第519話 準備完了!会場到着!
コミカライズもよろしくお願いします!
マスタードライアドとの戦闘はほぼ一方的だった。
そもそも私とではレベルが違いすぎるし、彼女はeggも持っていない。
最初こそは植物を操る能力に驚きはしたものの、まさか私の四則魔法植物操作で相殺出来てしまったためである。
そして彼女は魔石となって私の手の中で輝いていた。
「セシルママ……」
「とりあえず私の力だけでどうにかなるものでもないし、一度帰ろう」
私が必要としていたのは魔石だったのだが、マスタードライアドは砂漠のオアシスから周囲の魔力や栄養なんかを根こそぎ奪っていたらしい。
そのせいで昔は多少の草木があったこの地もいつの間にか砂漠と化してしまった……と、後日リーラインの母親である現エルフの国の女王陛下から聞いた。
彼女はせめてこのオアシスを守りたいと言っていたけど、出来ればマスタードライアドによって砂漠化する前の状態に戻してあげたい。
そしてそれを行うことを前提に彼女は魔石となって私にその身を預けたというわけだ。
さすがに砂漠をすぐに緑豊かな地にすることは私でも出来ないけど、それが可能になりそうな人達に心当たりはある。
早速屋敷に戻って相談することにした。
屋敷に戻った私達はアイカとナナの師弟コンビに声を掛ける。
彼女達も実験や能力の検証を行うために付き合ってくれるそうだけど、さらにもう一人。
「とりあえずウチら三人でやってみるさかい、セシルは結婚式の準備しとき」
「ごめんね。この埋め合わせはするからさ」
「ほっほう? ほな期待しとくわ。まぁこの子がおったらすぐ終わる思うけどな」
そうアイカに背を叩かれてタタラを踏んだのはクローディアだ。
彼女の神の祝福『天気余剰』はどこでも過剰な天気を呼び寄せる能力。砂漠で雨を降らせるくらい朝飯前のはず。
なにせ真夏に大雪を降らせたことがあるくらいだからね。魔渇卒倒を起こして倒れたけど。
そんなわけで彼女達に丸投げした私は研究室に籠もってアドロノトス先生から言われていた強い魔力の籠もった魔石の用意に没頭することにした。
基本的には複合ダンジョン下層にいるボス達の人工魔石と人工金属を使って作成していく。
これもヴォルガロンデの残した資料にあった技術であり、今後もっと私の戦力を増強するための悪巧みでもある。
とはいえ、こればっかりは今手元にある資料だけでは足りないし、ヴォルガロンデがこんな研究をしていたかも定かではないので成否のほどは神のみぞ知る、といったところか。
それから更に一週間ほどしてジョーカーとエースが見つけた脅威度S上位の魔物を倒してもう一つの魔石を手に入れた。
アノンのドレスが完成したと聞いたのはちょうどその時だった。
「う、ひ、へへ……やりましたよ……私ゃ、やってやりましたよ……げふぅ……っ」
デルポイの会長室にある応接セットでアイカ特製コーラを飲み干して盛大なゲップをするアノン。
お行儀悪いからゲップは控えなさいな。
しかし彼女の目元には濃厚な隈が出来ていて、睡眠や食事などあらゆるものを削って製作してくれたに違いない。
「私の中で百合ん百合んなイメージを全開にしてみなさんの印象と特徴を全て詰め込んだつもりなんで。ウェディングドレスだけでなく、披露宴用のドレスも最高の出来だって自信持って言えますね!」
「よっぽど凄いのが出来たんだね」
「……え、会長? まだ、見てないんですか?」
そう。私は奥さん達に言われて結婚式当日まで衣装を見せてもらえない。
完成したという話だけを聞いて労うためにアノンを呼んだだけだったりする。
「アノンに作ってもらったドレスなら絶対間違いないし、自分のドレス見ちゃったら綺麗な奥さん達の姿も想像しちゃいそうだからね。だから当日の楽しみにしてるの」
「会長の惚気話は相変わらずですねぇ」
もっとも、披露宴用のドレスの色合いだけは聞いているからそれに合わせた装飾品を作っていたわけで。
逆に言えば奥さん達は私が用意してる装飾品の数々は何も知らない。
ウェディングドレスだけは純白にしてもらったよ?
装飾品はいろいろ用意したけれど、ウェディングドレスだけは白しか認めない。
「さて。それじゃあとは正装用の衣装だね」
「あ、はひ……でもそっちは本当に時間下さいぃ……魔道具にもなるなら私一人じゃ無理ですよぉ」
「大丈夫。魔道具にするための回路は金属糸で作った服はね、基本部分さえ入れておけば後から割と簡単に追加出来るんだよ」
その金属糸は私が作製済だし、今度はアイカとクドーにも製作に関わってもらうつもりなのでそれほどアノンの負担にはならないと思う。
「アイカさんとクドーさんですよねぇ……なんか陽キャとヤンキーっぽくてちょっと苦手なんですけど……」
「二人ともそんな感じじゃないんだけどね。アノンはアノンで楽しみながら作ってくれたらいいよ」
彼女は「はあ」と気のない返事をしてコーラを飲み干した。
「ということで、準備しちゃうからこの図面確認してね」
「準備? ……なんですかこれぇ?」
「貴女の屋敷」
「……はぇ?」
「完成が近くなったら使用人と画家の面談もあるからね」
そういえばいろんな転生者に出会ってきたけど、今のところ芸術関係の神の祝福を持ってる人に当たったことないな?
アウイナイトのレーアは複合ダンジョンで『演奏』のスキルを取ってたけど、そうじゃないんだよね。
もっとこう……チート的な。
「うえぇ……この家大きすぎるう……実家が十個は入りますよ?」
「そりゃ一般人の家とは違うもの。特別仕様の衣装部屋だけで一般住宅が二つは入るよ」
さすがにこの要望を伝えたら大工さんにキツい目で睨まれたっけ。
「使わねえなら売ればいいだろう」
「思い出は売り物じゃないんだよ」
そんな話をしたら「そうか」とだけ呟いて黙ってたけど。
アノンはしばらく屋敷の図面とにらめっこして、ほとんど要望が出ないまま進めることになった。
修正が効くのは内装くらいなので、手伝いはするけど頑張ってほしいところ。
披露宴の準備も終え、十日後には開催するというタイミングで私達は第五大陸に戻ってきた。
「セシル殿」
ヴォルガロンデの工房である古城では銀龍王が待ち構えていて、私達は彼について中へと入る。
前回ここに来た時にはいなかったアイカ、クドー、ソフィアの三人は物珍しいのかあちこちに視線を滑らせていたので、あとでじっくり見る時間を取ってあげた方が良いだろう。
「会場はここね。ソフィアは時間になったら私達を順番に呼びに来てくれる?」
「うん、わかった」
「ウチらはここで待機やな」
教会の中には銀竜王さえ入れず、あくまでも私達だけで執り行う。
もっとも、彼はそれほど興味無さそうだったので問題ない。アイカの方がニタニタ笑って気持ち悪いくらいだったよ。
そのまま私達はそれぞれの控室に入り、そこでようやく私はユーニャから私のドレスを渡された。
「……マジですか……凄く、綺麗……」
さすがアノン。良い仕事をする。
真っ白な布地で作られたウェディングドレスはもはや神々しいと言えるほどに輝いていた。
ところどころにクリスタルで作ったスパンコールが取り付けられていて、それが窓から入った明かりでキラキラと光る。
どちらかといえばシンプルなAラインドレスだけど、肩に刺繍で作ったケープをかけることで華やかさも作り出している。
しかもこの布地はリーラインの故郷、エルフの国から取り寄せた最高級の魔蚕虫製シルク。透けるほど美しい絹糸で作ったシルクは陽の光を反射してそれだけで虹色の光を返す。
「セシルママ、ドレス着せるの手伝うね」
「ありがとうソフィア」
今日はソフィアもちょっとだけおめかししていて、いつもは冒険者として活動するための服しか着ないのに、濃い緑色のドレスを纏っている。
「ソフィアも似合ってて可愛いね」
「あへへ……ありがとう」
自分の服を脱いで、一緒に渡された専用の下着に着替える。
いつも着けているものだと肩紐が出てしまうのでチューブトップタイプで、胸の前にある紐で締め付けられるブラジャー。これならしっかりと谷間が作れるので安心。
……昔と違って今は普通に谷間あるけどね。
ただドレスを着るときはいつもより強調しないと、ねぇ?
当然下も万が一でも下着の線が出ないようほとんど紐みたいなものを。そこから白いニーソを履いたらいよいよドレスを着る。
十分普段着でも大丈夫なくらい軽いそのドレスは私の体にぴったりと合っていた。
脇腹の布なんかは指先でかろうじて摘めるくらいしか余裕がないと言えば、彼女の採寸技術、縫製技術の高さがうかがえる。
それに手袋とヴェール。
手袋は指輪をする関係で手の甲まで。
ヴェールも後ろで持つ人がいないので膝くらいまでの長さになっている。
ひとまずこれで服は全て身につけた。
更に自作したアクセサリーを身に着けていけば。
「うわぁ……セシルママ綺麗……」
「ありがとう」
右手の指全てにつけた指輪や左腕のフォルサイトを削り出して作ったバングルがとにかく目立つけど、やっぱり綺麗だ。
奥さん達全員をイメージして作ったブローチもウェディングドレスにつけても浮いたりしない。もっと小さくしていれば浮いたかもしれないけれど、思い切って大きめのサイズにしたおかげかも。
「セシルママ、キラキラしてる」
「うん……ママね、こうしてキラキラに囲まれて生活するのが夢だったから」
「とっても素敵だよ!」
最後に全員分の指輪を載せたトレイを用意して、それをソフィアに渡す。
そのトレイを受け取ったソフィアは何故か妙にソワソワ……いや、真剣な眼をしながらも何か迷っている素振りをしていた。けれど思い立ったように顔を上げると、私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「あのね、セシルママ」
「うん? どうしたのソフィア」
「あの……ありがとうございました。今までずっと……私を引き取って、優しくしてくれて、美味しいご飯もくれたし、強くもなった。セシルママにはたくさんのママが一緒だから心配なんて、私がするようなことじゃないけど……私はママみんなが好き! その真ん中にいるセシルママは一番好き! セシルママが結婚しても、私はまだセシルママに甘えたり優しくされたいからまだ一緒にいたいです……いいですか……?」
両手で持ったトレイが震え、中の指輪がカタカタを音を立てている。
何を言ってるのか理解出来なかったけれど、多分この子にとって凄く重要なことを私に言ってることだけはわかる。
「ソフィアがどういうつもりでそんなこと言ってるかはわからない。でも、貴女は私の大切な娘で私は貴女の大好きなママだってことは決して変わらないよ。もちろんユーニャ、ミルル、リーライン、チェリー、キュピラ、ネレイアも貴女が好き。いつまでも甘えさせるし、いつでも厳しくする。いつか貴女が結婚するまで……いいえ、結婚しても一緒に暮らしてほしいと思えるくらいソフィアは私の大事な娘だから、こちらこそよろしくね?」
よくわからない風な言葉になったけれど、私も大歓迎だということが伝わってくれればいい。
そしてちゃんと伝わったみたいで、ソフィアは嬉しそうに頷いていた。
気に入っていただけましたら評価、いいね、ブックマーク、お気に入り、レビューどれでもいただけましたら幸いです。




