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第83話 セシルの試験はやっぱりトラブル込み

ユニークが一万を超えてました!

これも皆様もおかげです!

「それではセシル殿、マウイ殿、お互い必要以上に相手を傷付けないように。はじめっ!」


 結局私は最初に名前を呼ばれた。

 他の七名は魔力感知では私以上の魔力は感じなかったのでひょっとすると他のスキルが秀でているのかもしれない。油断禁物だ。

 そして一緒に試験をすることになったマウイと呼ばれた青年。

 彼は髪を全て剃っているため髪色は不明だが眉毛を見る限りでは暗い緑色をしていて眼光はかなり鋭い。こうして武器を構えられて正面に相対しているとはっきり言って怖い。普通の人なら即土下座案件だと思う。なんだろう?魔物にも似た殺気を感じる。

 彼の持つ武器は私と同じく短剣で右手に一本だけ構えている。腰を落としいつでも動けるように注意深くこちらを窺っているのがわかる。

 しかしこれじゃ従者っていうより暗殺者に近いんじゃないかな。

 私がまだ観察していたのだが彼は動きを見せた。


「シャッ」


 鋭い踏み込みから一気に間合いを詰めてきて私の左脇に短剣を振るってくる。

 それを半歩後退して避けるとそのまま連続して斬りかかってくる。勿論、全部見えてて見てから避けるだけで十分な攻撃ばかりだ。

 一般的には鋭い剣筋だしリードあたりなら捌き切れていないかもしれないけど、このくらいなら私も武器で防ぐほどじゃない。

 相手は攻撃が当たらないことに苛立っている様子もなくただ愚直に短剣での攻撃を繰り返してくる。何か奥の手があるかもしれないけど、この試験じゃ使えないのかそんな素振りも見せない。

 それとも私が子どもだと思って侮っているのかな?

 いやでもこれだけ攻撃を避け続けていれば普通の子どもとは思わないよね。

 じゃあそろそろ攻撃しようか。


「よっと」


 私は突き出されてきた短剣の一撃を相手の腕ごと掴み動けなくなったところへ氷魔法を使う。

 私が使ったのは氷の塊を作り出す魔法。

 相手の真後ろに。


ゴンッ


 それを相手の後頭部に思いっきりぶつけた。

 氷魔法なので相手を凍り付かせるものもあるけど、今回はそれだとやりすぎだしね。

 注意していなかった後方という完全な死角からの()()での一撃。

 軽やかに鋭い短剣での連続攻撃をしてくるマウイ殿は目がぐるんと上に向いたと思ったら白目になり、そのまま前のめりに倒れた。


「勝者、セシル殿!」

「ありがとうごさいました」


 わかってたことだけど、このくらいなら実力を出すまでもない。このくらいの人が何人もいたら、森の奥で魔物の群に襲われた時のような脅威にはなるだろうけど一対一なら何の問題も無い。つまりは冒険者ランクで言えばCランクといったところか。

 私は試験が終わったことに安堵して周りを見回してリードの姿を見つけると軽く手を振ってから右手を左胸に当てて跪いた。

 この国で騎士が仕える貴族や王族に忠誠を示す動作だとゼグディナスさんに聞いていたので、騎士ではないものの主人であるリードを立てるためにもやっておくことにした。

 するとリードも照れたように笑いながら手を振ってくれた。そういうところは可愛いのだけどねぇ。


「待ちたまえ!」


 試験を終えた私はそのまま闘技場を去ろうとしたのだが、後ろから声が掛かった。

 いやきっと私のことではないはず。とっとと席に…


「待つんだ、今ハゲの短剣使いを倒したそこの金髪少女よ!」


 …私、ですよね?

 今試験を受けている人の中に金髪なのは私以外に三人いるけど、一人は男性でミオラの相手。もう一人は女性だけど少女という年齢ではない。そもそも既にさっき声を掛けてきた男性にあっさり倒されてしまっている。そしてその男性が金髪の三人目だ。

 ぎぎぎっと音がするかのようにゆっくりと振り向くと私よりも綺麗な金髪の青年が私に向かって剣を向けている。

 純金よりは淡い、トパーズよりも濃いその長い金髪。熱処理前のサファイアのように青い瞳は力強く私を見ている。歳は二十歳前後だと思う。

 さすがにそれが私に向いていないと言い張るには無理があるので、仕方無くその声に応えることにした。


「なんでしょうか」

「私はベルギリウス公爵令嬢ミルリファーナ様に仕えし騎士カイザックだ。このような相手では私の力を測ることなど出来ぬ!だから金髪少女よ、私と試験を行おう!」

「え、嫌ですけど」


 何を言ってるんだろうかこの人は。

 折角楽に済ませられた試験をもう一度、しかもハードルを上げて臨まないといけないとか思うわけがないでしょ?ドMなの?

 私が冷たい目で答え闘技場を後にしようとすると、彼は慌てたように走って追いかけてきた。

 しつこい。


「カイザック殿、そのような予定にない行動は困ります。戦闘試験はお二人とも済みましたのでどうか席に…」


 私と彼についていた試験官が二人がかりでなんとか宥めようとしているが、カイザック殿はそれでも諦めずに「私と試験を!」と言っている。

 だいたいただ試験を受けるだけで私に何のメリットもない。お金になるわけでもないし、冒険者としてのランクにも寄与しない。それならば付き合う必要なんて何も感じないというもの。


「そちらの女の子、受けてあげてくれないかしら?」


 と、カイザック殿が試験官とやり取りしていると今度は私の頭上から声が降ってきた。

 見上げると透き通るように白い肌と晴れた日の雪原のように煌めく銀髪の綺麗な少女がいた。

 おっとりとした目をしているものの、相手に有無を言わせない不思議な圧力を感じる声。

 私は反射的に膝をついて頭を垂れた。

 これが本物の高貴な人のオーラだろうか。こうして膝をつくこと以外が全て誤りであるかのような威圧感がある。


「口を開くことをお許しください」

「どうぞ」

「恐れながら、私はリードルディ様に仕える身にてございます。主の許しなく戦うことは主の顔に泥を塗るのと同義。私の一存で頷くことは出来かねます」


 リードならこの少女に何を言われても多分断るだろう。

 普段からなるべく手の内は簡単には見せないようにと教えてきたし、それはさっきのババンゴーア卿との戦いで最後まで火魔法を剣に纏わせることをしなかったことからも忠実に守っていることがわかる。

 そう思って私はリードに丸投げしてしまうことにした。


「ミルリファーナ嬢、構いません。セシル、かの騎士を打ち倒してこい」


 えぇぇぇぇ…。

 私が意外、いや何言ってるんだこのバカ、と言わんばかりの顔を向けると若干リードが後ずさったが、既に賽は投げられてしまった。


「僕もセシルが全力で戦うところを見てみたいと思っていたところだからな」


 そう言うとリードはミルリファーナ嬢と一緒に最前列の席に陣取り、私とカイザック殿との試合を観戦するつもりなのだろう。

 いい身分だね?

 確かに本当に身分は高いけども。

 今度覚えときなさいよね?!

 仕方なく私は闘技場の中央へ歩み出るとまだ試験官と言い合いをしているカイザック殿の前へと進んだ。

 それに気付いた試験官もようやくカイザック殿から離れると私達以外の試験へと向かっていった。

 ミオラはそろそろ終わると思うけど、もう一つの試験は実力が拮抗しているようで長引きそうだ。

 それを横目で確認すると「はぁぁ」と大きく溜め息をついて腰ベルトの鞘に戻しておいた短剣を抜き取った。


「主人の命なので仕方なく貴方と対戦することになりました」

「あまりやる気がないのも困るな…ならば私がお嬢様にお願いしてセシル殿が勝ったら何か褒美を与えていただけるように頼んでおこうではないか」

「別にお金に困ってるわけではないですし…」


 最低限衣食住は保証されているので、自分の欲しい宝石類なら冒険者として稼いだお金で買えばいいだけのこと。

 いや待てよ?

 公爵のお嬢様なら町に出ていない珍しい宝石を取り扱う商人を知ってるかもしれないよね?私がまだ見たこともないこの世界にしかない宝石があるかもしれない。いや、きっとある!それだ!


「ふむ、それは困ったな。では」

「私が勝ったら、公爵家の御用商人を紹介してもらえませんか?」

「うん?そのくらいなら大丈夫だと思うが…」


 カイザック殿は私の話を聞いて観客席に目線を向けた。

 すると今の会話が聞こえていたのかミルリファーナ嬢はにこやかに頷いている。

 どういう聴覚してるんだろう?ここからなら百メテルは離れているので私でさえ知覚限界を使っていなければ聞こえない。ひょっとしたら彼女も知覚限界を持っているのかもしれないね?


「そういうことだ。ただし、私に勝てたらの話だぞ!」

「俄然やる気出てきました。絶対に勝たせてもらいます!」


 これは試験ではないので審判代わりの試験官はつかない。

 お互いが納得するまでか、どちらかが降参するまでと条件を決め、私達は向かい合った。

 私の武器は両手に持つ短剣。彼の武器は片手剣だが長さはリードが持つものより長い。刀身部分だけで一メテル以上ある、所謂ロングソードだと思う。しかし、それにしては細く刃がついている部分は彼の頭と同じくらいの長さしかない。どちらかと言えばショートスピアなのだろう。柄があるので更に混乱してしまうが、それが彼が求め辿り着いた末の武器なのかもしれない。

 私はまだその領域に達していない。短剣を主に使っているのはあくまでも昔から何となく使っていたからというだけのことだ。

 さて、武器はまぁいい。問題は彼の持つ盾だ。

 そういえば冒険者でパーティを組んだときにも盾を持つ人はいたけどこうしてじっくり見るのは初めてかもしれない。


「どうした?睨み合っていても仕方ないだろう?そろそろ攻撃してきたまえ」


 そう言って彼は自分の武器で盾をカンカンと叩いた。何かが頭の中に入ってきた感じはしたもののすぐに霧散していく。

 何らかの精神的な攻撃でもされたのかな?


「驚いたな、その歳で私の挑発から逃れるなんて……ますます興味が出た!」


 挑発って…それはスキルの一種なのかな?

 あの盾を叩く動作をすることで相手に突撃するような攻撃をさせるスキル?それなら確かにワンパターンな攻撃になるだろうからカウンターも合わせやすいということなのだろう。

 でも一種の状態異常と判断されるのか私の異常無効スキルで相殺できたみたい。

 さすがに公爵令嬢の騎士だけあって一筋縄ではいかないってことだね!

今日もありがとうございました。

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