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第89話 私は貴方の母親か?

すみません!投稿したつもりが最後のボタンを押せてませんでした!

「それでは全員自己紹介終わったな?続いて簡単ではあるがこの貴族院内の説明をする」


 自己紹介が終わった後、今度は貴族院の見取り図を黒板に貼り出し、それぞれ説明していくゾブヌアス先生。

 従者達のいる建物、貴族達のクラスがある建物、また専門分野の研究棟や訓練場、厩舎や乗馬用の運動場ととにかく広い。

 加えて隣のアカデミーに繋がる建物もあるし生徒立ち入り禁止の建物まである。

 これを実際に現地に行きながら案内されたのでは一日では到底回りきれない。私も関係ないところにまで行くほど暇人でもないので興味を持てない場所のことは忘れてしまっていいかもしれない。

 その後一度それぞれ自分の主人を迎えに行って昼食を取り、午後は中庭に集合となった。

 ゾブヌアス先生が簡単に回れる貴族のクラスがある建物と専門棟だけは実際に案内してくれた。他は自分で時間のあるときにでも行けということなのだろう。

 案内が終わると一度従者用の建物まで戻ってきて全員の前でくるりと向き直った。


「とまぁこんなところだ。諸君らは主にこの建物内での座学。専門棟での実習と座学。それと訓練場の実習が大半を占めることになるだろうからこの三つだけは頭に叩き込んでおくように」


 その三カ所はあとで位置登録(ポジション)を使っていつでも方向がわかるようにしておこう。

 ゾブヌアス先生の後をついて歩いているだけなので自分が今どのあたりにいるのかわからなくなってくるね。

 そうそう迷子になることはないと思うものの、建物自体も大きくどれも似たような部屋ばかりなので感覚が狂うかもしれない。

 一般的にはそれを迷子と言うのだが、私は認めない。広すぎる敷地なんて必要ないと思う。だいたい前世の日本ですら広大すぎる敷地を持つ学校なんてほとんどなかったんだから仕方ない。

 そう、私は迷子になったんじゃない、道がわからなくなっただけだ。

 その直後に今日は解散となり、今日はこのまま寮に戻って明日以降の準備をするように言われた。


「それじゃあ私はリュージュ様を迎えに行くけどセシルは?」

「私もリードルディ様を迎えに行かないと…いけないんだろうねぇ」

「なんで私に聞くのよ。カイザックもミルリファーナ様のところへ?」

「無論だ」

「じゃあ一緒に行きましょうか」


 そう言ってミオラが仕切りながら私達三人で貴族達のクラスがある建物へ移動する。

 とりあえずここだけは覚えておけば問題ないかと思い、さっきの案内のときもこっそりと位置登録(ポジション)を使っておいた。これで慣れるまでの間は貴族のクラスがある建物に行く時も迷うことはないと思う。

 従者用の建物から出て中庭を突っ切り、貴族用の建物に入るとその時点で雰囲気が変わる。従者用の建物内には装飾品や過度な調度品も置いてないのだが、廊下を歩いてるだけでも彫刻や食器が置かれている。

 何かしらの魔法が掛けられているようなので堂々と置いてあるのだろうけど、セキュリティーの問題や壊したりなど気になることが多々ある。私が気にするようなことじゃないのだろうけど…やたら高そうに見えるのでちょっと落ち着かない。


「ここに置いてある調度品はあくまでも入学した貴族達の目を養うことが目的であって王国の力を誇示するためのものではない」

「へぇ…それでこんな堂々と置いてるのね?でも盗もうって考えてる連中も中にはいるんじゃなくて?」


 私が気になったことをカイザックとミオラで歩きながら話している。私は二人よりも背が小さいので歩幅がどうしても短く、普通に歩いていても二人よりも遅れがちになる。そのため私はあまり会話に参加せずに二人で話しているというわけだ。

 もう何年かしたら普通に隣を歩けるようになるとは思う…多分。


「それこそ無駄なことだな。王に仕える魔法使い達がいくつかの魔法を重ね掛けしているのでまずこの台座から動かすことすらできないはずだ」


 なるほど…じゃあそこらの盗賊や良からぬことを考える従者がいたとしても盗むことはできないわけか。台座から動かせないならそもそも落下の心配もないわけで破損などの被害を考える必要もないと。

 確かにいろいろ考えられているようだ。

 そうやって話している間に私達はそれぞれの主人がいるクラスの近くまでやってきた。


「それじゃリュージュ様はCクラスだから私はここで。また明日」

「うん、また明日ね」


 私が手を上げるとミオラも後ろを振り返りながら左手を軽く上げて私達とは別方向へ歩いていった。


「さて、では私達も行くとしよう」

「そうね。ミルリファーナ様もリード…ルディ様と同じクラスだもんね」


 私達はそのまま並んで歩きリードのクラスの前で待機する。

 このクラスは他のクラスよりも扉が豪勢になっている。

 近くに並べられている調度品もさっきまでとはランクが違うし、宝飾品の類も並べられている。

 中には大きな宝石の入ったネックレスもあり、私の目を引きつけている。

 中央の大きく目立つ宝石は私の知識の中にもない宝石で色はルビーのように赤く、表面はまるで科学的に処理されたアクアオーラのように七色に輝いている。

 クリスタルオーラ等のパワーストーンは金属イオンを真空蒸着させたもののため自然界には決して存在しない。同じ方法をダイヤモンドに施して輝きを増す処理もあるが、ルビーやサファイアなどのコランダムにすることはない。

 何よりこの異世界にそんな処理の方法があるとは思えない。熱処理どころか透明度や光の反射角、より美しく見せるためのカットすらされてないのだから。

 考えれば考えるほどに不思議な宝石だね?

 私がネックレスを凝視しながら待っていると扉が開いて中から貴族達が出てきた。

 どの子も私と同い年くらいでなかなか生意気そうな顔がいっぱいだった。私とカイザックは廊下の端で恭しく礼の姿勢を取りながら自分の主人が出てくるのを待っていた。


「カイザック、お待たせしました」

「セシル、待たせたな」


 二人は顔見知りなこともあってか席も近いところを取り、一緒に部屋から出てきた。

 リードの赤い制服は今朝見ていたが、ミルルの白い制服は初めて見る。カイザックの制服はミルルに合わせて薄い灰色のものを選んでいてやはり並ぶと美男美女でとても絵になる。

 大きなダイヤモンドに添えられる小さくも強い輝きを放つメレダイヤのように二人で一つの宝飾品のよう。

 私にとっては御褒美です。御馳走様です。とても目の保養になります。


「お疲れ様でございます、リードルディ様」

「あぁ、朝の長いだけの話よりは退屈ではなかったがな。しかし本当に疲れた」


 リードがここまで疲れを言い出すのは珍しい。

 この子もこれで根性はあるしちょっとやそっとじゃ泣き言も言わないんだけど、本当に大変だったのだろう。

 彼を労るためにも今日は私が夕飯を作るとしようかな。


「セシル殿。私とミルリファーナ様はすぐに寮へ戻るがどうされるのだ?」

「私達もすぐ戻ります。リードルディ様もだいぶお疲れのようですので」

「…セシル、そういうことは言わなくてもいいだろう」

「ふふっ。リードルディ卿は相変わらず素直でいらっしゃるのね」

「…ミルリファーナ嬢、それは嫌味にしか聞こえないのですが…」

「くすっ…リードルディ様、いつものようにキリッとしていていただければミルリファーナ様もあぁは仰いませんよ」


 お互いのことを知り、認め合う四人だからこそ従者も含めて笑い合う。一人年上のカイザックも言動や立ち居振る舞いはともかくとても楽しそうにしている。

 こういうのもいいよね?

 前世の学生生活で友だちがいなかったわけじゃないけど、それとはちょっと違う。なんか楽しい。

 身分の違いはあるものの、周りに人がいなければ私達四人はそれなりに仲良しなグループに見られるのかもしれない。

 そのまま四人で歩き出し、私とカイザックは二人の少し後ろを離れて歩く。いかに仲良くしていてもここはまだ人目につきやすい。あまり貴族と馴れ馴れしくしているとあらぬ因縁をつけられかねない。


「そういえばリードルディ様は今年取得した講義はどのようなものを?」

「私は…セシル?」

「…はっ。リードルディ様の取得されました講義は必修を除きますと座学は戦術概論、礼儀作法、法律論、魔法総論。実技は剣術、槍術、馬術、初級魔法です。これは来年以降も継続されます。四年次以降はより専門的な講義が追加になる予定です」

「…だそうだ。もう四年次までの講義まで決められているようだ」

「まぁ…セシル殿はそこまでリードルディ様のスケジュールを管理されているのですね。全く従者の鑑ですわね…それに比べてカイザックは…」


 ミルルは小さく手を叩きながら私とリードを交互に見た後、目を細めてカイザックへ視線を向けた。

 え?ミルルってカイザックのこと好きだったんじゃないの?


「私の主な任務はお嬢様の護衛です。講義の管理などはお嬢様ご自身で行うべきです。私はセシル殿のように主人を甘やかす真似は致しませんので」


 うん、それも有りだと思うし正しい形だね。


「私から致しますと、ミルリファーナ様のようにご自身で管理できることの方が素晴らしいと思われます。是非ともリードルディ様にも見習ってほしいですね」

「ぐ…セシルはまたそうやって僕を…」

「リードルディ様、言葉使いが雑になっていますよ」


 そして寮まで戻ってくると入口でミルル達と別れて自室へと戻る。

 リードは部屋に戻ると同時に鞄を放り投げてソファーに倒れ込んだ。


「あー!もうジャケットくらい脱いで横になりなさいよー!」

「無理だー…疲れて動けん…」

「皺だらけになったらそれ直すの私なんだから、余計な仕事増やさないでよ!」

「寮内に洗濯をしてくれる下働きがいただろう?それらに頼めば良いではないか」

「またそんなこと言って……こんな最初から使ったらだらしないって思われるでしょ?『次期クアバーデス侯爵はまともに服すら脱げないのか』、なんて言われちゃうよ?」

「む…」


 そこまで言ってようやくリードはソファーから起き上がって上着を脱いで私に手渡した。

 まったく、私は貴方のママじゃないんだよ?

 領主夫人はこんなことなさらないけどさ。


「最初からそうすれば良いのに……って、ちょっと?!」

「なんだ?」


 リードは上着を脱いだ後、そのままスラックスのベルトに手をかけてカチャカチャと弄っている。

 いくら私が従者扱いとは言え、目の前で服を脱がれるのは困る!


「馬鹿!女の子の前で服を脱ぐなんておかしいでしょ!」

「…何を言ってるんだ…だいたい馬鹿とはなんだ馬鹿とは。仮にも僕はセシルの主人だぞ?」


 そういうデリカシーの無いところが馬鹿だって言ってるのにこの子は全くわかってない。


「とにかく畳んであげるけど部屋で着替えてから渡してよね?!」

「わかったわかった…全く、なんだと言うのだ…」


 ブツブツと文句を言いながらもリードは寝室へ着替えに行った。

 …あれ?でも前世ではこのくらいの男の子の着替えとか散々手伝ってたのになんでこんなに動揺してるんだろ?

 いや、これもリードにデリカシーが無いせいよね。

 まったくもう…。

 一人で着替えずに制服のまま待っていると寝室から着替えて出てきたリードにスラックスとブラウスを渡された。

 私がイライラしているのを悟ったリードは洗濯物を渡すと何も言わずに再びソファーで横になって寛ぎ始めた。

 とりあえず、私も初日からあまりグチグチと文句ばっかり言っても仕方ないのでそれはそのまま放置することにし、着替えて夕飯の支度に取り掛かるのだった。

今日もありがとうございました。

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