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第569話 たくさんのキラキラに囲まれて生活したい!

最終回です。

「痒いところはない?」

「うん。ヘーキ」

「はい、じゃあ流すよー」


 ソフィアの全身を泡まみれにして徹底的に磨き上げた後、上に浮かべたお湯の塊を彼女の頭の上から落とした。

 腰まで伸ばしたやや濃い目の緑色の髪がソフィアの身体に張り付いていく。

 初めて会ったときにはあんなに不健康そうだったのに、今は水も弾くような玉の肌。艷やかなな髪には枝毛すら見当たらない。

 本当に綺麗になった。


「じゃあ今度は私が洗ってあげるね」

「え、いいよ。ママは自分で洗えるから」

「駄目だよ。それなら私だってもう大人なのにセシルママに洗われたじゃんか。はい、座って座って」


 ソフィアに促されるまま浴場の椅子に腰掛けると、彼女は私の髪から丁寧に洗い始めた。


「セシルママの髪ってやっぱり凄く綺麗だよね」

「ありがとう。私はソフィアの髪も好きだよ?」

「んふふ。でも本当に綺麗な金髪でさ、虹みたいにキラキラ光ってるの」


 確かに管理者代理代行になって肉体が最適化されたことでそういう部分も変わっている。

 けどよく見ないと気付かないくらいなのに、この子は本当に私のことをちゃんと見てるね。


「はい、身体を洗いまーす」

「ここまで来たらもう隅々までお願いしますよ」


 一生懸命自分の手で私の身体を洗ってくれる娘を微笑ましく眺めながら、やっぱり愛しさとは別に私とは違う人たちと共に歩むことになったことにほんの少しだけ寂しさを感じていた。


「はい、じゃあここも洗いまーす」

「って、そこはいいでしょっ?!」

「だぁめ。さっき『隅々まで』って自分で言ったでしょ?」

「いやいや、ママはそこは洗わなかったし?!」


 足の間に手を入れてくるソフィアを全力で拒否しながら何とか抵抗する。

 さすがに私が本気で嫌がっていると感じたのかソフィアも手を引いてくれたけれど、抵抗が弱かったらそのまま洗われていただろう。

 いやそれだけで済めば良かったけど。


「……そだね。さすがにそれは他のママに悪いから止めておくね」

「……是非、そうして……。ユーニャママとか凄い怒るよ?」

「……それは怖いね」


 あはは、と軽く笑っているけれどユーニャが本気で怒ると私でも怖いんだから当然だよね。

 愛人とかメイドをお手付きしたくらいじゃ何も言わないけど、娘に悪戯されたって知ったら絶対ソフィアを怒るでしょ。

 そして任せるままに洗われて同じようにお湯をかけられた私はソフィアと一緒に湯船へと浸かった。


「ふうぅぅぅ……落ち着くぅ……」

「本当にぃぃ……気持ち良いねぇ……」


 私の髪は肩の少ししたくらいまでしかないけれど、ソフィアの長い髪を湯に浸けないために二人とも頭にタオルを巻いて大きく息を吐き出した。

 湯船に沈んでいる水晶の玉砂利が肌を転がってくすぐったいけど、もう十年以上もこの湯に浸かっているので慣れたものだ。


「……ねぇ、セシルママもこの三日間他のママたちと……その、寝室に、いたの?」

「んー……? うん、いつも通りだよ。ちゃんとみんながみんなを大好きって確かめ合ってたよ」


 別に隠すこともない。

 私の夜の生活はソフィアにしっかり把握されている。まぁどれほど激しいものかまでは知らないだろうけど。


「私も、みんなのこと、大好きっていっぱい伝えられたと思う。ママたちのことは大好きだけど、それとは違う好きっていうか……」

「……そうだね。私はソフィアが自分のことを嫌わずに、世界を呪わずに楽しく過ごせるならそれで十分だったけど……」


 ざばっと湯の中から手を出してソフィアの頭に乗せる。

 濡れているけれど、ふわりと柔らかい髪の上から撫でると、ソフィアはくすぐったそうに目を閉じた。


「こうして、貴女のことを好きな人たちを同じように好きになって幸せになってくれたなら、それは私にとっての幸せにもなってくれてるよ」

「……セシルママ……ありがとう」


 これからもいろんなことがあるし、忙しいとは思うけどみんな仲良く、そして手を取り合って乗り越えていってくれることを願うばかりだ。


「それに、クラン『宝石箱』は世界に名を轟かす唯一の最強クランだからね!」

「……それ、今の話と関係あるの?」

「あるよ?! みんなが楽しいってことは毎日がキラキラな幸せでいっぱいってことだからね」


 私の目標はずっと変わらない。

 『大好きな宝石に囲まれてキラキラな生活を送りたい』。

 それは宝石のように輝く大好きな人たちでもあり、キラキラに囲まれている娘でもあり、たくさんの宝石が眠るこの世界のことでもある。


「それが私の幸せだから」

「……やっぱりよくわかんないよ。セシルママが宝石を大好きってことは知ってるけど」

「そうだよ? だから貴女たちも大好き」

「ちゃんとわかるように話してってば!」


 あはは、と頭に乗せられた手を払い除けたソフィアを宥めていると自然に笑顔が零れていた。




 カツン、と金属質な音が響く。

 薄暗い空間には無機質な柱だけが立ち並んでおり、その全てが柱の反対側を透過するほど済んだ水晶で出来ている。

 床にも敷き詰められた水晶の床版の下にはヴォルガロンデが用意したものから別のペグマタイトへと交換されている。

 カツ、カツンと自分の後ろからも足音が響く。

 決して前には出ず、さりとて一番前を歩く主から離れすぎることもなくゆっくり従うように歩みを進めていた。


ガコン


 夜のように黒く、繊細な彫刻が施された巨大な扉。

 扉はアダマンタイト製の超重量なものだが、手を翳すだけで誰もを寄せ付けない神の座へと誘うようにその口を開けた。

 その先には左右に膝をつき頭を垂れる美しい者達が並ぶ。

 左側には宝石の名を冠する者たちが。

 右側にはこの世界で覇を唱えられるほどの力を持つ魔物たちが。

 その中央を進んだ先にあるのはこの世界で最高にして唯一の玉座。管理者の力を持つ者だけが腰を下ろせるあらゆる宝石が埋め込まれた神の座。


 ドサっと大袈裟な音を立てて腰を下ろすと、後に追従してきていた者たちもその玉座を囲うように置かれた座へと腰を下ろした。


「……あのさ、ただ帰ってきただけなのにこんな大仰なお迎えとかいらないんだけど?」

「雰囲気作りは大事でございますので」


 向かって右側に並ぶ宝石の名を冠する者たちの最後尾にいるジョーカーがにこやかに答えると、他の者たちまでうんうんと大きく頷いていた。


「今やセシルはこの世界で最も高位の存在ですのよ? このくらいは当たり前ですわ」

「セシーリア、受け入れることも大事なことよ?」


 やたらと私を持ち上げるミルルとリーラインは特に賛成なようだ。


「セシル」


 そしてすぐ右隣にいる青いショートカットの最愛から名を呼ばれた。

 ユーニャはずっと昔から私と一緒にいてくれる大切な人だ。

 こうして上り詰めた私と長い時を過ごす覚悟もしてくれた。

 美しい水色の髪をかき上げると、その美しい顔をそっと綻ばせた。


「もっともっと、たくさんの宝石を集めて貴女が望むキラキラに囲まれていきたいね!」

「……うん。ありがとう、ユーニャ」


 ふぅ、と小さく息を吐き出すと宙空へと軽く手を降る。

 たったそれだけの動きで夜空に輝く星々のように大量の宝石が玉座の間に浮かんだ。

 どれもこれも大切な宝石たち。

 横に並ぶ彼女たちももちろん大切だし、前に跪く彼等のことも大切だ。

 みんな私のことが大好きでとてもキラキラと輝いている。


 宝石だけがキラキラなわけじゃない。


 そんなことは言葉にしなくてもわかっていたけれど、今の私はそれをちゃんと実感している。


「まだまだこれからなの。セシルはもっと強くなるの」

「セシーリア様ならば正式な管理者になる日も遠くないと確信しております」

「姉様」

「セシル姉」


 佐藤京子が理不尽に殺されて、この世界にやってきた私はやりたいことやってたらどんどん強くなって。

 今度こそ理不尽に負けないようにと思っていたら私自身が理不尽の権化とまで呼ばれてしまった。


 でも今はこんなにたくさんのキラキラに囲まれているのだから否はない。ううん、とても幸せだよね。


「じゃあ、これからもよろしくってことで」


 宙空に浮かべた映像は地上の様子を映したもの。

 この世界で起こる何かを見過ごせないようにしないと。

 だってこの世界そのものが、私の求めていたキラキラ、その全てなのだから。



宝石好きのチート転生は一旦ここで完結となります。

初投稿なのに約7年に渡る長期連載で、ずっと読んでくださった方には本当に感謝申し上げます。


セシルの物語はこれで終わる予定ではありません。私の脳内プロットにはあと3エピソードほど残っています。

ですがそちらはいつか続編として執筆し、投稿したいと思います。

本編はこれで終了ですが、このあと蛇足を一つ投稿します。ひょっとしたら書くかもしれない続編に続くさわりのようなものです。


その後はノクターンで新作を執筆予定で、その後は筆のノリ具合で決めていくつもりです。


最後に、繰り返しになりますが今まで読んでくださって本当にありがとうございました。

次回作、また続編も含めて応援いただけると嬉しいです。

それでは!

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― 新着の感想 ―
 完結おめでとうございます。  後1話のおまけで終わってしまうのが勿体なく思います。  お疲れ様でした。
素敵な作品をありがとうございました…!! この先何度も読み返したいなって思うくらい素敵なお話でした!ありがとうございました!
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