第510話 その中に入れてほしい
コミカライズもよろしくお願いします!
チェリーの広範囲な威圧とミルルの重力魔法の結果、人は動けず建物は全て倒壊。
私が守ってあげた少女だけは無傷で済んだけれど、精神と記憶を改ざんした上で更に追い詰められてしまったせいかほとんど何の反応も示さない。
今はそれがありがたい。
「ぐ……う、うぅ……」
さすがミルル。あれほどの魔法を使ったにも拘らず人は誰も殺してない。
チェリーの威圧も見事なもので村全体に行き渡っているうえに野生動物や魔物もこの付近からどんどん離れていってる。
「処分までしようかと思いましたけれど……貴方方の罪はそれほど軽いものではなくてよ?」
「弱すぎて相手にならないの」
退屈そうな顔をする二人を余所に、私は恐慌して震えるデグフラブに近寄った。
「どう? 理不尽な力が、貴方達を助けた力が自分達に向けられた恐ろしさがわかった?」
デグフラブはカクカクと首を縦に振るも何一つ言葉を発せないでいる。
「……わかったところで手遅れだけどね。私は貴方を、この村のこと自体を許せない」
私も迂闊だった。
少なくともデグフラブに悪意は無かったと思うし、第五大陸の食料事情にも疎かったからつい彼に丸投げしてしまった。
理不尽な扱いを受ける人全てを救えるわけじゃないのは理解しているけれど、今はこの子を助けたい。
帰る家のない少女なんて、捌け口にするには格好の的だもんね?
だったら同じように捌け口にして、捌け口にされたらいい。
「暗黒魔法『二次創作』」
デグフラブと少女を除き、村全体に真っ黒な魔力が広がっていくと、村人一人一人に纏わりついていく。
不気味な咀嚼音とともに、彼らの中の価値観が塗り替えられているところだ。
そして、まるで墨汁で出来たシャボン玉が破裂するかのように魔力で出来た蛹が孵化して彼らを解放した。
むせ返るほどの悪意は、デグフラブに、村の人々に、少女に与えた以上のものになって襲いかかっていった。
「それじゃ私達は行こうか」
「よろしいんですの?」
チラリと周囲に視線を走らせたけれど、すぐに私は少女を魔法の鞄から取り出したマントで包んで抱え上げた。
「いくら私でも今から始まる阿鼻叫喚の地獄を見て愉悦に浸る趣味はないよ」
ミルルはつまらなさそうに頷くとさっさと村の外に向かって歩き出し、チェリーもすぐその後を追っていく。
「飯食わせろおおぉぉぉっ!」
「お前のせいでみんな死んだ! みんな死んだみんな死んだみんな死んだみんな死んだ死んだ!」
「さっさと足開けこのグズがあっ!」
「もっと泣け!」
「うるせえから黙れ!」
「お前の飯は俺の飯だ!」
……品がないね。
まるで黒い欲望の波。
それでも村人全員の悪意をその身に受けながらデグフラブは私に怨嗟の瞳を向けていた。
「私を恨むのは筋違いでしょ。全部自業自得」
次第に村人同士で傷つけ合い、殺し合いに発展していくだろう。それこそ、互いの心臓を抉り出して貪るように。
「初めから……お前になど、頼むべきでは、無かった……」
「そしたら貴方達は全員盗賊にやられて無駄死にだったかもね」
「こんな……理不尽があって、たまるか……」
いい加減話に付き合うことに飽いたのでくるりと踵を返すと村の惨状を放置して歩き出した。
---条件を満たしました。タレント「憎悪」が進化します---
---タレント「憎悪」を糧に、新たなタレント「途閉ザス者」が開花しました---
---条件を満たしました。タレント「慈悲ナキ者」「途閉ザス者」が統合、融合進化します---
---新たなタレント「暴君」が開花しました---
---レジェンドスキル「暴君」を獲得しました---
「お、おい……まさか、このまま……」
「『理不尽』っていうのはね、救いがないから『理不尽』なんだよ」
「ま、待て……」
「じゃあね。もし生き残れたら復讐でも何でも受けてたってあげるよ」
そこからは振り返りもせずに村の出口へと向かった。
後ろから「くたばれ」とか聞こえた気がするけど、それはこっちのセリフだよ。
少女を連れ出した私達はそこから長距離転移でヘイロンのいる町へとやってきていた。
あの子を三人で一緒にお風呂に入れて食べやすい食事を与えた後はいつも私達が情事に耽っているベッドに寝かせることにした。
「なぜここなんですの? ベッドなら他にもありましてよ?」
「……別にたいした意味はないんだけど……ここなら私の匂いとか残ってるかなって」
彼女の改ざんした記憶は私と致したものへと変わっている。
だからこうすることが良いのか悪いのか判断はつかなかったけれど、私といることで少しでも癒されてほしかった。
「チェリー、ユーニャ達の手伝いに行きますわよ」
「わかったの。セシルは行かないの?」
「それは野暮というものですわ」
変な気を利かされてしまったけれど、チェリーには伝わらなかったみたいで小首を傾げたままミルルについて部屋から出ていった。
「まったく……」
まぁでも折角気を利かせてくれたのだから甘えることにしよう。
私は少女の隣で寝転ぶとそっとその体を抱き寄せた。
天使族は背中に羽があるけれど、どうやら肉のある羽ではないようで魔力で作られたもののようだ。
お風呂に入ったときにわかったのだけど、私の腕をすり抜けるしベッドで仰向けに寝ていても邪魔になっている様子もない。
そもそも飛べそうなほど大きな翼でもなく、ほとんど飾りにしか見えないほど弱々しい。
それでも綺麗な白い羽をしている。
ぎゅっと抱きしめると私の胸が彼女の頭で潰された。彼女には女らしい凹凸があまり見られないものの、その華奢な体躯は私の奥さん達にはない背徳的な魅力を感じ始めている。
リーラインも細身ではあるけれどスラリとした健康的なスレンダー体型だし、チェリーも胸はぺったんこだけど鍛えているおかげで全身の筋肉はすごい。
しかしこの少女はただ不健康そうに痩せすぎていた。リーラインより細く、くびれも膨らみもあまりない幼児のような体型なせいで勘違いしてしまいそうだけど、この子は私よりも年上なのだ。
外見年齢はソフィアと大差ないようにしか見えなかった。
さて……うまくいくかどうか、わからないけど。
「暗黒魔法『二次創作』」
二度目の記憶改ざん。
実験台で試したことはあるけれど、うまくいく確率としては三割程度。うまくいっても性格が以前とは大幅に変わっていたり、記憶の齟齬によって精神が崩壊する者も多かった。
でも、この子はあの場で放置してしまった私の責任によるところが大きい。
仮に何か問題があったとしても私が最期まで面倒を見る。
私の腕の中で黒いヘドロのような魔力に包まれて不気味な咀嚼音によって記憶を改められる少女。
私が望んだものとして彼女は一度は私に襲われ、二度目は私から無惨なほど酷い目に遭わされたことになったはず。
恨まれるなら、私だけでいい。
「う……ん……」
やがて黒い魔力の繭から出てきた少女は小さく呻き声を上げた。
そしてうっすらと目を開くと自分を抱きしめている私と目が合った。
「おはよう。私がわかる?」
真っ直ぐ目を合わせたまま少女に微笑むと、彼女は小さく首肯して頬を赤く染めた。
って、あれ?
「セシル姉様……っ」
「……は? え、あ……ええぇぇぇ……?」
聞き慣れない単語に私が戸惑っていると少女は私の背中に手を回して強く抱き着いてきた。
ドウシテコウナッタ?
その後ベッドの上で向かい合わせに座って少女と話したことで発覚したこと。
彼女の名前はキュピラ。故郷の村を出て放浪しているところを私に出会って恋に落ちたが旅についていけずに一人旅に戻った。しかし盗賊に捕まってしまい、あわやというところで私に助け出され魔人の村に預けられたものの、そこでも魔物に襲われそうになった。もう少しで魔物の鋭い爪に引き裂かれそうなったが、またもや私が助け出した。
ということになったらしい。
おかしい。
私が考えた記憶の改ざんとは違う結果になってるんだけど……?
「姉様、キューはもう離れたくありません。ずっと姉様のお側に置いてくれませんか。足手まといにならないよう頑張りますから」
「いや……足手まといとかは別に思ってないけど……貴女を」
「姉様、キューのこと名前で呼んでください」
「……キュピラを故郷の村に送るよう依頼されてるんだよ、魔王から」
魔王、という単語にキュピラの表情が曇った。
この大陸ではそれほど魔王という存在は大きなものであり、逆らうことは許されないのだろう。
特にアグラヴェインは古くから存在する強大な魔王だからこそ畏怖の象徴でもあり、皆が従うべき絶対的な存在として君臨している。
「とりあえず一度村へ送るよ。それで私についてきたいなら村の人達に説明して納得してもらえばいいんじゃない?」
「はい……でも」
どうやらキュピラの両親は既に亡くなっているらしい。
それが五十年くらい前だと言っていたので、キュピラ自身も私より年上であることが発覚した。
まぁ私の方が年下だと言っても姉様呼びは無くならなかったけど。
そして彼女には双子の妹がいて、その子が絶対に離してくれないだろうとのこと。
虐待してくるとかではなく、姉のことが心配らしくて過度な世話を焼きたがるのだそうで……さすがにどの程度なのかは会ってみないとわからない。
「でも心配してくれる家族がいるなら尚更しっかり説明して納得してもらわないと駄目だよ?」
「はい……」
「私の奥さん達もみんなちゃんと家族には説明もしているし、納得して来てくれてるから」
「奥、さん、達?」
あ、しまった。
「姉様、結婚していたのですね」
そういえば奥さんという名のパートナー達がいることをまだしっかり説明してなかったことに苦笑いしか浮かばない。
しかも一人じゃなくて五人もいるし、ね?
けれどキュピラは顔を上げたかと思うと力の籠もった眼で私に近寄って手を取った。
「だったら、キューもその中に入れてほしいです!」
「なんでそうなるっ?!」
「最悪姉様と奥様方のペット枠でも可です!」
「ペットなら足りてるからっ!」
「駄目、ですか……?」
う。
潤んだ瞳に見上げられ、たじろぐ私へ更に迫るキュピラ。
正直なところを言えば、奥さんに加えることに問題はない。
私が貴族である以上、教養は必要だけどそれはこれからでも身に着けられる。
冒険者でもあるため相応の強さも必要だけど、これもなんとでもなる。
記憶を好き勝手に改ざんした後ろめたさもあるので断るのは忍びないと思ってもいる。
なら愛人枠でも、と思わなくもないけど……。
「そういうことなら尚更妹にちゃんと説明して、納得してもらってからね。そうすれば私からも他の奥さん達に納得してもらえるように説明するから」
「わかりました! なら早速行きましょう!」
キュピラはベッドの上で立ち上がると掴んだままの私の手を引いた。
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