第507話 魔王アグラヴェイン
最近投稿忘れが多いです……
なるべく予約しておこうと思ってはいるのですが。
コミカライズもよろしくお願いします!
ヘイロン達がいた町を出た私達は彼の紹介状を持って別の魔王がいるという町にやってきていた。
私の魔改造ゴーレム馬車を使っても八日もかかってしまった。
途中に村が二つほどあっただけで基本的にはほぼ荒野。村もヘイロンがいた町と違って食べるものに困っていたが、分けることもせずに早々に立ち去ることにした。
潜在的にシーロン商会の顧客になる可能性があるので余計なことはしない方が良いというユーニャの言に従ったのだけど、私達の持つ食料などを与えたところで焼け石に水なのは明白だった。
そして別の魔王がいるという町にやってきたのは良いのだが。
「結局ここも食料不足はあるんだね」
「仕方ないんじゃないかしら。第五大陸のほとんどが荒れ地なのよ」
魔王がいても結局飢える人はいるわけで。
私だって宝石は大好きだけど、ご飯は食べないわけにはいかない。
お腹が空いてたら綺麗な宝石も楽しめないからね。
どんよりとした雰囲気が流れる町を歩いて進む。
全体的に低い建物ばかりだけど、一際目を引くのが町の中心にある大きな城。私達の目的地でもある。
そこかしこに歩く人々は見かけるけれど、ほとんどの人に覇気を感じられないのはやはり空腹のせいだろう。
城の雰囲気はよく言えば荘厳、悪く言えば不気味。それもあって町の雰囲気の悪さにより拍車をかけていた。
「っと、ここだね」
やがて町の真ん中にある大きな城の正面入口にやってくると、改めて上を見上げてその大きさに驚く。
「よくこんなお城建てたね……」
「魔王城って言えばなるほどと思うけど、なんだか良い印象はないね」
「そうなの? アグラヴェインの城はかっこいいの」
ユーニャと二人で頷いていると後ろにいるチェリーからはまさかの全肯定とも取れる返事が返ってきた。
まぁ、好みは人それぞれだし……でも貴女は私好みに染まってもらいます。
堀など無く、塀に囲まれた城は馬車が通ることを考えていないような小さな門が一つあるだけでそこに一人の男が立っていた。
「ここは魔王アグラヴェイン様の居城だ。立ち去るがいい」
「魔王ヘイロン様から紹介を受けて参りました。こちらに紹介状がございますわ」
「拝見させてもらおう」
ミルルが紹介状を取り出して門番に渡す。
彼はヘイロンの紹介状を裏返すとそこに押された蝋印を確認していた。
「確かに間違いなくヘイロン様の紋章だ。少し待て」
門番はこめかみに指を当てると目を閉じて意識を集中している。
おそらく遠話のような魔法でアグラヴェインかもう一人の魔王と話しているのだろう。
時折何も喋らずに頷いている姿はちょっと面白い。
「確認出来た。アグラヴェイン様がお会いになるそうだ」
「ありがとう存じます」
「こちらに武具類は預けますか?」
「不要だ。アグラヴェイン様を傷つけられる者などおらぬ」
門番はぶっきらぼうに語ると小さな門を開けて脇にずれた。
鍵もかかっておらず、開ける時に「きぃ」と小さな音が鳴っただけで本当に見かけだけの門だ。
城の敷地に入って進んでいくと今度は城の入口で黒い貴族服を纏った男がいて私達に恭しく頭を下げた。
先程の小さな門とは違い、今度は大きく豪著な扉。その大きさは前に立つ男のゆうに三倍はある。
「ようこそおいでくださいました勇者セシーリア様と奥方様方」
「お出迎え感謝いたします」
「主がお待ちでございます。さぁこちらへ」
男は執事らしく私達を先導しながら案内してくれるらしく、城の扉をパチンと指を鳴らしただけで開くと中へと誘う。
「とても大きな城ですのね。私達も王城などに入ることはありますけれど、これほど見事な城は初めてですわ」
「お褒めいただき光栄にございます。こちらはアグラヴェイン様が魔王になられてから五百年を記念して建てられたものでございます」
五百年って。
いやヒマリさんも相当長く魔王をやっているわけだし、長命な種族ならそれほど珍しいことじゃないか。
「当時のことは私も良く覚えております。今から七百年ほど前になりますか。多方面から様々な種族を集め、完成までに五十年かかりました」
「五十年ですか……それは大変な事業でしたのね」
「いえ、皆アグラヴェイン様のためにならと喜んで働いておりました」
絶対嘘だよね?
だって逆らえないでしょ?
もし私がアルマリノ王国以外で暴力を持って横暴を働いたとしても黙って従うのと一緒だよ。
しかしミルルはそれをうまく解釈して微笑んだ。
「さすが魔王様ですのね。素晴らしい人望ですわ」
「はは、ありがとうございます。主のことを褒められるのは自分のことより嬉しいことでございます」
そして執事に案内されるまま城の奥へと向かっていく。
やがて辿り着いた先には入口と同じくらい大きく真っ黒な金属製の扉があった。
これ、見たことある。
「どうぞ」
「あら、開けてくださらないのかしら?」
「はい。魔王陛下との謁見はご自身の手で扉を押し開くのが通例にございますので」
なるほど。
それでヒマリさんと謁見する時も私が自分で開けさせられたんだ。
そしてあの時と同じ、アダマンタイト製の扉。片方だけで三トンを超える重さがある。
「ユーニャ、開けてくれる?」
「え? 私でいいの?」
「うん。『手前に引いて』開けて」
私の言いたいことを理解したのかユーニャはやや意地の悪い顔をして両手に身に着けているガントレットを取り外した。
そして『取っ手のない』扉にそれぞれ片手ずつ添えると。
「んっ!」
という掛け声と共にアダマンタイト製の頑丈な扉に指を食い込ませた。
「はっ?!」
「んん~~っ!」
ゴゴッギギギギギギギギギギギギギッ
扉の前の床は今までほとんど傷ついたことが無かったほど綺麗に磨かれていたが、引いた扉による大きな傷がついていく。
「ありがとうユーニャ」
「はい。どうぞセシーリア様」
扉を開いたユーニャはすぐ隣に逸れたので私はその横を通り謁見の間へと入る。
そして入ると同時に装着で白いドレスに着替えた。
謁見の間は学校の体育館ほどの広さがあり、その中で二段高い位置に玉座と呼べるほど豪華な椅子が置かれている。
当然その椅子に座っているのがアグラヴェインで、彼の隣に立つのがもう一人の魔王と見るべきか。
アグラヴェインは真っ白い髪をオールバックに整えた真っ赤な眼をしたやや中年の吸血種。顔色が悪そうに見えるがあれが吸血種にとっては普通らしい。
もう一人の方も同じ髪と瞳をしているが、こちらはかなり若そうに見える。髪はふわりとそのまま伸ばして肩につくかどうかというくらい長く、体の線も細くすぐに折れてしまいそうなほど虚弱に見えてしまう。
私は玉座を真っ直ぐ見据えながら入口からカツンカツンと足音を立てながら進んでいく。
「ようこそ新たな勇者セシーリア。俺様が魔王アグラヴェインだ」
「はじめまして。セシーリア•ジュエルエースよ」
「それと隣にいるコイツが」
アグラヴェインが隣に立つ男を親指で指し示すと、彼は胸に手を当てて頭を下げた。
「アグラヴェイン様の側近をしておりますモードレッドと申します。以後お見知り置きを」
「コイツはまだまだヒヨッコだが『魔王』ではある。セシーリアとは比べ物にならんほどの雑魚だから虐めないでやってくれ」
人聞きの悪いこと言わないで欲しい。
私がいつ虐めをしたというのか。
「アグラヴェイン、モードレッド、こんにちはなの!」
「チェリーツィアも良く来てくれた。お前が勇者の軍門に下ったと聞いた時は耳を疑ったが……なるほど、それほどの相手だったのだな」
「セシルはすごいの。凄く強くて優しくて温かくて大好きなの!」
ありがとうチェリー。私も貴女が大好きだよ。
「それにあの生意気な新人魔王を簡単にやっつけたの」
「あのクソガキか。本当に、よくやってくれたと言わせてもらおう。だが……新人魔王虐めはほどほどにしてくれよ? 特にモードレッドに手を出すなら俺様と本気で闘り合うことになる」
……なるほど、それで虐めなのか。
「それはお互い様だよ。アグラヴェインが私の奥さん達に手を出すなら全力でぶちのめすよ」
「ほう? この俺様と、本気でか?」
ずんっ
一瞬で空気の質が変わって重力が増してしまったかのようだった。
それほど濃密な殺気がアグラヴェインから放たれている。
しかしそれに気付いた時には私も殺意スキルを全開にしていたため、二人の攻撃的な殺意で謁見の間が押し潰されてしまいそうなほど空気が圧縮されたと勘違いしてしまう。
どさっ
すぐにかなり後ろの方で誰かが倒れた音がしたのは、多分入口で控えていた執事だろう。
そしてそれから少ししてモードレッドが膝をつく。
「……おい、モードレッドに手を出すなと言ったはずだが?」
「私の奥さん達に殺気向けといてよく言うよ。ぶちのめすって言ったでしょ?」
ばちっ
ついに殺意だけでなく魔力、闘気まで溢れて私達の中間で燻るようになった。
その時点で私の後ろにいたリーラインが胸に押さえて蹲った。私達の中では一番レベルが低いので仕方ないけれど、その直後にミルル、ユーニャも膝から崩れ落ちる。チェリーもかなり辛そうだ。
しかしステラだけはいつも通り無表情でその場で成り行きを見守っている。
やがて。
ぱちん
「やめだやめだ」
「そうだね。こんなの無意味だし」
「俺様は魔王だからな。負けるわけにはいかないが、お前達と闘り合ったら確実に勝てるとは言えん。俺様とセシーリアの一騎打ちならともかく、俺様の殺気を受け流すようなのがもう一人いるしな」
「ステラも私の自慢の奥さんだからね」
話しながら生命魔法で使って薄っすらと回復魔法を周囲に垂れ流すと、ややあって全員の顔色が良くなって立ち上がることが出来た。
残念ながら後ろの執事までは魔法が届いていないようで、彼だけはまだ倒れ伏したままだった。
「だが、一度くらいはケンカしてみるのも一興。どうだ、そのうち?」
「興味ないよ」
「お前が勝ったら褒美にこの城の中で好きなものを一つやるぞ? モードレッド以外だがな!」
この人本当にモードレッドのこと好きだね。
……あれ?
彼らも男同士だよね?
なんだか自分がそうだからか、同性同士でそういう関係になっていても気付かないくらい普通に感じてしまっている。
でも偏見がないのは良いことだよね!
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