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第533話 ヴォルガロンデの過去 前編

コミカライズもよろしくお願いします!

 ヴォルガロンデ•レガルディ。

 そう名乗ったのは遥か遠い過去の話。

 僕はこの世界とは別のところ、地球の日本という国で生きていた。

 確か大学の卒業を間近に控えていたんじゃなかったかな。結構良い学校に行っていた気がするけれど、もう大昔過ぎてほとんど覚えていない。

 ある冬の日、凍結した路面にスリップした車に轢かれて死んでしまったんだ。

 そして。


「さて、そろそろ落ち着いてきた?」

「……はい、インヴィー様」

「そう。それじゃ、現状の把握は済んだ?」

「済み、ました……が、これは……」


 自分が今まで繰り返してきた転生によって得た転生ポイントを確認していた。

 管理者選定試験受験資格を得て、今回まで九十七回転生を繰り返し転生ポイントを貯めた。今回の転生で転生ポイントもかなり良いところまでいくはずだった。


「ちょっと予想外の事故、ということになるね」

「そう、ですね」


 本来この時点で次の転生を迎えるはずではなかった。

 しかし今回転生した人物はあまりに運が無さすぎたのだ。


「寿命を全う出来ていれば管理者の権限譲渡の可能性はあったのに残念だよ」

「転生先は選べません。これも私の定めだったのでしょう」


 僕はこの時点で諦めていた。

 しかしインヴィー様は続けた。


「そうかもしれないけどちょっと勿体無いなって。そこで提案なんだけど、僕の管理する世界の一つで管理者がいないところがあってね。君みたいな優秀な人が消えてしまうくらいなら管理者代理……は無理だけど、代理代行くらいの立場でなら送り込んであげられるんだ。どうする?」


 インヴィー様の話に僕は即座に頷いていた。




 僕が転生したのは第三大陸小さな国の地方領主、その家臣の息子としてだった。

 現在はゼストビス帝国に併呑されて消滅してしまっている、名前の名残さえない国。あの皇帝は今でも好きになれない。

 生まれた時から前世の記憶を引き継いでいた僕は早速自己強化に励むことにした。

 理由はいくつかある。

 まず、この世界では基本的に強くないと搾取される側になってしまうこと。

 次に僕の貰った神の祝福『製造者』。あらゆる生産系スキルの熟練度、経験値が百倍になり自身でその道具を使う場合は効果が十倍になる、というもの。

 生産系のスキルを使うにしてもMPというのは殊の外重要になる。

 だからこそ早い段階でMPを増やすことと、力をつけて暴力を跳ね除けられるようになりたかった。

 またこの頃はまだ『ヴォルガロンデ』を名乗っていなかったので、こう呼ばれていた。


「ヴォル。ヴォル! ヴォランド!」

「はい、お嬢様! お呼びでしょうか!」


 僕は領主の娘の小間使いとして日々を過ごしていた。


「ねぇヴォル。つまらないから外へ遊びに行きたいわ」

「では旦那様の許可をいただいてきてください」

「嫌よ。貴方が取ってきて」


 そんなどうしようもないつまらないことで我儘を言うような娘だった。

 そんな我儘娘でも美少女ならば許せた。美少女ならば、だが……美少女ではなかった……。

 そばかすは良い。大人になれば薄くなることもあるし化粧でも隠せる。一重まぶたで目が細い。これも化粧で誤魔化せる。

 でも、体型はな! ダイエットだよ!

 自分の努力が必要なんだよ!

 十三歳で成人男性並の体重だと?

 痩せろ!


「ねぇヴォル。何か美味しいものが食べたいわ」

「お嬢様、あまり間食をされますと……」

「大丈夫よ。夕食もちゃんと食べるわ。ね、いいでしょ?」


 よくねぇよ!

 痩せろ!

 とはいえ結局立場の弱い僕は用意せざるを得なかったので、前世で得た知識を元にダイエットスイーツを開発してあまり太らないようにさせた……はずなのに、量を食べられたら効果はない。

 しかも胸じゃなくて尻ばっかり大きくなるものだからスタイルが良くない。


「ねぇ、ヴォル。なんで私は舞踏会で誰からもダンスに誘われないのかしら……」

「お嬢様、まずはダンスを覚えて踊れるところからではないでしょうか」

「失礼ね! ちゃんと踊れるわよ!」

「……僕には樽が転がっているようにしか見えませんけど」


 彼女の小間使いをして五年も経つ頃にはすっかり毒を吐き散らすようになっていた。

 当時の僕は十歳。おそらく同年齢の子に比べたらレベルも高く、様々なスキルを覚えてすぐにでも家から出ていけるほどの稼ぎもあった。

 というのも小間使いをしながらも魔道具を作ったり錬金したりと小銭を稼いでいたからだ。

 派手に稼ぐと貴族に囲われてしまう恐れがあったので、当時は高性能なものではなく高品質なものに拘っていた気がする。

 そして調合で作った痩せ薬をお嬢様に飲ませつつ、日々の食事をダイエット食に変え、更に外出にかこつけて身体を動かすようにさせた。結果。


「ご令嬢、私と一曲踊っていただけませんか?」


 と、ある夜会で声をかけてきた別の地方領主の息子と婚約することとなった。

 さてそうなれば僕はお役御免だろう。と、早速家を出る用意を始めたのだが……。


「いやよっ、ヴォルも来ないなら私結婚なんてしないわっ!」

「何馬鹿なこと言ってるんですかお嬢様。いい加減お尻じゃなくて頭にもちゃんと栄養回してください」

「おっ、お尻の話はいいでしょ!」


 そんな我儘お嬢様をあしらいつつ、のらりくらりしながら最終的には姿を消すつもりだった。

 両親には育ててくれた恩はあったから申し訳ない気持ちはあったけれど、自分のやりたいことは我慢したくなかった。

 そんなある日、とうとう観念したお嬢様が婚約者のところへ嫁ぐ。ちょうどその日だった。隣国が攻めてきたのは。

 当時のゼストビス帝国はまだまだ小国だったので、この時攻めてきたのは別の国。その国もまた今ではゼストビス帝国に併呑されている。あの頃の帝国周辺は小国だらけだったんだ。


「お嬢様、僕は戦場に行きます。お嬢様はこのまま婚約者様の元へ」

「イヤッ! ヴォルがいないなら行かない! 怖いのっ! 行かないで!」

「お嬢様が怖がらなくて済むようにするために行くんですよ」


 僕は戦場へと向かった。

 それなりに活躍はしたはずだった。

 それでも数は圧倒的に不利。僕の領地はあっという間に負けてしまったけれど、なんとか一人戦場から逃げ出すことは出来た。

 逃げて、逃げて、お嬢様が嫁いだ領地に辿り着いたのは僕が戦場に出てから一年以上過ぎていた。

 そこで僕が見たのは、敗戦国の奴隷として町の広場で兵士たちに陵辱されるお嬢様の姿だった。

 僕のいた国は属国として、隣国の奴隷のような扱いを受ける国になってしまっていた。

 僕は人が憎くなった。


 そこから少しして僕は別の国でヴォルアランドという名で薬師をした。

 一年半で魔物の連鎖襲撃(スタンピード)に襲われて滅びた。

 僕は魔物も憎くなった。


 第三大陸の東。アルマリノ王国が出来るより前の国で、僕はヴォルガロンデを名乗って冒険者を始めた。

 二年ほどして僕のランクはAランクまで上がって成人を迎え、僕は……突然管理者代理代行になった。

 どうやら前世から貯めていた転生ポイントが一定まで達したらしい。

 そこからは一気に名を上げていったんだ。

 そして神聖国でレガルディの家名をもらったことでヴォルガロンデ•レガルディが生まれた。

 僕は、引き篭もった。


「ヴォルガロンデ様、指示された素材を採取して参りました」


 僕の配下の一人、ゼレディールが魔法の鞄を近くの机に置く。

 彼は魔人に進化した人間だが、僕の指示を待ってばかりで友と呼ぶには距離の離れ過ぎた相手だ。それでも役には立つし、研究に必要な素材の採取をお願いすることは多い。


「ゼレディールも少し休んでていいよ」


 すぐ近くにいられると心が休まらないのでさっさと指示を出して遠ざける。

 最近は錬金術と調合で様々な薬品や金属を生み出しているけれど、管理者代理代行になったおかげかそれとも元々持っていた神の祝福『製造者』のおかげか、とにかく順調に製作が進む。

 それらをまとめて書に記し、それを元にまた研究や製作に入る。

 金属や薬品の研究を一通り試した後は魔道具作りを。この頃世界中を回って魔道具作りに欠かせない宝石を探していた。

 竜王たちに出会ったのはそんな時で、引きこもる前に比べて世界は随分様変わりしていることにも気付く。


「ねぇゼレディール。僕はどのくらい引き篭もっていたんだい?」

「ヴォルガロンデ様があの第四大陸の研究所に入って錬金術の研究を始めたのは八百年前です」

「…嘘、でしょ?」

「私の身体もだいぶ衰えが見え始めております。このままではお暇をいただく日も遠くないかもしれません……残念ですが」


 彼は友ではなかったけれど、それでも長く生きていろんな話をしたいと思っている。

 僕は第二大陸に新しく作った研究所でさらなる進化や成長を促す研究を続けることにした。

 彼をなるべく長く生きさせるには可能な限り元の肉体を使わせないことが一番良さそうで、精霊のような身体を作って精神を移してやることがもっとも効果的だとわかった。

 僕は何のためにこんなことをしているのか、だんだんわからなくなってきていた。

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