第7話 はじめましてユーニャ
なかなか宝石が出てきません。
7/27 題名追加
午前中は魔法の訓練に費やしたので、午後からは肉体面の強化をしていこうかな。
---スキル「魔力自動回復」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「魔力自動回復」4→5
おや?どうやら思ったよりも魔力を使っていたらしい。
魔力は自動回復で元に戻るからいいとして。問題は。
ぐぅぅぅぅぅ…
「お腹空いたなぁ」
さすがにお弁当なんて持ってきてないからここに来たときはいつも食べ物をどこかで調達しないといけない。もっとも、すぐそこは森だし近くに川もある。
私は弓を持って森へ向かう。割と獲物の多い森なので少し歩けば獲物は見つかる。
隠蔽スキルを使って気配を消すと木の陰に隠れて弓を用意する。この森の中に多く生息してるガーキンという鳥がすぐに現れた。見た目はほぼ鶏なのだが飛ぶことができる。
弓を構えてガーキンの胴体の真ん中あたりを狙ってすぐに矢を放った。
風を切る音がして鳥の悲鳴が上がる。
「キィィィィィィィッ」
ガーキンは飛び上がろうと羽を動かすがそのままピクピクとしてその場に倒れた。
それを確認すると私は隠れていた木陰から出てガーキンに刺さっていた矢を引き抜いて矢筒にしまった。
短剣で頭を切り落として止めを刺すと足を持って川まで歩いていく。途中で歩きながら羽を毟って尾羽だけ鞄に入れる。尾羽だけはランドールに頼んで矢羽に使ってもらえるし、それを売って我が家の収入にもなる。
川に着くまでに粗方羽を毟ったので、河原で捌いて内臓を取り出した。そのまま川の水で血を洗い流すと食べやすいように、そして調理しやすいようにいくつかの部位に切り分けた。
ちなみにこの解体は猟師もしているランドールに教わったものだ。最初は戸惑ったものの今では気にならない…というのは言い過ぎだけど、慣れてはきた。前世ではスーパーにあるものは基本的にあとは調理すればOKという便利な世界だったわけで。魚くらいなら何度も捌いたことはあるけど、獣や鳥となるとどうしても止めの際に躊躇が出ちゃうんだよね。どのみち食事のためにいちいち家に帰るのも大変だから、ここで済ませられるならそれに越したことはない。
森の中の水辺で取ってきたハレスという大きな葉っぱに捌いた肉を並べて一つはそのまま包んで鞄に入れ、代わりに取り出した塩を振りかける。このハレスの葉は蓮の葉に似た葉っぱだ。
更に森に自生している天然のハーブを2種類ほど使って覆うように肉の上に並べると葉っぱを閉じた。
河原に流れついていた流木にさっき習得した火魔法を使って火を熾し、十分火が大きくなったところで肉を包んだ葉っぱを丸ごと火の中に放り込んだ。
ハレスの葉は水分を多く含んでいるのでちょっとやそっとでは燃えることはない。
調理が終わるまでの間に鞄からコップを取り出して今度は家から持ってきた乾燥ハーブを入れた。この乾燥ハーブはミントのようで爽やかな香りがしてお茶にして飲むには最適。
そのまま火の上で水魔法でコップ一杯分の水を作り出して温める。水魔法と集中力の訓練にもなるので一石三鳥だね。
15分くらいしてハレスの葉包みを火から取り出した。火の上で温めていた水もいい温度になっていたのでそのままコップに注ぎ込む。
葉を開くとハーブの香りと鳥の焼けたいい匂いが広がって、空腹になっている私にはもはや我慢の限界っ。
「いっただっきまーす!」
一番美味しい腿肉を早速手に取ると「あち、あち」と言いながら齧りついた。
ハーブの香りが鼻腔から抜けて爽やかな香りと同時に口いっぱいに広がる脂の味。塩は貴重品なのであまりたくさんは使っていないため、非常に薄味だがそれでも十分すぎるほど美味しい。ハーブは食欲を増進させる効果のあるものや逆に抑えるものもあるし、香辛料のように風味をつけることで塩分控え目でも美味しく食べることができるまさに料理の万能薬!!あぁ、でも酢とかレモンとかあればもっと美味しく食べられるんだけどなぁ。
「はぁ…最高…」
次々に肉を食べ、時折お茶も飲んで。
しばらく経てば骨くらいしか残らない。ちなみにもう一つの包みは今私が食べた以上の肉が入っている。
いくらなんでも4歳児の胃袋に鳥一匹分の肉が入るわけがない。もう一つの包みは家族へのお土産だ。
私がこの年齢で好きに外に出ている最大の理由はこれだったりする。
ランドールの仕事が休みのときに弓の使い方、狩りのやり方、獣や鳥の捌き方を習い、何度かランドールと同行して狩りをした結果、村からあまり外れないことと森の奥まで入らないことを約束した上で一人で狩りに出る許可を取れた。
そもそもそのくらいしないとイルーナに負担が大きくなりすぎてしまう。
遠い空の向こうを見ながら考え事をして、お茶を一気に飲み干した。
「さて、食休みも取れたし訓練を再開しようかな」
午前中に魔法の訓練を一通り行ったので、午後からは体を使った訓練だ。
一人で狩りに出られるようになってからは雨以外の日は毎日やっている。正直、そこまでしなくてもいいような気もするんだけどね。スキル覚えるのが面白くてついやっちゃうんだよね。
木にぶら下がって懸垂、足をかけて腹筋。前世で兄たちのトレーニングに付き合ってたときに覚えたことだけど、有酸素運動をする前に無酸素運動、筋トレをすると良いのだと。この小さな体にどこまで効果があるかはわからないけどね。
筋トレが終わると持ち物を持ったまま走り出した。そのまま家に帰るため、荷物を置いていくわけにはいかない。森に入らないように村の外周を一回りすると10000メテル以上ある。1メテルは1メートル。それなりの速さで走って1時間程度かかる。ちなみに時間を表す単位は「刻」らしいが、この村には時刻を表すようなものが何もない。1刻は3時間。1日は8刻なので、前世の地球と同じ自転周期ということになる。時差ボケが起こらなくて何よりだよね。
村に時刻を表すものがないのに私が時間を把握している理由は、実は簡単なことだ。
人物鑑定をすると、その鑑定をした日時が記載されている。自分を鑑定してその時間を覚えておけば良いというわけだ。
ちなみに今は「4刻-84 土の月」となっている。土の月というのは6月のことで、ここは日本と違って梅雨がないのでそこまで雨は降らない。一か月はちょうど30日で一年は360日計算なので前世の感覚が抜けない私としては残り5日はどうなるんだろうと気になったこともあるけど、調べようもないので深く気にするのはやめた。
話が逸れた。
訓練をしている丘は家と村を挟んでちょうど反対くらいの場所にあるので、私は外周を一回り半してから家に帰ることにしている。順調にいけば、だけど。
「セーシルちゃああぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
今日は順調にいかない日だったらしい。
私は走る足を緩めて立ち止まった。遠くから手を振りながらこちらへ走ってくる子どもたちの姿が見えた。
私と同い年くらいの村の子どもたちだ。
「こんにちはキャリー。今日はもうお手伝い終わったの?」
少し上がり気味になった呼吸を整えながら先頭を走ってきた女の子に声を掛けた。
薄い赤毛のショートボブでいつも元気な女の子だ。成長したら相当な美少女になるだろう。
更にキャリーの後ろからいつもの4人と見知らぬ女の子が一人ついてきた。キャリーと違って小走り程度なのでここまで来るのにもう少しかかるだろう。
「うん、今日は午前中でいいよってお母さんに言われてたから。セシルちゃんはこれからまた狩りに行くの?それとも『くんれん』中なの?」
「狩りはさっきお昼ご飯のついでにやっちゃったよ。今は訓練中」
「そっかー。一緒に遊ぼうかと思ったんだけどなぁ」
この子たちの言う「遊び」は前世で言うところの遊びとはほど遠いレベルのものだから、訓練してるのとほとんど変わらない気もするんだけどね。
「キャリー、お前勝手に走り出すなよな」
追いついてきた子どもたちの先頭にいた男の子がキャリーの隣まで来て文句をつけている。もっとも怒ってるようには全然見えないけど。
「だってぇ、セシルちゃんが走ってるの見えたから急がないと気付いてもらえないもん」
「だからってなぁ」
「まぁまぁ。ハウルも他のみんなもお手伝いは終わったの?」
「おぅ。オレとミックは終わったし、コールは今日は休みなんだってさ」
「ミックも終わったってことはアネットも終わったのね」
キャリーに文句を言っていた男の子がハウル、すぐ後ろから追いついてきたのがコールで、その後ろから女の子と一緒に走ってきた男女の子がミックとその妹のアネットだ。そして。
「ところで…見かけない子がいるみたいだけど…?」
「あぁ、この子はユーニャだよ。最近他の町からウチの店に来た人の子どもなんだ。歳も近いから一緒に遊ぼうって誘ったんだ」
コールがユーニャを示しながら説明してくれた。
コールはこの村にある一番大きな店の息子で、最近では文字や算術を習っているらしい。生傷の絶えないハウルと違って綺麗な手をしていて服も他の子よりも仕立ての良いものを着ている。
「初めまして、セシル、さん?私はコールさんのお店に入った従業員の娘でユーニャと言います。この村のことはまだ全然わからないんですけど仲良くしてくれると嬉しいです」
ユーニャは転生してから今までにないほど丁寧な挨拶をしてくれた。
というか今までで一番まともな挨拶を最初にしたのが今の私(4歳)とほとんど変わらない子どもっていうのはどうなのよ。
「こちらこそ初めましてユーニャさん。私がセシルで間違いありません。丁寧な挨拶でびっくりしてしまいましたけど、あまり気負わずに仲良くしましょう」
「……び、っくりしました…。この村に来てから店の人以外に丁寧な言葉を使う人に初めて会いま…あっ!いえ、私ったら…」
ユーニャは丁寧な言葉のまま思ったことをそのまま口に出してしまったようだ。
その様子に私も思わず笑って右手を差し出した。
「よろしくね、ユーニャ。私のことはセシルでいいからね」
「は、はい。よ、よろしくおね…よろしくね、セシル」
おずおずといった感じで手を差し出し手を握るとユーニャは緊張から解かれたかのように笑顔になった。
「なっ。気にしなくていいって言っただろ?セシルは強いけど怖いやつじゃないってさ」
「う、うん」
コール、どういう説明をしたのか後でお姉さんがきっちり問い詰めてあげるからね。
私が睨んでもコールはこっちを全く見ていなくてユーニャと楽しそうに話している。
これは…ひょっとして?って…このマセガキめ。
いつも遊ぶメンバーが5人から6人に変わったのはこの日からだった。
料理チートをする主人公って多いと思うんですが、調味料もない上に出汁から取ってとかそれこそ元々料理人だった転生者じゃないと無理なんじゃないかと常々思っています。