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第567話 新しい娘たち

完結まで一気にいきます。

最終第569話プラス蛇足570話まで毎日更新!

 ソフィアと一緒に入った会場は以前私達が使った状態のまま。

 厳密には少し違っていて、ステンドグラスに描かれているのは八人の女性であり全員どこかで見たことのある人達……というか、私とユーニャたちだ。

 みんなからの強い要望で作り替えさせられたんだよ。

 でもそれ以外はそのまま、フレアのオブジェも変えていないし台座なんかも同じものを置いてある。

 その台座には結婚誓約書が置かれており、そのすぐ隣に指輪が乗ったトレイを置いた。


「あの……セシルママ、ワガママ言ってごめんなさい」

「……いいよ。だって、ママたちの結婚式のときに言ったでしょ。覚えてる?」

「うん」


 本来ならここで起きるはずだった同性婚イベントは一回きりだった。それはヴォルガロンデに会ったときに言われていたから。

 でも今回も発生する。

 それがこの子の望みで、他の子たちも羨ましがっていたから管理者代理代行の権限でイベントを再登録したのだ。

 勿論条件はかなり緩くしてあるし、この工房への立ち入りもレベル制限ではなく『権限を持つ者と一緒に入ること』に変更している。


「いつまでも甘えさせてくれる、だったっけ」

「ちょっと違うけどね。『いつまでも甘えさせるし、いつでも厳しくする』だよ」


 そうだっけ、とソフィアは苦笑いを浮かべると、右手に持った百合の花を台座に置かれた花瓶へと挿した。


「あの時はセシルママが結婚しても一緒にいてもいいですかって聞いたけど……私達が結婚しても、まだ一緒にいてもいいですか?」

「『貴女が結婚しても一緒に暮らしてほしいと思えるくらいソフィアは私の大事な娘だから』って、ちゃんとあの時伝えたはずだけどね?」


 くつくつと笑うのを止められずに、私はソフィアの腕を放すと改めて彼女の顔を覗き込んだ。

 初めて会ったときの不健康そうな少女。突いただけで倒れてしまいそうな少女。いつも私の表情をうかがっていた少女。

 もう、そんな子はいない。

 ここにいるのは私やユーニャたちの愛情を一身に受け、いろんなことを学び、経験して、大切な仲間に恵まれた一人の女性だ。


「ソフィア、本当に綺麗になった。強くなった。貴女は私の誇りで自慢の娘だよ」

「……ありがとう、セシルママ……」


 ほんの少しだけ潤みを持ってしまった瞳。

 きっと彼女の中でもいろんなことを思い出してしまっているに違いない。


「ほら、泣いたら化粧が落ちちゃうでしょ。もう、泣き虫なのは変わらないんだから」


 ソフィアの目元にハンカチを当てて涙を吸ってあげる。何度が繰り返しているうちにようやく止まってくれたので、なんとか化粧は落ちずに済んだらしい。


「セシルママ、大好き……ずっと一緒にいたい、です……」

「私も愛してるよソフィア。でも、今日だけはその言葉を貴女の大切な人達にだけ聞かせてあげて。ママたちは貴女の気持ちをちゃんとわかってるから」


 私はそこでソフィアに背を向けると会場の外へと向かった。

 白い大理石で出来た回廊を進むたびにカツンカツンと硬質な音が響く。


「じゃあ、頑張ってね」


 元気よく頷く声が聞こえたけれど、いつまでも一緒にいたら今日の主役たちに申し訳ない。


「セシーリア様」

「ステラ……ごめん、ちょっとだけ……」


 会場から出て一度ドアを閉めると、すぐ側に控えていたステラの隣に行き彼女の胸に顔を埋めた。


「嬉しい。寂しい。愛しい。悲しい。苦しい。心配。可愛い。幸せになってほしい……」

「はい。私も心からソファイア様の幸せを願っています。きっと、私達が結婚するときにソファイア様も同じ気持ちだったのではないでしょうか」

「……うん。ごめんね。本当に私って自分のことしか考えてなくて」


 はぁ。こんな気分になったのは久し振りだよ。

 自己嫌悪なんて、自分の好きなように生きるって心に決めたときから殆ど感じなかったのになぁ。


「セシーリア様はソファイア様のことを本当に大事に思っておられるからこそ、今こうして私に甘えてくださっているのでしょう?」

「……ステラの意地悪」


 相変わらず殆ど表情が変わらないけど、ステラはステラで喜んでいる気がする。


「ごめん、もう大丈夫。あまり主役を待たせちゃ拙いし、そろそろランファから呼んできてくれる?」

「承知しました」


 私は会場のドアの前で一人一人花嫁たちを送り出していく役目がある。

 全員が会場に入るまでこのドアの前に来られるのは花嫁と私だけだ。ステラには決められた時間ごとに次の花嫁を呼びに行くよう伝えている。


「お義母様」


 呼びかけられて振り返ると、真っ白なマーメイドラインのウエディングドレスを纏ったランファが立っていた。

 魔王の娘らしく華やかに見えるようティアラ、豪著なネックレス、五連ブレスレットなど特に煌びやかに仕上げてみた。

 彼女はそのままわたしの前まで歩み出てくると優雅に一礼してみせた。


「本日貴女の大切に育ててこられましたお嬢様と婚姻させていただきます。必ず全員で幸せになりますわ」

「貴女が一番最初からソフィアと一緒にいたものね。それは信じてるよ」


 しかしここ数年でびっくりするくらい綺麗になった。

 長く伸ばした艷やかな藍色の髪も今日は頭の上で纏められ、綺麗なうなじが露出されている。それだけでも十分魅力的だけど、スタイルもユーニャと比べても遜色ないくらい大きな胸と引き締まった腰。

 それらをまるで鼓舞するかのようにマーメイドラインのドレスが引き立ててくれている。


「綺麗だね」

「ありがとう存じます、お義母様。この私の身も心も、そして生涯をもソフィアに捧げますわ」

「うん。ソフィアをよろしくね」


 私はランファに百合の花を一輪そっと差し出すと、彼女も優雅に微笑んで指先で受け取って会場へと入っていった。

 私にとってのユーニャみたいに、ソフィアにはランファがきっと必要になるはず。

 ランファが入っていった扉を眺めながら、これから起こることを思うと自然に「頑張って」と祈りを込めてしまっていた。


「セッ、セシーリア、さん……」

「おめでとう、アルーリリス。とっても可愛いよ」


 続いてやってきたのはチェリーの姪でもあるガットセント国の姫、アルーリリス。

 彼女のウェディングドレスはプリンセスドレス。チェリーのように元気いっぱいなわけじゃなく、どちらかというと控え目なこの子にはお姫様がよく似合う。

 それは彼女に送った多くの装飾品、そして頭に乗った小さな王冠が物語っているだろう。


「あっ、あのっ! わた、わたしっ……ソフィアに、まだ全然、相応しくないかも、ですけど……」


 頑張って話していたけれど、アルーリリスはそこで一度言葉を途切れさせてしまった。

 ここで私が「そんなことない」と言うのは簡単だけど、この子の決意をしっかりと受け止めてあげたい。


「……わたし、私達はみんながみんなを大好きでっ、絶対っセシーリアさんに安心してもらえるようになります!」


 あまりアルーリリスらしくない。勢いだけというか、感情だけを優先したような言葉しか出ていない。

 本来この子はもっと論理的な会話が出来るのに、今日ここに至ってはそんなことしたくないということなのかもしれない。


「安心ならしてるよ。アルーリリス、ソフィアの……貴女の義理の母からのお願い。あの子を愛してあげて。ずっと、ずっと先まで」

「はっはは、はい! それだけはっ、絶対に約束するです!」


 目を回してしまうんじゃないかというほど慌てている彼女に対して失礼かもしれないけど、吹き出してしまいそうになりながら百合を一輪差し出した。


「さぁ、行ってあげて」


 アルーリリスも指先で摘むように百合を受け取ると、しっかりと頷いて会場へと入っていった。

 今から起こることをみんなは知っている。

 それでもこうしてこの結婚式に挑むのは何故なんだろうね。

 本当に、似なくて良いところまでしっかり似ちゃったなぁ。


「セシーリア様」


 続いてやってきたのはエミルシルだ。

 リーラインの遠戚に当たるこの子は古代ローマのストーラみたいなスリムドレスに身を包んでいる。

 勿論私の装飾品はいくつも身に着けているので、森に住むエルフの王族であることをはっきりと認識出来ることだろう。


「本日よりソファイアの妻として、そして貴女様の娘となります。幾久しくよろしくお願い申し上げます」

「ふふっ、一気に娘が四人も増えちゃったよ。ソフィアをお願いね?」

「はい」


 短い返事は彼女の意思の強さがはっきりと伝わるものだった。

 長くかける言葉はいらない。これからその身と心でソフィアに寄り添っていくという宣誓でもあったのだろう。

 だから私も何も言わず百合の花を差し出した。

 無言で受け取ったエミルシルは私に一礼だけするとすぐに会場へと入っていった。

 覚悟にも似た決意を感じる背中を見送りながら思う。

 あの子の心を占めるものがソフィアを想う気持ちだけなのか、それとももっと違う何かなのか。私が知る必要なんてないけれど、あの子たちをより強い絆で結んでくれることを祈るのみだ。


「セシーリア殿、お待たせ致しました」


 最後に現れたのは肩と背中を大きく露出したエンパイアドレスを纏ったミサキだ。

 剣、というより刀を使う彼女のために装飾品は利き腕である右手とは反対側に偏って身につけさせている。なので右腕にはシンプルなブレスレットを一つだけ。


「綺麗だね、ミサキ」

「ありがとうございます。本日貴女の大切な娘、ソフィアの妻となります」

「えぇ。つまりミサキも私の娘になるってことだから、よろしくね」


 やや背丈の高いミサキは私が少し見上げるくらいの位置に目線があるけれど、とても女性らしい体型をした和風美少女だ。

 普段は一纏めにしている髪を今日は全て下ろしており、まるで濡れているかのように艷やかな黒髪はそれそのものがヴェールのように見える。


「セシーリア殿のように強い方の娘になれることは武人としての誉れであります。今後もご指導賜りたく……」

「待って待って。そんなのはいくらでもしてあげるから、今日はもっと別のことが聞きたいな」


 真面目なミサキらしいことだけど、今日は結婚式だしね?


「……幸せになりますので、どうか見守っていてください」


 頬を染める彼女はソフィアにも、他のお嫁さんたちにも負けないほどとても魅力的だった。

 そして私から白い百合の花を渡されると軽く目礼だけして会場へと入っていった。

 さあ、これからが結婚式の始まりだよ。


「頑張ってね、みんな……」

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― 新着の感想 ―
 これから殴り愛が始まると知っているのに、この空気である。
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