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第54話 次の依頼

 翌朝、私は朝食を食べるとすぐに外出することに。ファムさんには朝食中に連絡済みだけど「気を付けてくださいね。明日はリードルディ様への訓練がありますから早めに戻ってくるようにしてください」と声を掛けられた。まるっきりお姉さんのように接してくれるファムさんには感謝感謝だよ。優しい家族は私にとって一番大切と言っても過言ではないのだから。


 領主館を走り出て冒険者ギルドに急いでいるが、街は既に活気が溢れてきている。この世界の朝は本当に早いので二の鐘、つまり朝六時にはみんな仕事を始めることに疑問がないらしい。村にいたときは日の出とともに起き出して、日の入りとともに就寝している家もあったからそれに比べたら遅いのかもしれないけど。


 ギルドに着くと予想通り既に大量の冒険者達で混み合っていて入り口にすらなかなか辿り着けない状態だった。

 そして大半が男性で無骨な鎧に身を固めている人、魔法使いなのかローブを着てる人、急所にだけ革鎧を付けた身軽な人等々。人によって様々だ。

 中には女性もいるけど、男性顔負けの筋肉に覆われてる人が大半のようだ。

 そんな中に昨日のカイトを見つけた。

 彼は昨日と違い今日は同行者がいるようだ。


「おはようカイト」

「ん?あっセシル!お前も早くしないといい依頼を取れなくなっちまうぞ?!」

「ううん、私が今日早く来たのは人を探すためだからね。依頼は残ってるものか常に出てるやつだけでいいよ」


 そう、今日早く来たのは昨日ヴァリーさんとのやり取りをしてる時に助け船を出してくれた男性冒険者を探すためだ。

 名前も知らないし今日来るかもわからないしひょっとしたら昨日の内に街を出てしまっているかもしれないけど、せめてもう一回くらい会って改めてお礼くらいは言いたいものだ。


「ふぅ…。なんとか良さそうな依頼を受けてこられたぜ…。あれ?セシル、まだいたのか?」

「うん、なかなか見つからなくてね」

「ふぅん…?あ、そうだ。これから仲間と一緒に街の外に出るんだけどお前も来ないか?」

「仲間ってさっき連れてた女の子?」

「なんだ見てたのかよ。あぁリリアって言って魔法が使える頼もしい奴なんだ。まぁ餓鬼の頃からの腐れ縁なんだけどな」

「そっかぁ。折角のお誘いだけどさっきも言った通り人を探してるからちょっと難しいかな」


 カイトと話ながらも私はギルド内を行き交う人をチェックして昨日のお兄さんがいないか探している。これだけの人がいるから見落としとかはあるかもしれないけど、手掛かりはここしかないし粘るしかない。


「さっきもそんなこと言ってたな。探してるのって誰なんだ?」

「…それが名前も聞いてない人なんだけどね。革鎧を着てて、緑色のバンダナを巻いてる若い男の人ってことくらいしかわからなくて」


 カイトの問いに答えるにも曖昧な回答にしかならないが、口に出すことで案外物事というのは進んだりするものらしい。

 その証拠にヴァリーさんが私を見つけて話し掛けてきた。


「おはようセシルちゃん。昨日はまんまとやられちゃったわ」

「おはようございますヴァリーさん。その言い方だとまるで私が悪い人みたいじゃないですか」

「実際私から利益を奪っていった悪い子だからね。あ、それよりさっきその子と話してるの聞いたんだけどシャギル探してるんだって?」

「シャギル?」


 ヴァリーさんから聞いたことのない人の名前が出てきて首を傾げるが、彼女は呆れた顔をしたかと思うニヤリと笑って手の平を上に向けて私に出してきた。


「セシルちゃんに昨日入れ知恵した性悪冒険者のことよ。彼の今日の予定なら私知ってるわよー?」


 つまり教えて欲しかったら情報料払えってことか。しかし昨日の手口を思えば彼女のことだから「今日はまだ来てない」とだけ言ってお金を巻き上げかねない。

 この人とは今後もこういう付き合いになるのだとしたらちょっと面倒臭いね。

 それでもまだ来てないという情報が得られるのならそれはそれで必要なことかもしれない。

 私は彼女の手に銀貨数枚を乗せてあげた。


「毎度!シャギルはね、西のローヤヨック伯爵領にある廃坑の調査に行くことになってるわ」

「ローヤヨック伯爵領の廃坑?」


 なんか聞いたことない地名が出てきたね。


「ローヤヨック伯爵領はここクアバーデス侯爵領の隣にあるんだけど、その廃坑はちょうど境界線上にある鉱山だったのよ。クアバーデス侯爵領の鉱山はまだ多少鉱石の産出が見込まれてるんだけどローヤヨック伯爵領側ではもう何年も鉱石が産出されてなくて、先日廃坑になったんだけど残りカスを狙った盗賊が入り浸ってるってギルドに依頼が来たの」

「その依頼をシャギルさんに回したってこと?」

「そういうこと。けど出発は今朝のはずだから今頃は西門のあたりでパーティーメンバーと待ち合わせしてるんじゃない?」


 おぉ?思った以上にまともな情報だった。

 私が驚いていたのが顔に出ていたのかヴァリーさんはドヤ顔でさも「してやったり」という顔を浮かべて私を見下ろしている。


「情報を売るときはちゃんと信用できるネタを渡すものよ。ほら、探し人の情報が入ったんだから急いで行きなさいな。モタモタしてると彼等も出発しちゃうわよ」

「そうだね。うん、行ってきます」

「いってらっしゃい」

「じゃあなセシル」


 ヴァリーさんとカイトに見送られてギルドを後にすると急いで西門へ向かうことにした。

 ギルドから西門までは普通に走って20分くらいかかる。私はまだこの街に慣れていないので一度大通りに出てから分かりやすい道で行く必要がある。多分裏道を使えばもっと早く着くのだろうけど…仕方ない、可能な限り急ぎたいからショートカットしよう。

 目立たないように裏路地に入ってすぐ足に力を入れてジャンプして屋根の上に上がるとベオファウムの街を見渡せるようになる。領主館の屋根からならそれこそ一望できるだろうけどここは民家の屋根なのでそこまでではない。それに今必要なのは西門なのでそれさえ見えればいい。

 ざっと見渡して方角を確認すると魔人化を使って屋根を次々に飛び移っていく。まるっきり映画か時代劇の忍者のような行動だけど、私のトンデモ性能ならなんでも有りだし気にしていられない。

 数分屋根の上を飛び移っていくと西門には簡単に辿り着いた。次から急ぐ時はこの方法で行こう。なるべく目立たないように隠蔽スキルも使っておいたし、見付かることはそう無いはずだ。

 西門について辺りを見回すと馬車の周りに集まる数人の人集りの中に昨日見かけた緑のバンダナを巻いた男性冒険者を見つけた。


「お?昨日の…お嬢さん」


 シャギルさんは私に気付くと人集りの中から出てきて近寄ってきてくれた。その顔は嬉しそうでもあり迷惑そうでもある。

 こんな朝早くからこんな子どもが訪ねてきたんだ。そりゃ厄介事の匂いが真夏のゴミ捨て場のごとく臭ってくるだろう。


「おはようございますシャギルさん」

「あ、あぁおはよう。なんで俺の名前を?」

「ヴァリーさんに聞きまして」

「なるほど。それでお嬢さんは俺に何か用かい?昨日話した買取商人の紹介でもしてほしいのか?」

「私の名前はセシルっていいます。昨日は助けてくれてありがとうございました」

「いやいや、どういたしまして。結局あんまり助けたことにはなってないけどね。それで?」

「それでって…それだけ、ですけど…」

「は?」

「え?」


 私とシャギルさんはお互いに同じ角度に首を傾げて見つめていた。だってお礼を言いたかっただけなんだし、他になんと言ってみようもない。


「ぶっ、はっははははっ!本当に変わったお嬢さんだ。改めて自己紹介させてくれ。Cランク冒険者のシャギルだ。専門は調査や斥候で今回も廃坑をアジトにしようとしてる盗賊共の調査をすることになってる。よろしくな」

「セシル…って名前はさっき言いましたね。専門かどうかわからないけど昨日登録したばっかりのFランク冒険者です。野草や鉱物の採集なら得意です」

「ほう…採集か。もし今後何かの依頼で必要になりそうなら声を掛けさせてもらうよ」

「はい、私も何か調べ物をしたいときにはシャギルさんにお願いしますね」

「おう、そんときゃ頼むな!それじゃ俺達はもうすぐ出発だからまたな」


 そういうとシャギルさんは片手を上げて、また馬車近くの人集りに戻っていった。

 私もそれを見送ると今度は普通の道からギルドへと足を向けて歩き始めた。

 さて、今日も頑張って採集してこようかな!




 ギルドへ戻ると既に冒険者の人混みは解消されて寝坊でもしたのか慌てて駆け込んでくる人以外は落ち着いてテーブルについて打ち合わせをしていたり常に出ている依頼と睨めっこしていたりと昨日登録に来たときと同じような空気だった。

 つまりは落ち着いているってことだけどさっきの活気がある状況もなかなかに面白かった。前世の通勤電車のようで毎日になるとかなり嫌気が差しそうだけど。

 そんななかリコリスさんがいるカウンターへ一直線に向かう。彼女も私に気付くと手を振って微笑んでくれた。


「おはようセシルちゃん」

「おはようございます、リコリスさん。今日もよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ。さて…この時間だからもうめぼしい依頼は残ってないんだけど、ブルーノさんからセシルちゃんにやってもらうようにって言われてる依頼があるからそれを説明しちゃうね」

「私に、ですか?」

「うん。ほら、昨日薬草を纏めて納入したでしょ?あれでマスターが試してみろって。これを達成したらEランクに上げていいって言ってるのよ」

「ふーん…?どんな依頼なんですか?」


 私はリコリスさんの前の椅子に座って彼女がカウンターの下から出してきた依頼書を一緒に見た。

 そこの書いてあったのは「ノーラルアムエの花の収集」とあり、数は最低五本。依頼達成時の報酬は金貨十枚で過剰分は一本につき金貨一枚…って随分破格な金額だ。


「でも昨日行った森なら誰でも行けるんじゃないの?」

「うーん…この花はあの森のかなり奥の方にあるのよ。だから相応の戦闘能力がないと行けないし、仮に花を手に入れても戻ってこれないかもしれないしね?」

「戻ってこれない?」

「そりゃそうよ。森の深いところに潜ったりすると方向感覚が無くなってしまうのよ?何かしらの能力がないとまず迷子になって森の中でアンデッドになっちゃうからね」


 恐ろしいことをさらっと言ってきたねっ?!

 しかし方向を調べる能力なんてないし、何か考えないといけないね。依頼は受ける方向で問題はないけど、あまり森の奥に行くなら何かしらの手段を講じておこう。

 そう考えながら私はリコリスさんに依頼受諾の返事をするのだった。

今日もありがとうございました。

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