第517話 先生からの手紙
コミカライズもよろしくお願いします!
マリナから齎された報告。
そこにはかつて魔法を教わった師でもあるアドロノトスの名が入った手紙が添付されていた。
「セシル、知ってる人なの?」
「アドロノトス先生はね、クアバーデス侯爵のところでリードルディ卿の家庭教師をしていた時に一緒に魔法を教わってたんだよ」
「セシーリアに魔法を教えるなんて、すごい人だったのね」
どういう意味かなリーライン?
しかし本当に懐かしい。
最後に会ったのは……確か貴族院四年次だったはず。
「アドロノトス先生の師匠は……ヴォルガロンデなんだよ」
「それは本当ですの?」
「本当か嘘かなんてわからないよ。でも私が彼から託された魔法書には彼自身が使えない空間魔法についても書かれてた。彼自身が執筆することは出来ないし、空間魔法自体使える人がほとんどいないしね」
我が家では珍しくもなんともないけど、普通は『魔法使い』千人に一人くらいだと思う。
「それともう一つ」
私は腰ベルトから小さな木箱を取り出した。
すっかり忘れてたけど、貴族院四年次に彼から魔法書と共に渡されたものだ。
中には古びた鍵が一本だけ入っている。
……アドロノトス先生、ヴォルガロンデ、鍵……鍵っ?!
「まさか……これも階の鍵?!」
「どういうこと?」
「わかんないけど……確かヴォルガロンデに会うには必要だとか、そんなようなことを言われた気がする」
何せ十年も前の話だからうろ覚えもいいところだ。
とにかく、ヴォルガロンデに会う鍵はこのアドロノトス先生からの手紙にあると思う。
私は意を決して手紙の封を開いた。
この手紙を託した者の主へ。
主の命で調査をしているという者にこの手紙を託した。
おそらくは儂の知る人物であろうことは予想しておるでの。
まさか間に合うとは思わなんだが、彼のところへ辿り着くには強い魔力の籠もった魔石が必要での。それも用意しておくといい。
一度上に行くと次はいつ戻れるかわからんのでの。やり残したことがないようにすると良いかの。まだあと半年は大丈夫だと思うで、それまでに身の回りを整えておくと良いじゃろう。
ではの。
優秀な生徒へ アドロノトス
「……完全にマリナの主が誰かわかってるじゃんか」
この『優秀な生徒』って言い回しは、確か貴族院四年次のときに貰った手紙にも書いてあった気がする。
さすが伊達に長く生きてるわけじゃないってことね。
それにしても気になるのは、いつ屋敷に戻れるようになるかわからないときた。
それならやっぱり手紙に書かれた通り、やるべきことはやっておこう。いざとなったら力技で帰るだろうけど。
それから二週間ほどかけて装飾品を作り終えた私はソフィアを連れて眷属達と大樹海へとやってきた。
「わざわざセシル様に来てもらわなくても僕達だけで対処可能」
「シアンの言う通りだよ。せーちゃん忙しいのに」
案内役を頼んだシアンとルージュはかなり不満そうだけど、それも私を慮ってのこと。
先日のジョーカーみたいなあからさまな態度でなければ私も怒ったりはしない。
「ルージュもシアンも、セシルママのためにごめんね?」
私が言おうとしていたのにソフィアが先んじて彼らに頭を下げていた。
なんていい娘なの……。
私が目元に手を当てていると三人は揃って首を傾げている。
中学生三人に見られているみたいで落ち着かないけど、みんな可愛いからみんな正義!
「……セシル様、そろそろ目撃した地点」
シアンが指を立てて注意を促してきたので私も意識を切り替えた。
彼等から聞いた話では黒い竜のような生き物だったらしいが、どうもはっきりしないとか。
私も時空理術で近くを探っていくけれど、脅威度S上位ほどの魔力は感じられない。
「僕達も驚いたけど、あいつは獲物が近くまで来たときにしか姿を現さないし、それまで魔力の反応がないんだ」
「魔物固有スキルに『出力制限』っていうのがあるから、多分そのせいじゃないかな」
私も持っているし、最近は亜神になったのと、新しい神の祝福のおかげで力の制御が以前に比べてかなり容易になったとはいえ、自分の力の枷を外すのにこれほど使いやすいスキルはないと思う。
というか、だいたいただでさえレベルが高すぎるのに、スキルの影響で千倍とかよくわからない数値になっているからなんだけど、出力制限では一%が最低値なのに貴族院卒業時の私よりも強いくらい。
先日複合ダンジョン最下層で限界突破以外のスキルをフル稼働させた時の私の能力値がやばかった。
セシル
総合戦闘力 862,700T
総合技能 30,400k
あははは……ついにギガの単位を超えてしまいましたさ。なによ八百ペタってさ。あとちょっとでエクサに届きますよ?!
おかげでダンジョン内とか隔離された空間以外で本気を出すことが出来なくなっている。そんな必要がないに越したことはないんだけどね。
「でも獲物って?」
「僕達相手でも姿を現したから多分強い魔力に反応してる」
「ふうん……じゃあ私がやってみてもいいかな?」
「セシルママ、本気出しちゃ駄目だよ? そんなことしたらほとんどの生き物が逃げていっちゃうから」
「ソフィアが逃げないならいいよ」
ほとんど軽口を叩いたつもりだったけれど、ソフィアは私の服の裾を摘むと。
「私はセシルママと、一緒にいるよ」
……可愛い。
奥さん達とは違った格別の可愛さがあるんだけど、どうすればいい?
うん、とりあえずこんな鬱蒼とした森の中じゃなくてせめて明るい湖のほとりとかでピクニックでもしよう。
ここは大樹海でも最奥とも呼べる中心地。冒険者ギルドでも把握していないような脅威度S下位の魔物もチラホラ見かけるほどの危険地帯。
この四人なら脅威も何もあったものじゃないけどね!
「それじゃ、ママのカッコいいところ見せてあげなきゃね」
まずは神の祝福『_%~#』発動。
ジャラッ
すると直後三人の腕に金色の鎖が巻き付く。何故かこの神の祝福を使うと現れる現象だ。
出力制限を三十%まで上げる。
こうしておけばいきなり力の奔流が吹き荒れることはないので、少しずつ力を解放していく。
しばらく魔力を放っていると森の中心方向に黒い霧のようなものが集まっていく。
「あれは……?」
やがて黒い霧は影のように光を吸い込み、真っ黒な竜の姿へと変わった。
(ちょっとメル)
(久し振りに呼ばれたのだ。なんなのだ)
(あれ、何?)
(あれはシェイドレックスなのだ。影を操る魔物で竜に擬態しているのだ。魔力を餌にしているからそこらの竜よりも遥かに強力な個体もいるのだ)
初めて聞く魔物の名前に戦闘解析で能力値を確認する。
シェイドレックス
総合戦闘力 31,698M
総合技能 28,400
これは……かなり強い。
数値だけならエイガンよりも強い。
残念ながらこの強さではソフィアに相手をさせるわけにはいかない。
そして厄介なことに多分魔物にはレベルという概念がないので私が本気を出せない。レベルがあれば決闘システムが発動するのは間違いないのに。
さてどうするか、と悩んでいたのだけどシェイドレックスはそんなのお構い無しに私達にその影のように黒い瞳を向けてきた。
ちゃんと獲物と認識されたみたいだけど、思ったよりも強力な魔物で背中に汗が流れるのを感じる。
「だからって、引き下がるつもりはないけど! シアンはソフィアを守ってあげて。ルージュは私に補助魔法を使いつつ手が空いたらあいつを攻撃! ソフィアは決して近付かないよう遠距離からの攻撃に専念!」
「「はいっ!」」
ルージュとソフィアが元気よく返事をしてシアンはいつも通りコクリと首肯した。
それを見届けた後、力を込めて一歩踏み出すと景色が後ろに流れていってシェイドレックスが目の前に迫る。
「亢閃剣!」
即座に神気を込めた攻撃を放つとシェイドレックスの頭を半分ほど吹き飛ばした。
その衝撃で動きを止めたのを見て、やけにあっさり倒してしまったかと思ったけれど、シェイドレックスの魔力は全然衰えていないことからまだ始まってすらいないことは容易に想像出来る。
「剣魔法 聖剣墜閃!」
続いて巨大な胴体の真上に聖魔法も含む巨大な光の剣を作り出し大地へと串刺しにした。
「さすがセシルママ!」
「……まだだよ。ソフィア、ちゃんと魔力感知で敵の魔力残量を感じながら戦って」
「はっ、はいっ!」
ソフィアのこういうところが促成培養してしまった故の弱点になることはわかっていたけれど、複合ダンジョンでもっと鍛えるべきだろうか?
やがて光の大剣が消えるとシェイドレックスの身体は再び影を集めてその身体を再生した。
「面倒な相手だね」
「っ! せーちゃん!」
私の呟きの直後、シェイドレックスの頭に強い魔力の集まりを感じてルージュが声を張り上げた。
ゴオッ!
いきなり放たれた強烈なブレスにシアンとルージュは即座に対応。結界魔法を張り巡らせてしっかりとソフィアを守ってくれた。
私は突き出した手のひらから神気を放出しているだけで回避も魔法も必要ない。
面倒な相手ではあるけれど、攻撃の強さからレベル換算で四千程度の魔物だとわかる。十分に国家崩壊クラスの脅威だが。
「影が本体ならこれでどうっ?! 新奇魔法 天国への階段!」
ギイィィィィィィィィィッ
私の手から放たれた極太のレーザーがシェイドレックスを覆い尽くす。
全身を浄化の光で焼き尽くされた影の魔物は強すぎる光の中でどんどんその姿を消されていく。
やや上に放った光の道は魔物を飲み込み、更に空へ向かっていき彼方へと消えていった。
「ふぅ……」
「す、すごい……これがセシルママの本気……?」
そういえば正気のソフィアの前であまり強い力を使ったことがなかったっけ。
あまりの魔法の威力に彼女は驚いているようだけど、これでもまだ三割程度でしかないしほとんど魔法しか使っていないので本気にはほど遠い。
「違う。セシル様の本気はもっと凄い」
「せーちゃんの本気は普通の魔物じゃ見れないよ。ダンジョンの奥地とか、魔王とか相手じゃないと」
「そうなの?」
「そう。じゃないと世界が壊れる」
二人の言う通りなんだけど、この世界のシステム上は強い攻撃をしても世界に被害を及ぼすようなものは威力に制限がかかってるから大丈夫なはず。
それに、どうやらもうちょっと本気を出さないといけないみたいだし?
---egg所有者同士の戦闘を確認しました---
---能力解放、周辺部保護、所有権移譲戦闘へと移行します---
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