第520話 結婚式
コミカライズもよろしくお願いします!
ソフィアと一緒に会場へ入った私はフレアのオブジェ前に設置した台の上に結婚指輪が入ったトレイを置いた。
そのトレイの隣には一枚の紙。
『結婚誓約書』と書かれたもの。アルマリノ王国にそんなものはなく、これはあくまでも私が勝手に作ったもの。
なにせアルマリノ王国では同性同士の婚姻は認められていない……事実婚としてはあるし、割と同性同士のカップルも多いけれど、国としては認めていない。そのため婚姻届を提出出来ないのだ。
ただ事実婚としては存在しており、大公である私が同性の奥さんを何人も抱えているのは国内で有名な話なので誰もがユーニャ達のことを私の奥さんだと認めている。
「もちろん、今でも本気の私に一撃入れたら結婚してもいいと公言してるけどねぇ……結局人類種では誰も達成してないんじゃ?」
けど……いいよね。
私は宝石を身につけた彼女達をとても愛しているから。
「セシルママの全力に一撃って、この世界壊せるくらいじゃないと無理でしょ?」
「それもそうだね。ソフィア、そろそろユーニャから順番に呼んできてくれる?」
「はあい。みんな連れてきたら、あとは出てくるまでちゃんと大人しくしてるね!」
「あはは……お願いね」
私の苦笑いに対してソフィアはニコニコと満面の笑みで教会から出ていった。
一人、ステンドグラスを見上げる。
ヴォルガロンデが何を思ってこんなところを作ったのかは知らない。
でも折角だからしっかり利用させてもらう。
散々振り回された数年だけど、それももう終わる。
これから先どうなるかはわからないけど、みんなと一緒にいたいと思う心に偽りはない。絶対に。
あのステンドグラスに描かれているような女性たちみたいにいつもみんなと一緒にいられるように。
「セシル」
教会の扉が開いてユーニャが来た。
彼女の後ろで扉が閉まる音を聞いてから彼女の方へと振り向くと、女神がいた。
「ユーニャ……すごく綺麗だよ」
「うん……ありがとう。セシルも綺麗だよ」
マーメイドラインのドレスに身を包んだユーニャはその女神のような妖艶なスタイルを隠すことなく全てさらけ出している。
ただし見事過ぎるバスト部分には大きめのフリルをあしらって、露出し過ぎないようにしているようだ。
完璧なボディラインを描くユーニャを今すぐ押し倒したい気持ちを必死に押し殺して、彼女に右手を差し出すとゆっくりと歩いてすぐ近くまで寄ってきた。
渡しておいた装飾品を全て身に着けてくれており、全体的に青系統の色で纏まっている。
首にかかる大粒のサファイアも、腰に巻き付くウェストチェーンのパライバトルマリンも美しい。
しかしそれを身に着けるユーニャの引き立て役にしかなっていないほど、今のユーニャは本当に美しい。
「こんな綺麗なお嫁さん貰っていいのかな」
「貰ってもらわないと困るよ。私、セシルとしか結婚する気ないんだから」
「うん、ありがとう」
そして私はユーニャの差し出した一輪の百合の花を受け取り、結婚誓約書が置かれた台の横に設置した花瓶へと挿した。
「セシル、お待たせいたしました」
続いて入ってきたのはミルル。
彼女はプリンセスドレスタイプで全体にフリルをあしらって可愛らしさを演出している。
十八から見た目の変わらない彼女はいつまでも幼さが残りつつ、大人の色気も纏う美少女だ。
上半身から薄いフリルを何枚も重ねたドレス。髪はアップにして耳を露出しているせいかいつもより大人びて見える。
そこにダイヤモンドとルビーで作ったイヤリングが。そして頭には大粒のレッドスピネルとガーネットをあしらった豪著なティアラが彼女の銀髪を彩っていた。
「素敵だね、ミルル」
「えぇ、貴女もよセシル。主従として、友だちとして、恋人として……そしてこれからは婦婦として、よろしくお願い申し上げますの」
「うん。いつまでも貴女を離さないから」
「望むところですわ」
そうして差し出された百合の花を受け取ると、ユーニャのものと同じ花瓶へと生ける。
「セシーリア様」
次はステラ。
彼女は私と同じAラインドレス。しかしケープを羽織る私と違い、胸から上は素肌のままだ。しかも背中はほとんど全て露出している。
なのに彼女の透明感のある肌が全てを調和させて色気など感じさせない芸術品にしてしまっている。
胸元に光るセイシャライトのペンダントとコスモス•グリッドナイトのブローチが良い存在感を出しているのに、やはりステラが身に着けるだけで本来以上の美しさを顕していた。
彼女は私の前にやってくると、軽く頭を下げて微笑む。
「一使用人でもある私がこのような幸せを得るなど、本来良くないと思います。それでも貴女様のものとして、今後もお仕えしたく……そしていかなる時もお側にいられることが私の幸せにございます」
ステラも一輪の百合の花を右手で差し出してきた。
その手には爛々と輝くブラックオパール。
「使用人だからとか関係ない。私が貴女を愛しているの。ずっと側にいて?」
「……こんなに、幸せで、良いので、しょうか……。私も、セシーリア様を愛しております」
彼女の百合の花も受け取り、花瓶へと挿す。
これで三人。
みんな綺麗な宝石を身に着けて、本当にキラキラしてて……最高だよ。
でも、まだ半分ですらない。
「セシーリア」
そしてやってきたのはリーライン。
スレンダードレスを身に纏う彼女はその身体の線にメリハリはないけれど、なんら恥じる要素がない美の化身。
全体的にほっそりとしているけれど、指先一つ取っても長く美しい。
大きなスフェーンが光るブレスレットを嵌めた手を伸ばして私へと迫る彼女の額には蔦模様に加工したサークレットを。
リーラインの心が全て籠もっているような大きなエメラルドのペンダントは彼女の瞳と相まって、深緑の森を思わせる美しさがある。
「私の全てを貴女に捧げるわ。貴女の側にいられるだけで幸せよ」
「うん。確かに受け取ったよ。私もリーラインがいないと幸せになれないから、ずっと側にいてね」
凄く情熱的なことを言っていたのに、私の言葉に顔を真っ赤に染めるリーラインはやはりどこを見ても綺麗としか言えない。
そして百合の花を生けた。
さて次は。
「セシル!」
元気いっぱいのチェリー。
出会った当初は短かった髪も今はミディアムくらいまで伸ばしていてとても可愛い女の子になっている。
世界の頂点の一人と言っても過言ではない彼女だが、今日はエンパイアドレスでの登場だ。
ゆったりとして動きやすいドレスは普段戦闘ばかりをこなす彼女によく似合う。
胸元に大きめのリボンがあるせいで胸がぺったんこでも気にならず、また可愛らしい雰囲気を醸し出している。
更に黄色系統の宝石をふんだんに使ったおかげで彼女の元気いっぱいなところをちゃんと表現出来ていると思う。
右腕に着けたファイアオパールのバングルが燦然と煌めき、私に挑戦状を叩きつけるかのように一輪の百合を突き出してきた。
「わたっ、私はっ! セシルより弱いのっ! でもっ、絶対、いつかセシルより強くなって貴女を守るのっ! 私はっ、セシルのために戦うのっ!」
「強いよ、チェリーは。私は貴女みたいにそんなにはっきり守れると誓える強さが羨ましい。だから、その強さを私にも分けてほしい。いつまでも、私の隣で」
チェリーの百合も花瓶へと挿した。
真っ赤になったチェリーはとても可愛い。
私よりずっと年上だけど、いつまでもどこまでも真っ直ぐな彼女は本当に素敵な女の子だと思う。
「姉様」
「セシル姉」
最後に入ってきたのは双子のキュピラとネレイアだ。
一人ずつってソフィアには言っておいたんだけどね?
「すみません姉様。ソフィアちゃんに無理を言ってネルと一緒に来てしまいました」
「セシル姉、ソフィアを怒らないで」
「……大丈夫だよ。あの子が何も考えずにそんなことするはずないからね」
二人はお揃いのミニドレス。
ただし全身がレースで作られていて、おそらく一番時間がかかったに違いない。
彼女達の背中から覗く小さな羽はいつもと違って小刻みにパタパタと動いている。
キュピラが身に着けているのはピンク系統の宝石。パパラチアサファイア、クンツァイトをあしらい、胸元にはダブルのペンダントでルベライトとモルガナイト。キュピラの真っ白な髪に着けたヴェールをムーンストーンの髪留めで、そして右手の小指にネレイアとお揃いのピンキーリングをオパールで。
対してネレイアはアメジスト、パープルスピネル、パープルサファイアをメインに。
彼女の髪留めはラブラドライトで作ってある。
ダークグレーの髪に黒い羽を持つネレイアによく似合っていて、右手のピンキーリングはアイオライトをあしらった。
「二人とも可愛くて素敵だよ」
「あっ、ありがとうございます……。姉様、キューはこれからもずっと姉様と共に歩みたいと思います。どうかお側に……たまにで良いのでご寵愛をいただければ幸せになれます」
「たまになんて言わせないから。特に今夜は覚悟してね?」
「あ、あうぅぅぅ……」
キュピラから百合の花を受け取り、ネレイアへと向き直る。
「ネルは難しいこと言えない。セシル姉のこと好き。ずっと一緒にいたい。どうしたら伝わるかわからない。でも本当で」
「伝わってるよ。安心して。貴女が思うより、私はネレイアを縛り付けるつもりだから」
「うんっ。ネル、それが何より嬉しい」
そしてネレイアからも百合の花を受け取った。
私はそれらも花瓶へと生けると、七輪の百合を束ねて持ち胸元へと引き寄せる。
「私、セシーリア•ジュエルエースは彼女達七人を妻と認め、いかなる時であろうと全力で愛し続けることを誓います。そして彼女達の誓いの百合をここに捧げます」
もう一度百合を花瓶へと生けると、結婚誓約書を一瞥した。
そこに書かれているのは、よくある誓いの言葉。
しかし、私達の長過ぎる寿命のためかいくつか追記がある。
今後妻が増えようとも変わらず愛し続けること。
誰かの生が終わろうとも愛し続けることに変わりないこと。そしてそれを他者へ代わりを求めないこと。
私はもう一度それらをじっくり読んでから、一番上に自分の名前を書いた。
「ユーニャ、ミルル、ステラ、リーライン、チェリー、キュピラ、ネレイア。貴女達を生涯愛し続けることをここに誓います。同じ誓いを立てるのならばこの誓約書へ名前を」
当然のようにみんな、躊躇うことなく自分の名前を書いていく。
この紙に魔法的な効果なんてない。
でも、これ額に入れてずっと飾っておくんだ。
私の宝物にする。
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