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第535話 金色の絆

コミカライズもよろしくお願いします!

 痛い。全身がバラバラになりそうなくらい痛い。

 死んでないのが不思議なくらいヴォルガロンデの攻撃は凄まじい威力だった。

 それでも私の自己修復能力はかなり高いので、今はこうして倒れ伏したまま考えることくらいは出来るようになった。

 私の攻撃はほとんど通じなかったし、勝てる要素は一つもない。


「セシル、もう立てるくらいには回復しているだろう? さぁ、かかってくるんだ」


 かかってこい、って言われてもね。

 今の私にこれ以上どうしろっていうの。

 けど、ヴォルガロンデの戦い方を見たからこそ私に必要なものを見出すことは出来た。

 何を今更と言われるかもしれないけど、私は今まで高いレベルのおかげで防御らしい防御は自分の魔力や身体の頑丈さだけで行ってきた。

 でも違うんだ。ヴォルガロンデは防御にちゃんとスキルを使っていた。攻撃、防御を同時に行う。しかも一つずつじゃない、いくつも同時にスキルや魔法を発動させることで私の攻撃を無力化して自分の攻撃だけを私に通していた。

 だからって同じことをして彼に通じるとは思えないけどさ。

 私は拳を握りながら震える身体に力を入れて立ち上がった。


「良いね。さぁ、もっと僕の攻撃を受けてくれ」

「……はは、私、ドSな彼氏とか絶対嫌だって思ってたんだけど……」

「彼氏とは良くないね。君は綺麗で可愛い奥さんがたくさんいるじゃないか。まったくもって僕の理想とする後継者だよ」

「それこそ、意味わかんない、んだけどっ!」


 踏み込みと同時にヴォルガロンデの周りに壁を作り出す。

 剛柔堅壁(イクストルデ)の数はそれこそ数百にも及ぶが、私はまず一枚目を踏み砕いた。

 一気に加速する身体を自然と制御しながらヴォルガロンデに斬りかかる。


「悪くないけど、それは何度も見たよ」


 私の速度くらいなんでもないと言わんばかりにヴォルガロンデの視線は私を見逃さない。そして視線より早く反応するのは彼が振り下ろしてくる剣。でも!


キィン


「……あれ?」


 ヴォルガロンデが振り下ろそうとした剣はそれより早く私の剛柔堅壁(イクストルデ)に阻まれて動かなくなった。

 その隙をついて短剣を突き出す。


「おっと」


 軽い声だけで私の剣を避けるけど、次の攻撃が来ない。

 さっき自分の剣が振り下ろせなかったことが不思議なのだろう。

 そのまま戸惑っててよ?

 私は作り出した剛柔堅壁(イクストルデ)を動かしていく。

 今までは作ったらそこに置いたままだったけれど、こうして動かすことだってちゃんと出来るのは知っていた。知っていたけどやらなかった。

 どこを踏んで、相手に斬りかかって、更に次はどの板を踏むか一瞬以下の時間で判断しなきゃいけなくなるからだ。

 普通はやらない。

 でも今は普通にしてたら勝てるわけがない。

 自分の身体の制御も適当でいい。ただ常に渾身の一撃を!


「はああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 バリンバリンと剛柔堅壁(イクストルデ)を踏み砕いていく。

 時折反撃の様相を見せるヴォルガロンデにもこの半透明の板をぶつけて動きを阻害しながら。

 避けられ、防がれ、そして時折魔法を放ってくるけど、それを私も剛柔堅壁(イクストルデ)で防ぐ。

 何百枚もあった剛柔堅壁(イクストルデ)が残り少なくなってきた、視界の中でそう思ったときだった。


ざしゅっ


「つっ?!」


 私の攻撃がヴォルガロンデの脇腹を掠めた。

 畳み掛けるように攻撃を繰り出してみたけれど、剛柔堅壁(イクストルデ)が無くなっても直接斬りつけることが出来たのはその一回だけだった。


「はあっはあっ! どっ、どう? 私の意地くらい、見せてやれたかな?!」

「……意地、か。正直、まさか攻撃を入れられるなんて思わなかったよ」


 私とヴォルガロンデのレベル差は六倍以上、桁が違う。

 でも無敵なわけじゃない。

 私の攻撃は既に回復してるだろうけど、ちゃんと届かせることは出来た。


「……それだけ頑張るセシルに、手向けだよ。根源魔法……」


 また使われるっ?!

 さっきから何度も受けてしまっているけど、あれは拙い! たった一回でも全身の骨が砕かれるような威力がある。


「不滅の炎」


 真っ赤な炎がヴォルガロンデの右手から生み出され、意思を持ったように私へと襲ってきた。

 それを剛柔堅壁(イクストルデ)で逸らし、自分も動き回りながら何とか避け続けていくけれど、炎は一向に弱まる気配がない。


「くっ……こんなっ……」

「魔法に惑わされすぎ」

「え? きゃあっ!」


 背中でメシッと音がして、身体の感覚が突然奪われると同時に地面へと叩きつけられた。

 さっきまで自分がいた上空を見るとヴォルガロンデが振り下ろした左足を下ろしたところで、すぐに真っ赤な炎で見えなくなる。


「あっ……づうぅぅぅぅあああぁぁぁぁぁっ!」


 私自身も、そして身に着けた魔石類のおかげで私の火への耐性は非常に高いのにそれをやすやすと貫いて私の身体を高熱で焦がしていく。


「がっ……がああぁっ……っ!」


 ここまで全身を炎で焼かれたことなんてない。

 見れば髪も先が焦げて少し短くなってしまっているほどだった。


「ごめんごめん、ちょっと強くやりすぎたね」

「はあっはあっ! あ、あぁ……」


 私の周りの酸素まで燃焼し尽くしてしまったのか、とても息苦しい。

 悶える私と、涼しそうな顔のヴォルガロンデ。

 なんか、とても苛つく。

 なのに私の力は彼に届いていない。


「ほら、『限界突破』以外にも君を限界の更に先へ押し上げてくれるものがもう一つあるだろう。それを使うといいよ」


 ヴォルガロンデの言う能力とは、おそらく神の祝福だろう。

 でも今近くには誰もいない。

 いつもあの力を使うと奥さん達に金色の鎖が巻き付くことはわかっているけど、他には私の能力値を大きく向上させる以外にデメリットはない。

 強いて言うなら正体不明の能力であり、それを使うように促してくる彼の言動が不気味なくらいか。


「やるしか、ないってことだよね」

「セシルがやらなかったら……そうだね、この世界は管理者に連なる者を無くしてしまい数百年以内に崩壊するだろう。神による運営ではシステムの修正が出来ないからね」

「なるほど……それが世界のシステム管理者、『Administrator』ってこと?」

「理解が早くて助かるよ」


 この世界が無くなるのは、嫌だ。


「いきなりわけも分からないまま転生して、チートとか持たされて、魔物とも戦って……私ただの事務員だったのにだよ?」


 初めて、家族の温かさを教えてくれたのはこの世界。


「出来ることやってたらいつの間にか強くなったし、いろんなことが出来るようになった」


 大好きな宝石を好きなだけ集めて、眺めて、愛でられるようになったのはこの世界に来てから。


「辛いこと、大変なこと、怖いこと、痛いことだってたくさんあった」


 家族を無くして悲しかったのも、怒ったのも初めて。友だちもたくさんいる。大好きな人もたくさん。


「ユーニャがいて、ミルルもいて、ステラ、リーライン、チェリー……最近だけどキュピラとネレイアも加わった」

「……うん、みんなセシルのことが大好きだよ。君達が笑い合って楽しそうにしている姿を見ると、僕も幸せな気持ちになれたよ」


 彼女たちだけじゃない。

 結婚はしてあげられないけど、愛を囁くように身体を重ねた女性(ひと)も多い。

 そして、私には息子も、娘も出来た。


「血の繋がりなんてないけど、大切な子どもたちもいる。あの子たちを幸せにしてあげなくて、母親だなんて言えないっ」


 ソフィアには笑っていてもらいたい。

 コルには今度こそ間違えないように進んでもらいたい。


「気付けばいろんな柵も増えて、絆が生まれて……私はこの世界が好き。無くしたりなんてしたくない」


 それはひょっとしたら私の我儘で独りよがりなのかもしれないけど。


「私は私を『好き』って言ってくれる人達のためにも、ここで管理者になるって決めたの! だからっ!」

「そう! そうだよ! 僕にはない、君の強さはそこだ!」

「発動……神の祝福『_%~#』!」


 じゃらっ。

 いつものように左腕に巻き付く黄金の鎖。

 重さは無いのに重厚な音を立てるそれは、普段なら近くにいる奥さんたちとの間に発生するので多くても七本。でも今は……。


「これ、は……?」

「すごいね。何十本とあるじゃないか」


 太さはまちまちだけど、ヴォルガロンデの言う通り本数だけはとても多い。

 不謹慎なことだけど、結婚していない愛人たちの数を入れてもまだ多い。

 家族、友だちと呼べる人達、思い浮かべてもまだまだ足りない。


「それが、セシルの言う『好きと言ってくれる人達』なんだろうね」


 ふと一番太い鎖を手に取ってみる。

 脳裏に浮かぶのはユーニャの笑顔。あぁ、なるほど……この鎖はユーニャと繋がっているんだ。

 他にも太い鎖にはミルルやリーライン、ソフィアのものも……。

 私のことを想ってくれる人が、こんなにたくさんいる。

 私の周りにはこんなに私を愛してくれる人がいる。

 キラキラしているのは宝石だけじゃない。

 私を想ってくれる人達の心が、こんなにも綺麗な金色に輝いている。

 そして、その絆が私の力になってくれる。

 この金色の絆が私の力の全てだと胸を張って言える。


「ひょっとしたら、僕は君に恐ろしいほどの力を授けてしまったのかもしれない」

「この力を貴方がくれたのだとしても、私は貴方を攻撃する」

「勿論そうしてもらわなければ困る」


 ヴォルガロンデが初めてまともに剣を構えた。

 きっと次の私の攻撃がそれほどの威力になるだろうことを彼自身も知っているからだと思う。


「これは私が今までこの世界で紡いできた絆の力だから。この世界、そのものの力だよっ!」


 鎖を纏った左手の短剣に全ての力を込める。

 私に残った全ての魔力、闘気、神気の何もかもを。

 握り込んだ短剣は眩い金色の輝きに覆われてその刀身を伸ばしていた。


「僕の今までをっ、全てその手に持って……さあっ、来いっ!」


 ヴォルガロンデが守って、作ってきたこの世界の全ての力を込めて。


「いくよっ!」


 私は最後の一歩を踏み込んだ。

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