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閑話 ブルングナス魔国でデート

コミカライズもよろしくお願いします!

 結婚式の準備を行っている日々だったけれど、彼女達は突然やってきた。


「セシル!」


 執務室に入ってきたのはユーニャ以下、私の奥さん達。

 普段と違ってどうやらかなりおかんむりのようだけど、私何かしたっけ?


「どうしたのみんな? そんな大きな声出して」


 私は努めて冷静に彼女達に微笑むけれど、ズカズカと私に詰め寄ってきたかと思えば徐ろに机に手を置いた。


「気分転換しよう」

「はい? ……結婚式終わるまではしっかり準備に勤しむって話じゃなかったっけ?」

「セシル姉、モノには限度がある」

「ネルの言う通りなの。セシルは宝石見てれば満足かもしれないけど、私達だって忙しいとイライラするの」


 えぇぇ……みんなだって楽しみにしてたじゃんか……。

 言いたいことはわかるけど、私だって忙しい。

 結婚式後の披露宴の準備のためにデルポイ、騎士団、クランとの打ち合わせに奔走している。

 ほとんどが身内なので打ち合わせと言いながらもそれほど気を使うものじゃないけど。

 チラリとステラを見ると、彼女はどちらにつくともいえないような澄まし顔で私の隣に立ったままだ。


「はあ……じゃあ一日だけね。今日はもうお昼になるから、明日……はクランとの打ち合わせがあるから……」

「それはさっきソフィアに話して日にちをずらしてもらいましたわ」

「ミルルのそういう根回しの早さにはいつも驚かされるよ。じゃあどこに行くか決めておいて……」

「それを考えるのが私達みんなのパートナーである貴女の仕事でしょ、セシーリア?」


 左様でございますか。

 リーラインの涼し気な眼が有無を言わせない鋭さを持っていることからも、彼女のストレスも相当なものだろう。

 そもそも準備や指示だって私だけで全部出来るわけはなく、私とユーニャ達とで打ち合わせてからそれぞれがまたデルポイ、騎士団、クランと打ち合わせを行っている。その合間に私はキュピラとネレイアを連れて複合ダンジョンに入っているので、睡眠時間がかなり削られている。

 別に眠らなくても平気ではあるけどね。

 けど、よく考えたらキュピラとネレイアを連れてデートってしたことがないか。

 二人にも楽しいことをたくさん教えてあげたいし、良い機会かもしれないね。

 背丈の小さい二人を見ながら、私はどこで休暇を過ごそうかすぐに頭を切り替えるのだった。




 ということでやってきたのはブルングナス魔国の首都ブルムタット。

 アルマリノ王国よりも発展しているこの国は多種多様な種族がいて、とても賑わっている。

 そんな中、私達はなるべく目立たないよう第五大陸でも着ていた旅装であちこちのお店や露店をみながら買い物を楽しんだ。

 当然私も露店を出していた宝石店……というか、母岩がついたままの原石を売っているお店でほぼ買い占めてみたり。

 ユーニャはデルポイでも取り扱えそうな品物がないかあちこちに目を走らせている。

 いつまでたっても、ユーニャはユーニャだなぁ。


「うん? どうしたのセシル」

「なんでもない。ユーニャがユーニャのままで嬉しいだけだよ」

「またよくわからないこと言って……セシルだって昔から宝石ばっかりのくせに」

「えへへ……でもちゃんと二人『だけ』ではないけど、お店も出来てるし」

「そうだね。ありがとっ、セシル!」


 とても嬉しそうに笑うユーニャは自分の胸に押し付けるように私の腕を抱き込んだ。

 それにしても、みんな買い物好きだねぇ。

 デルポイもあるし、装備品だってクドーが超一流の腕と素材で作ってくれているから買う必要なんてないのに。

 ……リーラインはなんでそんな怪しげなお面を買ってるの?

 ちょっと、チェリーは食べ物買いすぎじゃない?

 え、待って待って。ステラ? ステラさん? 店員さんは売り物じゃないよ? スカウト? いやいや、メイドなら足りてるよね?

 ミルルもやたら反物買ってるけど今アノンに服を作る余裕なんてないよ?

 そこにくるとキュピラとネレイアはお金を使う習慣がないからか、二人で手を繋いだまま私達の前であちこちをキョロキョロ見回しているだけでとても可愛らしい。


「二人も何か欲しいものがあったら買っていいんだからね?」


 この国、というか第四大陸のお金はヒマリさんのところで換金しているのでまだまだ懐に余裕はある。


「私達は姉様がいれば他に欲しいものなどありません」

「うん。物に拘ると物に囚われる」


 ……それ、あの四人に言い聞かせてあげてください。

 すみません、私も宝石のことしか考えてません。

 だが改めるつもりはない!


「はあぁ……美味しい……なんでしょうかコレ。幸せの味がしますぅ……」

「じゅわって溶けた。いくらでも食べれる」


 ……そんな二人でも美味しいスイーツの前には無力だったようです。

 本当に幸せそうな、溶けてしまうんじゃないかと思えるほどの笑顔でスフレチーズケーキを頬張るキュピラとネレイア。

 彼女達の前には専用のケーキスタンドが置かれており、既にその中の半分は消えている。


「みんなが楽しそうで良かったよ」

「ふふっ、目的もない散策なんだし当たり前だよ。それに、セシルもいるしね?」


 私達は買い物が一段落した後で入ったカフェで一息ついていた。

 ここはヒマリさんから紹介されたお店で、彼女もお忍びでたまに顔を出すそうな。

 そして今いる席は彼女の紹介状で通された専用VIP席である。

 他の客席からは距離があって、誰の目に入らないので私達からも、他の客だけでなく店員からも見られる心配がない。

 しかしそうなると、店員のシフトによっては隙が出来てしまい極々稀にいらぬトラブルが発生することがある。

 そのトラブルが私達の前にやってきた。


「あら? 先客がいらっしゃるのね。」


 私達が陣取る席にやってきたのはいかにも世間知らずと傲慢が服を着たような令嬢。

 苦労などしたことがないような体躯に何もかも見下した目。

 アルマリノ王国にもあんな貴族令嬢はまだまだたくさんいるけど、ジュエルエース家当主である私を知らないような世間知らずはそもそも家から出してすらもらえないだろう。


「そこは私のような高貴な者が使う席よ。今すぐお退きなさい」


 そんな予想通りの言葉が出てくるあたり、どうやらこの国にもヒマリさんの絶対性を否定する輩が潜んでいるに違いない。

 私はあとでこっそり告げ口する気満々で彼女のことはひとまず無視することにした。


「キュピラ、そっちのマカロンも美味しいから食べてみて。リーライン、紅茶のおかわりは?」


 それによくよく考えたら私達全員が元々それなりの立場にいる以上、こんな貴族の言いがかりにいちいち反応するようなこともない。

 ユーニャだってコモン部門長とはいえ、貴族との取引だってあるのだ。

 新参のキュピラとネレイアに関しては貴族というものがわかっていないので何も気にしていない。


「ちょっと! 私の話を聞いてまして?! さっさとお退きなさい!」


 私が無視したのが気に入らないのか、私達のテーブルに向かってくる令嬢。

 彼女の後ろには護衛と思われる騎士らしき男性が二人いて、そのうちの一人は少し慌てている様子。ひょっとしたら私のことを知ってるのかもしれないけれど、この令嬢を止められないならそこにいる意味はない。

 そして当然私も邪魔されたくないので私達の回りに結界を張っていたため、令嬢はそれに触れたことで弾き返されてしまう。


ばちんっ


「キャアアァァァァッ! いっ、痛いっ! 痛い痛い痛いっ! なんなんですのこれえっ! 私に何をしましたのっ! もう許しませんわっ! お前たちっ……」

「……さっきからうるさい小娘だね。だいたいこの国には貴族階級なんてないんだから高貴も何もないでしょ。私達は普通に客として来ているのに、なんで貴女に指図された上に騎士をけしかけられようとしてるの?」

「うるさいですわっ! 私に逆らってタダで済むとは思わないことです! いいからやってしまいなさい!」


 駄目だ……話が通じない。

 面倒くさくなってきた私は奥さん達に目配せすると、令嬢と護衛の騎士達に向かって強めの殺意スキルを向けた。


 そして、ヒマリさんの執務室へ。


「……まだこんな馬鹿者がおったんやなぁ……良くも悪くもびっくりやわ」

「デートしてただけで公式訪問じゃないし、大事にしなくていいかもと思ったんだけどね。多分ヒマリさんとしては許し難いんじゃないかと思って」

「せやなぁ」


 苦笑いを浮かべるヒマリさんだけど、額に浮いた血管くらいは隠していいと思う。


「ねぇセシル。あの方がアイカさんのお母さん?」

「そうだよ。魔王ヒマリ•コーミョーイン陛下。現存する魔王の中でもアグラヴェインと同じくらい強いよ」

「うん……すごく、雰囲気あるしね……」


 そうだろうか?

 今日もヒマリさんは薄手のベビードールみたいな服で執務をしているので、雰囲気はどちらかというと色っぽいような気がする。


「ごめんなぁ、やのうて……んんっ! 我が国の者がセシル殿の奥方へ大変な失礼をしたこと、お詫び申し上げる」

「ヒマリさん、今さら取り繕っても遅いよ。それに、そのことは気にしてないよ。デートの邪魔されたのはちょっと苛ついたけど」


 ちなみに今ここに来ているのは私とユーニャだけ。

 他はみんな別室でメイドさん達に饗されていて、きっと今もキュピラとネレイアは美味しいスイーツに舌鼓を打っているだろう。


「……ウチかて魔王らしい態度せなアカンと思ったんやけど?」

「そんなことしなくても私達はちゃんとヒマリさんのこと信頼してるから」

「……おおきに。けど、そんなら尚更今回やらかしてくれた馬鹿娘とその家にはきっついお仕置きが必要やな……っ!」


 まぁ他国のことだし、それについてはヒマリさんに任せよう。


「それと、コレはお詫びの印や」

「……これは?」

「時空理術で限られた空間だけ時の流れを遅くする魔法や。しっかり研究すればいろんなことが出来るようになるスキルやからな、セシルはんも時間が出来たらやってみるとえぇんちゃう?」

「……魔法の鞄作ったり、テントの中を広くしたりは出来るけど、こんなことも出来るんだ?」

「魔法の鞄はあれでなかなか面倒やしな。セシルはんが作ってくれるようになるまではウチが全部作っとったんやで?」

「え。じゃあひょっとして私ヒマリさんの仕事取っちゃった?」


 まさかの事実にさあっと血の気が引いていく。

 それはユーニャも同じだったようで、一気に顔色が悪くなっていくのが横目ではっきりとわかった。


「あないな面倒な仕事ようやるわ。ウチはもう二度とごめんや。高いせいで思ったほど売れへんし、馬鹿みたいな注文つけてくる奴もおるしなっ。だから今後もデルポイに丸投げや」

「……知らなかったとは言え、びっくりしたよ」

「ええって。その代わり、今後もデルポイにはウチの国でも頑張ってもらうさかい、よろしゅうな」


 ははは、と乾いた笑いを浮かべながら私達はヒマリさんの執務室を出ていく。

 怒ってないみたいで本当に良かった。

 それからみんなと合流した私達は結局お城で一泊させてもらうことに。

 ちなみに、少し前から結婚式まで奥さん達との夜の生活は無しという決まりになっていたので大人しくしてましたよ。

 あくまでも、奥さん達との……いや、愛人達ともしていない。

 眷属、ペット、ソロ活動は容認してもらっているけどね。


「あの馬鹿娘な、風俗嬢にしたったわ! 生意気にもほどがあるわっ! 親の方も違法取引があったからしょっぴいたったで」


 と翌朝聞かされた私は、結局大事になったことにまたもや苦笑い。

 余談だけど、ちなみに風俗嬢になったという令嬢は今朝のことだったのでデルポイで引き取ることが決定した。

 行き先は当然テゴイ王国の裏風俗である。

 後日、私とアネットによって徹底的に尊厳を破壊したのは言うまでもない。


「いろいろありましたけど、デートというのは美味しくて楽しいものなのですね、姉様!」

「セシル姉、私もまたデートしたい。美味しいの好き」


 キュピラとネレイアにとって初めてのデートはトラブルもあったけど、楽しんでもらえたようで何よりだった。

 さあて!

 結婚式の準備頑張らなきゃね!

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 わぁ。  さらっと不敬罪の手討ちより凄惨な制裁が流れていった〜(白目)
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