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第57話 ランクアップ!

 ギルドに着くと中はまだ閑散としていた。

 昨日の様子からすると冒険者達が戻ってくるのは五か六の鐘の間が多いのかもしれない。


「ただいまリコリスさん」

「セシルちゃんおかえり。依頼の期間はまだあるからゆっくりやっていいからね」


 リコリスさんは私が依頼を途中で切り上げたと勘違いしたのか苦笑いを浮かべながらフォローしてくれた。

 でもそれは間違いだよ?

 私は腰ベルトからノーラルアムエの花を取り出してカウンターへ並べると満面の笑みを浮かべた。


「はいこれ。ノーラルアムエの花だよね?」

「…え。えっと…セシルちゃんもうあの森の奥まで行って戻ってきたの?」

「うん、かなり奥にあったから大変だったよ」

「相当奥に入るだけでも大変なのはわかるけど…確か隣の領地の境目くらいまで行かないと摘めないって…」

「…場所知ってたなら教えてほしかったですよ…」

「あ…あははは…ブルーノさんに口止めされてたのよ」


 …あのおっさんめ…。私が苦労するのを楽しんでるんじゃないだろうか。試験のときに大怪我させたのを実は根に持ってるんじゃないの?


「あの…私が口を滑らせたのは内緒にしてね…?」

「むー…リコリスさんに言われたら何も言えないよ」

「あははは。セシルちゃんは可愛いなぁ…さて、それじゃ一応この花はヴァリーに鑑定してもらうね。今日は他に納入する素材はない?」

「魔物にも襲われたからその素材があるよ」

「あぁ…やっぱり?」


 リコリスさんはまたまた苦笑いを浮かべている…というか冷や汗をかいているようだ。


「この花を摘む時ってフォルコアトルって大蛇の魔物に襲われるって…」

「もー!それも知ってたなら教えてくれてもよかったのにー!」

「あぁぁ…ごめんね、これもブルーノさんから秘密にしとけって…」

「むー…またぁ?それも口が滑ったの内緒にしろって?」

「えへへ。賢いセシルちゃんのこと私大好きだよ」


 …この人はほんとにもう…。

 でも二回目はタダってわけにはいかないね。


「じゃあ今日の素材買い取りのときにヴァリーさんに口添えしてください。また昨日みたいに買い取りでゴタゴタするの嫌なので…ちゃんと適正価格で買い取ってって」

「いや、あのね?私もギルドの職員で…」

「…ちょっとブルーノさんのとこ行ってくるぅ」

「あぁっ?!ちょっと待って!ね、セシルちゃん?落ち着いて?冷静に話し合お?」

「私は落ち着いてるし冷静だよ。公平性がない組織なんて無意味を通り越して害悪でしかないよ」


 私が椅子から立ち上がろうとするのをリコリスさんはカウンター越しに私の服を掴んで引き止めようとしている。

 とても簡単に引きはがせるんだけど、彼女には今日のヴァリーさんとのやり取りを簡素化してもらう必要がある。


「じゃあさっきの条件飲んでくれますか?」

「や…でも、ね?」

「リコリス、もうやめなって。アンタの負けよ」

「ヴァリー?でもブルーノさんに怒られるの私なのよ?」

「知らないよそんなことは。それよりこの子が持ってきた素材なら物は確かなはずよ。昨日のもかなり稼がせてもらったわ」


 それをここで言わなければもっと稼げたんじゃないの?

 私が疑いの目を向けているとそれに気付いたヴァリーさんは私の目線に合わせた高さまで膝を折ってニヤリと笑った。領主様と同じようなとても悪い笑顔だ。


「セシルちゃん。貴女の持ってきた素材は最高品質と言っても差し支えないくらいだったわ。だからこれからもその品質を維持してくれるなら私は昨日みたいなことはしないでギルドの適正価格で買い取るわ。もちろん市場価格よりは安くなるけど解体料込みで私からの評価は常に最高にしといてあげる」

「ヴァリーさんの評価?」

「ヴァリーは素材買い取り部門の責任者だから彼女からの評価が良いとギルドへの貢献度が高いということでランクアップが早くなるのよ」

「へぇぇ」


 こんなに悪徳商人みたいな人なのに責任者って。会社とかで言えば課長とか部長扱いなのかな?あぁでもそもそもここのマスター自体が支部長兼支店長なのだとしたら部長とかだろうからヴァリーさんはいいとこ課長ってことかな?いやどちらかというと越後屋…じゃないだろうか?「越後屋、お主も悪よのぅ」「いえいえ、お代官様こそ。こちら土産のモナカでございます」というシーンが思い浮かんだ…ピッタリだと思うよ。


「私のギルド内の評価は冒険者から買い取った素材を必要なお店に売って出た利益から計算されるからね。あとはセシルちゃんならどういうことかわかるんじゃない?」


 つまりヴァリーさんは買い取り額よりも転売したときの金額がかなり大きかったために昨日はかなり稼ぐことができたと。その分彼女の評価も上がる。

 私は毎回面倒な交渉をしなくても済むようになるし冒険者ランクを上げるのにも彼女から協力してもらうことでスムーズになるメリットがあると言いたいわけだ?

 でもそれだと少し弱いよね?


「冒険者ランクが上がりやすくなるのはわかりましたけど、それにはどんなメリットがあるんですか?私は今のままでもそれなりに稼げていると思いますけど?それにあんまり目立ちたくないし」

「ランクが上がると犯罪行為をしない限りギルドからの除名がなくなるのよ。それと市場はだぶついてる素材の買い取りを断ることがあるけどギルドならいつでも買い取りするわ。もちろん市場金額を確認してからにはなるけどね」


 ふむふむ。

 聞いた限りだとなかなか有用な取引になると思う。

 私としても毎日ヴァリーさんとやり合うのは面倒臭いしね。


「わかりました、それでいいですよ。でもあくまでも私がこの街にいる間はってことで」

「うんうん、それでいいわよぉ。契約成立ね!リコリス、セシルちゃんのカードに私の許可証付けておいてね」

「えぇ?…私知らないわよ…そんなこと勝手に決めて…」

「だーいじょぶだって。きっとブルーノさんも許可してくれるってば」


 ヴァリーさんが手をひらひらして「さっさとやれ」と言わんばかりの態度を取っていたためリコリスさんも仕方無しにと顔をしかめながら手続きを完了させた。


「さて、それじゃ昨日と同じ部屋に来て素材を出してくれる?」


 手続きが終わるとヴァリーさんは私を昨日の部屋に通そうと親指を立ててギルドを奥を差した。

 しかし昨日の部屋ではちょっと狭すぎる。今日は昨日の比じゃないくらいの量が入っている。


「昨日の部屋だとちょっと狭いと思いますよ?」

「ヴァリー、セシルちゃんはフォルコアトルを倒してると思うから奥の修練場を使った方がいいわ」

「へぇ…それじゃ今日も期待できそうね!じゃリコリスの言う通り修練場まで来てね。あ、昨日ブルーノさんと試験をしたところよ」


 昨日の場所は修練場って言うんだね、覚えておこっと。

 森の奥に行けば今後も同じようなことになるかもしれないから使う頻度はそれなりにありそうだ。

 ヴァリーさんについてギルドの奥に進み、昨日も来た修練場に出た。今日は誰も使っておらず広々としている。何よりこれだけの広さなら今日倒した魔物を出しても問題無いね。


「じゃあ出しますけど…今日はちょっと多いから頑張ってくださいね」

「おーけーおーけー。セシルちゃんのならいくらでも受け入れてあげるわよ」


 …なんか捉え方によってはいかがわしくなるような発言は控えてもらいたいんだけど。

 そんなヴァリーさんはウキウキワクワクとした様相で私の一挙手一投足を見守っている。そこまで期待されてるなら今日の分は鉱石を除いて全て出してしまう。

 私は腰ベルトに手を掛けると今日倒した魔物達を出し始めた。数が多いので出すだけでも一苦労だけど、これがお金になるというなら頑張らなければ!


「フォルコアトルね!なかなかの大物……三匹?…クラッシュタイガー、ムーンフェンリルって…」


 全然聞いたことのない魔物の名前が次々と上がるが私の出すペースは変わらない。腰ベルトについてる魔法の鞄は時間経過が外とかなり遅くなっているので今のところはまだ倒したての状態。私が出していくと大蛇から流れ出ている血で地面が黒くなっていく。

 しばらくしてようやく全ての魔物を出し終わった。全部で四十八体。どれも私どころか大人の男性よりも遥かに巨大な個体ばかり。同じくらいなのはせいぜい鳥くらいだろう。それでも羽を広げれば三メテルはあるはず。


「これで全部です」

「…そ、そう…」

「それじゃ算定お願いしますね」

「え、えぇ…ホールで…待ってて…」


 昨日よりも更に青い顔をして魔物の死体に向かっていくヴァリーさんを横目で見ながら私はホールに戻ることにした。

 ホールに戻ってまだ冒険者の数は増えていない。

 カイトが今日どのくらい頑張ったのか聞いてみようと思ったけど、別に急ぐわけでもない。明日になれば聞けるしね。

 テーブル席について待っていようと思ったが、カウンターの中でリコリスさんが手招きで呼んでいるのに気付いたのでそちらに向かうとリコリスさんは私に飲み物を出してくれた。


「はい、ただのお茶だけどね」

「ありがとうございます」


 一口飲むと茶葉の良い香りが突き抜けていく。

 かなり安いお茶だとは思うけど丁寧に入れてあってなかなかに美味しい。貴族でもない限りは高級な香り高いお茶なんて買わないだろうしね。


「美味しい」

「うふふ、ありがと。これでも私お茶を入れるの結構得意なのよ」


 そういうとリコリスさんも一口お茶をすすった。


「さて、それじゃヴァリーが戻ってくる前にランクアップ手続きをしちゃうわね」

「あれ?まだ算定の途中だと思いますけど?」

「さっきノーラルアムエの花は全て本物だって鑑定の結果が出たからね。今日からセシルちゃんはEランク冒険者よ」


 おぉ!なんか思ったよりあっさりランクアップしちゃったけどいいのかな?いいんだよね?

 その後ランクアップしたことによる特典の話をリコリスさんから受けたけど基本的に受けられる依頼の種類が増えるだけみたい。主に戦闘能力を評価されることによる立ち入りを許可される場所が増えるというのがランクEの特徴。参考までに聞いた話によるとDで近場の護衛が許可、Cで遠方の護衛許可、Bで立ち入り禁止場所ほぼ解禁、Aで国家規模災厄の対策依頼の許可…ってこれはよくわからなかった。とりあえず討伐、採集ができるなら生活に困らない程度の収入は得られそうだけどね。

 そしてリコリスさんからの話が一段落したところで恨みがましい眼をしたヴァリーさんが戻ってきた。

 これは絶対文句言われるんだろうなぁ。

今日もありがとうございました。

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