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第512話 アグラヴェインの依頼 完了!

コミカライズもよろしくお願いします!

 結論から言えば、キュピラとネレイアの二人はあっさりと引き取ることが出来た。

 村から勝手に出ていった姉、周囲とのコミュニケーションが苦手な妹。どちらも持て余し気味だったらしい。

 アグラヴェインに直接話を通してくれるなら連れ出すことは好きにして良いが、嘗ては迫害の対象だったことを忘れるなと釘を刺された。


「ま、私の奥さんになるなら迫害なんて絶対させないけどね」

「セシーリア様?」


 独り言を呟いたのだが、それをステラに聞かれたので「なんでもない」とだけ返した。

 そしてキュピラとネレイアの二人を連れてアグラヴェインのいる町で待つこと四日。


 アグラヴェインの城から見下ろす町並みのあちこちで行われる炊き出し。

 同時にシーロン商会による仕事の斡旋。

 そしてほぼ活動休止状態だった冒険者ギルド職員による仕事の依頼。

 腹を満たして仕事があればある程度経済は回っていく。そう簡単な話じゃないことはわかっているけれど、それをこんな短期間でやってくれた奥さん達とヘイロンには頭が下がる。


「これで貴方の町の住民もマシな生活が送れるんじゃない?」


 テラスに用意されたテーブルセットの反対側でアグラヴェインはそれを苦々しい表情で見下ろしていた。

 今日はモードレッドも咳に着かずアグラヴェインの後ろに立っている。当然私の後ろにもステラがいるのだが。


「数年はかかると思っていたのだがな」

「だろうね。それを片付けてる間にヴォルガロンデの寿命が尽きるのを待とうって?」

「お前が何の用があってヴォルガロンデに会おうとしているのかは知らん。だがいい加減あいつを休ませてやりたいと思っている」


 どうやらアグラヴェインはヴォルガロンデを知っているらしい。

 その後聞いた話では二千年前からの知り合いだとか。長い付き合いだね!


「ヴォルガロンデは本当に強くてな。真っ向勝負じゃ俺様は一度も勝てた試しがない」

「……信じられません」


 昔を懐かしむように微笑みながらティーカップを傾けるアグラヴェインに対し、新人魔王のモードレッドは複雑そうな表情だ。


「それほどヴォルガロンデの強さは常軌を逸していた。俺様も若かったが、手も足も出ないとはこのことかと思ったものだ」


 ははは、と軽く笑っているものの、当時のアグラヴェインがどれほどの強さだったかわからないので憶測にはなるけれど、仮に今の半分くらいでも手も足も出ないほどってどのくらいなんだろう。

 もしヴォルガロンデと戦うことになるのだとしたら、私も今より更にパワーアップした方がいいのかもしれない。

 あまり時間はないけれど、奥さん達にかけていた時間を自分のためだけに使うのも有りだろうか。


「ほら、持っていけ」


 城下を見下ろしながら今後のことに思いを馳せていると、アグラヴェインは小さな箱を私に差し出してきた。


「ヴォルガロンデに会うならそいつが必要だろう」

「銀の……髪飾り? もしかしてこれが階の鍵?」

「そう聞いている。それと、あいつが使っていた塒が天使族の集落からずっと北西に行ったところにある。やたらデカい古城だから見ればすぐわかるだろう」

「……やけに親切だね?」


 何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうほど、アグラヴェインは教えてくれた。

 しかし。


「他意はない。お前がヴォルガロンデを害そうと考えていないことはわかるし、多分馬鹿でもないだろ」

「多分てなんだ」

「さあな。それは俺様よりお前の方が案外知ってるんじゃないかと思っただけだ」

「それは……」


 凄く失礼なことを言われたけれど、ひょっとして……アグラヴェインはヴォルガロンデが管理者代理代行だってことを知ってるんじゃ?

 でも、私は敢えてそれを尋ねなかった。

 もしアグラヴェインがヴォルガロンデに替わって管理者代理代行になっていたらこんなことになっていないはずなのに、彼はそうしていない。

 自分が出来なかったことを私にさせる罪悪感を感じて、ってそんな殊勝なタイプじゃないね。


「じゃあ、最後に」


 そこで私は保護したキュピラと妹のネレイアを奥さんに迎えること、村での許可を貰っていることを伝えた。


「依頼する時に言ったはずだ、『好きにしろ』と。一度集落に連れて行きさえすればいいともな」

「そ。それじゃ好きにさせてもらうよ」


 アグラヴェインは「あぁ」とだけ、私の方を見向きもせずに返事をするとティーカップのお茶を飲み干した。


「もう行くんだろう? なら最後に……」

「ケンカはしないよ?」

「ち……つまらん奴だ」


 だいたい私とアグラヴェインが戦ったら決闘システムが働いて大事になってしまう。

 どちらが勝っても大混乱しか起こらないのだからやる意味がわからない。

 私もお茶を飲み干すと無言で立ち上がりテラスから立ち去るべく足を部屋の中へと向けた。


「セシーリア……また来い」

「アグラヴェイン……ケンカしないならまた遊びに来るよ」

「けっ……」


 手をひらひらさせ、追い払うような仕草をする彼に背中を向けると後ろからステラが続き、モードレッドもついてきた。

 そのまま城の門まで互いに言葉を交わすことなく歩いく。


「アグラヴェイン様が『また』と仰ったのを初めて見ました」


 あと一歩で城の外に出ようとしたところでモードレッドが独り言のように呟いた。


「貴女にその気がないことは重々承知していますが……それでも嫉妬してしまいます。それ以上に、私もまた貴女にお会いしたいと思います」

「あは……じゃあ今度は二人で第三大陸の我が家に来てよ、歓迎するからさ」

「えぇ、必ずお伺いするとお約束します」

「待ってるよ」


 深々と頭を下げたモードレッドに背を向けると今度こそ振り返らずに町の中へと向かった。




 その日の夜。


「ということで魔王アグラヴェインから正式に許可が下りたのでキュピラとネレイアを迎え入れる……ます」


 二人の肩に両腕を回して抱き寄せると彼女達も私の胸に頬を擦り寄せてきた。


「まぁ、キュピラを連れてきた時からこうなるかなって思ってたけどね?」

「それにしても愛人や妾では駄目なんですの?」


 部屋の中ではステラを除く四人から呆れた目を向けられていたが、私はそれを当然無視している。


「天使族は迫害の対象になります。セシーリア様の奥方にならなければどこかで迫害されるでしょう。そのために最低でもソファイア様と同程度まで面倒を見る必要があります」

「そうね……ソファイアくらいの強さがあれば安心だものね。よほど頭が悪くなければ魔王に喧嘩を売ったりもしないでしょうし」


 アグラヴェインやヒマリさんクラスの魔王なんて世界に十人もいないし、脅威度S上位でも全然問題ない。


「私は歓迎するの! 仲間は多い方が楽しいの!」

「うん、チェリーが楽しいのはわかったけどちょっと静かにしててね?」


 ユーニャはチェリーの頭を撫でると私のすぐ目の前までやってきたかと思うと、じっと私の瞳を覗き込んできた。


「それで、セシルの本音は?」

「この子たちに宝石を飾り付けて愛でたいし迫られたいです」

「はあ……そんなことだろうと思った」


 仕方ないじゃん。やりたいと思ったことはやることにしてるし、我慢なんてしないって決めてるんだから。


「仕方ないわね。だってそれがセシーリアでしょう? 自分の欲望にとことん忠実だもの」


 一番呆れ顔をしていたリーラインも腕をW字にして首を振り、その隣でチェリーも大きく何度も頷いていた。


「私としてはセシルが何人娶ろうと、愛人や妾を作ろうとも気にしませんけれど……ソフィアやコルチボイス様はそうではないのではなくて?」

「確かに。私もセシーリア様に愛されていると実感しておりますので、他に何人連れてきても構いませんがソファイア様にあまり良くないかもしれません」

「そういえば……昔はソファイアも男子と遊んだりしていたけれど、卒業する頃はほとんど女子としか交流していなかったような気がするわ」


 三人からソフィアに悪影響だと聞かされ、その影響が既に出始めていると聞かされてはさすがの私も息を詰まらせた。

 良い母親ではないかもしれないけれど、あの子には愛情を注いであげたいと思っている。でもそんな母親である私自身が悪影響と言われると、ヤバい。久し振りに物凄く落ち込んできた。


「あぁ、もうみんなしてセシルを虐めたら駄目だってば。大丈夫だよ、ソフィアはいっつもセシルママが一番好きって言ってるから」

「ほ、ほんと?」


 嘘だったら泣くよ?! 涙出ないけど!


「本当に本当。だからそんな必死な顔しないの」

「でもソフィアが将来女の子と結婚するって言ったらどうするの?」

「別に止めないよ? 性別も年齢も、あの子がちゃんと好きであの子のことをちゃんと受け止められる相手ならね」


 ソフィアの神の祝福はなかなかに業に塗れているから、それを受け止められるだけの器がある相手は簡単には見つからないかもしれないけどさ。

 ……なんでみんなそんな呆れたような顔するのさ?


「話が逸れちゃったね。でもソフィアの将来を考えたらこれ以上あの子のママを増やすのはどうかと思うの。だからセシルの奥さんはしばらくここにいる七人までにしましょ?」

「……はい。身に沁みました。……ってことは、とりあえずキュピラとネレイアは迎え入れても良いってことで?」


 私は両腕に抱える二人を更に抱き寄せながら奥さん達の表情を見回した。

 ユーニャもミルルも、ステラ、リーライン、チェリーもみんなにこやかに微笑んでくれている。

 さすがに私も奥さん達や子ども達のためにもちゃんと約束を守ろうと思う。


「はい、約束します。私はとりあえず五百歳になるまでは奥さんを増やしません!」

「長いね」

「仕方ないわよ、私達みんな長命種だもの。確か天使族も寿命が長いんじゃなかったかしら?」


 リーラインが私に抱き着く二人に問いかけると、ようやく彼女達は私から離れてくれた。


「天使族、五百まで生きる」

「最長寿命は八百年だったと言い伝えがあります」


 うん。

 みんな凄く長生きだ。つまりそれだけ長く一緒にいられるということだよね?

 なら、やっぱりちゃんとケジメとしてしっかりしておかなきゃ!


「改めて今更だけど……私、みんなと結婚式したい!」

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― 新着の感想 ―
>「はい、約束します。私はとりあえず五百歳になるまでは奥さんを増やしません!」  え〜? 本当にござるかぁ〜?(信じていない目)
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