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第528話 階の脚

コミカライズもよろしくお願いします!

お盆期間連続投稿!

 様々なことをやり終え、準備を整えた上で帝国内でも最も北側にある町『シリミューナ』へとやってきた。

 ここに来る前に一度一人で来て、町の近くで位置登録をしてから奥さん達全員を連れて転移してきている。

 ここまで来てのんびりするつもりもないので、町に寄ることもなくゴーレム馬車でマリナから教えてもらった場所へと向けて走り出した。

 マリナが現地にいればその場所を目印にして転移することが出来るけれど、彼女を行かせるよりも私が移動した方が時間の無駄にならないと判断した結果だ。

 転移してきてから五日、荒涼とした台地を走り続ける。今は初夏なのでところどころに雪が残っている程度だけど、真冬だったら雪を掻き分けながら進むことになっただろう。

 途中何度かゴブリンの群れから襲撃を受けたり、オークの集落を横切ったせいで襲われたりしたけれど、私達の相手になるわけもなく返り討ちに。

 そして六日目に入った頃、空の向こうに見慣れない物が見えるようになってきた。


「あれって……岩が、浮いてる?」

「帝国北部には島が浮いてる地域があると聞いてたけどこれは……凄いね」


 まだ遠くではあるけれどいくつもの岩の塊、島が空に浮かんでいる。

 いくら魔法がある世界とはいえ、物理法則を無視したかのような光景に息を飲んだ。


「その昔、天使族もあの浮島にいた。住めなくなって第五大陸に移り住んだ」

「今から二千年くらい前の話だと、集落の老人たちから聞いたことがあります」


 キュピラとネレイアの話からすると、あの浮いてる島には人が住めるくらいの大きさのものさえあるということになる。

 しかしネレイアの言う『住めなくなった』理由は聞いても答えてくれず、ただ黙って浮島を見つめているだけだった。

 なんだか妙な雰囲気になりそうなところだったけれど、ミルルがパンと手を叩いて「そういえば」と前置きしながら口を挟む。


「マリナの話ですとここからあと三日ほどで『階の脚』に到着するそうですわ」

「おそらくこの馬車ならば明日の夜にでも到着するでしょう」


 ミルルとステラに言われて頷くと、私はまた馬車の中で身体を倒した。

 地面からの振動を完全に遮断し、全方位の視界が確保されているのでとても快適に過ごせる。だからこそ馬車の座席を撤去してフラットな寝台のみにして、私達はのんびりと景色を眺めたりお喋りしながら荒涼とした台地を進んでいく。

 ゴーレム馬車は夜でも問題なく進めるので、交代で寝ながら。

 さすがに危ないので服を脱いで励んだりはあんまりしなかったよ。

 あんまり、ね。

 しないという選択肢はありませんとも。


「ユーニャ姉様、姉様がだらしなく笑ってますけど……」

「あぁ……あれは発作みたいなものだから……」

「あ、ネルが選ばれてしまいましたわ」

「はぁ。さすがにあの子一人じゃ可哀想だもの。私も付き合うわ……次の担当も決めておいた方が良いかもしれないわね」

「リ、リーライン様……すみません。私とチェリーツィア様は先ほどの余韻が……」

「あ、あう……う、ぁ……ステ、ラと……頑張った、の……」

「……結婚式前に凄く我慢してたからその反動じゃないかな」

「眷属たちやランカ、ムースとは遊んでいたみたいですけどね」

「……初夜の時に言ってたけど、私達からじゃないと補給出来ないものがあるんだって……セシルの言うことはたまに良くわかんないんだよね」


 うん? なんか奥さん達がぼそぼそと私に聞こえないように話してるみたいだけどなんだろう?

 ところどころしか聞こえないからよく聞き取れない。

 というか、それよりも今は腕の中にいるネレイアとリーラインを愛でつつ二人の鳴き声を堪能することに神経を集中してるせいで他のことはシャットアウトしてたよ。

 というか話しながら赤くなってるのはなんでだろ?

 混ざりたいならこっち来ればいいのに。


「んっ! ……セシーリア、何、余所見、してるのよっ?!」


 他の奥さん達へ目を向けていたら隣にいたリーラインが唇を合わせてきた。

 ちょっと意地になってるところがすごく可愛い。

 普段からクールで愛情表現もとても可愛らしいものばかりなリーラインからのキスは私としても嬉しいので、情熱的にお返しをしておこう。

 うん、熱に浮かされて赤くなった彼女の耳に煌めくデマイトイドガーネットが凄く映えて美しい。

 反対側にいるネレイアはすっかり蕩けてしまっているけれど、彼女が首に巻いているグリッドナイトのチョーカーがそれをキリッと引き締めてくれる。

 うんうん。これでまだまだ愛でられるよ。


「チェリー、大丈夫? 凄く鍛えてる貴女をここまでヘロヘロにするって……」

「セ、セシルの体力はお化けなの……」

「私たちも、ご奉仕差し上げた、はずなのですが……」

「こうなるとキュピラとネレイアも娶ってくれて助かったかもしれませんわね。わたくし達だけではきっとセシルを満足させられませんもの」

「ホントだよ。次は……私が行くよ。その次はミルルとキュピラにお願いね?」


 左右から聞こえる甘い声にかき消されてユーニャ達が何を話し合っているのかよく聞こえなかったけれど、奥さん達が仲良くしてくれるのは私としても嬉しい限りだよ。

 うんうん。やっぱり目的地に着くまでいっぱい愛でてあげなきゃね!

 そして翌日の日が落ちた頃、私達は目的地である『階の脚』へと到着した。




 『階の脚』は一見すると石造りの住居のようなものだった。こういう遺跡のようなものは世界中にあるので私も見たことはある。

 中に入れば当然真っ暗だろうから夜でも気にせず入ることは出来るのだけど、現在外にテントを張って休憩している。

 折角だから体力を万全にしておきたいからね。

 さすがにここまでかなりの距離があったせいか目的地に到着する頃にはみんなぐったりしていた。

 私は一人でテントを用意すると、馬車から一人ずつ運び出してベッドに横たえてから洗浄(ウォッシュ)で綺麗にしてあげる。

 そしてテーブルの上に魔法の鞄に入れていた食料を出しつつ、テントから出て一人で火を熾した。


「なんか、こういうの久し振りだなぁ……子どもの頃は良く一人で野営したっけ」


 あれは……リードの家庭教師をしていた頃、冒険者としての活動に力を入れてた時かな。

 リードの護衛も含めた仕事だったから日にちのかかる依頼はあまり受けられなくて、数えるくらいしか野営はしてないけど。

 火の上に鉄の棒を組み立ててケトルを吊るす。


「あぁ、そういえば貴族院二年次の実地演習でリードと二人で野営したこともあったっけ。懐かしい」


 野営以外でも村にいた頃なんか捕まえたガーキンっていう鳥をその場で捌いて食べたりもしてたなぁ。

 残りをその日の夕飯にしたりさ。


「……父さんと母さんが亡くなってから、もうすぐ十年か。ふふっ……あの時は、まさか私が結婚することになるなんて思わなかったけどね。しかも同性とだよ」


 思えばあの頃よりもずっと強く……本当に、世界で一番って言えるくらい強くなった。

 それもこれも、ヴォルガロンデに会うために。

 そして私がたくさんの宝石に囲まれてキラキラな生活をするために。


「何を一人で感傷に浸っているのだ?」


 ポンッという間抜けな音を立ててメルが現れた。

 こうして呼び出しもせずに現れるのは久し振りだったりする。


「私、というよりメルの旅の目的もそろそろ達成出来そうじゃない」

「うむ。わっちもセシルを誘導してきたのだが、こうしてヴォルガロンデに辿り着こうとしているのは感無量なのだ」

「私はヴォルガロンデに会ったらとりあえず文句言う。ステラのこともそうだけど、とにかくいろいろ」


 性格の悪い仕掛け作ったり、微妙に痒いところに手が届かないような資料残したり、挙句メルという役に立たないオリジンスキルを最初に寄越した上に自分のところに来るよう誘導させたり。


「管理者には私も興味はあるけど、イマイチよくわからないし。神にはなるつもりがないのは確定だけど」

「神になどなったら眷属は持てぬのだ。物質的な欲も無くなり世界を運営するための装置になり下がるだけなのだ」

「よくそんなのなりたいと思う人がいるものだね」

「普通は説明などされないのだ」

「詐欺じゃん」


 まぁともかく。これでようやく一段落出来る。管理者がどういうものかはまだよくわかってないけど、それでも区切りにはなるはず。


「もう、すぐそこに……」

「『上』で何が待ち構えているかはわからないし、セシルも早めに休むのだ」


 また間抜けな音を立てて黄色いボールは消えていった。

 メルにいいように誘導はされたけど、私にはいろんな欲がある。

 いつかそんなものも無くなるかもしれないけど、無くならないかもしれない。

 だからこそ今あるこの欲望を満たすことには全力を出していかなきゃね。


「それじゃ、そろそろ休もうかなぁ」


 独りで火を眺めているうちにケトルの蓋がカタカタを音を立て始めたので、私は鉄の棒ごと火から下ろすとケトルの中に魔法の鞄に入れていた乾燥ハーブを入れて蓋をした。

 シンプルに疲労回復のためにミントを入れたケトルは爽やかな香りを立てている。

 しばらくして全員分のカップをお茶を注いだ私は彼女たちの待つテントの中へと入っていった。


 翌朝。


「んーっ! はぁっ、よく寝たのっ!」

「チェリー姉様寝言凄かったです」

「えっ?! 私何言ってたのっ?!」


 テントの前で大きく伸びをするチェリーに対しキュピラがジト目で欠伸をしていた。


「良い天気、ではありませんが遠くまでよく見渡せますね」

「そうね。けれど……何度見ても空に島が浮いてるのは落ち着かないものね」

「私の記憶でも浮島が落ちたという話は聞きませんので大丈夫です、きっと」

「……ステラ、言い切らないと余計に不安を煽るだけよ? 私もそんな話聞いたことないけれど」


 いつもよりは賑やかだけど楽しい朝を迎えられた。

 テントを片付けてから朝食を済ませた私達はいよいよ目の前にある階の脚へと踏み込もうと入り口へと集まる。


「扉などはありませんのね?」

「どのみちヴォルガロンデの技術が使われた扉があるだろうしね。普通の扉はほとんど意味ないんじゃない?」


 彼の扉は大量のMPを消費して鍵を開けるものだ。

 ひょっとしたら今のステラなら開けられるかもしれないけれど、その先何があるかわからない以上は下手に消耗することは避けたい。


「それに階の鍵をどこで使うかわからないの」

「慎重に調べるしかない。罠なら私がわかるから先頭は任せて」


 ネルは有無を言わさずにさっさと中へと入っていくので、私達もそれに続く。

 階の脚の内部は薄暗い洞窟そのものだったが、外に比べるとやや気温は高いようで湿度はそれなりにあるようだ。

 ところどころ洞窟の壁を伝って染み込んだ雨水らしきものが流れて水溜りを作り上げていた。

 当然灯りなんかもないけれど、魔法で灯りを作れる者が何人もいる私達にとって暗い洞窟自体に脅威は感じられない。

 先頭を行くネルの後ろはキュピラ。続いてチェリー。ステラ、ミルル、リーライン、ユーニャ、私となる。

 遺跡のようなものだから警戒はしていたけれど、結局罠らしいものは一つも無かったので、私達はあっさり一つ目の扉に到着した。


「やっぱり出てきたね」


 私が扉の取っ手を掴むと、ガクンと力が抜けたような感覚を覚える。これはこの扉の取っ手が掴んだ者の魔力を吸収して一定値を超えた場合にのみ鍵を開けるという仕組みだ。

 ただヴォルガロンデの設置した扉では必要とされる魔力量が桁違いなので、ほとんどの人にとっては開かずの扉になるわけだ。

 とはいえ、私なら問題なく……あれ?


「……半分くらい持っていかれた……」

「それ、普通の人なら何万人いても無理なんじゃないの? あ、ここに穴が空いてるよ?」


 ひょっとしたらこの穴に魔石を入れて足りない魔力を補えってことだったのかな?そう考えればアドロノトス先生が言ってた魔石を用意しておけって意味も通じる。

 結局私は自前のMPでなんとかしちゃったけど。

 ステラにやらせなくて本当に良かったよ。

 開いた扉を抜けて進むこと数分。

 道は曲がりくねっていたけれど、一本道だったのですぐにまた次の扉が現れた。

 結局そこでもまたMPを抜かれてしまい、折角回復したのにまた半分くらいまで吸われてしまうことに。

 やや苛立ちながらそれでも進むと、三つ目の扉が懐かしい顔と共に現れた。


「久し振りじゃの、セシル」


 薄暗い洞窟の中、灯りもつけずに立っている人物。それは十年振りに再会したアドロノトス先生だった。

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>「管理者には私も興味はあるけど、イマイチよくわからないし。神にはなるつもりがないのは確定だけど」 >「神になどなったら眷属は持てぬのだ。物質的な欲も無くなり世界を運営するための装置になり下がるだけな…
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