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第508話 アグラヴェインの依頼

コミカライズもよろしくお願いします!

 アグラヴェインとの謁見を終えた私達は意識を取り戻した執事に案内されて談話室へとやってきた。

 私も白いドレスから貴族服に着替え、テーブルを挟んでカップを傾けている。


「だが参ったな。セシーリアが現れたことで勇者と魔王の力関係が狂ってくる」

「それって何か問題あるの?」

「ヒマリは話さなかったのか? 勇者か魔王に何か問題が起きた時、反対側の者がそれに対処する。現在の勇者はほとんど何もしないから俺様達は好きにしていられた」


 なるほど。だから魔王側に難有りって言われるとその魔王を勇者が何とかしなきゃいけないと。

 あれ? けどそれって?


「そんなの、誰が決めてるの?」

「『神』のヤロー共だ。運営に影響が出るだのなんだの言ってきやがる。まぁここ二百年くらいは何をしていても放置だがな」


 ニヤリと笑うアグラヴェインだけど、彼はそんなに非道はしていない気がする。

 隣に座るモードレッドも人類種に比べたらかなり強い部類だけど、出会った頃のチェリーと比べてもまだ弱いと思うし、無茶は出来ないはず。

 それよりも、だよ。


「『神』ってそんないつも私達を見てるの? 私会ったことないんだけど」

「……勇者になるとき、神に会わなかったのか?」

「普通会うものなの? 英人種に進化した時ついでに勇者のタレントも手に入れたけど、神には会わなかったよ?」


 確か白い繭みたいなのに包まれて進化。そしてスキルやタレントの進化や強化があったはずだけど、やはり神になんて会ってない。


「今まで聞いた中じゃ勇者なり魔王なりのタレントを手に入れた奴は全員神に会ってるはずだ。チェリーツィアもそうだろ?」


 アグラヴェインがチェリーへと顔を向けると彼女はコクリと頷いた。

 なるほど、本来はそういうものなんだね。

 ひょっとしたら私の『管理者の資格』が何かしらの影響を与えてる可能性あるんじゃない?

 でも私もそのことを出会って間もないアグラヴェインに言うつもりはない。

 そもそも管理者に関することは私の奥さん達の中でもユーニャに少しだけ話したことがあるくらいだ。それも子どもの頃だからもう二十年は前になる。

 いつかはみんなにしっかり説明しなきゃと思っているけど、今はまだ長い寿命の中でそのうち話せばいいと思うだけに留まっていた。


「たださ、私が一人入ったくらいで勇者と魔王の関係ってそんなに変わるの? 魔王は何人もいるのに勇者は何もしない人が一人か二人でしょ?」

「仮にだが……俺様とヒマリの力が同じだけあるとして、二人と同時に戦うことになってもお前と仲間たちがいれば勝てる自信があるな?」


 ヒマリさん二人分かぁ。

 今のレベルアップした奥さん達がいれば多分問題ない。

 そのことを伝えるとアグラヴェインはつまらなさそうにそっぽを向いた。


「けっ。俺様たち魔王は基本的に長い年月をかけてこの強さを手に入れてきた。なのにお前はポッと出てきてその馬鹿みたいな強さだ。チェリーツィアも魔王の中では強いほうだったが、俺様やヒマリほどでは無かったのに今や他の魔王たちとは比べ物にならん」

「えへへ、強くなったの! でもまだヒマリとアグラヴェインには勝てそうにないの」

「当たり前だ。そうそう追い抜かれてたまるか」


 多分だけど、ヒマリさんが推定レベル一万八千。アグラヴェインも二万程度なのでチェリーの一万四千では届かない。

 それだけじゃなくヒマリさんは確実に、アグラヴェインも恐らくオリジンスキルを持っている。それの有る無しでは戦闘能力に大きな差をつけられることになるし、レベル差もある程度ひっくり返すことが出来る。

 チェリーがオリジンスキルどころかeggすら持っていないのは魔王種の討伐を自分でやっていなかったせいもあるようだし、いつか奥さん達にはオリジンスキルを身に着けてもらいたいとは思っている。

 とりあえずそれはもう少し先の話だし、何よりチェリーには私がいるのでそこらの魔王がちょっかい出してきても退ける自信はある。


「で、結局お前らは何しに来たんだ? ヘイロンの紹介だから会ってやったが、俺様はあいつと違って商売なんかしねえぞ」

「アグラヴェイン様、まずは話を聞いてみましょう。チェリーツィア、セシーリア殿聞かせてもらえますよね?」


 話を切り上げて本題に入ろるアグラヴェインにモードレッドが軽く諌めた。

 ただ黙って従うだけの関係ではないようで好感が持てる。

 やや喧嘩っ早いところはあるけれど、アグラヴェイン自体は悪い人じゃなさそうだ。


「私達はヴォルガロンデの研究室と竜王、それと階の鍵を探しているの。もし知っていたら聞かせてほしい」

「……はぁ。ヴォルガロンデとはまた懐かしい名前出してきたものだな。しかも階の鍵ということはあいつに会いに行くつもりか?」

「えぇ。私達はヴォルガロンデに会わないといけないから」


 ふぅん、と興味の無さそうな返事をするアグラヴェインだが何やら思い当たる節があるのか額に指を当てて何かを思い出しているようだ。


「そういえば……あそこがヴォルガロンデの塒かどうかは知らんが……」

「知ってるの?!」

「ちょっ、チェリー!」


 アグラヴェインの言に食いついたチェリーを止めようとしたけれど時既に遅し。

 ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべたアグラヴェインは額に当てた指をピンと立てて「が」と強くもう一度告げた。


「はぁ」

「セシル、ごめんなの……」


 とはいえチェリーだけが悪いわけではない。

 私も言いそうになったし、あの冷静なリーラインでさえやや前屈みになったくらいだ。


「かはははっ、嫁の手綱くらいしっかり握っておくことだな」

「……忠告はありがたく受け取っておくよ。けど覚えてなよ」

「忘れてやるとも。何たいしたことじゃない。二つ三つ俺様の頼みを聞いてくれればいいだけだ」


 二つ三つとか平気な顔で言うあたり、アグラヴェインの性格の悪さがよくわかる。根は悪人じゃないとしてもこういう腹黒さは持っているようだ。

 けど普通こういう頼み事って一つって相場が決まってるんだけどね?!


「簡単なとこからいっておくか。一つ目だが、俺様のいる町の住人どもの生気がないのを何とかしろ」

「……てか気付いてるなら自分で何とかすればいいでしょ」

「知らん。他の魔族共の食事の面倒を何故俺様が見てやる必要がある?」


 言い切りやがりましたよこの魔王は。

 ちなみにアグラヴェインとモードレッドは共に吸血種だ。

 夜人族は吸血種と吸精族混血で上位種族だけど、吸血種自体に上位種族である高位吸血種、王位吸血種というものがあり、アグラヴェインは王位でモードレッドは高位になる。

 血を吸ってるだけでも生きられ、かなり長期間食事無しでも過ごせるはず。

 だからか、他の種族のように食事に対する意識が薄く何とかしてやろうという気になれないのかもしれない。


「はぁ……まぁそれは当てがあるからいいとして。二つ目は?」

「ここから更に北上した山間に天使族の集落がある。俺様の保護下にあるんだが、少し前に娘が一人行方不明になったらしくてな、それを探し出して集落まで連れていってやってくれ」

「保護下にあったのに行方不明なの?」

「……たまたま一人、勝手に出ていった奴がいてな」


 そこまで管理する必要もないと思うけど、どうなんだろうね。

 勝手に出て行ったのなら自己責任ってことで放置すれば良いと思っていたけれど、リーラインが小さく手を上げたのが見えたので私も頷いた。


「失礼します魔王陛下」

「なんだ」


 声を上げたリーラインに対しやや不快そうに応じるアグラヴェインは顔をこちらに向けたまま視線だけをリーラインへと突き刺した。


「恐れながら私達がこの第五大陸に訪れた際、盗賊の塒を襲撃しました。そこに囚われていた娘の中に天使族の女性が一人おりました」

「……本当か?」


 リーラインの話の答えを私に対して聞いてくる。

 そのくらいリーラインに直接していいと思うものの、彼の横柄な態度がリーラインに向けられるのも面白くないので私がそのまま答えた。


「本当だよ。襲撃した時一緒にいた魔人達に他の女性共々預けてきたけどね」

「なら多分そいつだな。この広い第五大陸でも天使族の集落はそこにしかない。良かったな、一つは簡単に終わりそうだ」

「けど本人が帰りたくないって言ったらどうするの?」

「そこまで知るか。とにかく一度集落へ連れていけ。そこから先は好きにすればいいが、勝手に出て行くのも次やったら見捨てる」

「それはそうでしょうね。面倒見切れないもの」


 コクリと首肯するアグラヴェインはお茶を飲み干して少し乱暴にカップをソーサーへ置いた。


「じゃ最後の一つだが」

「ケンカはしないからね。それと二つ三つとは言ったけど、三つとは言わなかったんだから二つでもいいでしょ」

「……先に言うな。だが……まぁそんなところだな」


 しっかり言っておかないと『一つ保留で』とか面倒なことを言い出しかねない。

 後で言うかもしれないけど、とりあえず今はさっさと依頼された内容を済ませてしまうに限る。


「じゃ、その二つね」

「あぁ。最後の一つは思いついたら連絡させてもらおう」

「三つやるとは言ってないし、思いつかなくていいよ。とりあえず、しばらくしたらまた来るから」


 そこまでで話を区切ると私は一人立ち上がった。

 私が立ち上がれば奥さん達もそれに倣って静かに椅子から腰を上げる。

 チェリー、もう少し音を立てないように練習しなさい。貴女一国の王女でしょうが。

 くつくつと笑うアグラヴェインを背にすると彼は執事に「帰るそうだ」と告げ、私達を見送るよう指示していた。

 屋敷の小さな門から歩いて出るまで、アグラヴェインはさっきの応接室で座ったままこちらに意識を向けていたようだけど、私達が町の宿に入ったところでこちらに干渉してくる気を無くしたようで見られている感覚は無くなった。


「……とりあえず、ヘイロンも交えて作戦会議かな」


 一番大きな宿で大きな部屋を取りたかったけれど、民に興味のないアグラヴェインの町ではそんな大きな部屋は無く、仕方なく三組に分かれて部屋を取ることとに。

 そのまま食事も断った私達は長距離転移(ゲート)でヘイロンのいる町へと移動していった。

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