第515話 準備と並行して
結局アノンは話を受けてくれたもの、通常業務をしている暇がないというのとで特別休暇を取らせた上で助手としてブランド部門で一番裁縫がうまいとの評判の女性を連れてきた。
これでも納期はギリギリだというので私も手伝えることがあれば積極的に関わっていくつもり。
会社の社員を私用のために使って本当に申し訳ないとは思う。でもそのことを社長、コルに報告したら
「正式にジュエルエース家からデルポイへの発注として受けました。アノン部長以外にも開発部門と製造部から数名携わらせますのでご安心を」
くそぉ……やっぱりこの息子は本当に仕事が出来るな!
今度コル好みのイケメンを何人か連れてこよう。
最近ショタもいけるクチになったらしいし、リーラインに相談してエルフの可愛い男の子にお願いしてみよう。
怒られるかな?
そして、地下の研究室へとやってきた。
「セシーリア様、今日はいかがなさいますか?」
室内の椅子に座って考え事を纏めていると背後にステラが現れて一礼した。
「例によってやらなきゃいけないことを纏めようと思ってね」
「私に手伝えることがございましたらなんなりと」
「うん、じゃあお茶……あ、今日は豆茶が飲みたいんだけど、ある?」
ステラは一言「はい」とだけ告げると早速取り掛かってくれた。
その間に私はやることを紙に書いてまとめておく。
①結婚式
②ヴォルガロンデがいる『上』へ向かう。
③結婚式で使う装飾品の用意。
④それまでの時間で私とキュピラ、ネレイアのレベル上げ。
⑤持ち帰った資料を読み込む。
「結婚式はね。絶対やるけど、準備に時間かかっちゃうんだよねぇ」
「私も楽しみにしております」
……私だって楽しみだよ。
長い長い、それこそ寿命のない人生の中で忘れられない一日にしたいって思ってる。
「同時に寿命を迎えそうなヴォルガロンデに会いに行くのも早くしたい」
「ですが、まずどこに行けば良いか……そこからではないでしょうか」
「そういえばそうだね」
そうなると彼の工房から持ち帰った資料を漁ってみるしかないか。
「ジョーカー、いる?」
私がどこへでもなく声をかけると研究室の空間がぐにゃりと歪んだ。
「お呼びでしょうか、我が君」
転移で現れたジョーカーは私の前で跪くと恭しく頭を垂れる。
相変わらずいちいち芝居がかった動きをするね。
「先日持ち帰った資料の中でヴォルガロンデがいると思われる『上』について書いてある資料を見つけたいの。みんなで手分けして探してくれないかな?」
「承知しました。ですが……」
ジョーカーはそこで一度言葉を切るともう一度どこかへ転移していく。
そしてほんの数秒もしないうちに戻ってきたかと思えばラメルとレーアを引き連れてきていた。
「この二人が既にかなりの解読を進めていたようです」
「お師匠様のお役に立てればと思いまして、既に分類別に整理して終えておりますわ」
「レーアが整理した資料と、ご主人様が持ち帰られた地図と照らし合わせたところ四カ所程度に絞ることが出来ております」
なんか、私の眷属なのに私より優秀だよね?
あれ? 私良いところない?
「それで、その四カ所とは?」
私が驚いて声を出せないでいると代わりにステラがラメルに質問していた。
元々は家精霊のステラで使用人筆頭ではあったものの、今では私の奥さんの一人なので、眷属達にはかなり強い命令権を持っている。
「は。まずは第一大陸北端ジリビール凍壁最北部。第二大陸中央部、巨大砂漠。続いて第三大陸北部、ゼストビス帝国内。最後に第五大陸南端ライナール鼻。以上の四カ所です」
「はな?」
「ご主人様、『鼻』とは地形における海に突き出した陸地のことです。岬と同じ意味とお考えください」
「へぇ。すごいね、よく知ってるね!」
初めて知ったよ。
褒めてあげるとラメルは「きょ、恐縮です」とやや頬を染めていた。あんまり褒めてあげたりしないからかたったそれだけで照れているよう。
もっとちゃんとみんなのこと褒めてあげないとね。
「既にジリビール凍壁へはラーヴァとノアが。巨大砂漠へはソールとプレリが向かってございます。またゼストビス帝国へは珠母組に。ライナール鼻のある第五大陸へは我が君以外行けなかったもので手付かずとなっております」
「既に調査に向かったってこと?」
「はい。我が君にご協力いただき第五大陸まで案内いただければ調査は私とエースで向かいましょう」
ジョーカーとエースって……組み合わせとしてどうなんだろうと思っちゃうけど、眷属同士でケンカするとは思えないし大丈夫かな。
ただ第五大陸は五つの大陸の中で最も広い。私達が新婚旅行に行ったのは中央からやや北寄りの地点。そこから南端までとなると相当な距離がある。
とはいえ、眷属達はみんなそれぞれ屋敷地下の複合ダンジョンに潜っているので今では全員レベル一万を超えている。
しかも何度もレニちゃん達に会いに行って特殊なスキルを得ているようだし、戦い方によっては私でも苦労するかもしれない。
そんな彼らが全力で走れば大陸の端まで行くのはそれほど時間はかからないだろう。
「わかった。じゃあジョーカーを連れていけばとりあえずは調査出来るね?」
短く簡潔に「はい」とだけ答えたジョーカーを連れて、第五大陸で初めて降り立った場所へと転移してすぐに帰ってくる。
かなり遠いので相当なMPを消費するだろうことを見越してジョーカーには私の作ったフォルサイトを渡しておいた。
魔物の魔石と違ってMPの補充しか出来ないけれど、ゆうに私のMPを空から全快させるくらいの量を渡した。ちなみに魔石からMPを回復出来るのは私の眷属のみで、ユニークスキル『吸収融合』を持っているのが条件。
魔物の魔石を吸収すれば回復だけではなく、レベルも上がる。
そんなわけでいち早く目覚めたジョーカーは様々なスキルだけではなく、他の眷属たちより頭一つ飛び抜けたレベルになっていた。
「第五大陸にいる魔王ヘイロンのシーロン商会ははデルポイと取引してるからちょっかい出しちゃ駄目だよ?」
「はい、心得ております」
「あと魔王アグラヴェインはみんなより強いから、そっちも当然手を出さないこと」
ち。
とジョーカーから舌打ちが聞こえた。
私と友好的でないことが気に入らないのだろう。
多分今のままの関係なら敵対することはないだろうし、会えば挨拶する程度の顔見知りくらいの距離感がちょうどいい。
だからこそ、私の意に反することは許さないしそれを態度に出すことは許容しない。
「ジョーカー」
いつもよりやや低めの声で彼の名を呼ぶ。
それだけで彼は自身の行いを省みるには十分な効果があった。
「……っ! 失礼しました、我が君」
「貴方が私のことをとても大切に思ってくれているのは嬉しいけど、何でもかんでも排除すればいいと思うのは間違ってるからね?」
普段なら絶対にやらないけれど、ジョーカーに対して強く『殺意』スキルを使用したことで、彼は私を見上げることすら出来ないほどに平伏していた。
「決して……我が君の意にそぐわぬことはしないと誓います……」
「うぅん、それはいいの。ただちょっと過保護すぎるのはどうかなって思っただけ。いつも本当に助けられてるから。ありがとねジョーカー」
ポンと彼の肩に手を置くと、それで許されたと思ったのかジョーカーは顔を上げた。
それは完全にDVを受け入れた者の顔にしか見えない。
そんなつもりはなかったんだけど。
ひとまずジョーカーとエースは第五大陸へと向かっていった。
それとは別でルージュとシアンに第三大陸の大樹海の調査を命じておいた。第二大陸の巨大砂漠は既にソールとプレリが行ってくれているけど、あそこも少し気になることがある。
それから数日。
私は『祭壇』で宝石を採取しつつ、結婚式で使う装飾品を作り続けていた。
全員に共通なのはペンダント、ブレスレット、イヤリング。そして当然結婚指輪。
ユーニャには青系統の宝石で着飾ってもらいたい。
なのでサファイアとアクアマリンをふんだんに使ったものを。結婚指輪にはブルーダイヤモンドを。
そしてウェストチェーンにパライバトルマリンを使用。
ミルルはダイヤモンドをベースに、ところどころにルビーをあしらう。
彼女の結婚指輪はレッドダイヤモンド。
更にティアラも作って大粒のレッドスピネルとガーネットを大量に使う。
リーラインはエメラルド、ペリドット、デマントイドガーネットにベルディアイト……前世でいうグランディディエライトを。
指輪はミントダイヤモンドを用意した。
リーラインの理知的な雰囲気に合うようサークレットも作ってそこに大きなジェダイトを蔦のように加工して嵌め込んだ。
チェリーはちょっと迷ったけど、黄色やオレンジ系統の宝石にした。
多分だけど、もうちょっとで更に上位の種族に進化しそうだから。
インペリアルトパーズ、イエローサファイア、スペサルティンガーネット。
このあたりだろう。サファイアは青が印象深いかもしれないけど、赤以外のコランダムは全てサファイアなのでファンシーカラーサファイアとして黄色いサファイアもある。同じようにガーネットも赤色が印象的だけど、デマントイドガーネットのような緑色もあればスペサルティンガーネットみたいな黄色もある。
彼女の結婚指輪はもちろんイエローダイヤモンド。かなりメジャーなカラーダイヤモンドの色だけど、他の宝石にはない輝きを含む金色にも近い色合いを選んだ。宝石言葉は『希望』だったと思う。
チェリーには大きめのバングルも作って、そこに目立つようなスフェーンもあしらってみた。
ステラにはセイシャライト……前世でいうタンザナイトをふんだんに使用。
目立たず普段から筆頭使用人としての立場を大事にしている彼女にはコスモス•グリッドナイトをブローチに。ゲイザライトをチェーンに入れたチョーカーも用意。
右手にブラックオパールを使った指輪も作って、結婚指輪はバイオレットダイヤモンドで。
さてキュピラにはムーンストーン、オパールをメインにしてパパラチアサファイア、クンツァイトも散りばめていく。
身体の小さなキュピラにはやや不釣り合いな大きさではあるものの、他の人より一つ多くペンダントを作ってそこにモルガナイトとルベライト……ピンクトルマリンを使用。ピンクで着飾った少女は一気に大人の雰囲気を纏っており、その手にはピンクダイヤモンドがあしらわれた結婚指輪をはめている。
最後にネレイア。
彼女にはアメジスト、パープルサファイア、パープルスピネルをメインで。
ところどころにラブラドライトも使って双子であるキュピラに似せた印象にしている。
あまり持っていなかったが、アイオライトもあったので惜しまず彼女の右手の指輪におさまっている。当然左手の薬指にはパープルダイヤモンドが使われたのは言うまでもない。
ここまでで五日。
さて、自分用の装飾品を作ろうかな!




