第539話 戻ってきて日常を
コミカライズもよろしくお願いします!
アイカの『神の眼』とクドーの『情報共有』によって私のステータスが二人の前に現れる。
私にも二人のステータスが見えてるけど、レベルやスキルレベルが上がったくらいで二人には特段大きな変化はないらしい。
戦闘能力の高い二人だけど、生産系のスキルを伸ばしてきたのだから本来ならそれでも十分過ぎるほどだ。
「……なんやねんコレ……まぁさすがというかなんちゅうか……」
並列存在:並列思考とは別にもう一人の自分を作り出す。スキルレベルに応じて人数を増やせる。
神威:王を超え、人非ざる者の権威と覇気。使用者に近しい実力を備えていなければ近寄ることさえ叶わない。スキルレベルが高くなるほど使用者への接近が困難となり、弱者は指定されたスキルを自動的に発動される。
根源魔法:魔法系スキルの全統合。真の意味で全ての魔法を操り、作り出す。
極限破綻:限界の先、極限を破り、その果てを見ろ。10分間全能力、攻撃威力、防御性能、経験値、熟練度を1000倍にする。使用後1年間行動不能。
心絆ス者:絆を交わした者、心を砕いた者、どちらも束ねて自らの力とする。彼等の力を少しずつ貰う。譲渡者の生死に関わらず有効。譲受者の死亡により能力は譲渡者へ戻る。
神ノ指先:神を任命、罷免する。管理者、管理者代理、管理者代理代行の補佐を任命、罷免する。管理者専用スキルを発動し、クーロする。
管理者代理代行:世界の管理を一部行うことが出来る者。世界の情報を確認出来る者。基礎ステータス1000倍、寿命による死亡が無い。
根源ニ至ル者:魔法と名のつく力の根源に触れた者。全ての魔法能力の威力大幅上昇。魔力の回復、譲渡効率大幅上昇。
君主:王の素質がある者。このタレントを持つ者に対して自然と従うよう思考が誘導される。
DIVA:世界の中心で踊り続ける主人公。縁の数だけ譲受された能力を乗算。
セシーリア:大地の星々を蒐集し、愛と畏れを紡ぐ者。束ねた金色と闇色の鎖は砕かれず。
神威指定スキルに設定中。
思ったよりはぶっとんでなさそうな……?
こういうこと考えてる時点で拙いのかな。
「オリジンスキル『セシーリア』で出来ることは宝石化、絆の強さによる強化の加算、威圧系能力の強化、回復•即死能力の強化、案内系能力の発現、やと。やりすぎや」
「私が作ったわけじゃないんだけど。神の祝福の『DIVA』は?」
「んーとな……これ、アカンな。普通の神の眼じゃ見えへんわ」
アイカの瞳は既に神の眼が発動しているため銀色になっているけれど、そのアイカの眼を持ってしてもDIVAの正体はわからないらしい。
私の経験値1000倍みたいに見たらすぐわかるようなものじゃないだけに厄介だ。
「しゃあないなぁ……神の祝福ロック解除! えっとな、絆系能力が具現化する代わりに一時的に半分まで能力を借りられる、らしいわ」
「先日突然俺達の腕に現れた金色の鎖はそういうことか?」
「そういうことやろ」
先日、とクドーは言ってるけど多分ヴォルガロンデと戦っていた時のことだと思う。
あの時は本当にたくさんの鎖が見えたし。
「どのみち、ちょっと普通じゃ有りえへんくらい強くなっとるやないか」
「まぁ、ヴォルガロンデと戦う前だったら世界一って喜んでたかもしれないけどね」
正直、彼の強さは想像以上だった。
手も足も出なかったし、私が今まで生きてきた中で得てきた絆が無ければ絶対に殺されていただろう。
今後もレベル上げは怠らずに続ける必要がある。
「とりあえずこんなもんやな」
アイカの言葉を切欠に、クドーも情報共有を解除したのでステータスが見えなくなった。
だいたいのことはわかったから、検証はまたおいおいやればいいと思う。
「それとクドー、昼に見せた短剣はどうだった?」
「あれこそ神の一振りだろうな。悔しいが、俺ではまだその高みへは至っていない」
「クドーがそこまで言うほどの業物なんだね」
私には装飾が派手な剣にしか見えなかったけど。
「刀身が透けている時点で思いつく金属に心当たりがない。お前の好きな宝石がそのまま刃になったような剣だと言えよう」
「それは嬉しいけどなんか欠けたらイヤだし、それで魔物とか斬りたくないね」
「アダマンタイトさえ切り裂く刃が欠ける? 笑えない冗談だ」
……え?
「アダマンタイトが切れたの?」
「恐ろしく鋭い切断面だった。その剣にお前の魔力を通した時にどれほどの破壊力を生むのか計り知れないぞ」
「うん……じゃあ遠慮なく使わせてもらおうかな。でもそれとは別で何本が予備用の短剣も欲しいから作ってくれる?」
クドーは「承知した」と頷くと、それっきり口を閉ざしてしまった。
何かを考えてるような表情だけど、普段から無愛想か寝ぼけ眼をしているせいか、私達にとってもこれは彼のいつもの姿。
クドーの持つ独特な空気感はある意味では安心を与えてくれる。
「ま、なにはともあれ、や。無事に帰ってこれたんが一番や」
「そうだね。これから時間をかけてゆっくり何が出来て、何をしなきゃいけないのか調べてみるつもりだよ」
「えぇんちゃう? どうせ時間はたっぷりあんねん」
アイカは摘むように持ち上げたグラスを左右に揺らしながら氷のぶつかる音を奏でていた。
「うむ、セシルの持ってきた剣は今後『神晶剣』と名付けることとしよう」
何かを考えているように見えてはいたけれど、予想の斜め上の答えを出してきたね。
既に終わったと思っていた話題でずっと考え事をしてるなんて私達も検討すらついていなかった。
「……クドーがそうしたいっていうならいいんじゃないかな。というかその話終わってなかったんだね」
「至高の一振りには相応しい銘が必要だからな」
「そういうものなの? 私にはちょっとわからないけど」
「そういうものだ」
クドーがそう言うならそうなんだろうね。
だからと言って私が眷属たち以外の宝石に名前を付けることはないけどさ。
とりあえず用事は終わったので、追加でもう一杯注がれた琥珀色の液体を喉の奥に流し込むと私一人だけ席を立った。
「じゃあおやすみ」
日付を跨いでしまったのでまた明日とは言わずにそのまま彼等の離れから出て、娘の眠る寝室へと戻った。
「おはようございますセシーリア様」
ソフィアを胸に抱えながら目を覚ますとカーテンを開けてくれているスーミがいた。
そうか、ステラがいないから代わりに私を起こしに来てくれたんだね。
「おはようスーミ」
ソフィアも起こし、着替えを済ませて食堂へ向かう。
アイカとクドーはまだやってきておらず、そこには眠そうな目を擦っているアネットだけがいた。
彼女と挨拶を交わすと今日デルポイに来てほしいと告げられたので、アネットの出勤と同行することに。
ソフィアにはデルポイの用事が済み次第クランハウスへ向かうと約束しておいた。
デルポイの会長室でここ半年ほどの実績確認とコルのサインが入った報告書を読む。
アネットが来てほしいと言っていた理由はそこにあった。
「つまり、一部のお客に飽きが見られる、と」
「人間の欲望とは飽くなきものと思っておりましたが、そうではないのですね」
同じ報告書を呼んでいたイリゼの表情は険しく、内容を共有したラメルは不愉快さを隠す気配すらない。
「結局一度でも普通ではない体験をしてしまうとそれを基準にしてしまうからでしょ。美味しい食べ物、極上の快楽、美しい宝石も」
隣に立つラメルを引き寄せると彼女のお腹に顔を埋めた。
柔らかな匂いと温かさ、これは作られたものでしかないけれど、ラメルの中で鼓動する宝石に思いを馳せるととても愛おしい。
「ご主人様は私達以外の宝石もたくさん愛でられていますけど」
「私だって少しは影響されてるけど、宝石はみんな一つ一つ違うからどれも全部愛おしいよ」
「ふふ、さすがご主人様です」
微笑むラメルを解放すると、私はアネットの報告書に目を落とした。
とはいえ何かしら解決策をあげなきゃね。かなりいろんなジャンルを揃えたけれど、それでもまだいくつかは試していない。
例えば、貴族院や国民学校の制服で接客するとか。さすがに不敬かなと思って遠慮してたんだけど、今更気にすることもないしね。
そういうコスプレ喫茶、クラブはいくつかあるし、イメプレも多種多様なものを揃えてる。
但し、世の中には私の想像を遥かに超える高みに到達している人達というのはいる。
マゾ気質で罵られるのが好きとか、私には理解出来ないけど好きな人いるわけだしね。
スライムに包まれることに性的興奮を覚えるとか、女性の発達した腹筋に魅力を感じるとか。
そういえば農業チートなイネさんは鬼人って種族ですっごい腹筋してたなぁ。ダンナさんのヘルマンは魔人でごく普通の体型だったけど。
とにかく、そういう一般的な感性からズレたものに性的興奮を覚える人は少ないながらもそれなりにいるんだよね。不思議なことに。
「じゃあこれをアネットに回しておいて。こっちはコルに」
「承知しました」
デルポイでの仕事を片付けたのでこれ以上留まるつもりはない。そうしないとイリゼとラメルがどんどん仕事を持ってきちゃうからね。
それにただのオーナーくらいのつもりなのに私が大きな顔してたら社長のコルだって面白くないでしょ。
デルポイを出た私は会長室の外で待機していたノアを連れてクランハウスへと向かう。
「ノアは退屈してない?」
「気遣い感謝します。ですが我は今主の護衛という大役を仰せつかっております故、仲間達からは羨望の眼を向けられるでしょう」
「そっか。頼りにしてるよ」
「はっ!」
右手を胸に当てながら礼を取るノアを微笑ましく思いながら道中ですれ違う人々を観察していた。
ジュエルエース家の敷地内にも人が増えたなぁ、と以前は本当に疎らに人が歩いている程度だったっけ。屋敷周辺は本当に一部の人しか入れないけど、クランハウス、騎士団、デルポイには一般人でも入れるようにセキュリティを変更している。
王都にありながらまるで別の領地、もしくは国のような扱いになっている。
いつか国王や魔王達が集まった時に話していたけど、私の国を作るって話もあながち遠い未来のことじゃないのかも。
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