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第53話 普通の駆け出し冒険者とは

 素材の買い取りが終わると私は再度リコリスさんのいるカウンターへと向かった。彼女の対応は人気があるのか冒険者の列は短くなるどころか長くなる一方だ。どうやらまた長い時間待たないといけないようだ。

 そう思って列に並んだところで前にいる私より少しだけ背の高い少年から声を掛けられた。

 彼も今日外出していたのだろう、薄そうな革鎧はあちこち擦れていて彼自身の体にも小さな傷がたくさんついている。濃紺の髪には森に入っていたのだろう、まだ葉っぱや蜘蛛の巣がついている。


「なんだ、随分小っちゃいな。依頼を出したいならカウンターはここじゃなくて奥の方に行けよ」


 なんか今日一日でこういう対応されるのも大分慣れてきたよ。


「小っちゃいのは認めますけど、私これでも冒険者ですから。ホラ」


 私は腰ベルトからギルドカードを取り出すと少年の目の前に突き出した。

 少年…多分成人前くらいの男の子は突き出されたカードを見て驚きのあまり声を上げた。


「えぇぇぇぇぇっ!なんでこんな小っちゃい餓鬼が鉄カードなんだよ!俺なんて半年以上頑張ってようやく革カードになったってのに!」


 知らないよ。私はちゃんと戦闘能力は示したよ?もちろん手加減したから全力には程遠いんだけど。


「イカサマもズルも不正もしてません。ちゃんと今日ギルドマスターに証明しましたから。それこそ、ここのカウンターにいるリコリスさんも立ち会ってるから聞いてみたらいいですよ」

「……あ、いや。すごい奴がいるもんだなって思ってさ。俺はカイト、ずっと木カードだったんだけどついこの前革カードになったGランク冒険者だ」

「私はセシルといいます。この通り幼い身ですけどFランク冒険者として今日認めてもらえました」

「お前すごいんだな!そんなに小っちゃいのに強いなんて俺信じらんねぇよ」

「小っちゃい小っちゃいってさっきから言い過ぎだと思います…」


 いくらなんでも失礼しちゃうよ。

 小さいのは事実だから認めるけど、あんまり容姿で馬鹿にされるのは好きじゃない。今世での両親のおかげで将来のビジュアルにはかなり期待できるけど、それは早くても数年先の話になるだろうからね。


「あぁ悪ぃな。それとお前の方がランクは上なんだからそんな喋り方しなくていいんだぜ?」

「え、うーん…じゃあそうするよ。とにかく小っちゃいは禁止だよ」

「あぁ、わかったよ。それでさ」


 その後カイトと順番が来るまでの間今日の依頼の話をしながら時間を潰していた。彼は今日森の入口近くにある薬草を摘みに行っていたらしい。

 でも思ったより採集できなくて仕方なく森に踏み込んだはいいが道もロクにないので藪を進んで傷だらけになりながら採集したらしい。その時なんとかゴブリンを二体倒すことができたので今日は臨時収入が入ると楽しみにしているとのこと。

 多分その薬草が見つからなかった理由って私が採集しまくったからかもしれない…ごめんねカイト。加えて言えばゴブリン二体を倒して喜ぶのが駆け出し冒険者の常ということがわかったのは収穫だ。今後も自重するつもりはないけどやり過ぎだけは注意したいのでこれを参考にしたいと思う。

 …参考程度にしかしないんだろうけど。


「お、次は俺の番だ」


 話している内に列も進んでカイトがカウンターについてリコリスさんと話し始めた。

 彼はカウンターに薬草の束とゴブリンの耳を出して今日の成果を報告しているが、私と話したときより誇大化されてる気がするのはご愛嬌なのだろう。リコリスさんもその様子を笑顔で聞きながら何かの箱に手を当てている。

 そして報告を一通り聞くとカイトからギルドカードを預かって箱の中に入れた。しばらくして取り出すとカイトにそのままカードを返し、薬草と討伐証明分の報酬をカイトにその場で支払っていた。少額ならここでそのまま済ませられるということだろう。

 報酬を受け取ったカイトは椅子から立ち上がって私に座るよう促してきた。というかそこにいたまま私の報告聞くつもり?


「もう一回おかえりセシルちゃん」

「ただいまリコリスさん。素材の買い取りが終わったからヴァリーさんにもう一回こっちに行きなさいって」

「えぇ、それじゃカードを出してくれる?」


 腰ベルトからギルドカードを出すとリコリスさんに渡す。

 彼女はカイトの時と同じように箱の中にカードを入れて手を当てている。違うのは私の場合既にヴァリーさんのところで素材の買い取りをしているため報告が特にないことだろう。

 しばらくしてリコリスさんはカードを取り出して私に返してくれた。


「はい、それじゃ依頼達成と討伐証明、素材販売の登録をしておいたよ。次も同じくらい納めてくれたらランクアップするはずだから頑張ってねセシルちゃん」

「ランクアップってそんな簡単にしちゃうの?」

「簡単って…あのねセシルちゃん?普通はあんなにたくさんの薬草を摘んできたり魔物を丸ごと五匹も持ってきたりしないんだからね?」


 …忘れてました。

 私は魔法の鞄があるから他の人よりも運搬量に大きく差がある。普通は手に持てる範囲まで、馬車を引いていたとしてさっきのマッドベアを丸ごと一匹なんてとても運べるものではないということだ。


「ホントセシルちゃんって他の冒険者に比べたら理不尽なくらい恵まれてるんだからね?ちゃんと自覚しなさいね」

「はぁい」


 私は軽い返事をして腰ベルトにカードをしまうと「じゃあまたね」とリコリスさんに言われて席を立った。そしてカイトから「すげぇ」だの「最短記録じゃねぇの?」など声を掛けられて少しうんざりしてしまっていた。

 そうこうしている間に六の鐘が鳴ったのでお互いにギルドで別れ、私は領主館へ戻ることにした。

 もちろん、こんな汚れた格好のまま入るわけにはいかないので洗浄(ウォッシュ)で汚れを落としたのは言うまでもない。




 屋敷に戻ってすぐに夕食の時間になったので私は荷物を下ろすとすぐに食堂に向かい夕食を取った。今日は一日でいろんなことがあったから意識はしてないものの思ったよりお腹が空いていておかわりまでしてしまった。ちなみに昼食に使った解体したベルボウの残りはモースさんに渡しておいた。新鮮なベルボウの肉はなかなか手に入らないとかで大層喜んでくれた。確かに森で食べたときも脂あっさり目な割に臭みも少なくて美味しかったしね。明日の夕食にステーキを出すために今から仕込みをするとのこと。「仕事増やさないでくだせぇよ」と良い笑顔で文句を言うモースさんは本当に料理が好きなんだろうね。

 その後私の自室でファムさんといつもの簡易なお茶会を開いて今日の話をしてあげることにした。


「じゃあセシル様は無事冒険者になることができたのですね」

「うん。多分毎週地と光の日には冒険者として外に出てることになると思うし、場合によっては街の外に出たまま野宿になるかもしれない」

「それは…私にはわかりかねるのでクラトス様やナージュ様にお話されておいた方がよろしいのではないでしょうか」

「ナージュさんは了承済だよ。でもわかる範囲内で夜戻らないことがあるならそれは予め連絡しておくことにするね」

「はい、そうしていただけると私も助かります。ただ…」

「ただ?」

「セシル様がいらっしゃらないと入浴のときに温かいお湯とシャンプー、シャワーが使えないのは困りますね」

「…ふふ、もうファムさんって必ずそれなんだから」

「だって、もうセシル様無しでは生きていけないほど骨抜きにされてしまいましたから。あの快感は一度味わったら忘れることなんて出来ませんよ」


 第三者が聞いたら誤解しそうな内容だけど、あくまで入浴の話しかしてないからね?

 それに私はノーマルですから。ごく普通に恋愛対象は男性のみです。でもファムさんの胸の揉み心地は素晴らしかった…あれを好きにできる男がその内に現れると思うと無駄に殺意が湧いてしまう。

 そんな殺気が漏れそうになる前に私はファムさんがお気に入りということで一緒にお風呂に誘うことにした。屋敷に入る前に洗浄(ウォッシュ)は使ったけど、あれはあくまで汚れを落とすだけなので疲れを取るにはやっぱりお風呂が一番。


「はあああぁぁぁぁぁぁぁ…生き返るぅぅぅぅ…」

「セシル様、そんなお年寄りみたいなことをおっしゃらないでください」

「さすがに今日はいろんなことがあってちょっと疲れちゃったからね。『風呂は命の洗濯』って昔の某三佐も言ってたんだよぉ?」

「はい?…セシル様は時折おかしなことをおっしゃるので私には解りかねますが、その命の洗濯というのは解る気がします」


 目を閉じて熱めの湯船に浸かっていると今日一日のことがいろいろと思い出される。

 ギルドに登録に行ったらギルドマスター直々に試験されて返り討ちにしたり、ガラの悪い馬鹿三人組に絡まれておしおきしたり、森に入って手当たり次第素材を集めて久しぶりに魔物と戦ったり、素材の買い取りで騙されそうになったのを見ず知らずのお兄さんに助けてもらったり……あ。

 そういえばあのお兄さんの名前とか聞いてないや。あそこにいたってことは冒険者だろうから明日も行けば会えるかな?そういえばリコリスさんから新しい依頼が貼りだされるのは二の鐘の後から少ししたらって言ってたっけ。そのくらいの時間に行けばひょっとしたら彼もいるのかもしれない。明日は少し早くギルドに行ってみよう。

 考え事をしたままお風呂に入ってるとのぼせてしまうので結論が出たところで立ち上がって洗い場へ向かった。私が立ち上がったのを見てファムさんも胸部のメロンを揺らしながら私についてきた。

 彼女には私が作ったハーブ石鹸を渡してあるので二人で体を洗う。特に洗浄(ウォッシュ)を使ったけれど森の中に半日いて体中が汚れているので念入りに洗っていく。どうせまた明日汚れちゃうんだけどさ。

 その後シャンプーもして魔法を使ってコンディショナーを髪に纏わせたまま再度湯船に入るとファムさんから「はあぁぁぁぁぁ」と色っぽい息が聞こえてきた。

 これ男の人には聞かせられないね。

 今日のファムさんの一日のことなどをお喋りしながらしばらく髪になじませてから湯船から上がるとシャワーで洗い流して二人並んで浴場を後にした。

 明日も早いし今日は早めに休むことにしようかな。

今日もありがとうございました。

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