってしまう。

 ちゃんとした技術を持った職人が本気の加工をすればあんな痛々しい姿にならなくて済んだはずなのに…。

 しかもあんな姿なのに大きいというだけで白金貨相当の金額がついている。宝石自体も可哀相なのに価値が分からずに売る人も買う人もいることがとても悲しい。

 いつか必ず本物の宝石の輝きをこの世界にもたらしてみせるよ。

 絶対にだよっ!

今日もありがとうございました。

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