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第52話 ギルドで交渉

「それじゃ出してみてくれる?」


 私は案内された部屋でお姉さんに促されるまま腰ベルトに手をかけた。

 取り出すのは採集したマナリオ草、ラーナ草、ポンデミル草。それと討伐した魔物の証明部位と熊と猪だ。薬草は全部で四百株以上、ゴブリンの両耳は二十一、ウルフの牙は十六、猪が三体に熊が二体。

 次々に取り出していく素材を見ていたお姉さんの顔色が熊を出したあたりから青くなってきていた。


「これで全部なんですけど、熊と猪はどこが証明部位かわからなかったからそのまま持ってきちゃったんです」

「あ、はは…は…そのまま、ね…」


 顔色の悪いお姉さんは虚ろな表情のまま私の出した素材を見つめているけどできれば早めに算定してほしい。


「あの…?」

「あ、あぁごめんなさい。それじゃあ計算するからさっきのホールで待っててくれる?」

「はい、わかりました」


 彼女はフラフラと私が積み上げた素材の山に向かって数え始めたが、私は退室を求められたので心の中で応援しつつホールに戻ることにした。

 戻ってみるとホールの中は外に出ていたと思われる冒険者達が相当数戻ってきておりなかなか混雑している。リコリスさんのカウンターだけでなく全てのカウンターが埋まっているし、更にその後ろには数人ずつの行列まで出来ている。

 とりあえずお姉さんの算定が終わるまで待つしかないね。

 ぼーっとしながら冒険者達の流れを見ているとなかなかに面白いものがある。人によって悲喜交々。依頼を達成してお金を受け取っている人、失敗したのか落ち込んだ表情を浮かべている人、なんとか成功と認めてもらおうと必死に交渉している人などここには様々な人間の営みがある。どの人も生活がかかっているからだろう、話し方に熱が籠もっているので見ていて飽きない。

 私も前世で生活のために仕事やバイトをしていたけどここまで必死にはなっていなかったなぁ。もっと真剣に必死にやるべきだったんだろうか?でもあの平和な日本では食べていくだけならそこまで必死になる必要はなかったし、いざとなったら女性特有の仕事、それもそんなに危なくないものだって選べたわけだしね。

 ま、今となっては過去?のことを思い出しても仕方ない。この世界にいる以上は必死にやる必要はあるのだろう。

 尤も、リードの家庭教師をしている間はかなり安定した収入を得ることはできると思うけどね。転生ポイントのことさえ無ければ…。

 壁に寄りかかったまま人の様子を見、考え事をしている内にそれなりに時間が経っていたようで素材買取カウンターでさっきのお姉さんに呼ばれたのでそちらに向かう。

 私の名前が呼ばれた時に周りの人達の半分くらいがこちらを振り向いていた。その人達の大半が私の格好を見て何やら言っているようだったが気にしない。絶対既に尾ひれのついた噂に振り回された人達のはずだから。前世でもいろんな噂を囁かれて生きていたんだし、また始まったと思うくらいにしておけばいいよね。


「呼ばれましたセシルです」

「セシルちゃんお待たせぇ。算定終わったよ」


 ややげっそりした顔をしているお姉さんに「お疲れ様です」と労いの言葉をかけたら逆に顔を顰められてしまった。疲れさせてしまった原因が私なのでわかるけど、それが貴女の仕事でしょうに。


「それじゃまずはこれが報酬ね」


 お姉さんは硬貨が入った袋をカウンターにカチャンと音を立てて置いた。

 できれば注目を集めないようにそっと置いてほしかったけど今となっては後の祭りだ。


「まず薬草が小銀二枚で四百二十二株で纏まった量での納品なのでおまけして金貨一枚。次はゴブリンの耳とウルフの牙は小銀四枚だから小銀百四十八枚で小金一枚銀貨四枚小銀八枚。ここまではいい?」


 さっき依頼書を見たときにも金額は確認したものの思ったよりも金額が多くなっている。まとまった量での納品は喜ばれるようだね。今後のためにも覚えておかないと。

 ゴブリンやウルフの素材に期待はしてなかったからそれでもお金になってくれたのなら文句はない。


「後はベルボウ…猪の魔物ね。牙と肉が高く取引されてるの。状態も良いし確認したら解体もせずに渡してほしいってお店もあるほどよ。だからこれは一体につき小金三枚。最後に熊の魔物マッドベアは毛皮と手、肉が素材として買い取りをしているわ。セシルちゃんが持ってきたのは小さな傷しかなかったからこれもかなり貴重な品として買い取りさせてもらうから小金五枚。ベルボウとマッドベアの買い取り額は小金十九枚だけど解体料として小金四枚貰うからセシルちゃんの取り分は金貨一枚小金三枚になるわよ」


 なるほど。やっぱり魔物によって買い取り部位はそれぞれ違うみたいだね。やっぱり全身持ってきた甲斐があった。できれば今後は魔物毎にどの部位が買い取りされるか調べてそれだけを回収するようになれるのが理想かな。

 それと。


「お姉さん、猪と熊の買い取り額から解体料を引いたら金貨一枚小金五枚だよ」

「…え?そ、そうだったかしら?や、やだわ、私ったら計算間違えちゃったみたい」


 ただ間違ったのなら笑って許してあげようかと思ったけど、このお姉さんは故意犯だ。でも素材の買い取りなんてここしか私は知らないし、ひょっとしたら算定の金額も誤魔化されてるのかもしれない。

 私は疑いの眼差しをお姉さんに向ける。

 すると後ろから一人の冒険者から声を掛けられた。


「おい、嬢ちゃん。冒険者ってのは素材の売り込みもできて初めて一人前ってもんだぜ?ギルドに卸すようなお人好しじゃ全然儲からねぇぞ」


 振り返ると二十代くらいの男性冒険者が目の前のお姉さんを見咎めるように訝しげな顔をして立っていた。黒っぽい革鎧を着てロングソードを背負っている。今日もどこかに行ってきたのか全身が汚れているが怪我らしい怪我はしていないように見える。緑色のバンダナを巻いた額の少し下に小さな切り傷があるが森に入って木の枝にでも当たったのだろう。

 顔はそれなりに精悍な顔立ちはしているが優しそうな雰囲気を感じるなかなかの好青年である。


「うん?そうなの?でも私素材の買い取りをしてるところなんか知らないから」

「そうなのか?いいぜ、俺が知ってるところなら紹介してやるよ。その代わり紹介料はキッチリいただくがな」

「ちょ、ちょっと!折角ギルドに卸してくれる貴重な新人なんだから悪い道に引き込まないでくれる?!」

「悪い道って…ヴァリーの姐さんがやってることの方が俺ぁよっぽどあくどいと思うがね。良品のベルボウとマッドベアを持っていけば解体料込みでさっきよりも金貨一枚は違ってくるぜ?」

「あぁぁぁぁっ!なんで金額言っちゃうのよぉっ!」


 なるほど、このお姉さんはある意味ギルドの営業マンみたいなものか。素材を安く冒険者から買い取って高く転売、その利鞘をギルドに納めているわけだ。

 冒険者ギルド自体は冒険者達自身の互助会みたいなものであってそのものが組織ではない。ということは冒険者達一人一人が個人事業主みたいなものになるから、素材の売り込みや護衛任務の請負なんかも自身の売り込みによって依頼が多く舞い込むこともあるわけだね。

 でも私としてはそういうことまでやる時間はないのでできればギルドに全て任せてしまえるならそれに越したことはない。


「わざわざ教えてくれてありがとうございます。折角ですが私はギルドに売ろうと思います。でもヴァリーさん、もう少し適正価格で買い取ってくれると嬉しいのですが」


 微笑んだまま私は彼女に対し軽く威圧してみる。もちろん目は笑ってないはずだ。


---スキル「威圧」を獲得しました---


 お?なんか久々に新しいスキルが手に入ったよ?昼間の馬鹿三人組にも威圧してたと思うけどあの時は手に入らなかったのはなんでだろう?

 でも便利そうなスキルだし、スキルレベルを上げておいても良さそうだね。ということで継続して威圧をっと。


---スキル「威圧」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---


スキル「威圧」1→4


 よしよし、スキルレベルが上がったね。

 スキルのことだけを気にしていたら周囲の様子が目に入っていなかったことに気付いた。見回すとヴァリーさんと親切に声を掛けてくれたお兄さんの二人が若干青い顔をして私を見下ろしていた。

 …またやってしまった…?自重しようって思ってはいないけど少しは遠慮をするべきかな?


「お姉さん、お兄さんが言ってた通り金貨一枚上乗せしてもらえませんか?」


 威圧スキルは解除せず笑顔のまま再度お姉さんと交渉を開始する。さすがにさっきの話を聞いた後で提示された金額でOKを出すほど私もお人好しではないからね。


「さ、さすがにそれは…。せめてき、金貨一枚小金八枚くらいで…」

「お兄さん、やっぱり紹介してもらうことはできますか?」

「あ、あぁ…構わないぜ。この後俺も受付するから少し待っててくれりゃ案内する」

「ちょ、ちょっと!わかったわ、セシルちゃん。金貨二枚と小金一枚!これ以上は無理よ!」

「お兄さんの手続きしてる間に私はさっき出してきた素材を回収してくるので時間は気にしなくていいですよ」

「あぁぁぁもうっ!セシルちゃん!この商売上手!金貨二枚と小金三枚!もう鼻血も出ないからね!」


 まぁこのあたりが落とし所かな。あんまりやると私がさっきのヴァリーさんと同類になっちゃう。それ以上に今後ともギルドとは良好な関係で素材の買い取りを安心して任せられるようにしたいからね。とりあえず威圧はもう解除しておこう。


「ごめんなさい、お兄さん。やっぱりギルドの方も大事にしたいので先ほどの話は無しでもいいですか?」

「…ぷっ…ははははははっ!すげぇ大したもんだ!あぁ、さっきのことなら気にするな!またいつでも紹介はしてやるからな!」


 そう言うとお兄さんは私の背後にいるであろう涙目でハンカチの端を咥えて引っ張っていそうなヴァリーさんに視線を送った後、「またな」と言ってその場を去っていった。


「ヴァリーさん」

「な、なによ…もうこれ以上は出せないわよ」

「いえ、ギルドとは良い関係を築くことができそうで安心しました。今後ともよろしくお願いします。それで最終的な合計は金貨三小金四銀貨四で結構です。端数はお騒がせした迷惑料ということで」

「…はいはい、もういいわよそれで…。はぁ、ブルーノさんに気を付けろって言われた意味がよーっくわかったわ。それじゃここが終わったらまたリコリスのところへ行って依頼達成の手続きをしてちょうだいね」


 ヴァリーさんは不貞腐れた顔で報酬の金額が入った袋を一度下げてから中身を入れ替えもう一度カウンターにガチャンと大きな音を立てて置いた。ちなみに中身を確認したところ小金が二枚少なかったので再度威圧を掛けてお姉さんの顔を青くさせたのは余談としておく。

今日もありがとうございました。

相変わらず仕事が落ち着きません。もう少し粘って書きます。

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