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第78話 王都

今回から新章です。

 世の中にはテンプレと呼ばれる、aという行動をするとAという反応、またはイベントが発生するものがある。

 例えば冒険者ギルドで新人が絡まれる。

 例えば盗賊に襲われているのがお姫様や王子様。またはしがない行商人かと思ったら大商人だったり。

 そしてそれらは一般的に言うフラグというもので管理されている。それは因果律そのものと言えるかもしれない。

 だから余計なフラグは立てない、フラグをへし折るなど名言が生まれたのだと思う。

 だが因果は巡る。

 へし折ったと思ったフラグはいつの間にかまた立っている。

 だからテンプレは起こる。

 それは変え難い運命と同じ。巡ってきた因果に逆らうことなどできないのだから。


「セシル、何を遠くを見ているのだ?」


 おっと、現実逃避をしている間にリードが部屋にやってきたようだ。

 彼は自分が侯爵の跡取りだという自覚があるのだろうか。こうして使用人の女の子の部屋にノック無しで入ったりしたらあらぬ疑いを掛けられてしまうと思う。

 疑いを掛けられたところで彼が私に好意を寄せてくれているのはわかるし、彼自身も否定しないので困ることはないのかもしれないけど。

 いやいや…仮にも貴族なんだからちゃんとした婚約者が出来るまではそういうことは慎んでもらいたい。


「聞いているのか?」

「…聞いてるよ。あのねリード?私は使用人でもあるのだけど護衛でもあるし、女の子なんだから自分から部屋に来たらダメだよ。『無闇に婦女子の部屋を訪れないこと』って礼儀作法の講義でも聞いたでしょ?」

「あぁ…。だが『好意を寄せる婦女子を守るのが古き良き貴族のある姿』とも言っていたな」

「そういうのは私より強くなってから言うのね」

「セシルより強くなるには王国の誰よりも強くならねばいかんのだろうな」


 なんかさっきからやたら絡んでくるなぁ?

 面倒くさいしこの話題は終わりにしよう。


「それで、何の用?夕食の時間まで部屋で自習するように言ったはずだよ」

「あぁ…。さっきセシルがここの宿に着いたときから妙に落ち着かない感じがしたので、気になってな」

「むー…そんな落ち着きなかったかな?」

「セシルにしては珍しくな」


 今朝、ベオファウムと王都の間にある町の宿を出発してから約半日。

 私達は予定通り五の鐘が鳴る頃に王都に到着した。

 門の前には凄まじい行列ができていて、あれに並ぶのかと思って辟易したのだけど、貴族専用の門から紋章を見せるだけの簡単審査であっという間に王都に入ることができた。

 ちなみに混んでいた理由は貴族院の試験と王立国民学校の試験が近い日程で行われることから、今の王都には将来この国を背負って立つ人材が集まっていることになる。

 そうなると良からぬことを考える人間というのは少なくないようで、王都に入るための審査が通常よりもかなり厳しくなり時間が掛かっているというわけだ。

 ということは試験までの日数を考えればあの列の中にユーニャがいてもおかしくない。村を出た日から換算すると昨日くらいには王都に入っていそうだけど、あの行列はちょっとやそっとで解消されるとも思えない。

 それが私が現実逃避していた理由の一つ。

 そしてもう一つはここの宿だ。


「ねぇリード。この宿のオーナーの名前もう一回聞いていいかな?」

「うん?ここはモンド商会所有の高級宿で『巡る大空の宿』だ。オーナーは現モンド商会会長グリーチ・モンド。最近王都で勢いをつけてきた商会で我がクアバーデス家とも付き合いの深い商会だな。それがどうした?」

「…いや、なんでもない。世間は狭いなぁって思っただけだよ」


 あの時ゴブリンに襲われて助けた青年ブリーチさんのお父さんが経営している宿。主に貴族を対象としいるためか一般人は宿泊できない。もちろん私のような従者は別。貴族の中には自分のことなのに自分の着替えもできない人がかなりいるらしい。そりゃコルセットみたいなものでぎゅうぎゅうに締め付けられるような服を一人で着るなんてとんでもないことだよね。

 とまぁ…テンプレだよね。

 お約束とも言う。

 しかしあのブリーチさんからは想像できないくらい立派な宿だし、思ってた以上の大商人だったんだね。


「まぁいい。それより試験前に貴族院の場所を下見に行くと言っていただろう?僕はもう出られるがセシルはどうだ?」

「私も大丈夫だよ。すぐ出ようか」


 どのみちいつもと同じで腰ベルトにほぼ全ての私物が収納されているので部屋で荷物の整理など必要ない。リードは多分やってないだけだろう。

 というわけでモンド商会会長の「巡る大空の宿」を私達は並んで出る。前世のように出掛ける際に鍵を預けるようなこともなくそのまま出たわけだけど、セキュリティ的にはどうなのよ?これで盗みに入られても自己責任っていうのはハードル高くない?

 リードもそのあたりは心得ているようで貴重品だけは身につけて外出するみたいでとりあえずは安心だ。




「ほぉ…これが貴族院か」

「…いや、でかすぎでしょ」


 私達は宿から歩いて貴族院までやってきた。

 大半の入学希望者は馬車で乗り付けるらしいけど、当日の混雑を予想して徒歩での時間を知っておきたかった。あまりに混むようなら徒歩の方が早く着くことなんてよくあるしね。

 そしてこの大きさ。

 私が通っていた短大は大学の中に併設されていたのでかなり広大な敷地だったけど、ここはそれ以上。

 まず正門がでかい。私なら飛び越せるけども普通は無理。だいたい四メテルくらいだろうか。そしてその高さと同じだけの塀がずっと続いており端の方はどこまであるかわからない。

 実際、王都の東側の城壁の大半が貴族院の敷地に接していると聞いたのでその面積はおそらく日本の大きな城と同じくらいの面積があることになる。例えば皇居外苑までを含めた敷地と言えば何となくでもわかるかもしれない。

 中は講義用の校舎だけでなく、専門棟や実技棟、運動場もあるし乗馬用の牧場、狩りをするための森もあるというのだからこの面積にも納得する。

 ちなみに貴族院の敷地内に入り口は別で行き来も限られるがアカデミーも入っているとのこと。正しくアルマリノ王国を背負って行く人材がここに集約されていると言える。ユーニャやコールが行ったと思われる国民学校は西側にあるのでここからは離れているのが少し残念だね。


「ここなら宿から走って十五分くらいだね。軽くウォーミングアップも兼ねて朝走ろっか?」

「それもいいかもしれないな。わざわざ町の中を馬車で行き来するのも面倒だからな」

「うん、じゃあ決まりだね。あとは…中に入らないとわからないから当日は早めに来て余裕を持って試験を受けよう!」

「あぁ」


 もっと緊張してるかと思えばリードは落ち着き、冷静な表情で正門を見上げた。その顔には余裕からか少しだけ笑みも浮かんでいる。

 とてもリラックスしているみたいで私としても安心だ。

 その後王都の大通りを二人で歩きながら散策することにして、貴族院の前から離れることにした。

 その姿を見られていることに気付いていたけど、感じ取れる気配から警戒するまでもないと思い放置し、リードにも何も告げなかったのだが…これが後まで続く私の困り事の一つになるとは思ってもいなかった。




 貴族院の前を離れた私達は二人並んで大通りに並ぶお店を片っ端から冷やかして回っている。

 豪華な服を取り扱う店、煌びやかな宝飾品を扱う店などいろいろあってなかなか楽しい。特に宝飾品は私が釘付けになってしまいリードが珍しく私を急かしてきた。


 「セシルがこういう物を好きだとは知らなかったな。今後の参考にさせてもらう」


 とか言ってたけど、宝石なら遠慮なく頂きます…と言いたいところだけど、さすがに貴族から宝石の贈り物なんてされて受け取ったらタダでは済まないんだろうなぁ。

 しっかし、どの店もいい石は取り扱ってるのにどれもこれもカットが雑!!

 中には母岩だけ取り除いて無理矢理アクセサリーにしている店もあるほどだった。

 あれじゃ折角の宝石が台無しだよ…。すごく大きなルビーをあしらった首飾りだったがきちんとカットしていないために表面がまだまだくすんでいたし、豪華に見せるためだけに似たような大きさのルビーをいくつも並べていた。チェーンも雑なために首全体に目が行ってしまう…あれじゃルビーが可哀想だよ。

 しっかりカットをして、ルビー単体を引き立てるように金属の加工部分は大人しめに。そしてもっと繊細なチェーンをつけることで首元にルビーが浮かび上がってくるような細工をするべきだ。

 良い石が見れて目の保養にはなったけど、そういう意味では逆にストレスが溜まってしまった。


「珍しいな、セシルがそんなに文句を言うなんて」

「…え?…うそ、私口に出してた?」

「あぁ、肩を怒らせながらブツブツとな。そういうセシルを見たのは初めてだからか、とても新鮮だった」


 うぐ…。

 リードが私をニヤニヤと意地悪な目で見てくる。

 確かに宝石のことになると冷静さが無くなるのは自覚してるけど、まさか無意識に口に出すほどだったとは私自身も驚きだ。

 ひょっとしたら前世でも同じことをしていたかもしれない。

 …まぁ誰かと一緒にアクセサリー見に行くことなんてほとんどなかったけどさ。

 その後はいくつもお店を冷やかしつつ、ブリーチさんに聞いたお店に入って軽食を取り、宿に戻ってきた。宿ではゼグディナスさんがすっかり寛いで…というより、どうやら酔って眠っている。いびきをかきながら豪快にソファーで寝る姿はクアバーデス領騎士団の団長とはとても思えないけど。


 翌朝ゼグディナスさんは単独で馬に乗ってクアバーデス領へ帰っていった。

 リードの心配をするかなと思ったが「セシルがいれば大丈夫だろう。頼んだぞ」と短い挨拶だけ済ませて早々に王都から去っていった。

 試験は明日。

 今日はこれから追い込みをして、リードの苦手科目を少しでも減らしておいてあげよう。

今日もありがとうございました。

数日置きには更新していくつもりですのでよろしくお願いします。

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