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第61話 リードの訓練

お盆休みなので遠出しております。

更新はしますのでご安心を。

 訓練場に戻るとリードはまだ走っているところなのかまだ姿が見えない。訓練三倍と言ったものの、いきなりは不可能だろうとは思っている。

 しかしだ。今まで散々遊んだり勉強さぼっていたのだからこのくらいは受け入れてもらわないと。今後もありとあらゆることを訓練に織り交ぜていくことにしよう。

 さて。さっき仕立ててもらった服を着てみた感想は「動きやすそう」だったけど、実際動いてみるとどうかな?


「んー…んっ!」


 軽く魔人化を使って地面を蹴ると弾けた土が舞い上がりパラパラと辺りに落ちていく。落ちた時には私の姿はとっくになくリードを追って領主館の外周を走り出している。

 私が服を受け取ってここに戻ってくるまで四十分くらい経過しているのにリードの姿はまだ見えなかったということはまだどこかにいるのだろう。

 走り始めて十五分くらいしてリードの後ろ姿をかなり先で見かけることができたそこはもう間もなく一周終わろうかという場所だ。これでは訓練どころではなくなりそうだね。

 私はリードに追いつきすぐ隣に併走すると


「ちょっとリード、体力無さすぎ。走るのも遅い。ちゃんと基礎運動してたの?こんなんじゃ私の訓練受けるどころか走るだけで一日終わっちゃうんだけど?」

「う、うるさい…はな、話し掛けるな…」


 既に息も絶え絶えで目も虚ろになりながら一歩ずつ足を前に出している。その根性だけは認めるけどね。

 とりあえず服は私の動きを阻害することもなく、魔人化によって急な動きをする身体にもついてこれているから問題はなさそうだ。


「仕方ないね。今日は初日だからこれで走り込みは終わりにして次の訓練に入るよ」


 足に力を込めて勢い良く走り出すとリードの隣からすぐにゴールまで辿り着く。


「ほらあと二百メテル!頑張れ!」


 ひゅーひゅーと半死半生のような呼吸でゴールに辿り着くと彼はその場に倒れ込み、顔と服が汚れることも厭わずに倒れたままの姿勢で荒い呼吸を続けた。


「はいはい、倒れない!準備運動するからすぐ立って!」


 パンパンと手を叩くとリードも腕でなんとか体を支えて起き上がった。次はその腕で支えることもできなくなりそうだけど。

 私が準備運動としてリードにやらせたのはラジオ体操だ。

 これはかなり効率良く筋肉を解すのに良いと聞いているから。伴奏も何もないのでリードには私がやっていることの真似をさせる。口に出して何の運動でどこの筋肉を伸ばしているのかも教えておく。考えない剣士などバーサーカーにも劣る。常に思考、思考の速度強化、そこまでいってようやく「考えずに感じる」を実現できると思っている。どのみちリードにはまだまだ先の話だ。

 五千メテルのランニングを終えたリードにラジオ体操をさせただけで彼は既に疲労困憊だが、私は手を緩める気はない。

 だって領主様に「死なない程度に性根を鍛え直してくれ」と言われているしね。だから同じことを私もやった上で徹底的に模擬戦で叩きのめしてあげるつもりだ。


「はい、じゃあ次は腕立て伏せだよ」

「セシル、腕立て伏せとはなんだ?」


 えぇぇぇ…。この世界には筋力トレーニングって言葉はないのかな…。こんなのでどうやって鍛えてるつもりだったんだろう?オスカーロは本当にただ剣を振らせてただけだったのかな。

 私はリードの目の前で腕立て伏せを実演する。ついでにその後やる予定だった腹筋背筋も実演したが


「簡単なことだな。ずっと走り続けるより楽じゃないか」


 と申しております。

 さぁ地獄を味わうといいよ!




「はい、百三十五」

「ひゃあぁぁくぅぅ…さんっ!…じゅっ…うごぉっ!」

「百三十六」

「ひゃあぁぁぁくっ…さんっ…んんっんんんんっ…」


どさ


「ダメだよ胸つけたら。ほらそこから腕の力だけで元に戻る」

「うぐっ…ぐうぅぅうぅぅぅっ…」


 あ…これもうダメかな。しかし予想外に頑張ったね。真面目に剣()()は振ってたからかな。

 まだまだ次の訓練もあるし、そろそろ次をやらないと夜になっても終わらない。


「仕方ないね。じゃあ次は腹筋だね。はい、今度は仰向けになってー」

「せ、セシル…す、少しきゅっ、休憩しないか?」

「何言ってるの?戦ってて疲れたからって相手が休憩させてくれるはずないのに何甘いこと言ってるのよ。ほらさっさとする」

「くっ」


 私が早くするように促すとプルプル震えながらなんとかかんとか仰向けの体勢を取った。素振りまでやったら休憩にしてもいいかな。さすがに私もそこまで鬼じゃないしね。


 結局腹筋は八十回くらい、背筋は百七十回くらいまで頑張ったけどそこまでだった。その後の素振り三百回はなんとかこなしたところで休憩を取る。


「うぅっ…腕が…腹も背中もギシギシする」

「それだけ筋肉がついてないからだね。一応身体が出来上がる年齢まではこれ以上やらせるつもりはないけど、このくらいはできるようにならないとね」

「…なんでセシルは平気なんだ…化け物め…」

「なんか言った?」

「なっ何でもないぞ!」


 バッチリ聞こえてたけどね。

 優しい私は聞こえなかったことにしてあげよう。

 うん、私優しい。この後の模擬戦でボッコボコにしてあげるけど。というか思った以上に基礎運動で時間を取られてしまった。この分だと五の鐘くらいまで訓練に時間が掛かるだろう。


「しかしこの訓練にどんな意味があるのだ?剣士ならどれだけ剣を振ったかで強さが決まるのだろう?」

「あのねぇ…。今までオスカーロにどんなこと言われてたか知らないけど、そんなんで強くなれるなら村の子ども達だって強くなってるよ」

「む…。しかし…」

「リードは剣の才能がある。でもそれはまだまだ原石の状態なの。今からしっかりとした処理をして、研磨して、加工して、ちゃんとした台座に乗せなきゃ綺麗な宝石にはならないんだよ」


 どんなものでも最初は石ころだ。ちゃんと手をかけてあげなきゃ光るものも光らず、道端に打ち捨てられていくだけなのだから。


「今はまだ最初の処理をしてるとこ。原石を母岩から取り出すところからやってるの。リードが騎士様みたいに一対一の決闘をすることを前提にした強さが欲しいなら剣を振るだけでもそこそこの強さは得られるかもしれないけど、魔物と戦うための強さに必要なのは結局はしっかりとした基礎が身に付いてないと駄目だよ」


 私の言葉に彼も何も言わなくなる。多分ユーニャとゴブリンの村に行ったときのことを思い出してるのだろう。悲痛な表情で唇を噛み締めている。

 リードならゴブリンくらいに後れを取るとは考えにくい。

 それでもあそこみたいに百体を超える数を相手にできるほどのスタミナはないから、同じことがあったときにもう悔しい思いをさせたくない。そんなことからここまで厳しい訓練を課すことになったわけだけど…伝わってるかな…。


 何も話さなくなったまま休憩していると四の鐘が鳴り響いた。

 この音が聞こえたらお昼ご飯の時間で本来なら訓練は終わりになるはずだ。念のためリードに訓練を続ける気概があるか尋ねたところ、彼はまだやる気のようだったので私としても一安心した。リードを先に行かせて、私は午後からの訓練に使うための剣を出してきた。前にオスカーロと勝負したときにも用意された樽で、中に刃の潰されたショートソードやロングソードが入っている。

 そんな中、私が準備をしていると後ろからゼグディナスさんがやってきた。


「よう嬢ちゃ…や、セシル先生」

「嬢ちゃんでいいですよ、ゼグディナスさん。お疲れ様です」

「はは、わりぃな。つい癖で…。さっきの訓練見てたぜ。なんというかすげぇ剣の型とかやるのかと思ったら違うんだな」


 私は用意した樽からロングソードを一本取り出して構えるとゼグディナスさんの前で素振りを含めて型のようなものをやってみた。

 ロングソードは本来両手で持って扱うものだけど私の筋力なら片手で十分足りてしまう。剣を振る速度が上がれば上がるほど長い刀身がしなって剣先で風を切る音が高く鋭くなっていく。


「…どう思います?」

「…すごいと思うぜ、実際な。とてもじゃないが八歳の女の子が振るう剣とは思えん」

「うん…でも達人だと思いますか?」

「それは……すまんが、そこまでとは思えんな。剣だけで言えば、まだ俺の方が上だろう。無論、それだけの剣を振る速さがあれば俺は防ぎきるのが精一杯になるな」

「うん、私もそう思います。でもリードが今のまま私の剣を受けたらどうなりますか?」

「見えてはいてもついていけないだろうな。リードルディ様の剣の才能は認めるがまだ幼い…あぁ、嬢ちゃんは幼くても別格だぞ?」

「むー…私だってまだ年頃にすらなってない女の子なんですけど!」

「ふはははっ!どこに一人でゴブリン村を殲滅して、脅威度Bの魔物数十体を無傷で倒してしまう女の子がいると言うんだ」

「ここに…って、なんで昨日のこと知ってるんですか?」


 おかしいじゃない?昨日ギルドで受けた依頼の内容は領主館では誰にも話していない。あぁ、でもギルドでヴァリーさんが大声で算定結果話してたからそこらへんから漏れたのかな?


「これでもこの領地の騎士団を預かる身だからな。街の冒険者ギルドの噂話には敏感なんだ。もちろん領主様もご存知だぞ?」

「うひゃぁ…ちょっと自重した方が良かったかなぁ」

「するつもりはあるのか?」

「ないけどね」


 私はアメリカ人っぽく手をW字にして首を振ると、持っていたロングソードを樽に戻してゼグディナスさんに向き直った。


「ないけど、あんまり噂が立つのは嫌かなぁ」

「それなら少しくらい自重したらどうなんだ?」


 はい、ごもっともです。でもできることがあるとついやっちゃうんだよね。いろいろ試したいことだってまだまだあるんだしさ。


「それよりゼグディナスさんも早く行かないとお昼食べる時間なくなっちゃいますよ?」

「あぁそうだ。本題を忘れるところだった。実は嬢ちゃんに頼みがあってな」


 ゼグディナスさんから言われた頼み事。

 それは私にとっても悪い話ではなく、寧ろ好都合かもしれない。とりあえずまだここだけの話でしかないので、領主様に相談した上で決定、実行することになる。

 これが実現すればリードの訓練も捗るようになるし、ひいては私の自由時間が取れるようになる。何としてもゼグディナスさんに頑張ってもらって実現したいね。

 尤も、そんなに頑張らなくても領主様ならノリノリで了承するとは思うんだけどね。

今日もありがとうございました。

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