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第64話 アドロノトスの後継者

「…で、なんじゃこの岩は」


 部屋に入ってきて開口一番そんな疑問を口にするアドロノトス先生。すいません、置いたの私です。


「えっと…それがなんなのか知ってるかなと思って」

「ふむ。岩じゃな」

「岩ですか」

「岩じゃ」


 そこまで聞いて腰ベルトに「岩」を収納した。

 なんだかなぁ…折角レアな鉱石を手に入れたと思ったんだけど。普通の岩なら仕方ない。今度どこかに行ったときにでも置いてこよう。

 講義の開始を邪魔してしまったのでしばらくリードの講義に付き合うことにして、呆けながら外を見ていた。しばらくするとアドロノトス先生とリードは訓練場の方へ向かうということで私もついていくことに。

 訓練場ではリードの魔力アップを目的とした訓練をするらしい。私は魔力を上げる時に完全に使い切ることで上げてきたけど、本来はちゃんとした訓練があるようだ。

 魔力感知を使い、自身の魔力を感じながら魔力操作で動かしてみたり引っ張ってみたりするのが一番良いとのこと。

 というか、それ私が赤ちゃんだった頃にやってたことよね?

 リードの訓練はこれを続けることになり、アドロノトス先生も時間が出来たからか私が休んでいる木陰にやってきた。


「よっこらしょ」

「お疲れ様です。リードは…どうなんでしょう?」

「ふむ…そうじゃの。魔法使いのように多数の属性を使うのではなく一つの属性に拘って極めていく方がよかろうな」

「多数の属性を使うのはやっぱり魔法使いじゃないと厳しい、と?」

「もちろんじゃ。だからと言って儂やセシルのように全ての属性を使えるのはほとんどおらんがの」


 言われてみれば才能があったと言われているイルーナでさえ闇魔法は使えなかった。他の魔法使いを私は知らないけど一番下級の、例えば熱魔法がレベル一のままの魔法使いも相当数いると教えてもらった。となると「自称」魔法使いには注意しなきゃいけないんだね。


「それと、さっきの岩じゃがな」

「はい?」

「ありゃオリハルコンの塊じゃな」

「え。オリハルコンってすっごい珍しくて貴重な金属じゃなかったでしたっけ?」

「…間違っておらんが、もう少しマシな言い方せんか。セシルも魔法使いじゃろ」

「えぇぇ…だって今までほとんど見たことないし、本で読んだだけなのに…」

「『神の金属』と言われることもある金属。加工できるのは一流の更に先に踏み込む一部の職人のみと聞いておるの。魔力を通しやすく、頑丈なのに鉄より軽い。その武具を手に入れられるのは一握りの富豪や王族、S級冒険者のみと言われておるの」


 さっきただの岩と言っていたのはリードに聞かせないための配慮だった。権力者にとっては喉から手が出るほど欲しいがあまりに希少なため、まず不可能に近い。

 森の奥で魔力が溢れ出る場所を掘ってみたら出てきましたとは言いにくい。これだけの塊を売れば小さな国くらいなら買えてしまうとか。

 しかし売るつもりもないし、かと言って加工する当てもない私はただの岩だけを鉱物操作で除去して特異魔法で圧縮、再び腰ベルトに収納しておくことにした。

 いずれこれを加工できる人が現れたときにお願いするとして、この塊のことはそれまで忘れていてもいいかもしれない。…そのまま完全に忘れ去ったりしないようにだけ気を付けよう。


「しかし凄まじいものじゃの」

「え?」

「その魔法の使い方じゃよ。普通はただ強力な魔法を使いたがるものじゃが、セシルの場合はそういったものも表立っては見られん。一体どこを目指しておるのか…」


 目指す場所かぁ。

 普通に考えればそれなりに幸せになれればそれでいいやって……いや、宝石にいっぱい囲まれた生活はしたいけど。でも「転生ポイント」の件があるから思った通りになると考えられない。それならそれで折角魔法が使えるなら少しでも便利になってほしいと思うのは自然だと思うんだよね。


「もし仮に儂が超強力な攻撃魔法を教えてやる、と言ったら知りたいか?」

「んー…別にいいや。私は攻撃魔法よりも自分の居場所がわかるような魔法とか、簡単に飛べる魔法、あとはあんまり傷付けないで魔物をやっつける魔法の方が欲しいよ」


 自分の本心をニコニコと笑いながらアドロノトス先生に話す。その姿は彼の目にはとても眩しく見えたのかもしれない。

 かつては伝説の魔導師の再来とまで言われ、身の程を知らずに愚かにも巨大な脅威に立ち向かい敗れた男。そのことを話す時期がやってくるのか、こないのか。残り決して長くない寿命を思いアドロノトス先生は決心する。


「セシル、ホレ」


 突然自分に放り投げられた本を咄嗟に受け取ると私はアドロノトス先生に子どもらしく抗議する。


「むー、いきなり投げたら危ないよ!というかこの本いつもアドロノトス先生が大事に持ってる魔法書じゃないの?」

「写本じゃがな。本物はちゃんとした場所に封印してあるでの」

「封印?」

「その魔法書は二冊で完全な魔法書になるようになっておるでの。と言っても二冊目は強力な攻撃魔法ばっかりでセシルにはあまり必要としないかもしれんがの」

「うん?じゃあこっちの本は?」


 私は魔法書をいろんな角度から眺めている。もちろん外側から眺めるだけでは魔法は覚えられないし、ちゃんと中身を読まないといけないのだが、まだ私はこの本を開いていいとは言われていない。


「その写本はセシルにやるでの。イルーナにすら中を見せたことがないんじゃが…お前さんなら大丈夫じゃろ。無論、それでも二冊目と合わせることができれば強力な攻撃魔法を使うこともできるでの」


 さっきからこの「強力な攻撃魔法」という言葉を頻繁に使っているけど、それはどの程度のものなのだろうか?気になるけど、そこはあえて乗らない方がよさそうだ。

 それよりも魔法書なら気になることが私にはあるのだ。


「じゃあさっき私が言った魔法も載ってる?」

「残念じゃが飛行魔法は二冊目を見ないとわからんようにしてるでの。ただそれ以外の魔法はそこに書いてあるもので十分こと足りるじゃろ。儂も弟子は多く取ったが後継者と思えるような者はおらんかったからの。セシルに渡すのが一番じゃの」


 うわぁ…まじで?やっぱりアドロノトス先生ってすごい人なんだなぁ…。というか後継者とかそういうの私に振らないでほしいんだけど…。

 それでも彼の寂しそうな瞳に突き返す気にもなれず、黙って受け取ることにした。

 魔法書は帰ってからゆっくり勉強させてもらうとして、岩と魔法以外のことで気になることがあって相談したかったんだった。


「そういえば、この前鑑定しようとしたら『ぱちっ』って言って鑑定できなかった人がいたんだけど…」

「なんじゃと?…それはこの街のことか?」


 私は先日市場で出会ったノーラルアムエの花の採集を依頼に出した人物のことを話すとアドロノトス先生は少し興奮気味に食いついてきた。

 あの人は他にも違和感満載でとにかく気になる人だった。その違和感の正体は未だに不明だが。


「ふむ…。セシルが持っているのは鑑定だったの?」

「うん、解析は持ってないよ」

「…ならば鑑定妨害を持っていたか、もしくは…何かしらの『神の祝福』かもしれぬの」


 『神の祝福』という言葉にドキッとする。それは私も持っているから。転生者特有のものなのだとすればかなり稀有なスキルと言える。でも実際には何故持っているのか全くわからない。ひょっとしたら転生するときに何かしらの出来事があったのかもしれないけど、忘れているなら知らないのと同じよね。


「鑑定妨害なんてあるの?」

「うむ、たまに持ってる者がおるの。無論解析スキルを持ってる者には無意味じゃがの。あとは『神の祝福』を持っている者の中には鑑定も解析も通用しない者がおると聞いたことがあるの」

「ふーん…じゃあ隠蔽ではないってことなんだね」

「隠蔽でできるのはせいぜい内容の改竄やスキルを隠したりすることくらいじゃからの」


 じゃああの人は鑑定妨害か…もしくは私と同じように神の祝福を持ってるかのどっちかなんだね。あの後王都に戻るって言ってたし、いつか行ってみた時には訪ねてみてもいいかもしれない。


 話も一段落して、リードの訓練中に渡された魔法書を読みふけっているわけにもいかず、私もアドロノトス先生にMPを増やす方法を教えてもらおうとお願いしてみた結果。

 まさかの瞑想……ではなく、リードがやっていることを圧縮込みでやることになった。「なーんだ」と思ってちょっと侮っていました。圧縮したせいで自分の中にある魔力の塊を伸ばしたりできなくなっている。というか固い!以前やってたときは面白いくらい伸びたのに全然引っ張れない。これはなかなかに骨の折れる訓練になりそうだ…。

 ちなみに一度圧縮した魔力もこうやってまた伸ばしてあげると再び圧縮できると教えてもらった。問題は私の圧縮方法が強力すぎて伸ばすのも圧縮するのも今までの比にならないくらい時間がかかる。気長にやってMPを伸ばすしかないね。


 その日の夜。

 ファムさんといつものように入浴して、部屋に戻ると早速昼間渡されたアドロノトス先生の魔法書を開いた。

 革の装丁がされた立派な本で、これが写本とはとても思えない。前世の本のように目次があるわけでもなく、ただただいきなり魔法の名前とその効果が書いてある。そしてその後に詠唱の言葉がある…けど、これは必要ないので無視する。

 最初はイルーナからも習った火、水、風、土の魔法が上級までとりあえず書いておくと言わんばかりに記載されていて、その後に光と闇の魔法も上級まで書いてある。そこまで来てようやく私にとって実りのある魔法が見つかることになる。でも、これで既にこの魔法書の四分の三が終わってしまったんだけど?

 更にページを捲っていくと見慣れない魔法が並ぶようになる。それは『理力』だったり『位置登録』、『位置探査』など、私が欲してる魔法が並んでいた。

 とは言え、これは実は問題もある。

 アドロノトス先生はこの本にも書くくらいだから詠唱もできるけど、私は詠唱はできない。なのでここに書かれている魔法を使おうと思ったら全て特異魔法として登録することになるのだ。今のところはまだ登録数に余裕があるものの、今後のことを考えればそれなりに空けておきたい。

 とは言え、また森の中で迷子にはなりたくないので『位置登録』と『位置探査』の登録は必須よね。

 他にも役に立ちそうな魔法をいくつか登録したところでその日は休むことにした。

今日もありがとうございました。

明日はお盆の間に書いた閑話を入れさせていただきます。

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