第568話 結婚式の後といえば
完結まで一気にいきます。
最終第569話プラス蛇足570話まで毎日更新!
ソフィア達が会場に入ってそろそろ鐘半分。
私が新たに作ったイベントも間もなく終わる頃だろう。
死ぬことはないけど、状況に耐えきれるほどの精神力は求められるのはヴォルガロンデが作ったものと同じ。
あの子たちなら大丈夫だと信じてるけど、万が一ということはあるし私の定めた基準に達していなければご褒美は無しである。
「おいセシル。時間がかかり過ぎていないか?」
自分の娘も入っているからかなかなか開かない扉を見て魔王でありデルポイの取引先シーロン商会の会長でもあるヘイロンが私の隣へやってきた。
「心配しすぎじゃないの? あの五人なら大丈夫だよ」
「親ってのはそういうもんだろう……」
そりゃ心配くらいはしてるけど、まだイベントが終わる時間になっていないのだから仕方ない。
ちなみに会場に入った後にイベントが起こるのは私達と本人達にしか知らせていなかった。
そうしないと絶対反対する人が出てくるしね。
詳しい話は省いたけど、結婚式の最中に全員がもっと仲良くなれる秘訣を教えてもらえるって伝えてある。
「ヘイロンは昔っから時計ばっかり気にするんや。ウチら寿命なんて関係あらへんのになぁ?」
「うるせえよ。俺は魔王だがその前に一商人なんだよ」
魔王二人の会話をほぼほぼ聞き流しながら会場の扉を見る。
イベントが終わってもしばらく出てこないことを考えればまだ一時間くらいはかかるだろう。死ぬことはないとわかっていても無事に出てきてくれることを祈るだけだ。
それからガットセント国の国王と話したり、エルフの女王とも話したり。
時々奥さんたちとも話しながら待っていると、思ったより時間は過ぎていてソフィアたちが会場に入ってから鐘一つはとっくに経過していた。
ガチャッ
突然開いた扉の音にその場にいた全員が会場の方へと振り向いた。
工房の通路は外からの光を採り入れられるようになっているのでとても明るいけれど会場自体は薄暗く荘厳な雰囲気が漂う神秘的な空間だ。
だから入り口も通路よりは暗いため、中から出てきた者の姿はぼんやりとしか見えないのが普通。
「ソフィア!」
しかし私はすぐに娘の姿に気付くと真っ先に駆け寄っていった。
五人は全員が真っ白なウェディングドレスを血塗れにしており、それぞれが本来ならば致命傷になり得るほどの怪我を負ったことが覗える。
だからか私もソフィアの前でしゃがみ込むとすぐに怪我の状態を確認した。
「怪我は……ないね?」
「うん。大丈夫」
少し元気が無さそうだけど、確かに怪我が残っているということは無い。他の四人も見てみるけど、やはり完全に回復されているようだった。
「どう、だった?」
意を決してソフィアに問いかける。
少しの間があって、ようやく顔を上げた彼女はずいって手を突き出すと指を二本立てた。
「ばっちり、大成功だよ!」
満面の笑みで無事にイベントをクリアしたことを報告してくれた。
「「「おおーーーー!ー」」」
よ、良かった……。
出てきた時の表情があまりに暗かったからひょっとしたら何か精神に異常をきたすようなことが起きたんじゃないかって心配しちゃったよ。
「よく、頑張ったね……おめでとう、ソフィア……」
「セシルママ……ありがとう」
自分で作ったイベントだし、自分のときはもっと酷い状況だったにも拘らずこんなこと言うと「サイコかよ」って言われちゃいそうだけど。
それでもあの悪意の塊みたいなイベントをよく乗り越えてくれたと思う。
血塗れになったウェディングドレスを纏ったソフィアの身体を放すと、私はその後ろにいる四人に顔を向けた。
「みんなも、ありがとう。それとおめでとう。立派な娘が出来て、ママ凄く嬉しいよ」
「セシーリア様……ありがとうございます」
ランファたちも血塗れだけど、その顔は晴れ晴れとしていてとても嬉しそうだった。
いつまでも独り占めしているわけにもいかないので彼女たちを解放した後はとりあえずみんなの着替えを済ませてデルポイのお店まで移動することに。
さすがにヴォルガロンデの工房からデルポイのお店があるヘイロンの町まで普通に移動したら十日くらい掛かってしまうので、遠慮なく転移を使うことに。
「おーっ! セシル久し振り!」
「ヘルマン! 元気そうだね! イネも久し振り!」
「よう来よったなぁ! っと、いけんいけん……挨拶より先に言わんといけんじゃろ。娘さんの結婚、おめでとう!」
「ありがとう。今日はよろしくね」
そう、折角第五大陸に来たのならこの二人のレストランを使わないとね!
新婚旅行中に知り合ったこの夫婦。
ヘルマンはあらゆる料理を再現出来る神の祝福を持ち、奥さんのイネは農業関連の神の祝福を持っている。
接客経験の無かった二人のレストランは経営不振が続いていたけれど、私が拾い上げたおかげで今や世界中に支店を持つ超人気レストランへと変貌を遂げている。
「俺たちの恩人であるセシルの娘の晴れ舞台だ。今日は腕によりをかけて作るからな!」
「期待してるよ」
腕まくりをするヘルマンに軽く手を挙げて挨拶すると、私は用意されていた席へと向かった。
ここからは工房に来れなかった人たちもやってくるのでディックは勿論、アルマリノ王国王都冒険者ギルドのギルドマスターなんかも来ている。
力を最低限まで下げている私達のために護衛としてノルファとエリーにも来てもらっているし、店の周りには珠母組も控えているため警備に関しては万全だ。
もちろん、魔王が何人もいるような会場をどうこうしようなんて人は誰もいないと思うけどね。
楽しい宴は夜が更けるまで続き、来てくれた人たちは全員送り届けた頃にはすっかり深夜と言っても良い時間になっていた。
最後にヘルマンたちに挨拶をした私達はそのまま自分たちの屋敷へと転移すると、ようやく終わったと言わんばかりに大きく伸びをする。
「ん~~っ! 終わったね」
「セシルママ、いろいろありがとう」
ソフィアから改めて頭を下げられるとなんだかくすぐったいけど、娘からの感謝ならば素直に受け取ろう。
「ソフィアのためなら何でもないよ」
ぽんっと頭に手を置くと、ソフィアもさっきの私と同じようにくすぐったそうにしていた。
「セシーリア様、私はすぐに浴場の用意をして参ります」
私の返事を待つより早く姿を消したステラ。
もちろん彼女にはソフィアたちがこれから迎える初めての夜を演出するための衣装を渡してある。
どんな顔をするか楽しみだけど、それを見ることが出来ないのは残念だ。
「セシーリア様、ソファイア様。我らはこのまま屋敷の警備に入ります」
「三日は誰も近付けぬようにいたしますので、どうか心ゆくまで奥様方とお楽しみ下さい」
「お、お楽しみって……」
エリーに言われたことで改めて意識してしまったのか、顔を真っ赤にするソフィアに対してランファはとても蠱惑的な笑みを浮かべていた。
いや、ランファだけがそう笑っていただけでミサキたちもソフィアに負けないくらい真っ赤になってるね。
「私達は貴女たちが湯浴みを済ませてから入るからゆっくりしておいでね」
「……セシル、追い討ちをかけちゃ駄目だよ」
ユーニャに嗜められてしまった。
けど、折角幸せそうにしているんだし少しくらいからかうのは親の特権なんじゃないかな?
ステラから呼ばれるまで私達はゆっくり食堂へ移動してそんな話に花を咲かせていたのだった。
翌朝。
ではなく、三日後の朝。
私の寝室とソフィアの寝室にかけた強力な結界魔法が解除された。
チチチ、と鳴く小鳥たちの囀りが耳に入ったことも合わさって私は三日後の朝と認識するに至ったわけなんだけど。
「うん……まぁちょっと頑張りすぎたかも」
寝室のベッドの上に転がる全裸の女性が八人。
奥さんより一人多いのは人形セシルが混ざっていたせいだ。彼女もまた本体である私の寵愛を受けていたのだけど、元々のスペックが違い過ぎるのでこうして起き上がることさえ出来なくなっている。
本来ならステラが起きて身支度などを手伝ってくれるのだけど、それさえも出来ないほど消耗させてしまった。
多分みんながちゃんと動けるようになるのは丸一日はかかるだろう。
「とりあえず、お風呂でも入ってこようかな」
自分の身体を見下ろすと当然布切れ一つ纏わない全裸であるのだけど、それはもういろんなものでベタベタに汚れてしまっていた。
簡単に魔法で綺麗にしても良いけれど、それではやはり味気ない。
どのみち服は異空間に入れてあるので、私はその場で短距離転移を使って屋敷の浴場へと移動した。
誰もいない脱衣所にやってきた私は早速浴場に繋がる扉を開く。
冷えた空気が漂う浴場には独特の空気があるけれど、当然ステラがいないので湯は張っていない。
奥さんたちと床を共にする前に入浴したきりだけど、ステラがちゃんと綺麗にしてくれていたので浴場自体はとても綺麗だ。
つい、と指先を動かして湯船の上にお湯の玉を浮かべて少しずつ温度を上げていく。
お茶を入れるときならほとんど沸騰寸前まで上げれば良いけど、さすがに気持ち良く入りたいからね。
「火傷はしないだろうけど、HPを減らしてまで入浴したくなんてないし」
ザバン、と大きな音を立てて湯船が湯で満たされる。そこでようやく脱衣所に置いてあるタオルを手にした。
「ん……? 誰か動いてる?」
屋敷内で一人だけ動いている人がいることに気付いた私はもう少しだけ意識を集中させる。
どうやら動いているのはソフィアらしい。
娘たちもちゃんと夜を過ごせたようで何よりだけど、何故一人なのかはわからない。
折角ならと、私はソフィアに感知されないように気配を絶ちながら脱衣所の中で待つことにした。
カチャ
しばらくして控え目な音と共に扉が開くと、ソフィアがやってきて首だけを部屋に入れて様子を覗う様子が見て取れた。
その時点で私は自分の姿を現す。
「何してるの、ソフィア?」
「いひゃあぁぁぁっ?! ……え、セ、セシルママ……?」
飛び上がるように驚いたソフィアは私と同じく一糸纏わぬ姿をしており、よくよく見てみれば彼女の身体もいろんなものでベタベタに汚れているようだった。
「本当に……貴女は私によく似ちゃったねぇ……」
娘のことは言えないのに、自分のこめかみに指を当てて盛大な溜め息を吐き出した。
次回が最終話です。
その後、蛇足を1回投稿します。




